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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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199話.バロックとエスト(5)

ダンデの迷宮のスタンピードを止めたバロックとエスト。


国王から貴族に取り立てるという手紙を貰ったが・・・。


王命として貴族に取り立てると公式な手紙を授かったはずのバロックとエストであったが、それに異を唱える多数の貴族が声を上げた。


「たかが一介の冒険者を貴族にするなど王も呆けたか」


「あの様などこの馬の骨とも思えない者を貴族に取り立てるなどと王は、いったい何を考えていらっしゃるのか」


そんな諸侯の声が王の耳にも聞こえて来る。


せっかくダンデの迷宮のスタンピードを抑え込む事が出来たというのに、自分達の命が助かった途端、口撃に転ずる速さときたら貴族の右に出る者などいない。


さて、ダンデの迷宮の平原に構築された氷の城壁。


そこにダンデの迷宮のスタンピードに間に合わなかった複数の辺境貴族が5000人の兵を伴い、今更ながら氷の城壁内へ兵を駐留させた。


その貴族達は、ここで何が起きたのかを知らずにいた。当然の様に貴族でもなく軍属でもない”ただの冒険者”であるバロックとエストに口撃を仕掛けた。


「一介の冒険者が誰の許可を得て、この様な城壁を築いた!」


いきなりの物言いに言葉を失うバロックとエスト。


「そもそも軍属でもないお前達がなぜ将軍と呼ばれておる」


ふたりからして見れば、勝手にそう呼ばれただけである。自分から”私は将軍だ!”などと言った覚えなど一度もない。


「なぜ、何も話さんのだ。きけぬ口しか無いのならこの場か出ていけ」


氷の城壁を守るバロックとエスト、そしてアイスとレインの4人は、後からのこのこやって来た貴族達に言いがかりを付けられ、挙句の果てに氷の城壁から追い出される羽目となった。


結局、このダンデの迷宮のスタンピードを終息させた4人には、一切の褒賞も与えられず労いの言葉をかける貴族すらいない。


バロックとエストと共に村からこの地にやって来た村人は、ふたつの荷馬車に乗り込むとそそくさとこの地を後にした。


「なんだか呆気ない幕切れだったな」


「仕方ないさ。俺達を貴族に取り立てると言った王様が貴族達に反対されたとあっては、国が動かなくなるからな」


そんな会話をするバロックとエストを見ていたアイスとレインは、何か釈然としない。


アイスとレインは、頭の中で打算が働いていた。村で一生畑を耕して暮らすよりもバロックとエストについて行った方が面白おかしく生きていけると考えた。


そして貴族に取り立てるという王命を信じてふたりに将来を賭けた。つまり貴族の妻として何不自由のない生活を送るか、はたまた魔導士として王国内で羨望のまなざしを受けながら生きて行けるとそう信じた。


だがその結果がこれである。これからあの村に戻ると思うと、どうすればよいのか分からず途方に暮れていた。


馬車から見える草原の景色、そこに広がる氷の城壁。


ところがその城壁のあちこちから白い蒸気の様なものが出始めた。そして城壁がみるみる小さくなっていく。


アイスもレインもその景色を不思議に思いながらも馬車は、平原を後にした。





氷の塊の中に閉ざされていた魔獣は、既に死んでいて生き返る事はない。それだけだはなくダンデの迷宮の入り口を封鎖していた氷まで解け始めていた。


慌てふためく兵士達は、ダンデの迷宮の入り口に石を積み上げ魔獣が迷宮から出られない様にと必死に突貫工事を始める。


とはいえ何の準備もしていないのだ。何処から石を運んで来るというのか。


周囲を見渡すとダンデの迷宮から少し離れた場所に築かれ半分以上破壊された砦が目に入った。


兵士達は、その砦の城壁を崩し迷宮の入り口へと運び始めた。


そして兵士達が砦から運んで来た石材をダンデの迷宮の入り口に馬車で運び込み積み上げようと突貫工事を始めたその時であった。


数えきれない程の魔獣がダンデの迷宮の入り口から姿を現し、草原に溢れだした。


兵士達は、剣を抜き盾を構える。だが、その行為が数万の魔獣に対していったい何の意味があっただろうか。




その頃バロックとエストは、既に山の峠を越えて宿営地に入り夕食の準備に取り掛かっていた。


ダンデの迷宮に行く時とは違い、他の村々から集められた馬車も地方領主の馬車も兵士もいない。


街道の脇に設けられた広々とした宿営地には、ふたつの馬車が止められているだけで他には誰もいない。


実に寂しい光景である。


本来であれば、戦いに参加した事に対し領主から少ない報奨金が出るはずであった。


だがそ報奨金を出すはずの領主は、オーガの攻撃により真っ先に死んでしまった。


ただ働きになってしまったが、命も無事でケガもなく帰って来れたのだ。


バロックとエストと共にダンデの迷宮へと向かった村人も、よい経験が出来たと前向きに考えてくれた。


夜も遅くなり交代で宿営地の見張りを行う事になった。そして皆が寝始めた頃だった。


馬の走る音に見張りをしていた者が気がついた。剣を抜き馬車の周囲で警戒していると、馬に乗った兵士が声を張り上げる。


「我らダンデの迷宮の砦から来た。ダンデの迷宮で再びスタンピードが発生した。この馬車にバロック将軍とエスト将軍がいらっしゃるはずだ。直にお目にかかりたい!」


バロックとエストは、馬車の脇で毛布にくるまって寝ていたが、馬の走る音で早々に起きて剣を装備して待ち構えていた。


「私がバロックだ。我らは、砦から貴族達に追い出された。その我らに今更何の用があるというのか」


馬から降りた兵士は、バロックの少し棘のある物言いにすこしたじろいだ。


「すまぬ。だがダンデの迷宮で再びスタンピードが起きたのだ。あれをどうにか出来るのは、バロック将軍とエスト将軍しかいないのだ」


「そして我らを追い出した貴族共の前で再び戦えというのか。冗談じゃない!」


バロックの言う事に何の問題もない。だがそれでも兵士は、帰る訳にはいかなかった。


「頼む。貴族達のやっている事は、間違っていると思う。だが、あの草原で戦っている兵士の中に俺と同郷の者が大勢いるんだ。こうしている時もどんどんそいつらが死んでいってる。頼む、仲間を救ってくれないか!」


いつの間にか、馬から降りた3人の兵士は、並んでバロックとエストに頭を下げていた。


その兵士の姿を見たバロックは、ある光景を思い出していた。


砂漠に転がるミスリルと魔石の塊を獲ると言って200人の仲間を集め、そして仲間を犠牲にした男の事を。


それを思い出したバロックは、思わず自身の握りこぶしに力が入る。


「・・・分かった。だが俺は貴族の命令は受けないぞ。俺は、俺のやりたい様に戦う」


「戻ってくれるのか。ならば、さっそくで悪いが今すぐ頼む!」


バロックとエスト、それにアイスとレインは、馬車に乗り込みダンデの迷宮へと向かう。


村から来た村人は、ここまま村へ戻ってもらう事になった。今更ダンデの迷宮がある草原に戻っても返って足手まといでしかないからだ。


夜道を魔法ランタンの灯りだけで進む馬車と兵士達が跨る3頭の馬。


夜道を照らす月明かりがやけに暗く感じる。




月明りで先が見えない夜道をひた走る馬車。再び峠を越えダンデの迷宮がある草原が眼下に広がる。


そこには、無数の光を放つ何かがうごめいていいた。


「ありゃ、魔獣の目だな。光を反射して光っていやがる」


「せっかく迷宮の入り口を氷で封鎖したのに、また同じ光景を見るとはな」


先行する兵士達が魔獣と遭遇し戦いが始まる。バロックとエストも馬車を降りると魔法剣を抜いて兵士達の援護に回る。


「結局、俺達に出来る事はアイスさんとレインさんの魔法で氷の城壁を作りながら迷宮の入口に近づいて入口を氷で封鎖するだけなんだよな」


「だがそれが出来るのは、俺達だけなんだよ」


魔獣と戦いながら3人の兵士と共に斜面を降りていく。夜明けまでまだ時間があり足元が暗くよく見えない。


そして魔獣が溢れる草原に降り立つとすぐにアイスとレインが氷の壁を作り始め城壁が完成する。


氷の城壁の中にいれば、魔獣がこの中に入って来る事はない。だが油断をすると足元をすくわれる。


そして氷の城壁が徐々に高さと規模を増していく。その氷の塊の中には、何体もの魔獣が氷漬けにされており、いつ氷を突き破って襲って来てもおかしくない。


こちらを怒り狂った形相で睨みつける氷漬けの魔獣達。


そして氷の城壁を何度か拡張した時である。以前に氷の城壁を築いた折には、魔獣が氷の塊を攻撃して破壊しようとしていた。


ところが今回に限り、そんな音が全く聞こえて来ない。不思議に思いながらも氷の城壁を広げていく。


そして周囲の魔獣の状況を確認すべく氷の城壁の上へと上がった4人は、驚くべき光景を目の当たりにする。


魔獣達がこちらを睨みつけながら後ずさりをしていた。そして魔獣達は、ダンデの迷宮へと戻っていくではないか。


「おい、こりゃどうなっていやがる。魔獣が迷宮に帰っていくぞ」


「しかも魔獣は、俺達の事を見て・・・いる・・・よな」


「ああ、俺にもそう見える」


バロックとエストは、氷の城壁の上で魔獣の信じられない行動に目が釘付けにになっていた。


「まさかこの氷の城壁に恐れている・・・なんて事はないですよね」


「でも私には、そう見えます」


アイスとレインも氷の城壁の上で魔獣の不思議な行動に思わず目が離せないでいる。


そして草原に溢れていた全ての魔獣達がダンデの迷宮へと戻っていった。


バロック達は、氷の城壁を出ると恐る恐るダンデの迷宮に向かって歩き出す。


「もし魔獣が出たら俺とエストで攻撃をする。その隙にアイスさんとレインさんは、氷の城壁を築いてくれ」


「「わかりました」」


魔法剣を抜いたまま草原を歩く4人。その後ろに3人の兵士達が続く。


草原を見渡しても魔獣の姿も人の姿も全く見えない。


この広い草原を歩いているのは、バロック達と兵士のたった7人である。


そしてダンデの迷宮の入り口へとやって来た7人。迷宮の入り口には、慌てて石材を並べて壁を作ろうとした痕跡が残り、そこに多数の兵士と魔獣の骸が折り重なっていた。


バロックは、レインとエストに合図を送る。それを確認したレインが水の塊を出し、アイスがそれを凍らせていく。


いつ魔獣が迷宮から溢れ出るか分からない。バロックとエストが魔法剣を構えてそれにいつでも対応できるように準備する。


ダンデの迷宮の入り口は、再び氷で閉ざされた。だが、これで終わるとは思えない。


さらに魔獣がいつ溢れ出ても対処できる様にと迷宮の入り口の周囲に氷の城壁を幾重にも張り巡らせる。


そして迷宮を取り囲む氷の城壁の上で警戒する7人。その時ふとアイスが口を開いた。



「そういえば、以前に作った氷の城壁ですが、全て融けてしまったようですね」


「そうだな。でも俺達が魔獣と戦った時は、1週間も融けなかったよな」


アイスの何気ない疑問にバロックも不思議でならない。


「まさかこの氷の城壁は、アイスさんの意思で融けたりこの場所から離れたりすると融けたりするのか・・・」


エストの言葉に思わず顔を見合う4人。そして氷の城壁を降りた4人は、とある城壁の前にやって来ると、アイスが氷の城壁に向けてある言葉を発した。


「氷の壁よ融けなさい」


するとバロックやエストの攻撃魔法ですらなかなか融けなかった氷の城壁が水が流れるかの様に融けていく。


「・・・そういう事か。もしかするとアイスさんが融けろと念じるか、この草原から気がそれてしまうとこの氷は、全て融けてしまうのかもしれんな」


バロックの言葉を聞いたアイスが思わず口に手の平を充てる。


「えっ、つまりこの氷の城壁がある限りここに居ないといけないという事ですか」


「かもしれんな。実際のところ氷の城壁はどうでもいい。だが、ダンデの迷宮の入口を閉ざしている氷が融ける方が厄介だ」


ダンデの迷宮から溢れた魔獣達は、バロック達の姿を見た途端迷宮へと戻っていった。


だが、いつ迷宮からあふれ出るか分からない。


バロック達は、草原に誰ひとりとして生きている者がいない事を確認した。


バロック達を連れて来た3人の兵士は、馬で王都へと走りダンデの迷宮のスタンピードが終焉した事を王に告げた。


この戦いでは、スタンピード討伐に向かった諸侯の8割近くが返らぬ人となった。


そしてダンデの迷宮でまたいつスタンピードが発生するか分からないという恐怖が残された。


それは、この国を治める王としても懐に刺さった剣と同じであった。その恐怖から逃れる唯一の手段は、バロック達をダンデの迷宮がある草原に張り付かせる事だった。


王は、バロックとエストを貴族に取り立てるという話を反故にしたがそれ自体を撤回した。


王は、自らの財によりダンデの迷宮がある平原に立つ砦を再建し、そこにバロック達が住む屋敷を建てた。


そしてバロックとエストは、男爵となりさらにその1年後にはは子爵となった。バロックとアイスは結婚しエストとレインが結婚した。


バロックとエストの領地は、このダンデの迷宮がある草原をぐるっと囲う様に連なる山脈一帯である。


子爵領としては広大で伯爵領にも引けをとらない。だが、ひとたびダンデの迷宮でスタンピードが発生すれば、魔獣を倒せる者はバロックとエストしかいない。


そしてダンデの迷宮のスタンピードから3年後、迷宮の入口を封鎖していた氷を熔かして迷宮の調査が行われた。そこには、以前の迷宮と何ら変わらない魔獣が湧く普通の迷宮が広がっていた。


それから程なくしてダンデの迷宮は、冒険者達に開放された。


平原の砦の周囲には、石作りの城壁が築かれ城壁内には、冒険者達を受け入れる宿や店が立ち並びたいそうにぎわった。


さて、アイスの氷の城壁がどうなったかというと、未だに氷も融けずに健在である。


あれからアイスがこの平原から何度か子供を連れて里帰りし父親である村長に会いに行ったが、その時も氷の城壁が融ける事は無かった。


ダンでの迷宮は、地龍の魔石が埋め込まれた魔法剣を恐れたのかもしれない。だがそれを知る者は誰もいない。


再び起きたダンデの迷宮のスタンピード。以外と呆気なく終わりました。


そしてその地を貴族として統べる事になったバロックとエスト。


さてカルは、なぜ地龍の魔石を持ったバロックとエストを逃がしたのでしょうか。


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