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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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183話.魔石に群がる者達(2)

教会に魔石を置いたカル。


教会に訪れた人々は、祭壇である声を耳にします。


とある日。


中年の女性が教会を訪れた。その女性は、ある事に悩んでいた。


その女性は、自身の家庭の問題に悩み苦しんでいた。そして、祭壇の前で両膝をつくと小声でこう漏らした。


「旦那が浮気をしているようなんです。どうしたらいいか分からなくて・・・」


するとその女性に向かって誰かが小声でささやく。


「旦那のけつを蹴り上げて言ってやりな。”誰の稼ぎで食べていけると思ってるんだ!”ってね。それで旦那は目を覚ますよ」


女性は、思わず周囲を見渡すも近くには誰もいない。


”旦那の浮気相手は、遊び半分で付き合っているよ。あんたが強く出れば二度と旦那の前に姿を現さなくなるよ”。


女性の目の前には、祭壇があり精霊神お猫サマの姿を映したという木造が置かれている。


その祭壇の端に置かれた硝子ケースの中には小さな魔石が置いてあり、それが一瞬瞬く様に光る。


女性は、立ち上がると一目散に家へ帰ると旦那のけつをおもいっきり蹴とばし、教会で聞いた通りの言葉を発した。


旦那は会心しそれ以降浮気をする事もなく夫婦は仲良く暮らした。




とある日。


男が教会を訪れると祭壇の前に両膝をついて小声でこう漏らした。


「俺が短気なばかりに親方と喧嘩をしちまった。もうあの工房には戻れない。明日からどうやって食べていけばいいのか」


すると男の耳元で誰かがささやく。


”あんた本当に短気だね。それじゃ嫁も来ないよ。もっと自分を信じてそして人を信じるんだよ”。


男は、周囲を見回すも誰もいない。


”いいかい。この街を出て大きな湖に行く途中に見える村に家具造りの工房があるよ。そこに行って働かせてくれって頼むんだよ。最初は、断ってくるけど何度も頭を下げな。絶対に雇ってくれるから”。


「ほっ、本当か」


”お前さんは、家具職人として腕はいいんだよ。だけれどその短気なところは治しなよ”。


「わっ、分かった。恩に着るよ」


男は、街を出ると言われた通りに街道を走りとある村へと入る。


そこには、教会でささやかれた通り家具造りの工房があった。男は頼み込んでそこで雇われる事になった。


男は、そこで職人達と何度も喧嘩しそうになったが、あの教会で言われた事を思い出して必死に耐えながら家具造りを続けた。


やがて男は、その家具工房で一番の家具職人になっていた。




とある日。


女性が教会を訪れると祭壇の前で両膝をついて小声でこうささやいた。


「娘の病がどんな薬を飲んでも治らないんです」


すると女性の耳元で誰かがささやく。


”あんたの娘さんは、少し重い病気にかかっているね。でも安心しな。この教会のシスターに相談するんだよ。シスターが持っている薬で娘さんはきっと治るよ”。


女性は、教会のシスターであるエトーレに娘の病の事を相談する。


するとシスターエトーレが赤いラピリア酒(薬)が入った小瓶を手渡してくれた。


「この薬は、なかなか手に入らないんです。でも領主様がこっそり渡してくれました。誰か重い病気の人がいたら使って欲しいって」


女性は、その小瓶を持って走って家に帰ると寝ている娘に薬を飲ませた。


娘の病は、徐々に回復し元気になった。


そして歳月が流れ大きくなった娘は、一生懸命勉強して領主の館で働く様になる。


やがて娘は、秘書官となり大人になった領主の横に今日も立っていた。




とある日。


夜も遅くなり教会の扉が閉じられ誰もが寝静まった頃、教会の扉の鍵をこじ開ける者がいた。


扉の鍵は、簡単にこじ開ける事がでた。


「へへへ。不用心な教会だぜ」


男は、真っ暗な教会の中を音も立てずに中腰で移動する。今まで何度も訪れた教会である。灯りが無く真っ暗であっても、何処に何があるかは全て頭の中に叩き込んでいた。


静かに祭壇へと向かう男。


そして祭壇の端には、硝子ケースに入った淡く白い光を放つ魔石が置かれている。


「こいつだ。売ればかなりの金になる」


男はそっと硝子ケースに手をかけそれを開けようとする。


だがどうやっても硝子ケースを開ける事ができない。


男は、持っていたナイフを取り出すと魔石の入った硝子ケースに向かってナイフを振り下ろした。


”カン”。


乾いた音が真っ暗な教会に響き渡る。だが硝子ケースには、ヒビひとつ入っていない。


「こりゃどうなっていやがる」


その時、男の耳に誰かの声が聞こえた。


”母さんは悲しいよ。お前を泥棒にするために産んだんじゃないんだよ”。


「だっ、誰だ」


思わずふり返る男。だが周囲に人はいない。


「くそ、気のせいか」


男は、硝子ケースを割るべく短剣を再度振り上げる。


”ベン。聞き分けのない子だね。何度も言わないと分からないのかい。母さんは、お前を泥棒にするために産んだんじゃないんだよ”。


男は、自分の耳を疑った。今確かに自分を名前を呼んだのは、死んだはずの母親の声だった。


そして目の前には、見知った者が立っている。


「かっ、母さん。どっ、どうしてここに。でも、母さんは死んだはずじゃ・・・」


”そんな事をしている息子を見ていられなかったんだよ。だってそうだろう。こんな息子を空の上から見ていられる母親がどこにいるっていうんだい”。


「母さん・・・」


目の前に立つベンの母親は、ベンをそっと抱きしめる。


”村に帰っておいで。兄弟達は、お前のことを待っているよ”。


思わず目に涙を浮かべるベン。


「すまない母さん。こんな俺じゃ母さんに合わせる顔が無くて、死に目にもあえなくて・・・」。


”そんな事は、どうでもいい事さね”。


男は、母親の言葉に諭される様に暗い教会の中に書置きを残すと静かに去って行った。




翌朝。


教会でシスターをしている獣人族のエトーレが起きて来ると、魔石の入った硝子ケースの前に小さな紙が置いてあった。


そこにはこう書かれていた。


”すみません。泥棒から足を洗い故郷に帰ります”と・・・。


汚い字で紙に書かれた文字を読んだシスターエトーレ。


「昨晩、何かあったんですね。でも泥棒から足を洗う決心がついて良かったです」


魔石は、エトーレには何も語り掛けない。そう彼女は、今まで一度も魔石の声を聞いた事がなかったのだ。


だが魔石の声を聞いたという人は大勢いる。


シスターエトーレは、それでよいと思っていた。自身が悩みそれに魔石が答えてくれるのは、皆が悩み苦しみから解放された後でよいと。


いつしか教会の前には、そんな噂話を聞きつけた人々が訪れる様になり、教会の前に行列が出来る様になっていた。




とある日。


精霊神お猫サマの教会の前に3台の馬車が停車した。


馬車の周囲には、騎乗した軽装の12人の男達が付き従う。


馬から降りた12人は、停車した馬車の周囲を警戒しつつ数名が教会へと向かう。


「ここが聖遺物があるという教会ですか。しかしなぜ私が、こんなみすぼらしい教会に足を踏み入れなければならないのでしょうか」


その者は、馬車を降りると護衛に守られながら教会へと入っていく。


「お前らどけ、道を開けろ」


護衛は、強い口調で威嚇すると教会の前に並ぶ人々に向かって鞘に入ったままの剣を振り上げる。


さらに男達は、教会に入るやいなや中にいる人達を全て追い出しにかかる。


「さあ、出ろ、出ていけ。抵抗するやつは殺すぞ!」


どよめき、悲鳴を上げながら教会を出て行く人々。


護衛の男達に守られながら教会に入って来た白い神官服を身に纏った男は、祭壇の端に置かれた硝子ケースを覗き込む。


「ほうこれが聖遺物の魔石ですか。この輝きは、実に美しい」


騒ぎを聞きつけ慌ててやって来たシスターのエトーレ。


「貴方達は、何をしているのです」


白い神官服を纏った男は、声を発した女性の姿を舐める様に見つめる。


「ほう、獣人がシスターですか。土着の神を崇拝する田舎者に相応しいですな」


「教会で人々に乱暴するとは、どういう・・・」


「騒ぐな獣人」


強い口調で話すシスターのエトーレに向かって男が鞘から剣を抜きその鼻先へと向ける。


男は、さらにエトーレの首に剣を突きつけるとこう言った。


「次に言葉を発したら殺す。”はい”なら首を縦に振れ。”いいえ”なら首を横に振れ」


エトーレは、首に突き付けられた剣に怯えながら首を縦にふる。


「獣人の女。この魔石を何処で手にいれた」


首を横に振るエトーレ。


「魔石は他にもあるのか」


首を横に振るエトーレ。


「私は、マーモ教の上級神官のブルーズである。偉大なる神である聖なるマモン様の名の元にこの聖遺物である魔石を回収する。お前達の様な土着の神を崇める者達には、この様な聖遺物は、不釣り合いである」


護衛の男が祭壇の端に置かれた硝子ケースをかかえると、教会を立ち去ろうとする。


「待ってください。その魔石は、領主様のものです。あなたは、神官と名乗りましたが神官が泥棒を働くのですか」


この言葉を聞いた神官ブルーズは、目を見開く。


「獣人。お前は、耳が悪いのか。この魔石は、偉大なる神である聖なるマモン様のために有効に使ってやろうという思いやりに満ちた行いを泥棒呼ばわりするとはな。やれやれ」


その瞬間、エトーレの腹に男の剣が突き刺さる。


悲鳴を出す事もできずに床に倒れ込む。教会の床は、エトーレの血で真っ赤に染まる。


「黙っていれば死なずに済んだものを」


神官と護衛の男達は、魔石の入った硝子ケースを脇に抱えたまま教会を後にした。




馬車の周囲では、街の住民が呼んだ警備隊が駆けつけたところであった。


「おい、これは何の騒ぎだ!」


警備隊の隊長が声を荒げる。


「我らは大なる神である聖なるマモン様の神殿騎士隊である。警備隊風情が口を出すな!」


「なんだと!」


馬車を守る男達は、鞘から剣を抜く。


「おい。何のつもりだ。街中で剣を抜けば、それだけで捕縛対象になる事を知らんのか」


「お前らごとき警備隊に後れを取る我らだと思うか」


「何だと」


さらに応援で駆け付けた警備隊が馬車を囲う。


その時、教会の中から悲鳴が聞こえた。


「大変だ。シスターがあいつらに刺された。誰か手当をしてくれ」


周囲に集まっていた住民達が一斉にざわつく。


警備隊の兵士達は、シスターが刺されたという声に呼応する様に鞘から剣を抜く。


「やってくれたな。隊長命令だ。全員を逮捕する。抵抗する者は殺して構わん」


「「「はっ!」」」


警備隊の兵士達が一斉に剣を構えると、馬車を護衛する男達に切りかかる。


だが警備隊の剣は、ことごとく男達の剣で受け止められ、さらに男達が至近距離から放った攻撃魔法により遥か後方へと吹き飛ばされていく。


「ふん、他愛ない。所詮は田舎の警備隊だな」


その時、建物の陰に身を潜めていた数名の警備隊の兵士達がホルスターから小さな硝子製の筒を取り出すとそれを馬車にめがけて投げる。


「投擲!」


その瞬間、馬車の周囲で複数の中級攻撃魔法が炸裂する。


「魔石筒は、この前納品されたばかりだ。持っている古い魔法筒を全部使いきれ!」


攻撃魔法が炸裂し、男達が乗って来た馬も馬車も暴れ出すと街の中へと走り去っていく。


「防御結界を張れ。後退、後退だ!」


教会から出て来た神官と男達は、馬車の護衛をしていた男達と合流すると魔法で防御結界を展開しつつ城壁へと押されていく。


魔法で吹き飛ばされた警備隊の兵士達も次々と男達への攻撃に復帰し、ホルスターから魔法筒を取り出すと、次々に投擲を始める。


「まもなく特別警備隊が到着します。それまであいつらの足を止めるぞ」


警備は、防御壁を張りながら後退する神官と男達を半包囲しながら追っていく。


神官とその護衛の男達は、防御結界を張りつつ街中を城壁の方へと移動していく。


「あいつら詠唱もせずに魔法を次々と放って来るぞ」


「あの筒の様な物に魔法を封じ込めているのか。田舎の警備隊だと思って甘く見た」


神官とその護衛の男達は、街の城壁へと追いつめられていく。


そこを3方から包囲する警備隊。


さらに到着した特別警備隊が男達に攻撃魔法の雨を降らせる。


「あの白い神官服を着た男だけ生かせ、後は殺しても構わん」


隊長の命が飛ぶ。


男達は、城壁を背にして防壁を張り、必死に警備隊の魔法攻撃を凌ぐ。


「もう少しだ、攻撃の手を緩めるな」


警備隊の隊長がそう叫んだ時だ。


警備隊の背後から黒い大きな影が近づき、攻撃魔法が警備隊の至近でさく裂した。


ふいを突かれた警備隊は、成すすべもなく攻撃魔法に吹き飛ばされ路上に投げ出される。


耳が悲鳴を上げる。周囲が白く見え敵がどこにいるのかさえ分からない。


自身が持っていたはずの盾と剣も見当たらない。


それを手をまさぐりながら必死に探す警備隊の兵士達。


ようやく地面にころがる剣を探し、それをつかみ取ると立ち上がり敵を探す。


目の前には、見た事もない大きな魔獣が何体も並んでいる。


その上にまたがり空へと舞い上がろうとする神官と男達。


「なっ、何だあれは」


空へと舞い上がっていくそれは、飛竜であった。


男達は、飛竜の群れに乗り城塞都市ラプラスを飛び立っていく。


それをただ見ているしかない警備隊の兵士達。


「くそ。警備隊本部に連絡だ。それと領主様へ報告!」


空へ舞い上がり見えなくなく飛竜の群れ。


一時は、男達を追い詰めたはずであった。だが、伏兵の飛竜により敗北を喫した警備隊。


この件の報告を受けたカルは激怒しある決断を下す。


カルが教会に魔石を置いた事で、意図せず人々が悩みから少しずつ開放されていきました。


ですが、そんな時も長くは続きませんでした。


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