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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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188話.星を渡る舟(3)

星を渡る舟は、修理のためとある星へと立ち寄りました。



とある星で夜空を見上げる精霊。


青い海と茶色い大地とそこに広がる緑の森。そして精霊の森が僅かに点在する地。


この星に精霊が降り立ったのは、数百年も前の話。


その時は、100近い精霊がこの地を新天地としてやって来た。さらに精霊界を救うための何かを求めて。


だがこの星は、精霊にとっては過酷過ぎた。


精霊の森を広げても広げても枯れてゆく木々。


そして力尽きた精霊がひとりまたひとりと姿を消していく。


今では、もう数える程しか残っていない。


それでもこの星の環境に順応した精霊は、精霊の森を徐々に広げていった。微々たるものだが少しずつ着実に。


そんな精霊の森にも妖精達が生まれ精霊と共に森を育む。


いつか精霊界を救う何かを見つけるまで消える事はできない。そう胸に誓う精霊の目に映る夜空の星々。


「精霊様。何を見ていらっしゃるんですか」


夜空を見上げる精霊に妖精が話しかける。


「あの星々のどこかに私の故郷の精霊界があります。この星にやって来た時に乗ってきた星を渡る舟は、今でもその星々の海を渡っているのかなって」


「僕達妖精は、その星を渡る舟を見た事はないけど、ここに何度もやって来たの?」


「ええ、最初は何度か来ていました。でもある時を境に・・・」


少し悲しそうな表情を浮かべる精霊。


「また、その星を渡る舟が来るといいですね」


「そうですね。この星には、その舟を停泊させる港があるのです。今は、その港には誰もいないはずですが、いつかこの星に星を渡る舟が来る事があれば、みんなで歓迎しましょう」


精霊が見上げる夜空には、星を渡る舟の港が流れ星の様に小さな光となって輝いていた。そして水平線の彼方に消えていく姿が見えた。




精霊と妖精達が乗る星を渡る舟は、とある星の周回軌道を回る宇宙ドックで修理を行っていた。


宇宙ドックに残されていた修理部品との交換も無事に終わり、漆黒の闇の世界へと乗り出す星を渡る舟。


「今度こそ大丈夫だろうな」


「こんな場所に舟を修理できる場所があるなんて、やはり私達の祖先は偉大です」


「そうだな、だからこそ我々の精霊界を異世界の原住民などに足を踏み入れられては困るのだ」


ドロス大臣は、相変わらず持論を展開する。


星を渡る舟の航行システムを操作する技術担当官テネロは、その言葉を苦々しく思っていた。


これから向かう星でドロス大臣は、本当に原住民を殺し、その世界を焦土と化そうというのか。その原住民がいれば精霊界を救えるというのに。


そんな思いが技術担当官テネロの頭の中をかすめて行く。


「では後を頼む。私は、部屋で休んでいる」


星を渡る舟の制御室から出ていくドロス大臣を見送ると、技術担当官テネロは、椅子を倒し制御室の天井を仰ぎ見る。


「私がドロス大臣に手を貸せば異世界の人々が死ぬんだよな。でも手を貸さなかったら精霊界を救う事ができる・・・。いくら考えたって答えは出てるよな」


突然、仰ぎ見る制御室の天井のメンテナンスハッチが開き、そこから顔を出す妖精達。そして技術担当官テネロに笑顔で手を振る。


技術担当官テネロも思わず答える様に手を振ってしまう。


妖精達は、メンテナンスハッチの中で誇りまみれになりながら舟の修理を行っている。


技術担当官テネロが思考を巡らせているこの時でも、妖精達がこの舟の中で人知れず働いているのだ。


そんな妖精達が2年もかけて舟を修理する計画を立てて向かおうとしている星。


「そこまでして妖精達が向かおうとする星ってどんなとろなんだ」


徐々に心を惹かれていく技術担当官テネロ。


そして幾度かのハイパージャンプを終えて目的地である星へとやって来た星を渡る舟。




目の前に現れた星は、青く美しかった。精霊界の様な荒廃した大地など見えない。緑の森が広がり生命に満ち溢れている様に見える。


「やっとついたな。あの原住民の住む都市へ向かってくれ」


ドロス大臣は妙に落ち着いていた。それは、自信の目的がまもなく達成できるという安ど感からなのか。


だが技術担当官テネロの心は揺れていた。


”ドロス大臣は、こんな美しい星を焦土と化すというのか。俺達にそんな権利があるのか”。


制御室の技術担当官テネロの目の前に広がる制御卓には、今まで舟を修理してきた妖精達の歓喜の声がいくつも記されていく。


それを見れば、妖精達の苦労とそれが報われた事への喜び様が手に取る様に分かる。


「全ては、おれの考えひとつで決まるのか・・・」


技術担当官テネロ手に汗がにじむ。


星を渡る舟は、大陸に向けて高度を下げて行く。


白い雲の上をゆっくりと進み、ドロス大臣が言っていた都市の近くへとやって来た舟は、空中で停止する。


技術担当官テネロは、ドロス大臣の言われるがまま大臣の声を都市の住民に聞こえる様に機器を調整していく。


「あー、あー。聞こえるか。聞こえているな」


ドロス大臣は、制御室の中央に立つと都市に向かって自身の要求を高らかに宣言する。


「城塞都市ラプラスとやらの領主カルに告ぐ。我らの神聖なる精霊界に足を踏み入れた事への報いを慣行する。これからこの星の時間で1時間後にお前の住むその都市とこの星を焦土と化す。これは、全てお前の行った蛮行による結果である」


そしてドロス大臣が技術担当官テネロに命ずる。


「眼下に広がる砂漠を攻撃しろ。これで我々が本気である事の証明になる」


技術担当官テネロは、震える手で制御卓を操作する。


すると、星を渡る舟に搭載されたイオン砲がゆっくりと動き出し、まばゆい閃光を放つ。


制御室の前に広がるスクリーンには、砂漠の上で真っ赤な炎が塊となって周囲を焼き尽くす光景が映し出される。


技術担当官テネロは、そこである事に気がついた。


制御卓に映し出された映像を確認すると、砂漠を囲う様に広がる森は全て精霊の森である事に。


もしここで目の前の都市を攻撃すれば精霊の森すらも焼き尽くしてしまう。


この星に移り住んだ精霊達は、恐らく数百年の年月をかけて精霊の森を育んで来たはずだ。それを自身の手で焦土と化してよいのかと。


「ドロス大臣。あの都市の周囲に広がる森は、精霊の森です。我らの同胞です。このままあの都市を攻撃すれば、精霊の森の精霊とそこに住む妖精達も殺すことになります」


だがドロス大臣は、冷静に言ってのけた。


「それがどうしたというのだ。我らは、精霊界を守る事こそが全てである。精霊界を捨てて異世界に旅立った同胞など、どうなろうと知った事ではない」


その言葉に技術担当官テネロは、全ての迷いが吹っ切れた。


「そうですか。ならば、私も私の考えを押し通します」


技術担当官テネロは、自身の思うがままに行動する事を決意した。





突如として城塞都市ラプラスの近くに現れた巨大な物体。


それは、カル達が乗る浮遊城の数千倍も大きさを誇る巨大なものであった。まさしく空に浮かぶ城塞都市と言わんばかりである。


そして城塞都市ラプラスの上空に映し出された映像。それによりあの巨大な物体がどこから来たものなのか、おおよその検討がついたカル。


「領主様。あれはいったい何ですか」


秘書官のアリッサが領主の館の窓から見える空に浮かぶ巨大な物体を珍しそうに見上げる。


「あれは、精霊界から来た星を渡る舟らしいよ」


「星を渡る・・・舟ですか。領主様が乗っている空に浮かぶお城とは違うんですか」


「そうだね。浮遊城は、空があるところしか飛べないんだ。でもあの星を渡る舟は、夜空に煌めく星々にまで行けるんだって」


「はははっ、私が何も知らないと思って。そんな嘘を信じるとでも思っているんですか」


カルは、秘書官アリッサの顔を何かを諭す親の様な顔で見つめる。


「嘘・・・か。でもアリッサさんも僕が浮遊城に乗っていなかったら、城が空を飛ぶなんて御伽噺のお話だって思ってましたよね」


「あっ、確かに」


「それに精霊や妖精だって見る事ができる様になるまで知らなかったと思いますよ」


「・・・・・・」


カルの言う事に思わず言葉が出ないアリッサ。


「僕も少し前に妖精さんからあの星を渡る舟の事を聞かされたんだけど、僕が持つ短剣には、剣爺という神様が宿っているし、精霊界への扉には、精霊神お猫サマがいる。そして僕の大盾には、魔人がいて大盾は、ダンジョンと繋がっている」


カルが話す事は、全て真実だが知らない者が聞いたら全て”ほら話”に聞こえてしまう。


「精霊達は、数百年前に星を渡る舟でこの星にやって来て、精霊の森を誕生させたんだって。しかもこの星にやって来た理由は、荒廃した精霊界を再生させるためなんだって」


カルの言う話をすぐに信じる事ができないアリッサ。


だが、カルの周りに集まる者や今まで起きた出来事を考えれば、それが嘘ではないと理解できる。


「僕は、そんな事なんて知らないで精霊の森をこの城塞都市ラプラスの隣りに移して大きくした。そしてラピリア酒(薬)を作ったら、それが精霊界を再生する手助けになったみたいなんだ」


そこでカルの言葉が一瞬途切れる。そして少しの間を開けた後に言葉を続ける。


「でも、それをよく思わない精霊もいるんだ」


”コンコン”。


カルの執務室の扉を叩く音がする。執務室の扉の向こうには、メリルが立っていた。


「カル様。精霊界の舟が来たようです。浮遊城の準備も出来ています」


「それではアリッサさん。後の事はお願いします。いつもの事ですが、もし僕に何かあったら領主の仕事はお願いしますね」


「えっ、また行かれるんですか」


「僕は、ただ巻き込まれただけなんだけど、でもこの城塞都市の領主だから領民を守る義務があるんだ」


カルが椅子から立ち上がるとアリッサの横を通り抜けていく。


「必ず生きて帰って来てくださいね」


「ははは。そうですね。死なない様に努力します」


そう言い残すとカルは、秘書官アリッサを残して執務室を後にした。


領主の館の裏手に広がる広場から空に舞い上がる浮遊城。


巨大な城塞都市の様な巨体を空中に浮かせている精霊界の星を渡る舟。


その真正面へと移動して相対する様に空中で停止する浮遊城。


浮遊城の制御室では、カル達と浮遊城を制御する妖精達が星を渡る舟の動きを見守る。


すると妖精がカルにメモ書きを見せる。


”舟の中にいる仲間と連絡が取れた。もうすぐ予定の行動に移るよ”。


「ありがとう。妖精さんもこれで夢に一歩近づくね」


城塞都市程もある巨大な星を渡る舟。それに比べれば、豆粒の様な浮遊城。


眼下には、星を渡る舟が放った攻撃により荒地に大穴が空き炎を噴き上げている。




ところ変わって星を渡る舟の制御室では・・・。


「お前は、そう言うと思っていたよ。だから私も手を打たせてもらった」


ドロス大臣は、手に何か小さな装置を握っていた。


「システム。技術担当官テネロの制御卓をロックしろ」


「了解しました。技術担当官テネロの制御卓をロックします」


すると技術担当官テネロの目の前に広がる制御卓がブラックアウトする。


「なっ、何をするんです」


「”何をする”か、これはまた失礼だな。私は、お前がいつ裏切るか楽しみにしていたのだよ。そしてお前は、私が思った通りに裏切ってくれた」


「くっ」


「所詮、下っ端の技術担当官ごときに大臣である私の崇高な使命など理解できようもないだろうな」


「大臣。あんたは間違ってる。数百年前に星々に渡った同胞は、好き好んで精霊界から出て行った訳じゃない。精霊界を救おうという使命感から旅立ったのだ。その同胞を貴方は殺そうというのか」


「ものは言い用だ。結局は、荒廃した精霊界から逃げ出したのと同じではないか」


「あっ、あんたは腐っている」


「なんとでも言え。私には、私の考えがあるのだ。まあ、お前もここまでは、よくやってくれた。褒めてやるよ」


技術担当官テネロは、大臣がその手に持つ装置を奪えば、制御卓を復帰させられると思い大臣向かって走り出す。


「おっと、お前は席を立つな。言う事が効けないならこうする迄だ」


すると技術担当官テネロの体が痺れて動かなくなり制御室の床に倒れ込んだ。


「なっ・・・なに・・・を」


「私は、バカじゃない。自衛手段くらいは、絶えず持っているさ」


ドロス大臣は、手に持つ装置に向かって静かに命令を伝える。


「システム。目の前に浮いている”石ころ”を攻撃しろ。それが終わったら目の前の都市を破壊するのだ」


「了解しました。攻撃を行います」


星を渡る舟のシステムが大臣の命令を遂行する。


そして星を渡る舟の前に立ち塞がるカル達が乗る浮遊城へイオン砲を発射しようとしたその時。


「サブシステムダウン。武装システムが制御できません」


システムのアナウンスが制御室に響き渡る。


「なっ、何が起きた。システム、攻撃だ。目の前の”石ころ”を攻撃しろ」


「緊急事態。運行システムダウン。生命維持システムダウン。船内システムの60%がダウン。舟を制御できません」


星を渡る舟が揺れながら徐々に砂漠へと落ちていく。


大臣は、制御室のブラックアウトした制御卓に近づく。


「システム。制御卓のロックを解除しろ」


だが舟のシステムは応答しない。


「おい何をしている。制御卓のロックを・・・」


”カコン”。


その時、制御室の床にあるメンテナンスハッチが開いた。


振り向くドロス大臣と麻痺で体が殆ど動かない技術担当官テネロがなんとか音がした方向に目線を移す。


するとメンテナンスハッチからは、埃だらけになった妖精が手に小さな部品を持って現れた。


妖精と目線が合うふふたりの精霊。


妖精は、思わず笑みを浮かべ手を振る。


「よっ、妖精だと。この舟に妖精が乗っていただと」


妖精は、手を振りながら小さな部品を抱えて制御室を飛んでいく。


「まっ、待って。その持っている部品は何だ。おい!」


ドロス大臣の声など聞こえないと言わんばかりに背中の小さな羽を動かして一目散に飛んで制御室から出ていく妖精。


星を渡る舟に衝撃が走り、大きな船体が揺れに揺れる。


しばらくして揺れが収まった舟の制御室は、小さな明かりが灯るだけで薄暗く足元が微かに見える程度だ。


体の麻痺が解け始めた技術担当官テネロは、立ちすくむ大臣に向かってこう言い放つ。


「この星を渡る舟は、精霊界で妖精達が修理をしていたんだ。そして目的地はこの星だったんだよ」


「何だと・・・」


「俺は途中で妖精達に気が付いた。そして妖精達の目的も知らされた。妖精達は、星々に散った精霊に会いに行くためにこの船を修理していたんだ」


「妖精達が・・・精霊達に会うためだと・・・」


「過去の栄光に縋っている俺達精霊なんかと違って妖精達の方がずっと精霊界の事を考えている。もう俺達精霊の時代じゃないんだ」


目的の星に到着した事で姿を隠す必要がなくなった妖精達は、あちこちらか湧いて出て来る。


その数は、とても数えきれない程の数であった。


ドロス大臣は、制御室の中央に座り込む。その大臣の頬や髪の毛をひっぱったり、ペシペシぺと叩いて遊ぶ妖精達。


妖精達は、とても嬉しそうな表情を浮かべている。数百年も前に捨てられた骨董品の星を渡る舟を修理して遥か1万光年の旅を終える事が出来たのだ。


そして妖精達の夢は、星を渡る舟で星々の世界に散らばった精霊達に会いに行き、そこに扉を設置する事であった。


そうすれば、どんな星にでも自由に行くことができる。そしてラピリア酒(薬)で精霊と精霊の森を復活させることができる。


妖精達の夢は、まだ始まったばかりであった。


カル達が住む星にやっと到着した星を渡る舟。


妖精達がなぜ舟を修理していたのかというお話でした。


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