20話.穀物の買い付け(1)
カルとルルは、馬車で穀物の買い付けに向かいます。
カルとルルは、馬車でランドリア王国へ向かていた。
同行者は、御者2人と護衛の兵士が3人。目的は、穀物と肥料の買い付けだ。
本来であれば、穀物の買い付けは城塞都市ラプラスの担当官が行けばよい話である。だが、ラプラスの領主がカルとルルに変わったため取引先商会への顔見せを兼ねている。
通常であれば、信用取引により穀物を先に受け取り支払いを後にできるのだが、領主交代の折は現金でのみの取引を行うとの取り決めがなされていた。
さらに城塞都市ラプラスは、鬼人族の前領主がルルとの戦いに敗れた時、持てるだけの金貨を持って逃走しまったので資金が底をついていた。
ルルとカルが持っている資金は、金貨で1000枚ほど。城塞都市ラプラスの民を食べさせるだけの穀物を買える量ではない。頼みの綱は、カルの腰に身に着けている小さな鞄の中にあるミスリルの袋のみ。
馬車は、山の中腹で夜を迎えた。少し広い場所に馬車を止めて夕食と仮眠をとる事にした。山々の先にはランドリア王国の街々の灯りが明滅しているのが見る。街の灯りを見ていると綺麗だが、明日には、あの街へ行き大量の穀物の買い付けを行わなければならない。
しかも、穀物を売ってもらえるかは分からない。何せ資金が足りないのだから。
カルにとっては、城塞都市ラプラスですら他国という印象を持っていた。それがさらに別の国へ行くなど今までに経験がなく、行ったことのない国、行ったことのない街へ行くワクワク感と少しばかりの緊張感がたまらなかった。
山に吹き抜ける風で木々が揺れる音が響き渡る。山の上は少々肌寒く風が吹く度に体温を奪われていく。
そんな時、目の前にある焚火の温かさが余計に心地よい。
カルの頭の上には、いつの間にか魔法スライムが乗っていた。
大盾に魔人の"くち"は出ていない。では、魔法スライムは、いったいどこから現れたのかというと。
大盾の中にあるダンジョンに出入りするには、魔人の大きな"くち"から飲み込まれて吐き出さる以外に方法はないと思っていたが、別の方法がある事が分かった。
それは、大盾の持ち手側(裏側)になんと勝手口が存在したのだ。さすがは、魔人を封印し、ダンジョンまで内装する魔法武具だけのことはある。そこを開けて大盾の中に入るとダンジョンの魔獣が出ない安全地帯への出入り口となっていた。
カルは、勝手口から盾の中へ入ったことはなかったが、その安全地帯を通って精霊ホワイトローズさんの居住空間へ行けるらしい。
魔法スライムは、器用にその勝手口を使って大盾から出入りしていた。面白しろいのがスライムが大盾の裏の扉を開ける時は、スライムの体から手の様なものがが伸びて器用に扉を開け閉めしている仕草だ。精霊ホワイトローズさんが改造したスライムは、言葉も理解できるし魔法も使える。とても魔獣とは思えず親近感すら湧く存在である。
山頂付近の広場で焚火に薪をくべて火の勢いを強くする。上にのせた鍋のスープがコトコトと音を鳴らして良い匂いを出していた。
皆、焚火を囲いながらスープにパンを浸して食べている。大人達は、少量の葡萄酒を飲み体を温めていた。
城塞都市ラプラスでは、いろいろあって慌ただしかったし、村への視察の時は、スライムを集めたりオークの集団と戦ったりで忙しすぎて何をしていたのかあまり覚えていない。
だから、こうやって焚火を囲んでのんびりできるとほっとする。僕には、街よりこういった生活の法が合ってる気がする。
カルが城塞都市ラプラスで生活したのは、まだ数日程度だがなかなかなじめていない。この場所もそうだが、木々が生い茂る森の方がカルにとって安らげる様だ。
馬車の見張りは、護衛の兵士が交代で行ってくれていたが、たまにカルの頭の上にいる魔法スライムが飛び出して馬車の周囲を周っていた。魔法スライムも警備を行っている気でいるのかもしれない。
ルルは、カルの横で毛布にくるまり寝息をたてて寝ていた。ルルの可愛い寝顔を覗き込んで思わず顔が赤くなったカルは、熱くなった顔をさまそうと夜空を見上げた。雲のないきれいな夜空には、星が瞬いていた。
少し火の勢いが弱くなった焚火に薪を入れていると、見回りに出ていった魔法スライムが戻ってきた。
ぴょんぴょんと跳ねながら移動する姿は実に可愛い。魔法スライムは、カルの頭の上へと乗るとプルプルと震えていたがやがて動かなくなった。
魔法スライムも寝てしまったようだ。カルも魔法スライムと一緒に毛布にくるまり、夜空の星を見ながらいつしか深い眠りについていた。
次の日の朝早くに馬車は出発した。
山を下り森を抜けると街道の両脇には、畑や家が見えるようになってきた。ここは既にランドリア王国の領内とのこと。
昼頃には、ランドリア王国のポラリスの街に入れると御者さんが教えてくれた。
城塞都市ラプラスの周辺に点在する村々とは違い、畑に植えられている野菜や麦が青々としている。やはり土が肥えているせいだろう。城塞都市ラプラスの周囲もこんなふうになればいいなと思い描くカルであった。
今回、他国に入るので護衛の兵士達は、冒険者の様な軽鎧を着ている。他国に他国の兵士がそのまま入るといろいろ面倒な話になる。なのでカル達は、穀物の買い付けを行う商隊と護衛の冒険者ということになっている。
街の手前の検問所で衛兵に冒険者証をひとりずつ手渡す。カルの冒険者証には”領主”、ルルの冒険者証には”副領主”とか書かれているはずだが、特に何も言われずに通ることができた。
馬車は、城門をくぐると街中の道をゆっくりと進む。国が違うと街の風景もかなり違う。それに街が城塞都市ラプラスよりも活気付いている。やっぱり都市の規模も違うし住んでいる人の数も違うからか。
馬車は、事前にポラリスの街に入っていた2人の事務官が宿泊する宿に到着した。2人の事務官は、カルとルルが到着するのを待ちわびた様子で、到着するとすぐに宿の食堂で状況説明を始めた。
事前にポラリスの街に入っていた2人の事務官は、城塞都市ラプラスと取引を行っているベルモンド商会と折衝を行っていたがベルモンド商会は、城塞都市ラプラスの台所事情をよく知っていて穀物の買い付けの話は、嬉々として進んではいなかった。
恐らく城塞都市ラプラスの官僚にベルモンド商会の息のかかった者が多数おり、全ての情報が筒抜けになっているためだろう。
ただ、カルが廃鉱から掘り出したミスリルの件については、超極秘事項としてカルとルル、それとリオとレオしか知らない話であった。
果たして百戦錬磨のベルモンド商会との商談は上手くいくのか!
いよいよ商会と穀物の商談を始めます。果たしてミスリルで穀物が買えるのか?