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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第1章》 僕は、おかざり領主になりました。
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22話.都市ポラリスでの救出劇(1)

穀物の買い付けを行い、ひと段落と思いきや雲行きが怪しいようです。


ベルモンド商会での商談を終えたカルとルルは、事前に街に来ていた2人の事務官を店に残して街へと向かった。細々とした取り決めや書類のやり取りについては全て2人の事務官にお願いした。


カルとルルは、せっかく他国の街に来たのだからどこかで食事でもしようという話になり、護衛の3人の兵士・・・いや、護衛役の冒険者を伴って街の中心地へと向かった。


「この街に来たらぜひ立ち寄りたい店があってな。有名な店で魚料理が有名らしいのだ。私も行ったことはないがリオから行った方がいいと・・・」


ルルさんが楽しそうに話していたが、なぜか急に話すのをやめてしまった。理由は目の前で起きている出来事だった。


ポラリスの街の中心地近くまでやってくると、なにやら人々が騒がしい事に気づいた。大勢の人々が集まり、辺りは騒然としていた。


「お祭りとか・・・・・・じゃないよね」


「どちらかと言えば、人々は殺気だっているな」


皆、手に剣や棒を持って走っている。子供ですら石を両手に持っている。しかも街中が整然としているというより、乱雑というか何かが暴れた後のように汚い。あちらこちらにゴミが溜まり、壊れた出店があちらこちらに見受けられる。


「バルフト伯爵が捕まったってよ。夫人も一緒だ」


「本当か。なら、もうすぐ処刑が始まるな」


「長年の不正蓄財がばれたんだ。処刑されて当然だ」


そんな声が周囲の人々から漏れ聞こえてきた。


「領主の不正蓄財か、城塞都市ラプラスとは逆だな。うちは、カル殿が採掘したものを都市の運営資金に回しているが、本来、採掘したものをカル殿が全て懐に収めても文句は言えない立場だ。全てカル殿の持ち出しだからな」


「そうなの?」


「そうだ。そもそもあの廃坑は、城塞都市ラプラスの管理下にはないし、誰かの管理下にあるものでもない。しいて言えば、領主であるカル殿のものだ。例えば領主が鉱夫を雇って採掘させたとしよう。その鉱夫を雇った時の金の出処が都市の事業予算から出ていたら採掘したものは都市のもの。領主の個人資産から出たものなら領主のものだ」


「カル殿は、あの廃坑で例のものを自身の力のみで採掘しているからな。領主が自ら鉱夫として採掘したものを都市の物だなんて言える道理はない。まして、カル殿以外であの廃坑から例のものを採掘できる者もおらん。もしカル殿が黙ってあの廃坑から採掘した例のものを売って金を貯めたとしても、誰も何も言える立場にはない」


「城塞都市ラプラスは、カル殿の”施し”により、つまりポケットマネーにより運営されている。そういう話だ」


「そうなんだ」


どうもピンとこないカルであった。だが、カルはお飾りでも領主であり城塞都市ラプラスの領地は全てカルのもの。カルが掘ったものはカルのもであり、カルが木を植えて実った果実もカルのものである。


冒険者がカルの領地で倒した魔獣からドロップした肉、骨、皮、角などであっても、それらは全て冒険者のものというのと何ら変わらない。


ルルは、カルがいて良かったとつくづく実感した。もし城塞都市戦で勝っていたとしても、ルルに都市を運営する資金を出すことなどできはしなかった。カルが何も考えずに採掘したミスリルを都市の運営資金として出してくれたから都市を運営する目途が立っているだけで、あのままミスリルを持って何処かに行かれでもしたら城塞都市ラプラスは終わっていた。


目の前の大通りを馬車が通る。その馬車は鉄格子が載せられた囚人用の馬車だ。鉄格子の中にはひとりの少女が投獄されている。


手枷、足枷をはめられて首には鎖をはめられ、その鎖は鉄格子に繋がれている。なんと痛ましいことか。


人々は、投獄されている少女に罵声を浴びせ石を投げつける。少女の体のあちこちに石が当たると血を流し赤く腫れあがり紫色へ変色していった。


だが少女は、その行為に沈黙し身を任せていた。


「あの子も何か悪いことをしたのかな」


カルが何気なしに言った言葉。


「いや、あの少女は何も悪いことなどしとらんのじゃ。わしは、これでも神じゃからの。あの少女が行ってきた”良き行い”、”悪しき行い”は見れば分かるのじゃ」


珍しく剣爺が会話に参加してきた。忘れているかもしれないが、剣爺はこれでも”神のはしくれ”なのだ。


「悪しき行いをした訳でもないのに、処刑されうとは不憫でならぬのじゃ。まあ、人の世ではよくあるこじゃがな」


それを聞いたカルは、目の前を通り過ぎる鉄格子の馬車に投獄された少女から目が離せずにいた。


「しかも、面白い魔法スキルを持っておるな。あの少女がおれば、いろいろできそうじゃな」


「えっ?」


剣爺のその言葉が、決定打になった。”面白い魔法スキル”の中身などどうでもよかったのだ。魔法が使えるというだけで、足が出てしまった。本来なら”悪しき行為をしていない”に反応するべきだが、カルの興味は”魔法”の方だった。


カルは、馬車と同じ速さで歩き出した。投獄されている少女の目は虚ろだった。だが、カルは投獄されている少女の虚ろな目を見つめた。少女がカルの目線に気づきカルの目を見つめる。少女はカルの目線に何かを感じ取ったのか正気を取り戻した。


少女の目線の先には、カルの姿があった。カルの力強い目線から何かを訴えかけている。


さらに、少女はカルの”くち”を見て思った。その”くち”は目よりも何かを訴えかけていた。


”助かりたい?”。


”僕と来る勇気があるなら瞼を閉じて”。


投獄されている少女は、馬車と同じ早さで歩く少年のその”くち”がそう言っているように思えた。


この先は、恐らく処刑場。どうせ殺される運命なら。


少女は、瞼を閉じた。


カルは、その瞬間を見逃さない。後ろを歩くルルと護衛役の冒険者として同行している兵士達に向かってカルは、はっきりと言った。


「ルルさん、あの少女を助けます!」


「えっ?」


「盾の魔人さんがあの少女を飲み込んだら街の路地に逃げ込みます」


ルルは、振り返ると大通りから路地に目をやり、逃げる方向を確認した。


「了解した!」


「お前達、カルが行動を起こす。もし、はぐれたら宿に戻れ!」


「「「はい!」」」


護衛役の冒険者として同行している兵士に向かってルルが指示を出す。


カルは、大盾を正面に構えると”コンコンコン”と大盾を3回ノックした。


「魔人さん。あの少女を助けたい。お願い協力して!」


しばらくすると。


「シカタナイナー」


盾の魔人はそう言うと、盾に現れた大きな”くち”から赤く長い舌を出して馬車に載せられた大きな鉄格子ごと少女を魔人の”くち”へと放り込んだ。


「「「うわー、化け物だ」」」


「「「魔獣だ。魔獣が現れた」」」


「「「たっ、助けてくれー」」」


馬車を操っていた御者も、馬車を守っていた兵士も市民達も一斉に悲鳴と罵声を発しながら馬車の周囲から一斉に逃げ出した。


「カル、こっちだ!」


ルルがカルの名前を読び、そこへ逃げ込んだ。入り組んだ街の路地裏をひた走った。大通りを走ると兵士や住民から追いかけられると思い裏路地を走った。だが、なぜか宿泊先の宿とは反対方向に進んでしまった。


気が付くと街の中心にある広場に出ていた。


「カル様。宿とは反対側に来てしまったようです。来た道を戻りましょう」


冒険者の姿をした護衛役の兵士がカルの耳元でそう囁いた。


そうか、来たことのない街だし、曲がりくねる路地裏をひたすら走ったのだから間違えるのも当然・・・。


いや、違う。道を間違ったのではない。ここに誘導された?


目の前には、先ほどの通りよりもさらに多くの住民が集まり、広場の中央には、長い柱が2本立てられそこにはふたりの人が縛られていた。足元には薪がうず高く積まれていた。


「私は、不正蓄財などしていない!」


「街の住人を殺したりもしていない!」


「しっかり調べてくれ!」


広場の中央の柱に縛られ、大声を張り上げている人がバルフト伯爵とその夫人であるのは、誰が見ても明らかだ」


飛んでくる石に顔や体を傷つけれ、体のあちこちから出で赤く染まっている。


「どう見てもあれがバルフト伯爵夫妻だよね。ここに来たのは、剣爺の仕業だよね」


「ほっほっほっ、さて、どうじゃろな。じゃがな、あそこに縛られて火あぶりにされそうになっている者は、何も悪いことなどしておらんのじゃ。逆じゃ、あのもの達は、今のご時世には珍しく良き行いをしておる者じゃ」


「そんな者をむざむざと死なせては、”神は何をしておる”と言われかねん。ここは少しだけ手助けをしてやりたいのじゃ。どの道、娘を助けたのじゃからな。その娘の親を助けても文句を言うものはおるまいて」


カルは、以前から不思議に思っていた。お爺さんが持っていたとはいえ、僕のお父さんとは縁がなかった剣爺が、なぜ僕と出会えたのか。なぜ城塞都市の領主になれたのか、その理由があるはず。今までただ運がよかったとか、たまたまと思っていた。だけど行く先々であまりにも事件が多すぎる。少し考えれば、誰かが意図して何かをやっているとしか思えない。


「わかった。やるよ剣爺。これも何かの”縁”というやつだよね。僕がなぜ剣爺と出会えたのか、僕がなぜ城塞都市ラプラスの領主になったのか、何か理由があるんだよね」


「さーてな。そんなものあるのかな。わしは爺じゃ。ちと忘れっぽくてな・・・」


「随分、都合のいいもの忘れだね」


「ほっほっほっ」


「僕は、あそこで処刑されそうになってる人を助けます。皆さんはここで待っていてください」


「ちょっ」


カルは、ルルが静止しようとする言葉が終わる前に走り出した。


ちょっと不順な動機で少女を助けたカルです。

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