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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
204/218

204話.故郷(3)

エルフ族の3人は、城塞都市ラプラスでカルに新しい仕事を依頼されます。


話は、少し前に戻る。


エルフ族のアイリーは、魔王国第1軍の傭兵部隊の部隊長に呼ばれた。


「お呼びでしょうかエデン様」


「お前達に極秘任務がある。エルフ族は、森での任務に定評がある。それを踏まえてオーリーヤーム様からから直々のご指名だ」


「オーリーヤーム様から・・・ですか」


「ああ。任務の詳細については、直接会って話すそうだ。重要な任務だから特別手当も付くぞ」


「分かりました」


エルフ族のアイリーは、傭兵を束ねる部隊長から渡された命令書を持ち魔王国第1軍の将であるオーリーヤームが控える本部へと向かった。


「傭兵部隊第112隊隊長アイリーです」


アイリーは、オーリーヤームとその副官であるワーラーが待つ森へとやって来た。


「お呼びでしょうか」


魔王国第1軍は、深い森のさらに奥にある場所を拠点にしている。それは、まる精霊の森を思わせる様な場所だ。


そして魔王国第1軍の将であるオーリーヤームとその副官は、妖精族であり背中に生えた羽で空を自由に飛び回る事ができる。


オーリーヤームは、城塞都市ラプラスの住人となった妖精達の様に小さい訳ではなく人族やエルフ族よりも身長が少し低いくらいである。


そして元々は、精霊の森の守り手であった。オーリーヤームが守る精霊の森が人族の手により焼き払われてしまい守っていた精霊の森が消え精霊も死んでしまった。


それ以来、魔王国に身を置き精霊の森を焼き払った人族の国と戦っていた。


アイリーは、オーリーヤームに向かって敬礼をすると直立不動の体勢を取る。


「休め」


「はっ」


「お前に偵察任務をお願いしたい」


「我々にですか?」


「この魔王国の将来を見据える上でとても大切な任務だ」


副官であるワーラーがアイリーに向かって話す。オーリーヤームは、椅子に座ったままアイリーとワーラーの会話を聞いている。


「お言葉ですが、我々は第1軍でも傭兵部隊に所属する身です。そういった大事な任務は、信頼の出来る正規兵から選ばれるべきかと思われます」


「意見具申か・・・」


「はっ、失礼しました!」


アイリーの言葉にワーラーが睨みつける。


すると椅子に座っていたオーリーヤームがおもむろに立ち上がるとワーラーに変わり話し出した。


「それは出来ない。彼らは、要らない欲を出す。傭兵である貴方達が適任だ。しかも故郷の村は、精霊の森にあるらしいな」


オーリーヤームがアイリーの故郷の村の事まで知っている事に少し驚く。


「傭兵である私が・・・ですか、分かりました。それでご命令とは?」


「城塞都市ラプラスの内情を探って欲しい。内情といってもスパイ活動ではない。普通に城塞都市内で生活して得られる情報から分かる事を伝えて欲しい。城塞都市ラプラスがどんな都市で領主となった人族がどんな人物なのか」


任務の内容を聞いたアイリーは、ひとつ質問を返した。


「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか。我々以外にも同じ任務を帯びた者がいると考えてよろしいでしょうか」


アイリーの質問に副官であるワーラーが答える。


「それに答える必要はない。たがひとつだけ言っておく。これは、オーリーヤーム様からの勅命だ。そして他の任務より優先される」


「承知いたしました」


魔王国第1軍の将である妖精族のオーリーリーヤームより勅命を受けたアイリーは、仲間のエルフと共に城塞都市ラプラスへと向かった。


そして時を同じくして故郷である精霊の森にあるエルフの村の村長より手紙が届く。


その手紙を開いたアイリーは、驚愕する。


”アイリーよ。古に滅んだとされる我らを束ねるハイエルフ族の末裔が見つかった。そのお方のおそばに使えしお守りするのだ”。


村長の手紙には、そう書かれていた。そして行先として書かれた場所を読みさらに驚愕する。


”魔王国の南方に位置する城塞都市ラプラスに行け。城塞都市ラプラスの領主であるカルという人族の少年と行動を共にしているライラ様をお守りするのだ”。


折しも魔王国第1軍のオーリーヤームからの勅命を受けた場所と同じであった。


魔王国第1軍の拠点は、魔王国の最北の森に位置する深い森の中だ。この場所からは、同じ魔王国内であっても移動手段がほぼない。


下手をすると城塞都市ラプラスに移動するだけで1ヶ月近くかかる。アイリーは、仲間のエルフと共に3人で魔王国内を移動して南方辺境区へと向かった。


途中、砂漠の淵に点在する城塞都市を転々を移動しながら城塞都市ラプラスへ向かう。


そして鉱山都市デルタに到着した時、雪の降らない砂漠が広がる地に吹雪が舞った。そして雪と共にノーワームという全身を毛で覆われた魔獣が群れをなして現れた。


アイリー達は、鉱山都市デルタで吹き荒れる吹雪の中を砂漠から溢れるスノーワームの群れと戦った。そして魔獣の群れに向かって大出力の魔法を放つ魔術師を目撃する。


砂漠に雪が積もりそこに溢れるスノーワーム。そして真っ赤な炎が巨大な滝の様に現れスノーワームを駆逐していく。


「広域殲滅魔法だと・・・初めて見るな」


「こんな大魔法を操れる者がこの様な辺境にいるなど信じられません」


「ああ、我らの第1軍にいれば間違いなく主戦力だな」


さらにアイリー達の前では、広域殲滅魔法が何度も炸裂する。


「おいおい。広域殲滅魔法を連射するというのか」


「どれだけの魔力量なのでしょう。私も使ってみたい・・・」


そう言い放ったのは、メルミーであった。同じ魔法使いといえどメルミーには、広域殲滅魔法が使える魔力など持ち合わせてはいない。


広域殲滅魔法によりスノーワームの群れが倒された頃、空に巨大な岩が浮かんでいるのを目撃する。


「メルミー。巨大な岩です。岩が飛んでいます!」


城壁の上でその光景に釘付けになるエルフ達。


鉱山都市デルタの広場に降り立った宙に浮く巨大な岩の上には小さな城らしきものが建っている。


そこから降りてきた者達は、この鉱山都市デルタを守る領主達の主力部隊が陣を張る城壁へと向かった。


「増援でしょうか」


「分からん。だがこの鉱山都市デルタには、空を移動できる城があるという事か」


「これも第1軍にあれば・・・」


「この国に攻め入る人族の国など敵ではないな」


程なくして飛び立った巨大な岩。それと時を同じくして砂漠に降る雪がやみ、スノーワームの群れも現れなくなった。


アイリー達は、鉱山都市デルタを後にすると砂漠の淵を通る街道を進み城塞都市アグニⅠへと入る。


そこで見たものは、故郷の村と同じ精霊の森であった。しかも故郷の村がある精霊の森よりも遥かに広く、昼間だというのに城塞都市の街中で妖精達を頻繁に目撃する。


「ここはどうなっている。なぜこんなに妖精達が飛び交っているのだ」


「この様な光景は、魔王国の中でも見た事がありません」


さらに街中を警備する兵士と共にトレントが歩いている。


トレントの姿を見た瞬間、思わず剣に手をかけたアイリー。


「この城塞都市は、魔獣と共存しているのか」


しかも街中を歩くトレントを全く気にかけない住民達の姿がアイリー達には、とても異様な光景に映る。


さらに馬車で城塞都市を移動していくと街道を挟んで砂漠と精霊の森、そして巨大な湖が見えて来た。


そして空を飛ぶ巨大な何かの姿を目撃する。


荷馬車に乗せてもらったアイリー達は、御者にその事を問いてみる。


「ああ。あれは、酔いどれ龍達ですな」


「酔いどれ龍・・・」


「皆さんは、この城塞都市ラプラスに初めて来なすったのか。なら酔いどれ龍を知らないはずだ」


そして御者が語った話にまたしても驚愕する。龍が街はずれの村でひがな一日を酒を飲んで過ごしているという。


「ほれ。あそこにある酒蔵があるじゃろ。そこで酒を飲んでいるのが酔いどれ龍達じゃよ」


アイリー達は、そこで酒を飲み宴に興じる龍の姿を目撃する。しかもその龍の周囲に複数の人影まで見える。


「龍と共にいて・・・その、喰われたりしないのか」


「大丈夫だよ。あの龍達は、この城塞都市を守っている守護神みたいなものだよ。先日も砂漠で湧いたワームの群れもあの酔いどれ龍達が倒してくれたよ」


御者の話をにわかには信じられずにるアイリー達。荷馬車は、ゆっくりと街道を進んでいく。


そして街道を宙を浮いたまま移動していく獣人の姿を目撃する。


もはや、何を見ても驚かないとそう誓い合うアイリー達であった。


荷馬車を降り御者に礼を言うとエレンから貰った手紙を頼りに精霊の森の中を進む道を歩く。その道が細い獣道となってしばらく進んだ先に小さな真新しい集落が現れた。


「お姉さま。ここがエルフの新しい集落ですか」


「そうらしいな。村長からの手紙にもあったがエレンが住んでいるらしい」


「新しい集落ですね。しかも家々の作りがしっかりしています。どこからこんな資金が出たのでしょう」


「なんでもここの領主が建てたらしい。実に気前のいい領主だな。それにしてもエレンは、何処にいるのだ。どの家にも誰もいないぞ」


「仕方ない。ここでしばらく待たせてもらいましょう」


そして3人の前に姿を現した巨大な歩く巨木。もう何を見ても驚かないと誓い合った3人は、その言葉を撤回した。




3人は、エレンからこの城塞都市ラプラスについて知っている事を知らされた。


精霊の森の精霊。妖精。ラピリアトレント。龍達。そして妖精の国。


さらにこの城塞都市には、精霊界から来た精霊や精霊神までいるという。


「それなら見た。街道を荷馬車で移動中に宙を浮いていた。確か獣人だったが・・・」


「はい。お猫サマという獣人の中級精霊神様です。いつもは、精霊界とこの世界を繋ぐ扉を守護されています」


「精霊界?まて、精霊界とは何だ」


「精霊界ですか。この集落を守っている精霊の森を育む精霊様がやって来た世界です」


「精霊がやって来た世界だと。そんな世界が存在するのか」


「はい。その精霊が住む世界の上位に位置するのが精霊神界だそうで精霊神様は、そこからやって来たそうです」


「・・・・・・」


アイリー達は、エレンが言っている話を信じる事ができずにいた。今まで住んでいた世界とはあまりにも異なりすぎているせいだ。


「これから城塞都市ラプラスに行きませんか。私も今日の仕事は、終わったので時間があります」


そう言うとエレンは、アイリー達を伴い城塞都市ラプラスの城門をくぐる。


人々が行きかう街中と歩きながら、あちこちを紹介していくエレン。


城塞都市の中を行きかう馬車と人々の数が多く、立ち並ぶ店にも活気がある。


「この城塞都市の主な産業は、ラピリア酒の輸出です。私もそのラピリア酒の材料になるラピリアの実の収穫と運搬を行って生計を立てています」


エレンは、さらに続ける。


「それとこの城塞都市では、ミスリルと魔石が採れるらしいです。私も詳しい事は知らないんですが」


しばらく街中を歩くとエレンは、一軒の店に入った。


エレンは、お茶とパイを注文して3人へと振舞う。


「このパイは、極楽芋といってとても美味しいんですよ。ただ、調理に少し手間がかかるので細心の注意が必要です」


アイリー達は、エレンの話を聞きながら極楽芋のパイを口へと運びそれを頬張る。


「美味いな。こんなパイは、初めて食べた」


「私が耕している畑にも植えてありますから、私が作ったパイを食後に食べていただきますね」


お茶と極楽芋のパイを楽しんだ後、エレンと共に3人は、この城塞都市ラプラスの城主の館の前へとやって来た。


「ここが城塞都市の領主様がおられる領主の館です。ここにハイエルフの末裔であるライラ様もおられます」


「ライラ様には、その・・・会えるのか」


「精霊治癒魔法が得意で、森や開拓した村に出向いて農作物の育成に尽力をされておられるとてもお忙しいお方です」


「そうか、そう簡単に会えないか」


「でも、お優しい方なのでお会い出来るか確認してみます」


次の日からアイリー達は、城塞都市ラプラスを歩き回り都市の規模や街並みの様子、そして行きかう馬車の荷や商店で取り扱っている品物の種類などを調べて周った。


さらに金で買える情報を積極的に探し、魔王国第1軍の将の勅命に従いオーリーヤームに次々と手紙を送り始める。


それは、他の者が手紙を開けると燃えてしまう特殊な魔法を施したもので、妖精族のオーリーヤーム以外が読む事はできないものであった。




そんな生活が1ヶ月程続いたある日。


エレンからアイリー達の話を聞いていた城塞都市ラプラスのカルは、この城塞都市でも珍しいエルフ族の新しい住人に何か仕事を頼めないか考えていた。


そんな時、城塞都市都市ラプラスに珍しい人物がやって来た。


領主の館の応接室に招かれたその人物は、カルと同じくらいの背格好ではあるが背中に羽の生えた妖精族であった。


「オーリーヤーム様。お初にお目にかかります。城塞都市ラプラス領主のカル・ヒューイと申します」


「魔王国第1軍を預かるオーリーヤームです」


カルが一礼をするとにこやかな笑顔を見せるオーリーヤーム。


「それでこんな辺境に、第1軍の将がおひとりで何の御用でしょうか」


「魔王様を助けてくれてお礼を言いたかった。魔王様を救っていただき感謝の言葉もありません」


「その件ですか。あれは、僕やこの城塞都市を守るために取った行動です。オーリーヤーム様に感謝の言葉を頂く様な事ではないです」


「それでも感謝を言いたい。それと精霊の森と妖精達をこんなに大切にしてもらって・・・」


「精霊の森もたまたまです。元々、この城塞都市ラプラスの周囲には、森が全く有りませんでした。僕が生まれ育った家は、森の中にあったので森を育てようとしたんです。そうしたらたまたま精霊の木を見つけたので、この地に移植しただけなんです」


カルの話を聞いたオーリーヤームは、少しばかり考え込むと自身の身の上話を始めた。


「私は、自身が生まれた精霊の森を守る事ができなかった。私が生まれた精霊の森を焼いたのは人族。だから私は、魔王様に忠誠を誓い魔王国第1軍の将になった」


オーリーヤームは、淡々と会話を続ける。だが、その言葉の端箸に人族への悪意の様なものが込められている事をカルも感じた。


「それで、お願いがあってやって来たの」


「お願いですか」


「この城塞都市に私の第1軍から人を派遣したの。この城塞都市ラプラスとその領主の人となりを調べるために」


「人となりですか」


「派遣した彼女達は、第1軍に在籍したままだけど、彼女達の面倒を見て欲しいの」


「僕が・・・ですか」


「そう、腕は立つし頭も良い子達。魔王国の発展に何か役に立つ経験をさせたいの」


「そうですか、分かりました」


城塞都市ラプラス領主カルと魔王国第1軍の将である妖精族のオーリーヤームとの会談は、1時間程で終わった。


だがふたりが会談をしているという話をどこからか聞きつけた妖精達。


彼らは、応接室の窓ガラスを埋め尽くさんばかりに窓にへばりつき、応接室のあちこちに小さな扉を出現させその扉から頭を半分だけ出して聞き耳をたてていた。


その光景があまりにも可笑しかったカルとオーリーヤームは、会談の最中に笑い転げていた。


妖精達も同じ妖精族でありながら魔王国第1軍の将となったオーリーヤームの行動が気になって仕方がなかった。




それから数日後。


エレンが住む集落にやって来たエルフ族の3人を領主の館に呼ぶとカルは、3人にある依頼をする。


「今度、新しく配下に加わった城塞都市に赴き雇われ領主として赴任していただきたいのです」


カルの突然の依頼に驚愕する3人。


そしてカルの浮遊城で城塞都市ランドルへと向かう。


その浮遊城を操るのは、ハイエルフの末裔と言われるライラである。ライラは、ハイエルフにしか扱えない精霊治癒魔法を操る。


その姿を遠くから見守るアイリー達。


そして城塞都市ランドルに到着したアイリー達だったが、彼女達を出迎えたのは、兵士のこんな言葉であった。


「大変です。村に配給する食料を積んだ馬車が襲われました」


「馬車を襲った相手は?」


「ガイ男爵の部隊です」


「ガイ男爵?」


「城塞都市ランドルの元領主ガロ様の兄弟です」


城塞都市ランドルに新領主とし赴任した初日に起きた事件。それがアイリー達の最初の領主としての仕事であった。


城塞都市ランドルに領主として赴任した初日に事件が起こりました。


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