195話.バロックとエスト(1)
地龍の魔石を持ち魔王国を後にした冒険者のバロックとエスト。
バロックとエストは、魔王国を出ると何処とも知れない村の魔獣退治を受ける日々を続けていた。
そしてとある街の魔道具屋に寄り小さな魔石を店主に見せた。
「すまんが魔石を鑑定して欲しい」
店主は、興味なさげにバロックを睨みつける。
「魔石ひとつの鑑定に銀貨1枚だ」
「鑑定料を取るのか」
「いやなら他をあたれ」
「分かった。銀貨1枚でいい」
バロックが袋から小さな魔石をひとつ取り出し店のカウンターに置く。それを手に取り鑑定魔法を発動させる店主。
すると店主の顔色が一瞬で変わり顔から汗が噴き出した。
「こっ、これを何処で入手した!」
明らかに店主の声が動揺している。
「それは言えん。冒険者の飯の種だからな」
「そっ、そうか・・・」
店主は、小さな魔石を何度も何度も見ては、ため息を付く。
「でっ、では金貨50枚でどうだ」
「そうか。ならまた来る」
バロックは、素っ気ない返事をすると店主の手から魔石を奪い取り袋の中へと仕舞い込む。
「待って、待ってくれ。もしその魔石を何処で手にしたかを教えてくれれば、情報料込で倍の金貨100枚で買い取ろう」
店主の声が震えている。よほどこの魔石の出処が知りたいらしい。
「では魔石ひとつとその出処の情報で金貨110枚だな」
「金貨110枚は、横暴だ!」
「金で買える情報など安いだろう」
店主は、バロックの言葉に喉を鳴らすとカンターの奥から金貨の入った袋を持ち出した。
バロックが魔石を袋からひとつだけ取り出すとそれをカウンターに置く。
「この魔石の出処は、魔王国の城塞都市ラプラスだ」
「魔王国の城塞都市ラプラス・・・聞いた事が無いな」
「そうか。なら仕方ないな」
「まっ、待て。それだけか。その城塞都市ラプラスってところには、ダンジョンがあるんだろ。何層辺りだ?」
だがバロックは、金をなかなか出さない店主に金を出す様に催促する。
「俺は、魔石と情報を伝えたぜ。今度は、そっちが答える番だ」
バロックがカウンターに置いた魔石をさっと取り返す。
「分かった。金は出す。だが何というダンジョンの何層でその魔石が出るのか教えてくれ」
バロックは、カウンターに置かれた金貨の枚数を数え終わると店主に魔石の情報を伝える。
「その魔石は、ダンジョンで出たものじゃない。城塞都市ラプラスの領主が持っている」
「城塞都市の領主だと。領主ってのは、貴族様がなるもんだろ」
「ああ。そいつは、子爵待遇らしいからな。その魔石が欲しければその領主にかけあってみな。もしかしたら売ってくれるかもな」
バロックは、金貨を懐にしまい込むとそそくさと店を後にする。
「おい。やつを尾行・・・」
店主は、そそくさと店の奥に入り誰かを大声で呼びつける声がする。それは、バロックの耳にも入って来た。
店の前には、エストが剣に手をかけていつでも剣を抜ける状態で待ち構えていた。
「終わったぞ。とっととこの街を出るぞ」
「やばそうか」
「ああ、この街の宿屋に泊まったら絶対に賊が出る」
「ならすぐにこの街から出よう」
ふたりは、すぐに乗合馬車が待つ広場へと向かった。そこで周囲を注意深く観察すると様子を伺う冒険者らしき者がうろついている。
ふたりは、すぐに出発する乗り合い馬車に乗り込むと、いくつもの馬車を継ぎ何日もかけてあちこちの街を移動した。
そしてとある武器屋に立ち寄る。この武器屋は、冒険者の中では有名な店で魔石を仕込んだ魔法剣を作ると有名であった。
ただし、その武器屋で武具を作るとなるとかなりの金を取られた。普通の冒険者では、とても手出しの出来る代物では無かった。
「おやっさん。魔法剣を2振り・・・いや、4振り作ってもらえないか」
「魔法剣か。何かいい魔石でも出たか」
「ああ。これなんだが」
バロックが差し出した小さな魔石。それを見た途端、店主の顔色が変わる。
「・・・見た事もない魔石だな」
バロックは、あえて何も言わずに店主の次の言葉を待つ。
「こいつは凄い。魔力の伝導率のよいミスリルと魔力を溜め込む魔石が程よく調和しておる」
「これで剣をふた振りと短剣をふたふりだ。いくらで作れる」
ところが店主は、何も言わずにカウンターに置かれた魔石にいきなり魔力を送り込んだ。
すると魔石が光り出しカウンターの上で巨大な火柱を舞い上げた。その火柱は、店の天井を焦がし店が大火事になるほどであった。
バロックは、身の危険を感じとっさにカウンターから身を引いた。
「おやじ。いきなり魔石に魔力を送り込むじゃねえ。危ないだろ!」
店主は、相変わらず黙り込んだままだ。そしてしばしの沈黙の後、店主がぼそっと話を切り出した。
「この魔石は、まだあるか。もしあるなら魔法剣ふた振りを金貨500枚、短剣を金貨200枚で作ってやる。だが、この魔石・・・かなりの厄介者だぞ。普通の魔法陣や魔法回路じゃとてもじゃないがもたんぞ」
バロックは、しばし考えこむと店の親父にこう切り出した。
「金は無い。その代り魔石を5つやる。それで魔法剣を作ってくれ」
店主は、しばし考え込んだが、バロックとの取引を受け入れた。
「分かった。だが少し時間をくれ」
それからひと月程の後、魔法剣が出来たとの連絡を受けたバロックとエストは、周囲を警戒しながら武器屋へと向かう。
店主がカウンターに置いた魔法剣は、実に飾り気の全く無い素っ気ない作りであった。
「南の国で精錬したというミスリルを使った。わしの渾身の一品だ」
バロックが剣に手を出したその時。店主は、バロックに向かってこう言った。
「ひとつだけ忠告しておく。この魔石は、ほんの少しの魔力でも暴走する。とにかく魔力は弱くだ。もし強い魔力を送り込んだら剣が壊れる。そしてお前さんは死ぬぞ」
「分かった。魔力は弱くだな」
店主の忠告に違和感をおぼえつつバロックは、武器屋を後にした。
バロックとエストは、手にしたばかりの魔法剣を持ち街外れの草原へとやって来た。
そして店主が言っていた言葉を思い出す。
”とにかく魔力は弱くだ。もし強い魔力を送り込んだら剣が壊れる。そしてお前さんは死ぬぞ”。
その言葉を思い出しながらバロックは、剣を構えると魔石に魔力を送り込む。
草原の先に生い茂る木々に向かって魔法を放つ。すると木々が一瞬にして燃え上がりあっと言う間に炭の塊と化していく。
思わず目を見開くバロックとエスト。
エストも同じ様に魔法剣を構えると魔石に弱い魔力を送り込む。
すると木々に向かって雷撃が放たれ数本の巨木が砕け散った。
「なんだこの剣は・・・」
エストが魔法剣の威力に思わず呆れてしまう。
「いや、以前に見た魔法剣は、こんな威力は無かった」
バロックもエストも簡単な魔法を放てるだけの魔力を持ってはいた。だが、魔術師に成れる程の魔力はない。
そんな彼らの微々たる魔力ですら地龍の魔石を使えば呆れる程の威力を発揮した。
バロックとエストは、あえて地味な仕事を選び目立たない様にしようと決めた。
下手に悪目立ちして魔法剣を盗まれたり賊に襲われる様な事を避けためだ。どのみち魔石を売れば金になる。
バロックとエストは、とある街の冒険者ギルドで地味な仕事を探しそれを受けた。依頼内容は、村に出没する魔獣の討伐である。
夜になると村にオークが群れを成して現れるという。金にもならない実に地味な仕事だ。
依頼のあった村までは、乗合馬車などなく荷馬車での移動だった。
オーク討伐の依頼を受けた冒険者は、バロックとエストのふたりのみ。やはり依頼料が安すぎて誰も受けない仕事だ。
しかもその地を治める地方領主は、オークの討伐に兵を出す事もしなかった。困り果てた村は、金を出し合い冒険者ギルドに魔獣の討伐を依頼した。
バロックとエストが村へとやって来た時には、既に村はオークの群れの襲撃を何度も受け、立ち並ぶ家々の半分が壊され村人にも犠牲者が出ていた。
村は、壊滅的な打撃を受けてたため村を放棄して移住する相談を始めていた。
そんな矢先に現れたバロックとエストだったが、村人は、既に荷物をまとめる者までいてあとは逃げるだけという状態だ。
そして夜になりオークの群れが村に押し寄せた。その数ざっと10体。
村を守る様に作られた土塁を越えて村の中に侵入するオークの群れ。
バロックとエストは、魔法剣を構えるとオークに向かって魔法を放つ。
オークにバロックが放つ火魔法が炸裂する。オークは、炎の柱の中で暴れ出し火だるまとなり地面を転がる。
そして灰の塊となって砕け散っていく。
エストの魔法剣から放たれた雷撃は、一度に2体のオークを行動不能にした。動けなくなった2体のオークに剣を突き刺し追撃とばかりに雷撃を放つ。
体から煙を吹き出し肉の焼ける焦げ臭い匂いが辺りに充満する。気が付けば、5分も経たないうちに10体のオークが全滅していた。
その光景を見ていた村人は、驚きふたりに恐怖すら感じた。
「冒険者様。まさかここまでお強いとは。まさか冒険者様は、Bランク・・・いやAランクの冒険者様で・・・」
そう言い放った村長は、本気でそう思いそれを言葉にしていた。
「いや、我らはCランクだ。少しばかり良い武具を手に入れたにすぎん」
実は、驚いていたのは村人よりもバロックとエストのふたりであった。魔法剣を使い魔力を消耗しているはずなのに疲労感すら感じない。
城塞都市ラプラスで手に入れた地龍の魔石。その小さな魔石ひとつでオークの群れを簡単に全滅させる事ができる。
この魔法剣の使い方を間違え無いようにと肝に銘じるふたりであった。
バロックとエストは、村人に歓迎を受けた。昨日迄は、村を放棄すると言っていた村人達が今日は、壊れた家の修復を始める始末だ。
バロックとエストが倒したオークは、解体され村人に振る舞われた。
バロックが倒したオークは、殆どが消し炭になってしまい食べられる肉など残ってはいなかったが、エストが倒したオークは、かなりの肉が残りひとつの村ではとても食べきれず近隣の村々にも配れた。
すると他の村からも魔獣を倒して欲しいとの依頼が舞い込んで来る。
バロックとエストは、あまり目立つ事を嫌ったが、村人の懇願する姿に仕方なく近隣の村で魔獣退治をする事になった。
そしてお約束の如く事件は起きた。
バロックとエストは、目立たない様に村の魔獣退治の仕事を受けます。
ですが地龍の魔石を埋め込んだ魔法剣の威力は凄まじく、近隣の村々にその名が知れ渡ります。