210話.創生クリスタル(1)
浮遊城で城塞都市デルタにやって来たカル達。
城塞都市デルタの広場に着陸したカル達が乗る浮遊城。
その階段を降りていくと浮遊城が着陸した広場に兵士達が待ち構えていた。
「城塞都市ラプラス領主カル様。本日は、どういったご用向きでしょうか」
「ルルさんに緊急でお話したい事があります」
「本日は、内々の晩餐会を行っておりまして・・・その余程の用件が無ければ誰にも会わないと申しておりまして」
「・・・分かりました。では、鉱山に用事があるのでそちらに向かいます」
「申し訳ございません」
今日ここでルル・リオ・レオの3人が会っている事を知っていた。故郷を同じくする3人が水入らずで久しぶりに会うというところに顔を出すのも気が引けた。
そうは言ってもこの世界が終わりを迎えるかもしれない状況にも関わらず一歩引いてしまうところがカルの心の弱さを現していた。
城塞都市デルタから砂漠に突き出した島の様になっているデルタ鉱山へと向かうカル達。
人通りが多く狭い道の両側にひしめく様に建つ宿屋や食堂街いを通りデルタ鉱山へと入る。
「入山証を見せておくれ」
鉱山の入り口を管理する年配の女性が素っ気なく声をかけてくる。
「ふーん。城塞都市ラプラスの領主様だね。いつもの鉱区かい」
「はい」
「入りな」
カルが出した入山証を一目見ると年配の女性は、興味なさげに返答する。
城塞都市ラプラスの領主と記載のある入山証を見ても全く動じないこの年配の女性のぶっきらぼうな対応がカルは好きであった。
領主であるカルが来ても動じず他の者と全く変わらない対応を取る受付の年配の女性。
カルは、年配の女性に笑顔を振りまく皆と共に薄暗い魔法ランタンの灯りが灯る鉱山へと入っていく。
受付の年配の女性は、カルが鉱山へと入って行った事を横目でチラリと確認すると慌てた様子で奥の事務所へ駆け込みそこに居並ぶ職員に声をかけていく。
「城塞都市ラプラスの領主様が来たよ。関係各所に連絡しな!」
声をかけられた職員達は、慌ててあちこちの部署へと走り出した。
「あの子が来ている時におかしな事になったら、私らの首が本当に地面に転がるからね。絶対に粗相の無い様にしておくれよ」
実は、鉱山の受付で対応した年配の女性がカルの入山証を見ても興味なさげにしていたのは全て”ふり”であった。
この城塞都市デルタの領主の首がすげ変わる発端となった出来事は、カルがこの鉱山を訪れた事がきっかけである。
だからこの鉱山で働く職員達は、カルの姿に戦々恐々とするのであった。
鉱山の鉱区の地図を頼りに薄暗く入り組んだ坑道を歩いていくカル達。
すれ違う男達は、女子供の行列を見て怪訝な顔を浮かべる。中には、喧嘩腰に声をかけて来る者までいた。
「おい。ここは女子供が来る場所じゃねえ、とっとと帰んな」
それでもまだ声をかけて来るだけならよかった。中には、いきなりカル達を見た途端。
「ガキがこんなところで何をしていやがる」
そんな声を発したと思った瞬間、短剣を抜いて威嚇する者までいた。
その瞬間、メリルが短剣を抜いて威嚇して来た輩を石化していく。
すると背後から城塞都市デルタの警備隊員が走り込んで来た。
「お前ら何をしているか!」
そう言うなりカル達ではなく短剣を抜いて威嚇をした輩に一斉に襲いかかる警備隊員。
「すみません。この者達には、よく言い聞かせますから・・・」
何処から現れたのか分からない警備隊員が短剣を抜いて威嚇して来た輩を取り押さえる。警備隊員に平謝りされたので仕方なく男の石化を解くメリル。
そして石化が解けた瞬間に男を取り押さえる警備隊員達。狭い坑道内での捕り物騒ぎも終わり坑道の奥へと進んで行く。
「さっきから僕達の後をついて来る人達って警備隊の方々だったんですね」
先頭を行くのは、カルとゴーレムのカルロスとメリルとライラ。カルの肩の上には、小さな小人の老人の姿の剣爺と妖精が乗っている。
その後ろを精霊エレノアと龍人族のレリアとクレアが続く。
「11鉱区の前で左に曲がって3つに分岐する坑道の真ん中を進む・・・でいいのかな」
「地図には、そう書いてありますね。でもこの地図・・・分かり難いですね」
「そうじゃ、それでよいのじゃ。どんどん突き進むのじゃ」
カルの肩の上に乗る剣爺が大きな魔法杖を坑道の先に向けながら声を張り上げる。
対してカルの肩の上に乗る妖精は、小さな硝子板の様なものに映る絵を見ている。
「妖精さん。何を見ているの」
カルの問いかけに妖精は、小さな手に持った硝子板に映し出されている映像を目の前の何も無い空間に映し出して見せた。
「もしかして、この絵って僕達がいる場所なの」
カルの問いかけに胸を張り得意げな顔を見せる妖精。
カル達の目の前には、デルタ鉱山の鉱区とそこに繋がる坑道が立体的に映し出されている。
「赤く点滅している点が私達でしょうか。そして・・・かなり下の方に幾つかの点が明滅していますが、ここが目標地点でしょうか」
ライラが何もない空間に映し出される映像を指差す。
「それにしても網の目の様なとは、よく言ったものですが本当に入り組んでいますね。これでは、地図なんてあって無い様なものです」
メリルが映し出される映像を見て思わず呆れている。
列の最後部を歩いていたレリアとクレアはというと、妖精が映し出した映像を興味深げに見始めると、突然走り出した。
「「覚えた。先に行く!」」
「えっ、ちょっと待っ・・・」
カルの声に耳など傾けるはずも無く、レリアとクレアが暗い坑道の先へと走り去っていく。
「レリアとクレアは、いつもの事ですが、本当に堪え性がないというか・・・」
メリルが怪訝な表情を浮かべながら走り去っていくふたりを見送る。
「仕方ないです。僕達も先を急ぎましょう」
「おふたりともこんな暗い坑道をよく走っていけますよね」
ライラが手に持つ魔法ランタンの仄かな灯りが坑道の奥を照らす。
「レリアとクレアは、元々地龍です。今は、龍人族の姿ですが地底を進む事に関しては、僕達よりも得意ですよね」
「あっ、そうでした」
ライラの疑問にカルが答える。共に暮らしているとレリアとクレアが地龍である事を皆が思わず忘れてしまうのも当然である。
入り組んだ坑道を進んで行くカル達。
やがて坑道の先に広い空間が現れその先に巨大な扉が待ち構えていた。
「なんだかいかにもっていう大きな扉があるね」
「あの扉の中に地底の王とかがいるんでしょうか」
皆で大きな扉の前へとやって来ると、その大きな扉が少しだけ隙間が空いていてそこから灯りが漏れている。
「あれ、扉が開いてる」
「御伽噺とかですとこの手の扉を開けるためには、扉を守護する者がいてそれを倒さないと扉は開かないというのが相場なんですけど」
ライラが以前に読んだ御伽噺の内容と少し違うと展開に首を傾げる。
「「それならレリアとクレアが倒した!」」
巨大な空間のあちこちに大きな岩が転がり、その岩の陰からひょっこりと姿を現したレリアとクレア。
そのふたりの背後には、羊頭の大男がふたり倒れている。
「「けっこう強かった。でもレリアとクレアでも倒せるくらいの強さだった」」
レリアとクレアの身長の5倍もあろうかという大男をふたりは倒していた。ふたりの得意とする手で触れるとミスリルと魔石に姿を変えてしまうあの技も使わずに。
「それでは、その大男さん達が気を失っているうちに扉の隙間から入ってしまいましょう」
カル達は、こそこそと大扉の隙間からその中へと入っていく。
「お邪魔します。どなたか居ませんか」
カルが緊張感のない言葉を発しながら大扉の隙間から中へと入っていく。
そこは、白い石材で作られた天井の高い広大な広間が広がっていた。
「地下にこんな世界が広がっているんだ」
白い石材で作られた広大な広間を見渡しながら進んで行くカル達。
すると遥か彼方で何かが戦っている様な音が響き渡る。
「何だかお約束って感じだけど・・・」
「この先に精霊ホワイトローズがいるのじゃ」
剣爺がカルの肩の上で緊張した顔を見せている。
「この先に創生クリスタルがあるんだね」
無言でうなずく剣爺。
何かが戦う音が響き渡るその先へと進むカル達。徐々に肌寒くなり白い物がチラチラと舞い始める。
「なんだか、どこかで見覚えのある物が舞っている様に見えるね」
「これは、雪ですね」
「雪・・・という事は」
「まさか例のスノーワームでしょうか」
徐々に寒さも増し足元に雪が降り積もる。さらにカル達が進もうとする先から雪が勢いよく降って来る。
「うーん、歩き難い。それに寒い!」
「さすがにこれでは凍え死にます」
「こんな所で吹雪に出会うなんて考えてもいませんでした」
あまりの寒さに皆の動きが鈍くなって来たのでカルは、腰にぶら下げた鞄の中から防寒着を取り出して皆に配っていく。
「カル様。エレノアは、こんな寒さの中ではとても歩けません」
例の如くカルの耳元で甘えた声で囁くエレノア。そしてカルの背中に問答無用でおぶさって行く。
「あんた精霊なんだから熱いとか寒いとか平気でしょう」
「そうですよ。そうやって事ある毎にカル様にちょっかい出して」
「あんっ、なんですって。大して胸も大きく無いくせに」
「何で胸の大きさが関係するんですか」
精霊エレノアの言葉にメリルとライラが反撃する。
「私がこうやってカル様におぶさればカル様は、背中ごしに私の豊満な胸のぬくもりを感じて思わず頬を赤らめるに決まってるじゃないの。そうすればカル様の下半身も温かく・・・」
「だったら私がカル様の背中におぶさります」
そう言い出すとカルの背中におぶさった精霊エレノアを引き剥がしたメリルがカルの背中におぶさった。
「ちょっと何するのよ蛇女!」
「あんだってトレント!」
ふたりは、カルの背中をめぐって取っ組み合いの喧嘩を始める。
「ちょっと喧嘩はやめて・・・」
”ドスン”。
カルがそう言いかけた時、カルのすぐ横にスノーワームの骸が転がる。
そしてスノーワームの骸の横には、氷龍が姿を現しカル達を威嚇する様な視線を向けて来た。
何だか佳境に入って来た感があります。




