189話.レリアとクレアの生まれた場所
地龍であり龍人族であるレリアとクレア。
ふたりは、自身が生まれた場所に興味持ちます。
精霊界からやって来た星を渡る舟は、砂漠のど真ん中に墜落し動かなくなった。
妖精達は、砂漠の真ん中に墜落した星を渡る舟の修理を始めた。誰の邪魔も入らないので実に楽しそうに舟を修理している。
修理が終わり動く様になったら妖精の国へ移動していつか精霊達が渡った星々の世界へ行き精霊達を訪問するのだと楽しそうにカルに語っていた。
さて普通の生活に戻り領主の仕事をこなすカル。いつもの様に自身の執務室で書類と格闘し、城塞都市や周辺の村々の視察に追われていた。
そんな時、龍人族の姿になったレリアとクレアがこんな事を言い出した。
「「私達が生まれた場所を見てみたい」」
カルが持つ大盾は、魔人が住んでいてその魔人の口からダンジョンへ入る事ができる。
そのダンジョンの5層にあるフロアボスの部屋のひとつに地龍の部屋があり、その地龍を倒すと地龍の卵がドロップする。
レリアとクレアは、その卵から産まれた。
カルは、その事をレリアとクレアに包み隠さずに伝えている。
最初は、全く興味を示さなかったレリアとクレアであったが、今になってその場所を見てみたいと言い出した。
領主の仕事に飽きて来た時であったため、カルのお目付け役の書記官アリッサの目を盗んでみんなで盾のダンジョンへと入っていく。
書記官アリッサが書類を各部署へと配りカルの執務室へと戻って来ると、そこはもぬけの殻であった。
「・・・また逃げられた」
アリッサは、領主の館の裏手の空き地へと行き浮遊城の中を探し回る。さらにカルが使っている荷馬車と馬も確認した。
だが、浮遊城には誰もおらず、荷馬車もそのままであった。
ふたたびカルの執務室へと戻って来たアリッサは、ある事に気が付く。いつもカルと行動を共にしているはずの大盾がぽつんと置いてあるのだ。
「この大盾には、魔人が住んでいて領主様がどこかに行くと歩いて後を追って行くって言ってたのに、なんでここに置いてあるのかしら?」
ふと気になったアリッサがカルの机の上を確認してみると。
”ダンジョンに行ってきます。早く戻ります”。
と書いたメモ書きが置いてあった。
「えー、私もダンジョンに行きたかったのに!」
カルの執務室の天井に向かって叫ぶ秘書官アリッサであった。
大盾のダンジョンへと入ったのは、カル、メリル、ライラ、ゴーレムのカルロスⅡ世。それとレリアとクレア。
精霊エレノアは、精霊の森の精霊の元を訪れてるため不在だ。
「だいぶ久しぶりだけど、以前と変わってないみたいだね」
盾のダンジョンの1層は、普通のスライムが俳諧している。
普通の武具を装備していれば、初心者の冒険者でも問題なく狩りができる。
ただレリアとクレは、防具も剣も装備していない。
唯一の装備と言えるものは、首からぶら下げた聖属性の魔石の首飾りくらいである。
この首飾りについている魔石は、元々極地大陸にあった闇属性の魔石だったが、カルのとある行動により聖属性へと属性転換したものだ。
レリアとクレアは、この聖属性の魔石を首飾りにして大切にしている。
カル達がのんびりとダンジョンを歩いていると、その先を全速力で走るレリアとクレアの姿があった。
「「カルカル。スライム、スライムだよ!」」
レリアとクレアがスライムを珍しそうに掴んで持って来た。
「あれ、スライムって手で掴めたかな?」
レリアとクレアが両手に持つスライムを不思議そうに見つめるカル。
「普通なら手に纏わりついて手を溶かしますよね」
「そうでなければ、手をすり抜けて逃げていくはずです」
レリアとクレアも不思議そうに手に持つスライムを見つめ、両手で持つスライムを玉遊びをするかの様に”ぽよんぽよん”と弾かせている。
そして盾のダンジョンの3層へと進むカル達。
「ここからスライム達が魔法を放つ様になるので注意してください」
そう注意を促すカルであったが、盾のダンジョンに初めて入ったレリアとクレは、カルの話など聞く事もなく2層へと走り出していた。
「レリアとクレア大丈夫かな?」
そんな心配を他所に炎の魔法を放つスライムを手に持ったレリアとクレアがカルの元へと走ってくる。
「「カルカル。炎の魔法を放つスライムがいたよ。捕まえたら大人しくなった!」」
レリアとクレアが手に持ったスライムは、赤く透き通った透明な体の中に魔石の様な核を持っていて、そこで魔力を蓄え炎の魔法を放ってくる。
そのスライムが、レリアとクレアの手の中で大人しくしている。
「他にも沢山いるから狩って来る」
レリアとクレアがそう言い放った瞬間、手の中にいたスライムがミスリルと魔石の塊へと変化していく。
それをダンジョン床に投げ捨てると走って何処かに行ってしまうふたり。
レリアとクレアが向かった先では、炎魔法が放たれる音が絶えず響いているが、あのふふたりなら炎魔法を放つスライム如きに殺られるはずもない。
盾のダンジョンを歩いていくといたるところにミスリルと魔石になったスライムが転がっていた。
「レリアとクレアの仕業だね」
「これって持ち返ったらかなりのお金になりませんか」
「恐らく。・・・持って帰りますか?」
ライラがダンジョンの床に落ちているスライムの形をしたミスリルと魔石の塊をじっと見つめる。
「だったらミスリルと魔石のをひとつづつ」
「では、僕の鞄に入れておきますね」
「それなら私もひと組ずつ持って帰りたいです」
メリルもスライムの姿をしたミスリルと魔石の塊が欲しいという。
それを鞄の中にしまい込むカル。
盾のダンジョンを歩いていくとレリアとクレアにミスリルと魔石にされたスライム達がゴロゴロ転がっている。
それを腰にぶら下げた鞄にしまいながら盾のダンジョンを下層へと進んでいく。
城塞都市ラプラスのとある倉庫には、カルが極地大陸から持ち返ったミスリルと魔石に変えられてしまったスノーワームの骸がうず高く積まれている。
これ以上持ち帰ってもミスリルと魔石の価格が暴落するため換金できないのだが、なぜか律儀に持ち帰えろうとするカル。
「レリアちゃんとクレアちゃんの能力って凄いですね」
「聖属性の魔石のネックレスを付けている時だけとはいえ、元々の身体能力が桁外れに高いからね」
「魔獣を手で触れるだけでミスリルや魔石にできるなんて」
「レリアがミスリルに。クレアが魔石にできるみたいだね。でも逆は出来ないって言ってた様な」
「へえ、でもあの能力があればお金に困る事はなさそうです」
「龍神がくれた能力らしいけど、レリアもクレアもお金に興味が無いからね。だからこそあの能力を授かったのかも」
「そうですよね。お金が大好きな人にあの能力があったら、悪い方向に行きそうです」
カル、メリル、ライラがそんな会話をしていると5層へと到着した。
「さて、目の前にある大きな扉がボス部屋です。扉に大きなスライムの模様が掘られている方に入ると巨大に膨らむスライムがいて、扉に大きな地龍の模様が掘られている方に入ると大きな地龍がいます」
レリアとクレアは、スライムの模様が施された扉には、全く興味がないようで地龍の模様が施された扉の前に立っている。
「「ここでレリアとクレアが生まれたの?」」
扉の前に立つふたりは扉をじっと見つめる。
「うーん?生まれたという表現は、ちょっと違うかも。でも間違ってもいなかな」
カルは、そう答えながら地龍の模様が掘られた扉を開けていく。
大きな扉の先に佇む地龍。
レリアとクレアは、元々この地龍を倒した時にドロップした卵から産まれた。
とはいえ目の前の地龍から生まれた訳ではない。そのため親でもないので特にこの地龍に思い入れはないと言う。
カル達が扉の先で立ち止まる。
だが、レリアとクレアは立ち止まらず、大きな体で身構える地龍へと向かう。
地龍はというと、何故か近づくレリアとクレアに大きな口を開けて威嚇をするだけであった。
「何か地龍の様子が変です」
「最初から戦意喪失という感じがします」
「やはりレリアちゃんとクレアちゃんの龍神様の加護のせいでしょうか」
メリルとライラが地龍の様子を伺う。
地龍は、大きな口を開けて唸り声を上げる。だがゆっくりと後ずさりしていく。
「最初から戦いになっていないみたいです」
カルがそう言った瞬間、レリアとクレアが地龍の口に向かって真っすぐに走り出す。
あまりの速さに目で追う事ができない。
地龍が大きなくちでふたりを捕らえた・・・と思いきや、既にレリアは左にクレア右に移動していた。
地龍が体をくねらせてふたりを追うもそこにレリアとクレアの姿はなく、いつの間にか地龍の背の上へと移動しているふたり。
暴れる地龍の背の上で振り落とされずにいるふたりを見て思わず歓喜の声を上げるカル。
「僕には、絶対に真似ができない」
「レリアとクレアの身体能力は異常です」
「あれなら走る馬の背に立っている事も可能です」
メリルとライラが目を見張る。
レリアとクレアは、暴れる地龍の背で四つん這いになる。すると地龍が途端に苦しみ出した。
地龍の背中が徐々に金属の様に光り出す。その隣りではキラキラと硝子の様な輝きを放つ。
レリアとクレアが首からぶら下げた聖属性の魔石の力を使い、地龍の背を魔石とミスリルに変え始めた。
殆ど動かなくなった地龍の背から降りたふたり。地龍は、大きな口を開けて最後の力を振り絞りふたりを威嚇する。
「「お前もこんなダンジョンの底で殺されるだけの生なんて受けたくなんてなかったよね」」
レリアとクレアがそんな言葉を地龍に発しながら殆ど動けずにいる地龍の頭に手を充てる。
「「もう苦しまなくていいから・・・」」
ふたりがそう言うと目から一粒の涙を流す地龍。そして地龍の頭もミスリルと魔石の塊へと変わっていった。
しばらくしてミスリルと魔石の塊になった地龍の姿は消え、そこに小さな卵がふたつ現れる。
「「これが地龍の卵!」」
レリアとクレアが卵をひとつづつ手に取り珍しそうに眺める。
すると卵を手に持ったふたりがカルの元へと駆け寄る。
「「カルカル。地龍の卵を手に入れた。レリアとクレアの姉妹になるかな」」
嬉しそうにほほ笑むふたりを見て、なぜだかカルも思わず微笑んでしまう。
「卵は、壊れやすいので大切にしてください」
「「うん!」」
笑顔で答えるレリアとクレア。そして皆で地龍の部屋を後にすると、そこには白いドレスを着た少女が立っていた。
このダンジョンの主である精霊ホワイトローズである。
「そのふたりがあの卵から孵化した地龍なの」
精霊ホワイトローズは、レリアとクレアの周囲を物珍しそうに周回して歩く。
「龍人族の姿をしてるけど・・・龍人の加護持ちなの」
精霊ホワイトローズは、その後もレリアとクレアの周囲を回りながら観察を続ける。
「でも身体能力は、龍人族とはけた違いなの。それにその首からぶら下げている聖属性の魔石、それが・・・力の源なの」
精霊ホワイトローズは、調べは済んだとばかりにレリアとクレアから目線を逸らすとカルに目線を移した。
「カル。聖属性の魔石を分析したいの。余っていたら貸して欲しいの」
その言葉に答える様に腰にぶら下げた鞄から魔石を取り出し、精霊ホワイトローズに手渡すカル。
「分析が終わったら返すの」
そう言い残し姿を消す精霊ホワイトローズ。
そのやり取りに茫然とするライラ。
「不思議な方ですね」
そのやり取りに苦笑いを浮かべるメリル。
「ホワイトローズ様は、ああいったお方なので」
メリルは、魔人メデジューサである。
元々は、頭に無数の蛇を持ち見たものを石へと変える魔法を放つ。そして上半身が人で下半身が大蛇の姿をしていた。
それを精霊ホワイトローズによって人に姿に変えられたのだ。
「それでは、地上に戻りましょう」
6層へと向かう階段の横の壁に小さな扉があり、その扉を開けるカル。
「この盾のダンジョンは、1度入ったら1層に戻っても出口などありません。魔獣と戦って負ける以外にダンジョンから出る方法がありません。ただ、負けても命は取られませんが装備している武具も服も下着すらもはぎ取られてしまいます」
カルは、少し苦笑いをしながら扉の中に入っていく。
「唯一、この扉から僕の大盾の裏側にある扉に出入りする事ができます」
少し不思議な盾のダンジョン。ここは、精霊ホワイトローズが作った魔獣の実験場なのだ。
その頃、カルの執務室では・・・。
「領主様、いつお帰りになるのかしら・・・」
秘書官アリッサは、カルの執務室でカルの椅子に座り両足を机の上に投げ出しながら帰りをボーッと待っていた。
執務室の熱気を逃がすために全ての窓を開け放ち、窓から入る涼しい風が炎照った体を冷やしていく。
”ゴロン”。
すると壁に立て掛けてあった大盾がおもむろに音をたてて倒れると床に転がる。
「えっ、何?」
アリッサは、不思議そうに椅子から立ち上がり床に転がる大盾を覗き込む。
すると・・・。
大盾の取っ手が付いた側から扉が開きカルの頭がにゅっと飛び出してきた。
「久ぶりの盾のダンジョンでしたが、1回も戦わずに終わってしまいましたね」
「レリアちゃんとクレアちゃんが強すぎます」
「龍神様の加護のせいなんでしょうか」
「「卵から産まれるのは、弟かな妹かな」」
その後もレリア、クレア、メリル、ライラ、ゴーレムのカルロスⅡ世とぞろぞろと姿を現す。
思わず床に尻もちをついしまう秘書官アリッサ。
「アリッサさんおま・・・」
するとがなぜかカルが目線を逸らしてしまう。
それを見て不思議に思うアリッサ。
「アリッサさん。下着見えてますよ」
ライラがかけた言葉に我に返りさっとスカートを直すアリッサ。
「アリッサさんも今度、盾のダンジョンに行きましょう」
カルがかけた言葉に少し頬を赤らめながらも手を差し出す。その手を握りアリッサを引き起こすカル。
城塞都市ラプラスは、今日も平和でした。
レリアとクレアは、地龍の卵を手に入れました。
卵から帰った地龍は、ふたりの妹となるのか弟となるのか。