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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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197話.バロックとエスト(3)

スタンピードが発生したダンデの迷宮がある草原に到着した一行。


馬車の車列が峠を越えてダンデの迷宮がある草原の手前までやって来た。


先頭を走る馬車に乗る地方領主と兵士達が馬車から降りると草原の砦に向かって徒歩で移動を開始する。


「お前ら馬車から降りろ!領主様の後に続け!」


その後に続く各地の村々から集められた村人達は、詳しい状況の説明もないまま兵士の声に促されるまま馬車を降りていく。


「このまま魔獣が溢れる草原に向かうのかよ」


「俺達剣も鎧も無いんだぞ」


他の村から駆り出された村人は、鎧も鎖帷子も剣すら持っていない者達ばかりで魔獣と戦う準備など全くできていない。


仕方なく皆がぞろぞろと領主の隊列の後をついていく。


「鎧と剣は、先頭の馬車に積んであるから各自装備しろ!」


さすがに丸腰で戦えとは言わないらしい。兵士が装備について説明を始めた。


だがいざ武具を運んでいる馬車までやって来てみるととんでもない光景が待ち構えていた。


魔獣の牙で貫かれ穴だらけの鎧や刃こぼれの酷い剣ばかりだ。さらには、さっきまで鎧を装備していた者が魔獣に食い殺されたのか、べっとりとどす黒い血がついた鎧まである。


「こんなものを装備するのかよ」


「血だらけじゃないか。勘弁してくれよ」


そんな言葉があちこちから漏れ聞こえて来る。


そして鎧を装備する時間も無いまま、馬車が止められた道の脇の斜面を領主と兵士達が下っていき、村人達もそれについて行く。


その光景を見ていたバロックとエストは、ある疑問が湧いた。


いくら地方領主といえども領主がいきなり隊列の先頭を歩いて戦場に向うなど聞いたことが無い。


しかも魔獣だらけの草原に味方の兵士が陣を張っている様子もなく、本当にこのまま魔獣の群れの中に戦った事もないド素人を連れて行くのかと不安になった。


バロックは、斜面を下る途中に立っていた兵士にその辺りの話を聞いてみるとすんなりと答えが返ってきた。


「各地の領主も最前線で戦えとという王様からの命令が出ていてな。いつもならあり得ないんだが・・・」


それを聞いたバロックとエストは、領主の動きを斜面の上から観察しながら戦いの状況を探っていく。


「領主が最前線で戦えか。かなりせっぱ詰まった状況だな」


「こりゃ逃げる算段を早いうちに考えないとまずいぞ」


そうこうしているうちに領主と領主を守る兵士達の部隊がオーガと鉢合わせとなった。


「おいおい、いきなりオーガと戦うのかよ。あの装備でオーガと戦って勝てるのか」


案の定である。オーガと戦いを始めた兵士達がオーガが振り回す巨大なこん棒により呆気なく吹き飛ばされていく。


さらに領主を守っている兵士達も無残に薙ぎ払われ領主の面前で仁王立ちするオーガ。


「ありゃ領主も終わりだな」


エストがそう言ったそばから領主が空を飛んでいく。


「おいおい、領主が空を飛んだぞ。いつから領主ってのは、空を飛べるようになったんだ」


今度は、領主を空に飛ばしたオーガに向かって弓部隊が矢を大量に放っていく。だが、その大量の矢を面白いように避けていくオーガ。


さらに火魔法やら雷魔法やらがオーガの近くで炸裂するも、それすらオーガは巧みな足さばきで回避していく。


そして兵士達の戦いも空しく次々にオーガが振り回す巨大なこん棒が魔術師と弓兵達を次々と血祭りにあげていく。


「まずいぞ。部隊が崩壊しちまった。こりゃ逃げる算段が間に合わん」


バロックとエストと村の男達が斜面を駆け下りた時には、既に地方領主の部隊は壊滅状態で残った数少ない兵士達は、村々から集めた戦った事もないド素人の集団を何とか統率しようと必死になっている。


さらに目の前には、先程から大暴れをしているオーガが集団で現れた。


バロックとエストは、オーガに向かって魔法を放つが、オーガの巧みな回避行動により思った様に魔法を当てる事ができない。


するとレインが水魔法で地面に大量の水をばら撒き、アイスが氷魔法で地面を凍らせていく。実に巧みな連携だ。


オーガは、氷で足をとられ動けなくなり、そこをバロックとエストの魔法剣から放たれた魔法が炸裂する。


「アイス、レイン、いいぞ。その調子で頼む」


「「はい!」」


さらにアイスとレインは、面白い魔法の使い方を始めた。水魔法に慣れて来たレインが巨大な水の塊を出せる様になり、そこにオーガが力任せに突っ込んで来る。


巨大な水の中に入った途端、動きが鈍くなり進む事も戻る事も出来なくなるオーガ。


元々迷宮で生まれたオーガだ。泳ぎ方など知らない彼らが水の中でどう動けばよいのか分からずただもがき苦しんでいる。


そしてアイスが強大な水の塊を氷魔法で凍らせていく。徐々に白く濁り固まっていく氷の中でひたすら暴れるオーガ。


そして氷漬けにされたオーガは、身動きもできないまま息も出来ずに動かなくなった。


「オーガを倒した」


「あいつら、さっきもオーガを倒してたぞ」


「やつらの後に続け!」


その光景を見ていた兵士や村々から集められた人達が、なぜかバロックとエストの背後に集まり始める。


「まじか。その立ち位置には、俺達が行くはずだったんだよ」


バロックは、兵士の部隊の後方に隠れながらちょろちょろと弱い魔獣を倒し、頃合いを見計らって戦場の後方へと姿をくらますつもりでいた。


だが複数のオーガを倒した事で返って目立ってしまい、今やバロックとエストが率いる村人達こそがこの戦場で最前線となっていた。


仕方なくバロックは、皆を守るためにアイスとレインに指示を出し周囲に巨大な氷の塊を作らせ城壁の様に並べさせた。


巨大な氷の塊の中に閉じ込められた魔獣の群れを横目に見ながら簡易的に構築された氷の城壁が程なく完成する。


巨大な氷の塊に行く手を阻まれる魔獣達。


さらにアイスとレインが氷の塊の上にさらに氷の塊を積み上げていく。流石に滑る氷をよじ登れる魔獣など皆無だ。


氷で出来た城壁を破壊しようと必死の攻撃を加える魔獣達、だが巨大な氷の塊はことのほか頑丈で壊れない。


魔法剣で魔法を放ち魔獣を倒すバロックとエストに向かってやって来る数人の兵士。そしてバロックにこう言った。


「お前達は、冒険者か。ならば魔獣との戦いにも慣れているな。我らを指揮してくれ」


「俺は、一介の冒険者だ。兵士の経験もなけりゃ部隊の戦い方なんて知らんぞ」


「それでも構わん。ここに生き残った・・・100・・・200人程か。この200人を生きて帰して欲しい。こんな城壁を作る魔法が使えるお前らなら出来るさ」


巨大な氷の塊が並べられ城壁が築かれる。その城壁には、人が通れる程のわずかな隙間がいくつも開いていた。


その隙間を通り抜けて人々が集まる。


魔獣だらけに見えた戦場だが、どこからともなく集まった人々は、さらに増えていきいつの間にか500人を超えていた。


「仕方ない。この氷の城壁を広げながら魔獣を倒していく。ここに集まった者達を再編成してくれ」


「分かった!」


バロックの言葉に兵士が答える。そして兵士達が村々から集められた人々を再編成して戦える体制を整えていく。


バロックは、むやみに魔獣に向かって攻撃をしない様に命じた。氷の城壁の隙間から矢を放ち、生き残った魔術師に氷の陣地内から魔法攻撃をしかける様に命じた。


アイスとレインが構築する氷の城壁は、いくつかの区画に分けられながら次第に範囲を広げていく。


氷の城壁が出来る度にその巨大な氷の城壁に中には、何十体もの魔獣が氷漬けにされていった。


つまり氷の陣地を広げていけばいくほど魔獣を倒す事が出来た。しかもアイスの魔法で作られた氷は、太陽の陽にさらされても殆ど融ける事がない。


そして気が付けば氷の城壁の中には、いつの間にか1000人を超える人々で溢れかえっていた。


その人々を統率しているのは、冒険者であるバロックとエストだ。さらに彼らの元で氷の城壁を構築するのがアイスとレイン。


今やこの広大な戦場を動かしているのは、この4人であった。


そして時が経ち夜が訪れた。


気が付けば、魔獣の姿も見えずうめき声すら聞こえてこない。


そして、ほんのひと時の休息の時間が訪れる。


あちこちで火が焚かれ夕飯の準備が始まった。どこらか持ち込まれたのか分からない食材や肉が焼かれ、戦いに疲れた兵士達の腹の中に納まっていく。


そんな折、各部隊を統率する兵士達が集まり、これからどう戦うかを決める作戦会議が始まった。


そしての会議の中にバロックとエスト。さらにアイスとレインもいた。


氷の塊で出来た城壁は、いまや迷路の様な形へと変貌し、ダンデの迷宮がある草原の2割程度を占めるまでに拡大していた。


その城壁の中には、いまや5000人を超える人々が集まり守りを固めている。


そしてそれらを統率する冒険者のバロックとエストは、誰かが言い出した将軍という呼称で呼ばれていた。


「バロック将軍。このままダンデの迷宮に陣地を広げていけば2日もかからずに迷宮の入り口に到達できます。そうすれば、迷宮の入り口をこの氷の塊で閉ざすことが出来ます」


いきなり将軍と呼ばれて委縮するバロック。


「そっ、そうか」


「迷宮の入り口を封鎖する事ができれば、この戦いは終わります」


各部隊を統率する兵士が声高に話を続ける。


「あと2日です。2日のの辛抱です。この勢いに乗ってダンデの迷宮へ突き進みましょう」


「エスト将軍もそれでよろしいですな」


エストは、腕を組み黙ったまま首をゆっくりと立に動かす。


実は、下手な事を言えば化けの皮が剥がれてしまうと心の中では、戦々恐々としていた。


「しかし、戦場で英雄が生まれるとは、本当の話なのですな」


「そんな都合の良い話は、おとぎ話の類だと思っておりましたが、こうやって英雄の誕生を眼のあたりにしては信じる他はない」


兵士達は、バロックとエストを英雄と言って褒め称えるかと思えば、将軍と呼んだりと、とにかくあまりの恥ずかしさに目から炎が出るかと思う程恥ずかしさがこみ上げるバロックとエスト。


だが、いつまでも恥ずかしいなどと言っていられない現実があった。既にこの氷で出来た城壁内には、5000人を超える人達が集まっていた。


その人達を守れるのは、バロックとエストとアイスとレインのたった4人なのだ。


自身の身の振り方を考える暇もなく地龍の魔石が仕込まれた魔法剣で魔獣を倒し、氷の城壁で人々を守る。


本人の意志とは関係なく周囲の思いによりダンデの迷宮に向かって突き進んでいく4人。もう誰も後戻りなどさせてはくれない。


さあ、本人の意志とは関係なく突き進むしかない4人。いけいけ。


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