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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第1章》 僕は、おかざり領主になりました。
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21話.穀物の買い付け(2)

いよいよ百戦錬磨の商会との商談が始まります。


カルとルルは、ラドリア王国のポラリスという街に来ていた。


ここは、人族が統治する街で領主はベル伯爵。


農業と漁業が盛んな地域である。


城塞都市ラプラスは、この街から穀物を買い入れている。城塞都市ラプラスの庇護下にある村々の耕作地から採れる穀物だけでは領民の半分程しか食べさせることができないのだ。


さて、商談についてはルルが主に話を進め、カルは補助役となると決めていた。ルルは、商会相手ではカルに有利な商談は無理だと判断し、カルもそれに従った。


商談とは駆け引きである。駆け引きを行ったことのないカルでは、相手にいいようにされるのが目に見えていたからだ。


「ようこそベルモンド商会へ」


「わたくしは、ベルモンド商会の会頭をしておりますハイファ・ベルモンドと申しますカル様、ルル様」


「カル様が城塞都市ラプラスの領主様。ルル様が副領主様だと認識しておりますが、お間違いありませんか」


ハイファ・ベルモンドは、実にいい笑顔だ。しかし、目は笑っていない。


「ほう、私が城塞都市の戦争でカルに負けた事をご存知か」


「はい、存じあげております」


ルルは、自身の獲物である破壊槍を椅子の横に立て掛けた後、勧められた椅子に座ると出されたお茶に口も付けずに話を始めた。


カルもルルの隣りに”ちょこん”と座った。カルも椅子の横に背中から下した大盾を立て掛けた。


「わしは、腹の探り合いは嫌いだ。無駄話は無しにしよう」


「早速だが穀物の買い付けをしたい。数量は例年と同じで頼む」


「では、即金でお願いいたします」


ベルモンドの笑顔のまま、ただし、目は笑っていない。


こやつ、我々を歓迎しておらぬか。


「やはり信用取引は無理か」


「はい。領主になったばかりのカル様とルル様では、いつ他の都市国家に下るか分かりませんので」


「そのための現金取引となります」


「そうか、現金以外での支払いは無理か」


「申し上げにくいのですが、城塞都市ラプラスに我々が欲しいと思える資源は無いとの認識です」


「そうか」


ルルは、事前に打ち合わせた通りに話をすすめるとカルにハンドサインを送った。


カルも了解とばかりに何気ないハンドサインを送り返した。




「ときにベルモンド商会では、穀物以外も扱っておるのか」


ルルは、椅子の横に置いた大槍をこれ見よがしに手に取った。


「はい、ルル様がお持ちの槍も取り扱っております」


「ほう、この破壊槍はミスリルの合金でできておるが、ミスリルも扱っておるのか」


ハイファ・ベルモンドの表情が一瞬こわばった。


穀物を買う金にも事欠く輩が、なぜミスリルの話題をふるのかと少し困惑気味のようだ。


「はい、ただ生憎とミスリルは品薄となっております」


「いかほどだ」


ルルが前振りとばかりにミスリルの価格をわざと問う。


「現在、1グラムで金貨12枚となっております」


「ほう1グラムで金貨10枚ではなかったか」


「先ほど申しあげた様に品薄となっておりますので」


「そのミスリルは2級品か?」


「さようでございます」


「1級品だとどれくらいになる」


「1級品ですと1グラムで金貨23枚となります」


「高いな」


「はい。1級品のミスリルともなりますと、殆ど流通しておりません」


「では、特品はいくらだ」


「・・・特品でございますか」


ハイファ・ベルモンドの顔色が曇りだした。ミスリルの特品など流通などしていない事を知らないのかと言わんばかりの表情だ。


「特品ともなると、殆ど国家間での取引に使われる程度でございます。通常は流通しておりません」


「まあ、あえて値をつけるとしますと、1グラムで金貨35枚と申し上げておきます」


「何せ特品ともなりますと出物がございませんので」


「そうか、つまらぬ事を聞いたな」


「ところでカル殿。おぬしは、鑑定して欲しいものがあるそうじゃな」


「はい」


カルは、腰に付けた小さな鞄から小さな袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「ベルモンド殿は鑑定魔法が使えると聞き及んでいる」


「はい。商売を行う上では必須のスキルでございます」


「では、これを鑑定していただきたい。もちろん、鑑定費用はこちら持ちで構わない」


「かしこまりました。少々お待ちください」


テーブルの上に置かれた小袋を縛っていた紐を解くと小さな金属の粒が詰まっていた。


一粒だけ手に取り鑑定魔法を発動させる。小さな金属の粒は、灰色の少しくすんだ色をしている。


ものは”ミスリル”か・・・。


等級は2級品・・・1級品・・・特品、特品だと!


純度、90%・・・99%・・・99.9%。


あっ、あり得ない!あり得ない純度だ!


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


ハイファ・ベルモンドは、カルとルルの顔を見上げた。だが、またすぐに小さな袋の中身の鑑定に戻った。


「もっ、申し訳ございません。他の者にも鑑定をさせてもよろしいですか」


「かまわぬ」


ルルは、涼しい顔をしている。カルも同様だ。


今回持ち込んだミスリルは、既にリオの鑑定魔法により鑑定済だ。いくら鑑定しても結果は変わらない。


カルもルルも鑑定などいくらでもしてもらって構わない。逆に何人でも鑑定してその手に持ったミスリルが何であるかを存分に理解して欲しいといった涼しい表情を浮かべていた。


ハイファ・ベルモンドは、慌てて人を呼びに部屋を出た。


手にはミスリルの特品を握り締めたまま。


カルとルルは、出されたお茶を口に運び、一緒に出されたクッキーの甘さを楽しんでいた。


しばらくして部屋に戻ってきたハイファ・ベルモンドは、額に汗をこれでもかというほど浮かばせていた。


「とっ、とんだ失礼をいたしました」


「つかぬ事を伺いますが、このミスリルをどちらで」


「それは言えぬ。じゃが、カルは城塞都市ラプラスの領主、私は城塞都市ラプラスの副領主だ。そう言えばご理解願えると思うのだが・・・」


「そっ、そうでした。失礼いたしました」


あり得ない、ミスリルの特品。純度99.9%などという”物”は存在しないのだ。


いまだ99.9%の純度のミスリルを精錬できる技術は、ドワーフ族の職人ですら成しえないと聞いている。


それが目の前に存在するなどと・・・ありえない。


ベルモンド商会のハイファ・ベルモンドは、カル達によって持ち込まれた未だ見たこともない99.9%の純度のミスリルを目の前にして狼狽えるばかりだ。


「時にハイファ・ベルモンド殿。穀物の買い付けだがな。現金以外での買い付け無理か」


「・・・それは、まさかミスリルでお支払いになると」


「そのミスリルの鑑定結果は、特品でよろしかったな」


「はい」


「では、その特品で支払うというのは無理があるか」


「いえ、ぜひこちらのミスリルでお支払いいただいて構いません」


ルルとハイファ・ベルモンドの商談が進む最中、ルルはカルに再度ハンドサインを送った。


カルは、そのハンドサインからある行動を開始した。


腰に付けた小さな鞄から袋を取り出し、テーブルの上に静かに置いた。だが、その小さいが重そうな袋には何が詰まっているのか、この場にいる者であれば検討はつく。


「この袋に10kgの特品のミスリルが入っておる」


「こちらも鑑定していただきたい。間違って混ざりものが入ったミスリルを出したとあっては、城塞都市ラプラス領主の名前に傷がつくというものだ」


ルルは、そっけなく会話を続けた。だが、その言葉は決定打となりうる言葉だ。


ハイファ・ベルモンドは、慌てて袋を開けると鑑定を始めた。


カルは、さらに腰の小さな鞄から袋をもうひとつ取り出しテーブルの上に置いた。


ハイファ・ベルモンドの手と額に大粒の汗が溜まり、その汗はテーブルに汗溜まりを作るほどになった。


さらにカルはもうひとつの袋をテーブルに置いた。


「ハイファ・ベルモンド殿。3袋、合計30kgのミスリルの特品だ。この鑑定をしていただきたい」


ハイファ・ベルモンドは、これだけの量のミスリルの最高級品である特品を見た事がなかった。


これだけの量ともなると、国家間での取引でも扱われない量だ。


いくらベルモンド商会が大店とはいえ、王国指定の商会ではないので扱った事など皆無。


「もっ、申し訳ありません。こっ、この量ですと今日中の鑑定は・・・無理かと」


「そうか、われらとしては、穀物が買えればよいのだ」


「でしたら、この1袋で十分かと」


ハイファ・ベルモンドは、テーブルに出されたミスリルの特品の3袋のうち、1袋だけを手元に残し2袋はルルの元へと戻した。


ハイファ・ベルモンドの頭の中は混乱していた。


これだけの量のミスリルの特品など扱った事ないどない。そんな代物を市場に売りに出したらどんな事になるのかと。


しかし、しかしだ。もし、この量のミスリルの特品を扱えれば、王国指定の大店となるのはほぼ確実。欲しい、なんとしてもこのミスリルの特品が。


ルルは、すました表情で話をつづける。


「そうか、だが民を食わせるには、このミスリル1袋で買える穀物の量ではちと不足でな。できれば、ミスリル3袋で買える穀物が欲しいのだ。いや、今すぐにとは言わん。定期的に城塞都市ラプラスまで運んでくれればよい」


「失礼かと思いますが、どれほどのミスリルをお持ちなのですか」


「そうだな、この目の前にあるテーブルが特品の袋で埋まるくらいはある」


ルルは、少しばかりのはったりをかました。ただ、それは嘘ではない。カルさえいてくれれば、また取りに行けばよいのだ。


ルルは、目の前のハイファ・ベルモンドのこわばった顔に少しだけ脅しをかけることにした。


「もし、この量のミスリルを・・・特品を一度に市場に流せば、価格はどうなる」


「ぼっ、暴落します」


ハイファ・ベルモンドの表情が青ざめた。膝が小刻みに震えている。表情にも態度にも全く余裕が感じられない。


ルルは、ハイファ・ベルモンドの表情の豹変ぶりに笑いを堪えるのに必死だった。


「それだけは、避けたいものだな」


「おっしゃる通りです」


「どうだろう、城塞都市ラプラスは、これからもベルモンド商会と懇意にしたいと思っておる」


「こっ、こちらもです」


「であれば、商談成立と考えてよろしいかな」


「こっ、今後ともベルモンド商会をよろしくお願いいたします」


「あっ、そうであった。まだ他にお願いしたい品がいくつかあるのだがよろしいか」


穀物の買い付け、それに肥料の買い付けも無事に終わり、カルとルルは宿へと戻っていった。


それを青ざめた表情で、震える膝でハイファ・ベルモンドは、腰を曲げたまま送り出した。


カルとルルの姿が見えなくなると、店の奥へと急いで戻った。


ハイファ・ベルモンドは、店の調査専門部署の人間を集めると、震える膝を手で押さえながら言い放った。


「くそ、やつらが金を持っていないなんて言ったのは誰だ!」


「城塞都市ラプラスにミスリル鉱山があるなんて聞いてないぞ。大至急調べろ!」


「それにあの純度99.9%のミスリルをどこで精錬しているかもだ。あれだけのミスリルを精錬するとなれば、かなり大規模な精錬所が必要になる。あの精錬技術をなんとしても手に入れろ!金はいくら使ってもかまわん」


「これでは、逆に我々が脅される立場ではないか。このままでは、やつらに市場価格の決定権を握られてしまう。いや、まて。下手に動いてやつらにない腹を探られるのも困るな」


ハイファ・ベルモンドは、少し考えると部下に新たな支持を出した。


「城塞都市ラプラスに事務所を構える。領主には、近いうちに店を出すと伝えろ。出店準備と言えばやつらも気分よく情報収集に応じるはずだ」


まさか、あんな鬼人族の小娘に、いいようにやられるとは思ってもみなかった。あの小娘、親の七光りだと思っていたが、侮ると足元をすくわれるか。


それにあのガキだ。大盾以外に持ち物など無かったはず、まさかガキの分際でアイテムバック持ちか。


「それにしても、あの小娘を倒したというガキは何者だ。あのガキも調べろ、ただし慎重にだ」


ベルモンド商会がいくら調査を行っても、ミスリルの精錬所など存在しないし、ミスリル鉱山の場所も特定できないであろう。


もし、あの廃鉱を調べたとしても、廃坑の前に立ち並ぶ人と魔獣の石造の数々を見れば、この地にどんな魔獣がいるか誰でも想像がつくというもの。さらに廃坑内に入ったとしても、誰も採掘など行っていない静かで真っ暗な坑内からミスリルが採掘されているなどと考えもしないだろう。


結局、ベルモンド商会による調査は空振りに終わるのだが、それが次の戦乱の引き金になることをカルもルルもまだ知らない。


ミスリルでの穀物の買い付けは無事終了。でも、商会の会頭を怒らせてしまいました。


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