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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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185話.魔石に群がる者達(4)

教会のシスターを刺した者達を追うカル。


ブラグスタンという街の郊外にある教会の上に問答無用で浮遊城を直陸させ、教会を粉砕したカル。


さらに教会を守っている兵士を大盾の魔人が飲み込んでいく。


「ひいい。化け物」


「ちっ、近寄るな」


剣を構えた兵士達に向かって大盾を構えたカルがジリジリとにじり寄る。


大盾の口から伸びた赤く長い舌がのたうち、兵士達の面前でとぐろを巻く。


「同時に切りかかれ!」


剣先がブルブルと震えながらも5人の兵士達が一斉にカルに向かって間合いを詰めると、剣を上から横から振り下ろす。


だが、なぜか手に持っていたはずの剣がどこにもない。


さらに装備していた防具が影も形もない。


「けっ、剣はどこにいった」


「俺の防具も無ない」


カルは、大盾から無数の金の糸を出すと武器や防具を金の糸で吸収していた。


大盾から伸びる金の糸は、カルにしか見えない。その存在すらも知らないまま、兵士達の剣も防具も呆気なく奪われていく。


そして兵士達の目の前には、赤く長い舌が伸び体を拘束していく。


「やっ、やめろ!」


体の自由を奪われた兵士達は、次々と盾の口の中へと飲み込まれていき、5人の兵士姿はどこにも無い。


さらに浮遊城から降りて来たレリアとクレアが、逃げ惑う神官達を引きずって来た。


「「カル、カル。こいつら逃げて行こうとしたから捕まえて来た」」


神官服を身に纏った男達は、涙を流し鼻水を垂らし顔はしわくちゃで、どうみても神に使える神官にはとても見えない。


「たのむ。殺さないでくれ。何でも言う事を聞く。かっ、金なら・・・」


神父は、神官服のいたるところを弄ると数枚の金貨をカルに差し出す。


「ブルーズ神父は、ここにいる?」


カルの唐突な質問に表情が険しくなる神父達。


「ブルーズ神父など知らん」


カルの質問に対して態度を硬化させる神官。


「そう・・・ならいいや」


大盾から伸びる赤く長い舌が神父の体に巻き付くと盾の口が大きく開く。


「まっ、待て。言う、い・・・」


”ごっくん”。


神父は、盾の口の中へと飲み込まれていく。その光景をみていた他の神父達は、体の震えが止まらない。


「次は、あんた達だ」


カルが指名した神官に向かって赤く長い舌が伸びていき、神父の体に巻き付いて行く。


「ブッ、ブルーズ上級神官殿は、ラムズ神殿に向かわれた。神殿でマモン神様をご降臨あそばす儀式を執り行うためだ」


「南の辺境で見つけたという貴重な魔石を持っていかれた」


カルが聞いてもいない事をベラベラと話し出す神官達。


「そうラムズ神殿にね、ありがとう」


お礼の言葉を口にしたカルであったが神官達は、次々と盾の口の中へと飲み込まれていく。


「「カル、カル。これで全部。逃げたやつはいない」」


破壊された教会に隣接する建物の中を見回っていたレリアとクレアが誰も残っていない事を告げる。


「ブルーズ神父と盗まれた魔石は、ラムズ神殿に向かったらしいから次の目的地は、ラムズ神殿か・・・」


カルの大盾からは、飲み込まれた兵士と神父達が服をはぎ取られた状態で次々と吐き出され、下着すら纏わず粘液まみれの男達が崩れた教会の残骸の上に積み上げられていく。


追っている神官のブルーズの行先を知ったカルの表情には、なぜか笑みがこぼれていた。




次の日。


まだ朝靄の立ち込める中。ラムズ神殿の中央に大理石が敷き詰められた祭事を執り行う場所に数百人の神官が居並ぶ。


神官達の前には、巨大な魔法陣が描かれそのあちこちに世界中から集められた聖属性の魔石が置かれている。


さらに神殿の最奥に位置する拝殿の間に置かれた席に座るマーモ教の法王と取り巻きの神官達。


「これより現世にマモン神様をご降臨あそばす儀式を執り行います」


法王の背後に居並ぶ神官が儀式の進捗状況を逐一説明していく。


魔法陣の前には、ブルーズ上級神官が立ち右手に聖典”復活の書”を掲げる。


数百人の神官達は、聖典”復活の書”の第一章の暗読を開始。


第八章迄を読み上げ、最後に生贄を捧げればマモン神が降臨する手筈である。


ラムズ神殿の奥には、そのために集められた奴隷や地方から誘拐された1000人を超える人々拘束されていた。


徐々に魔法陣の周囲に魔祖が集まり聖典”復活の書”の第三章の暗読が終わった時であった。


”ゴロゴロ・・・”。


突然、空に雷雲が現れると雷が鳴り始める。


ブルーズ上級神官は、聖典”復活の書”の第四章を開く。


その瞬間、魔法陣の中央に雷が落ち周囲が白い煙に覆われた。


「マモン神様がご降臨さそばされ・・・いや、まだ早すぎる」


居並ぶ数百人の神官達の暗読が一瞬止まり、辺りが静けさに包まれる。


ブルーズ上級神官は、白い煙のが立ち込める魔法陣の中央に目線を向ける。


そこには、何かの陰。


「まさか、マモン神様が本当にご降臨あそばされたのか・・・」


半信半疑ではあるが、現に目の前には何者かの陰が見える。


白い煙が消えると黒いローブを着た何者かが魔法陣の中央に立っている。


だが、ローブを被った者の顔は、陰になり全く見えない。


ブルーズ上級神官は、喉をゴクリと鳴らしながら魔法陣の中央に立つ黒いローブを纏った者に話しかけた。


「貴方様は、マモン神様であられますか」


だが、魔法陣の中央に立つ者は、何も答えない。


よく見るとその者は、魔法陣の上に立っていない。足は魔法陣から離れており浮遊魔法も使わずに宙を浮いている。


ブルーズ上級神官は、大理石を敷き詰めた祭事場に両膝を付くと、深々と頭を下げる。


「マモン神様。ようこそラムズ神殿へ」


すると魔法陣の上で宙に浮いている者がブルーズ上級神官へと近づき、その目前へとやって来ると・・・。


「私は、マモン神・・・じゃないにゃ。お猫サマにゃ!」


いきなり黒いローブを宙に投げると両膝を突くブルーズ上級神官の顔面に足蹴りを喰らわせる。


「うちのシスターエトーレになんて事しがるにゃ。お前を殺しても殺しきれないにゃ」


精霊神お猫サマの蹴りを顔面に喰らい、鼻から大量の鼻血を垂らすブルーズ上級神官。


「マモン神なんて神は、神界にいないにゃ。お前達が進行する神は、ただの妄想にゃ」


したり顔の精霊神お猫サマ。


「いいにゃ。これからお前達に精霊神お猫サマの名の元に天罰を与えるにゃ。心して受けるにゃ」


大理石を敷き詰めた祭事場に倒れ込むブルーズ上級神官。その頭を鷲掴みにする精霊神お猫サマ。


するとブルーズ上級神官の体は、徐々に小さくなり、やがて赤子となった。


”ほぎゃ・・・ほぎゃ・・・”。


居並ぶ数百人の神官達は、ただ立ち尽くすだけ。


宙を浮いたまま移動し神官を赤子に変える能力。それだけを見れば神と思しき力と発揮する者であると誰もがそう思うであろう。


だが、彼らにはただひとつだけ受け入れられない事実があった。


マーモ教は、人族が世界の頂点に君臨すると疑わない。そして目の前で神の御業を行使した者の姿は”獣人”であった。


「嘘だ。マモン神様が獣人であるはずがない」


「聖典に描かれたマモン神様の姿とは、似ても似つかない」


「あれは、マモン神様ではない」


居並ぶ神官達が次々にそんな言葉を発する。


赤子を大理石が引き詰められた祭事場の上に置いた精霊神お猫サマ。


「わが名は、精霊神お猫サマ。時をちょっとだけ操る精霊神にゃ。お前達が、お猫サマの教会で行った愚行に天罰を授けに来た。跪いて直に天罰を受けるにゃ」


すると神官の誰かが大声を張り上げる。


「あれはマーモ神様などではない。邪神を呼び寄せてしまったのだ。あの邪神を殺せ!」


その声に応えるかの様に神官達は、懐から短剣を取り出すとそこに魔力を送り込み始める。


「お猫サマにそんな魔法武具が通用する訳がないにゃ。いいにゃ。歯向かうなら相手になるにゃ」


精霊神お猫サマは、天に両手をかかげると高らかに宣言する。


「天罰にゃ」


その瞬間、空から雷が降り注ぎ居並ぶ神官達の頭上に降り注ぐ。雷に打たれた神官達は、煙を吹上げながら次々と倒れていく。


「まだにゃ。シスターエトーレの受けた仕打ちは、そんなものじゃないにゃ。いでよお猫サマダンサー・・・違ったにゃ。お猫サマの巫女達」


するとお猫サマの背後に異国の巫女装束を纏った獣人100人が姿を現した。


「お猫サマの巫女達。目の前の神官達に天罰を与えるにゃ」


「「「にゃにゃにゃ」」」


一斉に走り出したお猫サマの巫女達は、雷に打たれ身動きできずにいる神官達の頭を鷲掴みにしていく。


すると倒れている神官達が次々と赤子へと姿を変えていく。


その光景を見た他の神官達は、慌てふためき雷に打たれて麻痺した体を必死に動かし、大理石の床の上を這いずり周る。


だが、お猫サマの巫女達は、そんな神官達の頭を次々に鷲掴みにすると赤子の姿へと変えていく。


それはものの数分であった。ラムズ神殿の祭事場には、数百を超える赤子へと姿を変えた元神官達で埋め尽くされていた。


「突入!」


突如、大声が響き割ると甲冑を身に纏い剣と盾を持った数千もの兵士が雪崩れ込んで来た。


精霊神お猫サマとその巫女達は、雪崩れ込んで来る兵士達に向かて走り寄ると、振りかざす剣を避けながら兵士達が頭に被る兜をひょいと外していく。


あとは神官達と同じ運命である。兵士達の頭を鷲掴みにすると赤子へと変身させていく。


ラムズ神殿の祭事場は、数百の神官と数千の兵士達の骸・・・いや、変身させられた赤子で埋め尽くされた。


さらに・・・。


「「「おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。おぎゃ。」」」


ひとりの赤子が鳴き出すと他の赤子も泣き出し、それの鳴き声は連鎖的に広まる。


「うるさいにゃ。耳がちぎれそうにゃ」


さらに数千の赤子が一斉におしっことうんちをし始める。


「うー、臭いにゃ。これはたまらないにゃ」


空の雷雲は、いつの間にか消え晴れ渡る青い空が広がっている。それとは相反するかの様に地上では、数千の赤子がいたした汚物の匂いでむせ返る。


そこに現れた浮遊城がゆっくりとラムズ神殿の祭事場へと降下していく。


「お猫サマがやっちゃいましたね」


浮遊城の制御室に置かれた無数の硝子板には、ラムズ神殿での出来事が事細かに映し出されている。


「でも。あの赤ちゃんを誰が面倒みるのかな」


「まあ、神殿というくらいですからシスターもいるでしょうし、孤児院くらいあるますよ」


「でも数千もの赤ちゃんの面倒を見るって大変そう」


「これは、天罰だとお猫サマも言っていました。ですが殺さずに人生をやり直せる機会を与えてくださったのです。感謝して欲しいくらいです」


カルの言葉に答えるメリル。


精霊神お猫サマの神罰は下された。そしてマーモ教の法王はというと、拝殿の間に置かれた席に座っていたはずであったが、いつの間に姿を消していた。


「逃げたにゃ。でもいつかやつも赤子にしてやるにゃ」


笑みを浮かべる精霊神お猫サマ。


魔法陣の中央に置かれた魔石をシッポで掴み、今回の件に関しては一件落着りと胸を張る。


その時、ふとある違和感を覚えた。魔石は、シッポで掴んでいる。だがもうひとつシッポが目の前をフラフラと揺れているのだ。


不思議そうにふたつのシッポを見つめ、自身の手でシッポを掴んでみる。さらにシッポの根本を目をやると・・・なぜかシッポがふたつになっていた。


「なっ、なんにゃーーーーー!」


慌てふためく精霊神お猫サマを後目に、お猫サマの巫女達は、徐々に姿を消していく。


ひとりになった精霊神お猫サマ、なんでシッポが増えたのか理由も分からず、空に浮かぶ浮遊城に向かってゆっくりと飛んでいく。


お猫サマのシッポには、教会から盗まれた魔石が握られ、そして増えたシッポは、楽しそうにゆらゆらと揺れていた。


「カルよ。よくぞマモン神とやらを現世に蘇らせる儀式を阻止したのじゃ」


カルの腰にぶら下げた短剣に宿る神”剣爺”が唐突に話しかけて来た。


「あっ、剣爺。神官が言っていた話って本当だったの?」


「そうじゃな。ただひとつ間違いがあるのじゃ。マモン神とは神ではないのじゃ。あれは悪魔じゃ」


「そうなの?」


「まさか悪魔を現世に呼び寄せる儀式を行う者がいる事に驚いたのじゃ。それを阻止するとはな。カルのお手柄じゃ」


「でも、そんな大変な事ならもっと早く助言とかしてくれてもよかったのに」


「そうじゃな。じゃがカルとあの精霊神により全てが滞りなく上手く行ったのじゃ。めでたいのじゃ」


「まさか、あの聖属性の魔石自体も剣爺が絡んでいるの?」


「わしは、石と金属の神じゃからな」


「なんだあ」


「じゃが、闇属性の魔石を置いた精霊やスノーワームの事は知らんのじゃ」


「という事は・・・」


「闇属性の魔石を置いた精霊をどうにかせんと、何処かでまた同じ事が繰り替えされるはずじゃ」


剣爺が宿る短剣を手に取りそれを見つめるカル。


結局今回の件は、魔石から派生した問題のひとつに過ぎなかった。


根本の原因を作った精霊とやらは、いったい何処にいて何がしたかったのか、謎だけが残った。


「カル。戻ったにゃ」


浮遊城の制御室に姿を現した精霊神お猫サマ。


いつの間にかお猫サマのシッポがふたつになっていた事に気が付き、それを不思議そうに見つめるカル。


ふたつのシッポは、楽しそうにユラユラと揺れている。


そして浮遊城は、青い空の中へと舞いがり姿を消した。


マーモ教の数百人の神官と数千人の兵士を赤子の姿に変えてしまった精霊神お猫サマ。


そして姿をくらましたマーモ教の法王。


これですんなりと事が終わる様には思えない・・・ですよね。


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