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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
193/218

193話.姉妹、姉弟(2)

砂漠で生き残った冒険者が、何やら悪だくみを始めます。


レリアとクレアが盾のダンジョンから持ち帰った地龍の卵。


その後は、順調に育ち卵の中で徐々に動く様になった。


それをじっと見つめるレリアとクレア。そんなふたりを見守るカル。


そしてとある夜のこと。皆が寝静まった頃に卵の殻が割れだした。


”パキ、パキ”。


「「生まれるの?」」


「もうすぐ生まれるよ」


レリアとクレアがひびの入った卵を見つめる。そんなふたりの背中を見守るカル。


そして卵から顔を出した小さな地龍。この光景は、レリアとクレアが地龍としてこの世界に生まれて来た時に目にしたものと同じだ。


「「弟かな、妹かな」」


ふたりがワクワクしながら小さな地龍が卵から出て来る姿を見つめる。


小さな2体の地龍は、微かな鳴き声を発しながらレリアとクレアの顔をじっと見つめている。


「レリアとクレアを親として見ているのかもね」


「「そうなの・・・。レリアとクレアは、お前達のお姉さんだよ」」


生まれたばかりの時は、小さかったクレアとレリアも今では、龍人族の姿をしている。生まれた小さな地龍もいつかレリアとクレアの様な姿になるのだろうか・・・。


嬉しそうにはしゃぐふたりの背中を見ながらカルは、そんな事を考えていた。




城塞都市ラプラスの路地裏の飲み屋で酒を酌み交わすふたり。


ひとりの名をバロックと言う。


バロックは、砂漠に橋を架けると言って200人の冒険者をまとめあげ、商家と交渉を行った人物だ。


だが、事を始めたその日にサンドワームの襲撃を受け、200人近い犠牲を出してしまった。


その冒険者達の数少ない生き残りであったが、他の冒険者からの風当たりは、相当なものであった。


「あれ以来、生き残った俺達への風当たりが強いな」


もうひとりは、同じパーティで名をエストという。バロックと共に砂漠に橋という名の足場を組んでいたが、なんとか最後まで生き残った数少ない冒険者だ。


「冒険者仲間を200人近くも巻き添えにしちまったからな」


冒険者ギルドは、砂漠で冒険者の犠牲者が200人近くも出た事を重く見て、砂漠に放置されたミスリルと魔石の回収をAランク冒険者のクエストとした。


もし。勝手にミスリルと魔石を回収しに行った者は、冒険者ギルドから除名すると宣言した。


そもそもこの地域の冒険者ギルドに出入りするAランクの冒険者など存在しない。つまり事実上の塩漬けクエストである。


「だがよ。あんな空を飛ぶ城を持ってるならもっと早く助けに来てくれてもいいじゃねえか」


エストが恨み節を口にする。


「俺達は、足場を作るために森の木を勝手に切ろうとした。あのガキは、それを止めた。だから俺達は、活動の場所を城塞都市アグニⅡに移しちまった。商家もそうだ。ラプラスの商家は、誰も手を出さなかった。だからアグニⅡの商家に話を持ち込んだ。俺は、あの領主のガキが邪魔をすると思った」


「それが何だって言うんだ」


「あのガキは、森の木を切るというだけで出張って来たんだ。あいつはガキでも領主だ。そして子爵待遇の貴族様だ。そんなやつが200人もの冒険者が何かおっぱじめようとしていたら出張ってこない訳がねえだろう」


「つまりあれか。俺達が城塞都市アグニⅡに活動の場所を移しちまったから、来るのが遅れたってことか」


「ああ、だが最後にヤツは助けに来ただろ」


「・・・それでも俺は、やっぱり納得できねえ。俺達をもっと早く助けるべきだ」


エストは、自分達が欲の皮をつっぱらかした事で起きた悲劇を人のせいにする事で責任逃れをしたくてたまらないのだ。


「それともうひとつ。なぜあのガキが砂漠にミスリルや魔石を放置していると思う」


「何でだ?」


「あのガキは、空を飛ぶ城を持っているんだぞ。いくらでも砂漠に転がるミスリルも魔石も回収し放題だ」


「だからなんで回収しねえんだよ」


エストの問いかけにあえて答えないバロック。


「まさか、金をたんまり溜め込んでいるからじゃ・・・」


「そしてそれを何処にしまい込んでいる」


「まさか、それが何処にあるか知ってるのか」


「・・・ああ」


「それを奪う気じゃねえよな」


「バカ。俺達が泥棒に入ったところで警備隊に捕まるのがおちだ」


「じゃあ、どうするんだよ」


「この情報をその筋のやつらに売るんだよ」


「でも、それじゃあ俺達の分け前が減っちまう」


「それでいいんだよ。俺達は、情報を売ったらこの国を出るんだ。ここに居ても200人の仲間を見殺しにした冒険者だって一生言われ続ける。だったら他の国へ行って出直した方がいい」


「・・・分かった。お前に従うよ」


バロックとエストは、裏の世界にはびこる盗賊団にカルの資産を隠しているという倉庫の情報を売る算段を始めた。


”義賊の砦”、”闇世の烏”、”ホラ吹き勇者団”。


城塞都市アグニⅡ、アグニⅠ、それに鉱山都市デルタを活動の場にしている盗賊団に声をかけたバロック。


最初は、警戒した盗賊団であったが、バロックが見せたミスリルと魔石の欠片を見せられた途端、やはり盗賊団の血が騒いだのだろう。数枚の金貨でバロックの情報を信用し買ってしまった。




週に1度だけ倉庫の警備をしている警備隊の交代がある。その時間だけ倉庫の警備が手薄になる。


さらにいくつかの穀物倉庫が並ぶ区画に目的の”ブツ”を隠した倉庫があり、穀物倉庫であるが故に元々警備が手薄である。


警備隊の兵士に金を握らせ倉庫の合鍵も作った。そして警備隊の中に金を握らせ協力する兵士がいる。


警備隊の交代の時間は、昼間だ。荷物の積み下ろしという名目で堂々と荷済みをする。その方があやしまれない。


バロックは、複数の盗賊団に倉庫に隠されいるミスリルと魔石の話を金貨数枚で売った。だが盗賊団は、バロックが複数の盗賊団に声を持ちかけた事を知らない。


それもバロックの手の内であった。盗賊団が現場でかち合い、慣れ合うか戦うか。どちらにしても最後は、警備隊との戦いになる。


バロックは、盗賊団に盛大に暴れて欲しいと願った。それがバロックの本当の目的であったからだ。




とある日。


ロックは、領主のに対してもうひとつ恨み節をお見舞いする計画を立てた。


バロックは、酒場の隅で鞄から小さな玉の様なものを出してテーブルに置いた。


「なんだこりゃ」


「これは、警備隊が使っている煙玉っていうやつだ」


「煙玉?煙幕で視界を遮るあれか」


「ああ、だがこいつは警備隊で試験中のやつだ。警備隊の中にも金に困っているやつは大勢いる」


「・・・横流し品か」


「それでだ。こいつの煙には、魔石粉が混ぜてある。そしてこの煙には魔力を遮る効果がある」


「それが・・・」


「分からねえか。この煙の中なら魔法が使えねえ。探査魔法も鑑定魔法もだ」


「つまり魔術師が無能者になるって話か」


「ああ、それでこいつを使ってある事をやってあの領主のガキにひと泡吹かせてやろうと思っている」


バロックは、エストに耳元で計画の内容を話し出した。


「これをやって警備隊が混乱している隙に俺達は、この国からおさらばする」


「さらに領主のお宝を狙って盗賊団が出張ってくれば・・・」


「この城塞都市は、混乱に拍車がかかる」


悪だくみは、計画している時が最も楽しく実行するときが最も難しいのだが、果たして・・・。




とある日。


バロックがそれを見たのは、本当に偶然であった。


領主のガキがお宝を溜め込んでいるという倉庫の話を酒をおごった警備隊の兵士から聞きつけ、その倉庫の確認、警備隊の詰め所の場所、詰め所と倉庫までの警備の経路を調べあげた時であった。


目の前をふたりの少女が歩いていた。そのふたりというのがバロックとエストを砂漠から助け出したレリアとクレアであった。


ふたりは、小さなトカゲの様な魔獣を肩に乗せ、楽しそうに話しながら街中を歩いていた。


そしてふたりの少女は、バロックの顔など覚えてはいなかった。


バロックとエストにとっては、命の恩人であった。だがそれ以上にあおのふたりは、砂漠にミスリルと魔石を放置した張本人である。


砂漠にミスリルと魔石がなければ、200人もの冒険者が砂漠に足を踏み入れる事はなく、それにより200人近い冒険者が命を落とす事もなった。


バロックは、命を助けられた恩人という事よりも200人近い冒険者を見殺しにした張本人という認識しかなかったのだ。


そして通り過ぎたふたりの少女の肩に乗っていた魔獣がトカゲなどではなく地龍である事を冒険者仲間から知らされた。


あの地龍を奪ってやろう。200人近い冒険者の命とつり合わないが、きっとあのふたりは地龍を奪われたら泣き叫ぶに違いない。


そして盗賊団が倉庫を襲う日の当日。


街中の建物の陰からバロックとエストは、ふたりの少女が来るのを静かに待っていた。レリアとクレアが毎日の様にここを通る事は、調べてあった。


「来たぞ」


人通りの多い街中の道をふたりの少女が歩いて来る。肩には、トカゲ・・・いや、小さな地龍を乗せている。さらに護衛の兵士がいない事も知っていた。


馬車と人々が行き交うため道は狭く、露店がひしめき合う様に並んでいるため視界が悪い。


エストが鞄から煙玉を取り出しそれを地面にそっと置く。


バロックがふたりの少女の背後に立ったその時、エストが地面に置いた煙玉を力いっぱい踏みつけた。


”プシュー”。


そんな音と共に白や黒や青や赤い色をした煙が勢いよく周囲に立ち込めた。


だがそんな状況にも慌てないレリアとクレア。


色とりどりの煙に視界を遮られても周囲がどんな状況かはよく見えている。


その時、誰かがレリアにぶつかった。そして足元に荷物が散乱する。


「わっ、ごっ、ごめんなさい」


煙が立ち込める中、足元に散乱する荷物をかき集める行商人の子供の姿があった。


「「大丈夫?怪我はない」」


「はい。ごめんなさい。いきなり煙が立ち込めたからぶつかってしまいました」


「火事なのか?火元はどこだ」


そんな声が聞こえるもどこからも火の手は上がっていない。


煙が収まり行商の子供が荷物を担いで去っていく。そんな姿を見届けたレリアとクレア。


そして気が付いた。肩に乗っていたはずの妹と弟である地龍の姿がない事を。


レリアとクレアの顔色が青ざめる。辺りを見回しても地龍の気配を感じられない。


さらに街のあちこちで色とりどりの煙があがり始めた。




領主の館の近くでそんな事が起きていた頃、倉庫街に冒険者風の集団が幌付きの荷馬車に乗り周囲の状況を伺っていた。


そんな馬車の近くで警備隊の兵士が倉庫の警備を続けている。


「おい。お前らこんな所で何をしている」


警備隊の兵士が不信に思った荷馬車を見つけ、数人の兵士が集まり話しかけてくる。


「これから荷揚げの仕事ですよ。俺達ここに集まれて言われて来たんですけど、荷主も仲介の親父もまだ来てないんですよ」


「荷揚げ仕事の依頼の書類はあるか」


「そんなもん貰ってませんよ。俺達は、日雇いの荷揚げで呼ばれただけですから。仲介の親父が持っているはずですがね」


「そうか・・・」


警備隊の兵士が馬車から離れていく。


警備隊が離れていくのを見守りながら盗賊団の男達の目つきが変わる。


「目的の倉庫は、向かいのあれだ。今行った兵士が戻って来る迄に獲物を奪うぞ」


盗賊団”義賊の砦”の2台の馬車が倉庫の前に移動し、倉庫の扉を合鍵により開けていく。


「よし、お前ら昼間の仕事だ。正々堂々と荷物の積み込みだと分かる様に行動しろ。その方がかえって怪しまれねえ」


盗賊団”義賊の砦”は、馬車に積んであった空の木箱を壁の様に馬車の横に並べると、大きな声を張り上げながら倉庫の中へと入っていく。


「さっさと馬車に荷物を積み込め」


「今日中に仕事が終わらないと荷主が金を出さねえとさ」


「「「へい!」」」


倉庫街でよくある馬車への荷積み作業が始まった。男達が大きな声を張り上げ作業を行う”ふり”をする。


そして倉庫の奥に並べられた木箱のさらに奥には、盗賊団の誰もが見た事もない無数のワームの姿をしたミスリルと魔石の塊を目にした。


事の発端は、レリアとクレアでしたが生き残った冒険者達の逆恨みから事件が広がっていきます。


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