213話.創生クリスタル(4)
中級精霊神お猫サマの登場です。どんどん収拾がつかなくなっていきます。
デルタ鉱山の地下で黒いドレスを着た少女と精霊ホワイトローズがお互いの魔獣による戦いを繰り広げていた。
そこに出現した巨大な魔法陣。
そこから現れた中級精霊神お猫サマと10万人のお猫サマダンサーズ。
お猫サマダンサーズは、空中で地上で軽快な音楽に合わせて踊りながら黒いドレスを着た少女の魔獣であるスノーワームに触れてゆく。するとそれは小さな卵へと帰っていく。
精霊ホワイトローズが出現させた氷龍もお猫サマダンサーズが触れるとやはり小さな卵へと帰っていく。
だがスノーワームの群れも氷龍の群れもお猫サマダンサーズにいい様にやられている訳ではない。
地上で空中で踊るお猫サマダンサーズの獣人達に向かって無数の歯が並ぶ巨大な口で噛みつくスノーワーム。
それをお猫サマダンサーズの面々は、ことごとくいなしかわしていく。
その姿勢では絶対に避け切れないという状況にも関わらず、柔軟な体がスノーワームや氷龍の攻撃をすんなりと避けていく。
10万人のお猫サマダンサーズに対してスノーワームの数はざっと数えても10000体に届くくらいだ。
氷龍にいたっては、3000体程度である。お猫サマダンサーズの数には到底及ばない。
「なっ、なに。何で神が直接手を下すの!」
黒いドレスを着た少女は、宙に浮きながら周囲の状況に青ざめた表情を浮かべる。
すると黒いドレスを着た少女の前にひとりの獣人が姿を現した。
「お猫サマは、中級精霊神にゃ。神は神でも力の無い限定神にゃ。この地域の歪みを修復しに来ただけにゃ。それなら誰からも文句を言われ無いにゃ」
「限定神?そんはずない。だって・・・だってスノーワームを卵に帰しているじゃない」
「そうにゃ。お猫サマの能力は、時を操る事に限定されてるにゃ。言い換えれば、それしかできにゃいにゃ。だから限定神にゃ」
「嘘、そんな嘘なんて信じない。だってあなたさっきから私の前で話しながら踊りっぱなしじゃない。そんな冗談みたいな神なんているわけない」
「お猫サマは、音楽が鳴っているいる間は、踊り続けるにゃ。そうしないといけにゃい約束にゃ」
黒いドレスを着た少女は、真っ赤な顔でわなわなと震えながら自身が改造したクリスタルからさらにスノーワームを出現させていく。
だがどんなにスノーワームを出現させても10万人のお猫サマダンサーズがスノーワームを卵に帰してしまう数の方が圧倒的に多く歯が立たない。
そしてスノーワームの数が見て分かる程に減っていく。
その対面にいる精霊ホワイトローズもまた獣魔である氷龍をお猫サマダンサーズに減らされていた。
「まさか神が手を下さずに精霊神・・・しかも下っ端の中級精霊神にやらせるなんて考えもしなかったの。まさに一本取られたの」
そんなひとり言いながら思わず笑い出してしまう精霊ホワイトローズ。
その時、精霊ホワイトローズは、自身の体に異変が起きた事に気が付いた。
「私の霊樹に何かあったの。こんな事をしている場合ではないの」
そう言い残すと精霊ホワイトローズは、獣魔である氷龍をこの場に残して姿を消した。
既に総数で1000体を切った氷龍。1体の氷龍に対して数人のお猫サマダンサーズが踊りながら迫る。
氷龍が放つ氷のブレスを柔軟な体で紙一重の状態でかわしいなしていく。そしてお猫サマダンサーズが氷龍に手を触れるとそれが卵へと帰っていく。
だが黒いドレスを着た少女は、あきらめずにクリスタルからスノーワームを出し続けていく。
だが、みるみる数を減らすスノーワームの群れ。
「やめて、やめて、やめて!私がこの世界を作り替える!私がこの世界の神になる!なぜそれを邪魔するの!」
黒いドレスを着た少女が叫ぶ。だがその問いに答える者は誰もいない。
そんな黒いドレスを着た少女の足元に近づくある者がいた。妖精である。
妖精は、黒いドレスを着た少女のドレスの裾に何かを取り付け一目散に逃げ出した。
そして雪で覆われた地上の雪洞の中に身を隠すと仲間の妖精達と共に小さな扉の中へと入って行った。
その扉の先は、妖精国。さらに隣りに並ぶ扉を開けるとそこは、カルの浮遊城の制御室であった。
妖精達は、黒いドレスを着た少女が発する魔法の波動から特異な周波数を解析し、この惑星上にそれと同じ波動を放つ霊樹を探していた。
精霊界から持ち込まれた探査機は、この惑星の衛星軌道上を周回しどんな場所にあっても必ずそれを探し出す。
それが地上だろうと地下であろうと。
そして見つけた。
その反応は、地上でも地下でもなく空中にあった。カルの乗る浮遊城の制御室でその場所を突きとめた妖精達。
硝子板に映る探査機からの映像。そこの映し出されたものは、空の遥か上を浮遊する巨大な島であった。
その空を浮く島は、森があり山があり川があり湖があり、その中央に白い神殿の様なものがあった。
なぜいままでこれ程の大きな浮遊島を見つける事ができなかったのか。疑問に思いながらも妖精達は、この戦いの次を見据えていた。
さてデルタ鉱山の地下でスノーワームの群れとお猫サマダンサーズの戦いは続いている。
そこでもうひとつの戦いが始まっていた。
空中に現れた巨大な魔法陣。そこからある者が姿を現した。
神獣なめくじ精霊である。
大きななめくじの姿をした神獣。それがゆっくりと魔法陣から姿を現すと創生クリスタルの前へと降り立つ。
そして体からいくつもの蝕しを繰り出すと創生クリスタルにその蝕しで何かを始めた。
カル達はというと、雪洞の中に退避して周囲の状況を見守っている。ただ、そこにレリアとクレアの姿は無い。
レリアとクレアはというと、スノーワームと氷龍と戦いに参戦していた。カルが制止するも、そんな言葉など聞くはずもない。
「あのふたりは、本当に人の話を聞きませんよね」
メリルがそう言いながら目の前に現れたスノーワームを石像へと変えていく。
「そうは言っても元々土龍ですから龍族の血が騒ぐのでしょう」
すました顔の精霊エレノアが、氷龍を魔法蔦を使い拘束していく。さらに種を飛ばして氷龍をトレントへと変えていく。
カルはと言うと、雪洞の中で大盾を構え出番の全く無い状況に少しがっかりとした表情を浮かべていた。
「私達も出番がありませんでしたね」
「仕方なかろう。我らを作った精霊ホワイトローズ様に立て付いておるのじゃからな」
カルが構える大盾の上で小さな小人の姿となり話をする魔人達。
そう言いながらも雪洞の壁を突き破り現れるスノーワームに一撃を加え沈黙させていく。
創生クリスタルの前で蝕しを伸ばし何かをしている神獣なめくじ精霊。
その作業が終わったのか、雪洞の中で隠れるカル達の前へと移動すると、カル達の前に妖精達が使う硝子板の様なもを出現させた。
その硝子板にカル達の使う文字が現れていく。
”作業は、終わった。創生クリスタルを元の状態にロールバックした。クラスタ構成のノード数も増やした”。
空中に浮かぶ硝子板に描かれる文字。そこに創生クリスタルの構成を簡単に記した絵も描かれているが、それが何を意味しているか分からずただ首を傾げて見守るカル達。
”今までのノード数は、12ノードだったが4096ノードまで増やした。1ノード当たり12クリスタルで分散処理を行っているが、惑星ひとつの”ことわり”の処理に創生クリスタルひとつで十分だ。まあ、殆どの創生クリスタルが遊んでいる状態だ”。
「あの・・・質問よろしいでしょうか」
ポカンと口を開けて硝子板に描かれる文字を見つめるカル達。その中でライラが神獣なめくじ精霊に質問を投げかけた。
”ライラ君だね。どうぞ”。
「このクラスタとか・・・ノードとは何でしょうか?」
”クラスタは、創生クリスタルが何らかの問題で動かなくなった場合、他のノードへ処理を瞬時に引き継ぐ機能だ。その処理を引き継ぐ先がノードだ。その処理を引き継ぐノードが全体で4096ノードある”。
「つまり・・・4095ノードが破壊されても”ことわり”の処理を引き継げるという事ですか」
”そういう事だ。創生クリスタルのノードが配置されている場所は、この惑星上だったり、この惑星とは異なる空間だったりする。4096ノードを全て瞬時に同時に破壊する事は不可能だ。ちなみに処理を引き継ぐノードは、4095ノードのうちのどれかだがそれは秘密だよ”。
「はあ・・・」
結局のところ神獣なめくじ精霊が優しく説明してくれた創生クリスタルのクラスタ構成についてだが、目の前にある創生クリスタルが破壊されても他に4095あるので大丈夫というところだけ覚える事にしたカル達。
”では、私の作業は終わったので帰らせてもらおう。そろそろ定時退社の時間でな。残業申請は、事前申請するものでね。急な残業については、上司がうるさくて承認してくれないのだよ。いや、まいったね。ははは・・・”。
「・・・・・・」
神獣なめくじ精霊が書き残した最後の言葉は、彼なりの乾いたジョークであった。だが、それの意味を理解できないカル達にとってジョークにすらなっていなかった。
意味不明なジョークを残して姿を消した神獣なめくじ精霊。
その頃、盾のダンジョンの最奥にある精霊ホワイトローズの霊樹が植えられている広場。
そこに戻ってきた精霊ホワイトローズが見たものは、自身の霊樹の周囲に今までに無かったはずの生い茂る蔦や芋などの植物。
さらに精霊ホワイトローズの霊樹の周りを走り周るマンドラゴラ達。
「やってくれたの。まさか私を裏切るとは思わなかったの」
霊樹の前には、妖精達が口角を上げにやけ顔で空を飛んでいる。
さらに、最近になって精霊ホワイトローズが仲間として引き入れた闇の双子が妖精達と共に並んで立っていた。
「これでお相子。私達を配下にするとどうなるか思い知った?」
すると精霊ホワイトローズが地面に植えられた植物にいきなり攻撃魔法の一撃を加える。
だが魔法蔦が精霊ホワイトローズが放った魔法を瞬時に吸収していく。それにより植物には、一切の攻撃が通じない。
さらに周囲を見渡すと何体もの龍が白い液体を体にかけられた状態でこと切れていた。
「魔法蔦にいくら攻撃魔法を放っても魔法が吸収されるだけよ。それに霊樹の根本に広がるあの膨らんだ物体。あれは、極楽芋の毒素が凝縮されたものが入っているの。あれが破れたら、いくら精霊ホワイトローズの霊樹でもひとたまりもないわね」
精霊ホワイトローズの両手の握りこぶしに力が入る。
「そうそう、霊樹を守っていた龍達は、極楽いもの猛毒で一瞬で死んだわ」
してやったりという表情を浮かべる闇の双子。
それに返す言葉も無い精霊ホワイトローズ。
「私達は、あなたに従えと言っているのではないのよ。対等な立場で話がしたいの。それに妖精達もこの世界を破壊されたくないと言っているの」
「・・・・・・」
「何も言い返さないって事は、余程頭に来ているのね。でも妖精達は、この世界をずっとこのままにしろって言っているんじゃないのよ。自分達がこの世界から飛び立つ時が来るまで待って欲しいと言っているの」
「時間をくれという事なの?」
「そうみたいね。私達も妖精達と他の星に移り住んでもいいと思ってる。精霊界から移り住んだ精霊達の様に」
「あなた達が準備できるまで、私が我慢すればいいの」
「そういうこと。たった数百年我慢するだけよ。いいえ、もっと早いかも知れない」
「そう、なら我慢して待つの」
精霊ホワイトローズは、そう言い残すと振り返り闇の双子に背を向けた。
だが、精霊ホワイトローズの口角はなぜか上がり、顔に笑みの様なものを浮かべていた。
「私がこんな事で折れると思っているのかしら・・・なの」
そんな言葉を残して姿を消した精霊ホワイトローズ。
終わりが見えた戦い。でもそんな簡単に終わるはずがないですよね。
※以前、Windows Serverのフェールオーバークラスタの設計・構築を行った事があったので、それを少し盛り込んでみました。




