217話.創生と破壊(1)
行き当たりばったりで217話・・・。
妖精達は、 言葉巧みに闇の精霊を騙す?事に成功した。
いや、闇の精霊を騙した訳ではない。妖精達は、夢と希望をごっちゃに膨らませ盛るだけ盛った特盛りつゆだくな話を今すぐにでも実現できるかの様に熱く語った。
妖精達は、精霊界から小型の星を渡る舟をいくつか拝借し、それを修理してカル達が住む星の周辺に点在する恒星系へと派遣していた。
いくつかの恒星系で植物も生物もいない不毛な惑星で改造が出来そうな場所を見つけ、そこに簡単な設備を持ち込んだ。
その中には、創生クリスタルも含まれていた。
創生クリスタルは、惑星上のあらゆる”ことわり”を司るシステムであり、さらに現状を保全しそれを復元する能力を有していた。
そう創生クリスタルは、”創生”という名前が付いているが無から有を作り出す事はできない。
あくまで現状の”ことわり”を維持する事。そして現状の”環境”を維持する事を目的に作られている。
創生クリスタルは、惑星ひとつ分の環境をバックアップしそれを瞬時にリストアできる。
さらにそのバックアップも何万世代もの保管が可能であった。
また、一部分ではあるが一定時間前の状態に瞬時に戻す事ができるシャドウコピー機能も有している。
つまり神が世界を創造し、それを維持するのが創生クリスタルだ。
ただ、この創生クリスタルの恐ろしい所は、全てを一定時間前の状態に瞬時に戻す事が可能だという事。
例えば、ある世界に不具合が発生したとする。それは、いたる所に問題をばらまき修復困難な状態になったとする。
それが一定地域内であれば、シャドウコピーで一定時間前の状態に戻す事ができる。
しかし、それでは修復できない程の問題が発生した場合、惑星全域をバックアップからリストアする事になる。
この場合、バックアップ時点から経過した部分の世界は全て消滅してしまうのだ。
つまり精霊ホワイトローズが行おうとしている世界の破壊と何ら変わらない。
つまり創生と破壊を延々と繰り返す神々のシステム。
神が手を下せば1秒前の状態に瞬時に戻す事は出来る。だが、神がその世界に絶えず張り付いている事などほぼありえない。
創生クリスタルは、神々の行いを補完するシステムである。
さて、デルタ鉱山の地下で創生クリスタルを改造した闇の精霊。
対して改造された創生クリスタルを瞬時に復元して見せた神獣なめくじ精霊。
実は、創生クリスタルの初期システムを生産したのは、神獣なめくじ精霊の祖先であった。
彼ら神獣なめくじ精霊の祖先は、この手のシステムに対してある部分に関して神よりも発達していた。
彼らの祖先は、神々が宇宙のいたるところに創造した世界が問題を起こし生まれては消滅していく”さま”を何度も見て来た。
その光景のむごたらしさに何度も目を細めた。神が創造した世界を神が破壊するのだ。
まるで神が神であり且つ悪魔でもある存在。
そんな神々に提案を持ちかけ、現状を維持し問題が生じた場合だけ、少し前の状態に戻す。
さらにそこでも問題が生じたらさらにその前の状態に戻せる様にと創生クリスタルの初期システムを提案した。
神々は、そこに”ことわり”を維持するシステムを追加する様に要求し、それが創生クリスタルの最初の生産モデルとなった。
それが誕生してからどれだけの年月が経っただろうか。
今では、そのシステムを作った神獣なめくじ精霊の種族も宇宙の彼方に姿を消し、数える迄に減ってしまった。
創生システムは、いつか陳腐化して壊れる。
創生システムを新たに生産しこの星々の世界を維持していく新しい種族が必要である。
神獣なめくじ精霊がそれを託そうとしているのがカル達が生まれた星で誕生した妖精達である。
この宇宙に散らばった精霊。その精霊が育む森で生まれる妖精達。
それは、精霊の森の数だけ妖精も誕生する。だが、それが全て同じ種族ではない。
その精霊の森から生まれた妖精の中でも、群を抜いて新しい事に興味を持ち、どんな困難にも”おかしな力”で立ち向かう種族。
それは、ある意味”神のことわり”の外で生きているかもしれない種族であった。
そんな種族に目を付けた神獣なめくじ精霊は、時間の許すかぎりこの妖精達に自身の知りうる知識を託す事にした。
そして妖精達は、他の恒星系に赴き荒廃した惑星に新しい世界を創造するための環境を作り始めた。
だが、いくらおかしな力を有し神のことわりの外に生きる彼らにも絶対に出来ない事がある。
それが無から有を生み出す事だ。
それが出来るのは、闇の精霊という存在。ただ、彼女も全くの無かから有を生み出せる訳ではない。
所詮は、精霊なのだ。
それでも無に近いところから有を作り出せるその力が、彼女を豹変させた。そしてなぜ彼女がカル達の住む星にやって来たのか。
なぜその場所が神のことわりの外に生きる妖精や、神獣なめくじ精霊がいるこの星だったのか。
話を元に戻そう。
とある惑星上に妖精達が小さなドーム型の居住できる施設を作った。そこに森を作り拠点とした。
扉を設置し、妖精の国から自由に出入り出来るようにし、闇の精霊を招き入れた。
まずは、この惑星上に存在する大気を何とかする必要がある。
この惑星の大気の殆どが二酸化炭素である。そこに精霊や妖精達が生きて行ける様に大気の組成を大規模に変える必要があった。
それが出来る植物を生み出せるか。それが妖精達が闇の精霊に出したお題であった。
さらに栄養の無い土と水すらない大地。そこで生きられる植物など生み出せるのか。
妖精達は、とある区画を指定しそこで実験を行うつもりでいた。
だが闇の精霊は、自身の力を開放すると惑星の3割程の大地に水と緑を誕生させて見せた。伊達に星ひとつを作り直すと言っていた訳では無かったのだ。
それでもこの惑星に精霊や妖精達が今すぐに住める環境には程遠い。
神々が作った世界を作り直すのとは訳が違うのだ。
これから徐々に大気の組成と大地の改造を行っていく必要がある。
妖精達が夢見た星々の世界に散らばった精霊達を救うという夢は、まだ始まったばかりであった。
さて、精霊ホワイトローズは何をしていたかというと・・・。
次元の狭間に存在する盾のダンジョンの最奥で、妖精達が置いていった扉を残らず探し出して処分していた。
今までに探し出し撤去した妖精達の扉は、500を優に超えていた。さらにその存在を探し出せた扉の数は、まだ1000以上もある。
どうやってこれ程の扉をこの次元の狭間に存在するダンジョンに短時間のうちに配置できたのか、精霊ホワイトローズですら頭を傾げたくなる者が妖精という存在であった。
妖精達の扉を撤去しても撤去しても次の日には、別の場所に新たな扉が置かれている。
精霊界でも妖精達のこの行動は、長年の研究テーマとなっていた。
どんなに堅牢な施設であっても、どんなに堅牢な扉であっても、どんなに頑丈な鍵であっても、どんなに堅牢な警備システムであっても妖精達の侵入を拒む事が出来なかったのだ。
精霊達は、妖精が神の作ったルールから外れた種族ではないかと仮説を立てた。だがそれを立証する手立てが精霊には無かったのだ。
それがまさに精霊ホワイトローズの盾のダンジョンで頻発していた。このままでは、盾のダンジョンにどれ程の問題が発生するか想像すら出来ない。
ならばと、カル達の住む世界の破壊を早める事にした。
盾のダンジョンの最奥にある施設で作り出された龍族。その数ざっと100万体。
それを地上に一気に解き放ち創生クリスタルの処理をオーバーフローさせる。
さらに神界とこの世界を繋ぐ次元回廊に多数存在するゲートウェイに侵入し、スパニングツリーの機能を止める事で情報の無限ループを発生させ、次元回廊を情報で溢れさせる事で神の手がこの世界に及ぶ事を遅らせる。
その間にこの世界や別次元に存在する創生クリスタルを全て破壊ないしは停止させていく。
恐らく神々は、何処かで創生クリスタルに残されたこの世界のバックアップを使いこの世界のリストアを行おうとするはずである。
だが、もしこの世界のバックアップに不具合が生じていたとしたら。その不具合のあるバックアップでこの世界がリストアされたとしたら。
不具合のあるバックアップでリストアされたこの世界を神々がそのまま残すであろうか。
恐らく神々は、この世界を自らの手で破壊し新たに創生するであろう。
それが精霊ホワイトローズの狙いであった。
「それが神が神であり悪魔でもある事の証明になるの」
精霊ホワイトローズは、盾のダンジョンから100万体の龍族を解き放つ。
龍族の一部をこの世界と別の次元に存在する創生クリスタル4096ノードの破壊に向かわせる。
それと同時に次元回廊に存在するいくつものゲートウェイに侵入を果たし、スパニングツリーの機能を止める命令を発した。
精霊ホワイトローズは、今まさに夢に見た世界の破壊を成し遂げようとしていた。
精霊ホワイトローズは、最終目標に向かって加速スイングバイとなるか。




