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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
202/218

202話.故郷(1)

カルは、ある者の訪問を受けます。


いつもの様に書記官アリッサが監視する中、自身の執務室で領主の仕事を精力的にこなすカル。


「さっきから書類へ目を通していませんし署名もされてません」


アリッサさんの痛い程の視線がカルに向けられている。


「そうやって天井の模様を眺めたり窓から見える景色ばかり見ているから仕事がはかどらないんです」


「僕の事よく見てる・・・」


「私の仕事の大半は、カル様が円滑に仕事をこなせる様にすることです。私がカル様の仕事の代行をするとカル様が領主の仕事を覚えませんから」


「ははは・・・はあ」


乾いた笑いしか出ないカル。今日は、まだ仕事が始まって1時間もたっていないのだ。アリッサさんに文句を言われて当然である。


”コンコン”。


いつもの様に執務室をノックする音がした。


「失礼します。城塞都市ランドルというところからの使者だという方が来られております。事前に面会依頼はされていないようですがいかがいたしましょう」


「城塞都市ランドル・・・」


カルは、どこかで聞き覚えのある名前に必死に思い出そうと頭をひねっている。


「城塞都市ランドルは、小規模の城塞都市です。領主様の生まれ故郷の村を傘下に持つ都市です」


「あっ、そうだった。すっかり忘れてた」


「ご自身の故郷ですよ」


「だって僕の故郷は、山の中の村だしさらにそこから山の奥に入ったところだったからランドルなんて行った事もなかったよ」


カルとアリッサの会話に職員が咳をひとつ入れて割り込んで来る。


「コホン。どうされますか。お会いになりますか」


「あっ、そうでした。応接室に案内して」


職員は、執務室を出ていく。カルも城塞都市ランドルの使者が何用で来たのかおおよその察しはついている。


「食料の援助でしょうか」


「恐らくそうだと思う。僕も情報部の方に探りを入れる様に言ってあるんだ」


「どんなご様子でした?」


「・・・かなり酷いみたい」


カルの口が途端に重くなり表情が険しくなる。


「僕は、城塞都市ラプラスの領主であって城塞都市ランドルの領主でも領民でもないからね。僕が口もても出す事をずっと避けて来たけど・・・」


「相手の出方を見てという事でしょうか」


カルは、アリッサの言葉に何も答えない。逆にそれが覚悟の現れなのかも知れない。




領主の館の応接室で城塞都市ランドルの使者との会談が行われた。


城塞都市ラプラスからは、領主であるカルと秘書官アリッサ。それと数人の事務官が居並ぶ。


対して城塞都市ランドルからは、使者がたったひとりだ。そしてその使者は、領主であるカルと対面した途端、開口一番こう言い放った。


「我ら城塞都市ランドルは、城塞都市ラプラスによる街道占有により多大な被害を被っている。いますぐに街道の占有をやめていただきたい」


「街道の占有・・・ですか。こちらとしては、街道を通る馬車に護衛を付けております。ですが街道に検問所や荷物の検査を行う様な場を設けてはおりませんし、他の城塞都市の馬車や住人に対して臨検等も行っていません」


「ですが我らの馬車がラドリア王国に向かうには、あなた方の馬車と護衛の兵士が脅威です。あそこまで頻繁に街道を往来されては、こちらが迷惑です」


「それについては、承諾しかねます。城塞都市ラプラスとしては、街道の往来は自由であり誰の制約も受けないという認識でおります。もし、それが脅威というなら城塞都市ランドルの力を行使されても構いません」


カルは、城塞都市ランドルの使者の言葉に突き放す様な返答を繰り返す。


「では、城塞都市ラプラスが物資の運搬の拠点にしているサラブ村にある施設を我らにも開放していただきたい」


「施設?いったい何のお話でしょうか」


「とぼけないでください。あなた方がラドリア王国との貿易に使っている施設です。我々も調べました。あの村には、山脈を一瞬で超える事のできる転移門があります。それを我々にも開放して欲しいと言っているのです」


「転移門ですか・・・。で、そんなものが仮にですがあるとして、それを他の城塞都市に開放すると本気で思っておいでですか」


「・・・我らの飢えた民を救うためです」


ここで使者から城塞都市ランドルの本音を引き出す事に成功した。


「民が飢えているのですか?」


「我らは、ラドリア王国のベルモンド商会から穀物を買い付けていた。だがあなた方の手によりベルモンド商会は、破産してしまった。それ以来、ポラリスの街の他の商会も我らと一切の取引をしなくなってしまったのだ」


「それを城塞都市ラプラスの責任にされても困ります。こちらも強欲な商会の被害者のひとりです。そういった時こそ領主の手腕が問われると思うのですが」


「では、転移門の開放も認めない。街道の占有も認めないと言うのですね」


「民が飢えている事に関しては領主の責任です。ですが飢えた民の事を考えると飢え死にさせるのも不憫なので食料援助に応じでもよいと考えています」


「ほっ、本当か!」


「だだし、こちらとしても条件があります。城塞都市ランドルの現状を見せていただきたいのです。それも今すぐにです。それが受け入れられなければ、食料援助の話は無しです」


カルの提案に使者は、うろたえた。他の城塞都市の領主がいきなり視察に行くと言い出した。それに対して何の準備もしていない城塞都市ランドル側は、受け入れられる提案ではないと考えたていた。


「わっ、分かった。その提案を受け入れる」


カルのいきなりの提案を受け入れた使者。それほど城塞都市ランドルの状況は、逼迫していると思われた。


使者は、馬車で城塞都市ランドルへ戻ろうとした。だが民が飢えで苦しんでいるというのなら食料援助が今すぐにでも必要なる。


そう思ったカルは、領主の館の空き地に置いてある浮遊城で向かう事にした。


「まっ、待ってください。巨大な岩が・・・城が宙に浮いている!」


城塞都市ランドルの使者は、ブルブルと震え浮遊城の手すりにしがみついたまま動こうとしない。


そんな使者を後目にカルは、妖精達に城塞都市ランドルの場所の確認をしている。


そして飛び立ったばかりの浮遊城は、あっという間に城塞都市ランドルに到着した。実際に浮遊城で空を飛んでいた時間は10分もないという近さだ。


城塞都市ランドルの使者は、振るえる体を何とか動かし浮遊城から降りると、城塞都市ランドルの城門へと向かう。


その後をカルといつもの面々がぞろぞろと付いて歩く。カルは子供で他は全て若い女性である。例外と言えばゴーレムのカルロスくらいである。


どうみても他の城塞都市の領主が視察に来たとは思えない光景であった。


「私だ。城塞都市ラプラスの領主を連れて来た。城門を開けてくれ」


使者の言葉を聞いた城門を守る兵士が慌てた様子で城門を開いていく。そして使者の後をついていくカル御一行様。


城門をくぐりそこで目にした光景。それは、朽ち果てた家屋の前に座り横たわる人々の姿。体は、痩せ細り動く事もままならない。


「これは、どういう事ですか・・・」


「お恥ずかしい話なのですが食料の配給は、半年ほど滞っております」


「民は、城塞都市の外に畑を作り作物を植えて飢えを凌いでおりますが、井戸の水も枯れてしまい、畑に植える種も苗もないのです」


街中を歩く人の姿が殆どなく閑散とした街。手入れのされない街は、誰も住んでいないと言われれば信じてしまう程の荒れようである。


だが、街の中を行く街道の先には、手入れの行き届いた煌びやかな豪邸が建っている。


それは、誰がどう見ても領主の館だと分かる。


「今すぐ領主に合わせていただけますか。食料援助をするにしても領主と取り決めをする必要があります」


「分かりました。領主様の屋敷に御案内します」


カル達は、領主の館の応接室に案内されるとそこでしばらく待たされた。


「お待ちしておりましたカル殿。私は、城塞都市ランドル領主のガロです」


城塞都市ランドルの領主と名乗ったガロ。そしてその横には、城塞都市ラプラスに使者としてやって来た男も同席している。


「食料援助の件、感謝いたしますぞ」


ガロは、鬼人族の中年の男で筋肉の鎧を着ている感じが着衣の上からでも分かる体格をしており、実に血色の良い顔色をしている。


民が飢えている事などこの鬼人族の男には全く関係のない事の様だ。


ガロは、自身の功績を自慢話の様に話し始める。この荒れ果てた街並みを見て誰がその話を信じるというのか。


しかもそんな話など誰も聞いてはいないというのに。そして最後には、こんな事を言い始めた。


「我らと同盟を結んではいかがですかな。我らが組めば、この南域の城塞都市群など敵はないですぞ。特にあのルルとかいう生意気な小娘に一泡吹かせてやりたいものだ。強くもないのに親の意を借りて城塞都市の領主なんぞになった小娘など・・・」


聞きたくもない話を延々と続ける鬼人族のガロ。そして高らかな笑いが響き渡る。


カルは、その会話に疑問を覚えた。この南域にある4つの城塞都市は、カルと鬼人族であるルル、リオ、レオにより既に手中に収めている。


それをこの鬼人族のガロという男は、全く知らないかの様な口ぶりだ。


”こいつは、自身の事以外に何の興味もないのだ。だから民が飢えても全く気にしない。”


そうか、ならば食料援助ではなく食料支援という事にするか。それでどう出て来るか探りを入れて見る事にしたカル。


「では、食料支援にかかる費用についてです。提供する穀物を年率10%の利子を付けて返済してください。延滞した場合は、食料支援を即刻打ち切ります」


いきなりのカルの物言いに動揺するガロ。


「なっ、なんだと。さっきまで食料援助と言っていたではないか!」


「もう一度言います。提供する穀物を年率10%の利子を付けて返済してください。延滞した場合は、食料支援を即刻打ち切ります」


ガロは、人族のガキにいい様に言われて頭に血が上った。弱い人族が強い鬼人族に対してなんという言葉を吐くのかと。


「人族の分際で城塞都市の領主などになったからといい気になりおって。私がこの場で力を使えはお前などいつでも殺せるのだぞ!」


だがカルは、今までに鬼人族よりも強い者と何度も戦っている。この程度の者に恫喝されたところで恐怖すら覚えない。


「あなたの様に民を飢えさせても全く意に介さない人と同盟など結ぶ意味などない。まして鬼人族のルルさんやリオさんやレオさんの事を悪く言う人と同盟など結ぶ気にならない」


「人族のガキの分際でなめた口を!」


ガロは、どこからか持ち出した大剣を取り出すと鞘から抜いてカルに向けた。つまりガロは、最初からこうなると考えていたのだ。


”そうか・・・、僕は、こんな男のために村から駆り出されて城塞都市戦に出る羽目になったのか。”


”カルは、城塞都市の領主となるあの戦いの場面を思い出していた。こんな男のために戦い死んでいった村の人達は、今どう思っているのだろう。”


カルの心の中で張りつめていた糸が急に切れた様な感覚に襲われた。そしてカルは、ある事を決意する。


「城塞都市ラプラス領主であるカル・ヒューイは、城塞都市ランドルの領主ガロに対して城塞都市戦を宣言する。場所は、領主の館前とする。時は、今すぐだ!」


城塞都市ランドルの領主ガロは、自らが剣を抜き放ったというのに城塞都市戦を宣言されると思わず後ずさった。


城塞都市戦は、一方的に挑む事ができる。そして挑まれた側は、それを拒否する事はできないのだ。


「城塞都市戦だと。何をふざけた事を言っている。鬼人族である私と・・・ただの人族であるお前が戦って勝てるとでも思っているのか」


丸腰のカルに鬼人族のガロが改めて剣を向ける。カルは、大盾を持っていない。それを持っているのは、ゴーレムのカルロスだ。


カルの大盾は、カル以外の者が持つ事はできない。ただひとつだけ例外が存在した。それは、生物ではない作り物であるゴーレムのカルロスだ。


とはいえ、ゴーレムのカルロスもカルの近くにいなければ大盾を持つ事はできない。


ましてやこういった会談の席に剣や盾を持ち込む事など倫理的に出来るはずもない。


ゴーレムのカルロスは、カルに向かって大盾を投げる。それを難なく手にするカル。


すると大盾の表面に大きな口が現れ赤く長い舌がのたうち回り、鬼人族のガロを威嚇し始めた。


見た事もない大盾に恐怖し動けない領主ガロ。そんな姿を見て思わず不敵な笑みがこぼれてしまうカル。




領主の館の前に出たカルと鬼人族ガロ。


カルは、いつもの様に大盾を構えるだけで剣を手にしてはいない。


対して鬼人族のガロは、自身の身長程もあるかという大剣を構えている。


まともに城塞都市戦を宣言した戦いは、いつ以来だろうか。故郷の村を従える城塞都市ランドル。その領主との城塞都市戦に挑むカル。


果たして・・・。


城塞都市ランドルの目に余る惨状にカルは、城塞都市戦を宣言します。


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