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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
181/218

181話.砂漠の街に降る雪(3)

魔石を無力化して回収した後、再び鉱山都市デルタに向かう浮遊城。


カル達は、浮遊城に乗り込み再び鉱山都市デルタへとやって来ていた。


晴れ渡った青空の下、砂漠に降った雪は徐々に上がってゆく気温に解かされ砂漠にいくつもの巨大な湖を作っていた。


スノーワームはというと、その巨大な湖の中でもがき苦しみ、やがて溺れ死んでいった。


砂漠から荒地に向かったスノーワームの群れも太陽によって温められた灼熱の大地により干上がり二度と動かない骸の群れとなった。


実に呆気ない結末であった。


鉱山都市デルタの広場に降り立ったカルの浮遊城。


そしてルルとリオとの再会を果たす。


「いきなり吹雪が止んだと思ったら雪雲が消えたので、魔石を無力化できたのだと信じていた」


ルルがカルに近づくとそっと顔を近づける。


するとカルとルルの顔の間に魔法蔦が伸び、その先に起きるであろう行動を妨害して見せた。


してやったりという顔を見せる精霊エレノア。


「カル。この糞暑い砂漠に毛皮を着た女が立っているが、こいつはなんだ」


「えーと。僕が精霊界に行った時に精霊に貰った種から生まれた精霊樹の精霊です。名前は、エレノアさんです」


「始めまして鬼人族のルルさん・・・でしたね。カル様がいつもお世話になっております。これからは、私がカル様の生涯のお世話をいたしますのでお気になさらずに。特に夜伽から夜伽まで」


精霊エレノアの言葉に目じりを吊り上げるルル。


「ほう、精霊樹の精霊とは、ずいぶんと下品なやつなのだな。まるで性欲の塊ではないか」


ルルの言葉に思わず眉間にしわを寄せるエレノア。


「ああっ、なんだと。精霊が下手に出れば言いたい事をいいやがって・・・」


「やはり本性が下品だと言葉も下品だな」


精霊エレノアとルルがにらみ合う。


精霊エレノアは、両手から魔法蔦を出していつでも攻撃できる体制だ。


対するルルも部下が用意した魔法槍を手にしていた。


ルルは、スノーワームとの戦いでは、兵士の指揮に専念していたため魔法を放つ事は無かったが、この鉱山都市デルタにおいては、リオの次に強力な魔法を放てる存在であった。


「ふたりとも喧嘩はやめてください」


精霊エレノアとルルの間に入りふたりをなだめるカル。


「ルルさん。スノーワームとの戦いも終わったので、一旦城塞都市ラプラスに戻ります。精霊の森を作る件については、また後で来ます」


「そっ、そうか。でももっとゆっくりして行ってもいいのだぞ」


「はい。今度はゆっくり来ます。それと、この魔石を置いていきます」


カルは、ルルの手に小さな魔石をひとつ握らせると、精霊エレノアの手を引っ張りながら浮遊城の階段を上っていく。


「カル様。まだあの鬼女との決着が付いていません。カル様・・・カル様。そんなに強く手を引っ張ると腕ごと取れてしまいます」


少し寂しそうな顔をするルルを置き去りにして浮遊城が空へと飛び立っていく。


空を見上げるルルの隣りに立っていたリオは、カルが置いていった魔石を握るルルの手を見て思わず絶句してしまう。


「ルッ、ルル様。そっ、その手に持っている魔石は・・・まさか」


「この魔石がどうしたというのだ」


自身の手に握られた魔石の事など全く気にしていないルル。


「聖属性の魔石です。この世に数える程しかないと言われる幻の魔石です」


「えっ、これがか?」


リオは、鑑定魔法を何度も発動させてルルの手の中にある魔石を鑑定する。


「ルル様。その魔石は、この鉱山都市デルタ・・・いえ、魔王国の国宝にも値するものです」


「この魔石が・・・そんなに価値のあるものなのか」


「まさかカル様は、同じものをいくつも持ってたりしませんよね」


少し考えるとルルは、こう答えた。


「いや、カルなら持っているかもな。私の魔法槍の魔石やミスリルの特品ですら大量に持っているくらいだからな」


空の彼方に消えて行く浮遊城を見つめるルルとリオ。


そして浮遊城の制御室に立つカルの鞄の中には、聖属性の魔石が5個も残されていた。




浮遊城で各城塞都市の上空を飛び、被害がないか確認をしながら城塞都市ラプラスへと戻る途中、カルはふと妖精の国の状況が気になった。


浮遊城の制御室でライラが魔石に魔力を送る。その傍らで妖精達がのんびりと硝子板に映し出される文字を見ながら何かの操作を行っている。


カルは、そんな妖精に質問を投げかけてみた。


「妖精さん。妖精の国ではスノーワームの襲撃は大丈夫だったの」


妖精は、カルの質問にメモ書きでこう答えた。


”妖精の国には、精霊の森はないけれどカルが植えてくれたラピリアトレント族が大勢いたから大丈夫。それに頼もしい新しい仲間が増えたんだ”。


「新しい仲間?」


”気になるなら今度、新しい仲間を見に妖精の国に来てよ”。


妖精の思わぜぶりな物言いが妙に気になるカルであった。




その後カルは、城塞都市ラプラスに戻ると領主の館に戻り自身の執務室で書類と格闘する事となった。


部屋の片隅には、吹雪の砂漠から持ち帰ったあの白い大きな魔石が置かれている。


魔石は、以前ほどの輝きは放ってはいないものの、僅かだが白い光を放っていた。


書類に目を通して署名をしながら気持ちは、部屋の片隅に置かれた魔石へと向いてしまう。


「魔石ってまだ使えるのかな」


ふと、そんな言葉が口から漏れ出てしまう。


「あの魔石が気になるのですか。ならば使ってみればよろしいのです」


秘書官のアリッサがカルのつぶやきに素っ気なく答える。


「でも、またあんな大雪になったら・・・」


「領主様は、以前に言ってませんでしたか。ご自身に魔力は殆どないと。ならばこの魔石に魔力を送り込んでも無駄ではないですか」


アリッサの言葉に少しムッとするカル。


「なんだか面と向かって魔力が無いって言われると嫌な気分です」


「でも、それが事実です。領主様は、領地を守る義務をお持ちで実際に自らの力で魔物から領地を守っておいでです。今度は、事務の方でも力を発揮してください」


アリッサは、カルのお目付け役でもある。カルが仕事を放棄して逃げ出さない様に監視するのも彼女の重大な仕事であった。


そんなアリッサがカルの執務室から書類を持って席を離れた。


その瞬間をカルは見逃さない。部屋の片隅に置いたあの魔石を鞄に入れると、一目散に領主の館を後にする。


当然の様にメリル、ライラ、精霊エレノアとゴーレムのカルロスⅡ世も行動を共にする。


ちなみにレリアとクレアはというと、カルの部屋でのんびりと昼寝を楽しんでいた。


カル達は、いつも使っている荷物運搬用の馬車に乗り込むと、一路セスタール湖へと向かった。


セスタール湖の湖畔であれば、多少雪が降る程度であれば誰にも迷惑をかけないと考えたからだ。


そして湖畔にある監視塔へと向かい、常駐する警備兵が待機している詰め所の脇にある馬小屋に馬と馬車を預け、そこから少し離れた湖畔へと歩いて向かった。


広大なセスタール湖の畔についたカルは、砂漠の真ん中で回収した白い大きな魔石を鞄から取り出すと、広げた折り畳み机の上に置く。


「僕が魔石に魔力を込ってもやっぱり無理かな」


「私がやります」


ライラが魔石に魔力を送り込む役を買って出てくれた。


机の上に置かれた白い大きな魔石に魔力を徐々に送り込んでいく。


「・・・何も起きませんね」


「それなら私もやってみます」


今度は、メリルが魔石に魔力を送ってみたが、ライラと同じで何も起きない。


「それでは、しんがりは私でしょうか」


精霊エレノアも魔石に魔力を送ってみる・・・が、やはり何も起きない。


「なんだこの魔石。精霊である私が魔力を送ってんだぞ、ちったあ空気を読めよ糞魔石!」


汚く魔石を罵る精霊エレノアに思わず嫌な目線を送るカル達。


「あっ、失礼しました」


そんな言葉を残してカルの後ろへと下がる精霊エレノア。


「やはり、この魔石を置いた精霊?が魔力を送り込まないとダメかな」


カルは、最後の手段として鞄から黄色いラピリア酒(薬)と洞窟から汲んだ泉の水の入った小瓶を取り出し、小さな杯の中で混ぜ合わせると、その液体を飲み干した。


「これでどうかな」


カルは、この液体を飲んだ時だけ魔力が増幅され龍を呼び出す事が出来た。だからこの液体を飲めば或いは状況が変わるのではないかと期待したのだ。


白い大きな魔石に魔力を送りながら感覚を研ぎ澄ませる。


すると白い大きな魔石から白い靄の様なものが立ち込めると、空にいきなり雲が湧きだし周囲がいきなり暗くなり始める。


「あれ、・・・なんだか雲行きが怪しい様な」


”バン”。


突然空から雷が落ちて来た。


「まっ、まずい。とにかく監視塔の中に避難しよう」


カル達は、慌てて走り出すとセスタール湖の湖畔に建設した監視塔に隣接する警備隊の詰め所へ避難した。


この監視塔は、カルが連れて来てセスタール湖に放流した水龍を守るために建設したものだ。


監視塔の周囲には、いくつもの雷が発生し白く光る稲妻が無数に地上へと落ち始める。


「どうしたんでしょうか。さっきまであんなに晴れていたのに」


警備隊の詰め所で待機していた警備隊の兵士が、窓から外を覗き込みながら声を張り上げる。


しばらくすると外で鳴っていた雷の音が止み、辺りは以前の様な静けさを取り戻した。


「終わったのかな」


警備隊の詰め所の中に避難したカルがそっと窓の外を覗いてみると・・・。


「あっ、雪が降ってる。しかも吹雪だ!」


既に外には、膝辺りまで雪が降り積もっている。


「カル様。やはりあの魔石が・・・」


メリルがそう言いかけた時カルは、自身の口の前に指を一本だけ立てる仕草をした。


そしてメリルの耳にそっと囁く。


「僕があの魔石に魔力を送ったら吹雪になった事は、警備隊の人達には絶対に内緒だよ」


「はっ、はい」


警備隊の詰め所の窓から見える白い大きな魔石は、鮮やかな白い光と靄を放ち、空に厚い雪雲を作り猛吹雪を降らせている。


風は強く外に出れば吹き飛ばされそうな勢いのため、すぐそこにある魔石まで行く事すらできない。


詰め所の中にいるカル達も警備隊の兵士達も吐く息が白くなり、あまりの寒さにガタガタと震えだす。


「暖炉に薪をもっとくべろ。この寒さで暖が取れなければ凍死するぞ!」


警備隊の兵士達が、必死に暖炉に薪をくべていく。だが薪をくべたからといって火は、いきなり強くなったりはしない。


「さっ、寒い。寒いです」


「こんなに寒くなるものなんですね」


メリルがライラが寒さの余り両手で体をさすり始めるが、それで体が暖かくなるわけも無く。


「まずいまずい。このままだと皆が凍死してしまう」


カルは、意を決して扉へ向かうと扉を開けて外へ出ようとする。だが扉は、降り積もった雪のためになかなか開かない。


必死に扉を開けようとすると、ゴーレムのカルロスⅡ世が一緒に扉を押してくれた。


どうにか外に出られる隙間が空きカルが外に出た時に雪は、腰近くまで降り積もっていた。


「なっ、なんでこんな短時間にこんなに雪が積もるの」


だが、そんな悠長に待ってはいられない。この雪を止めないとどこまで降り積もるのか分からないからだ。


とにかくあの白い大きな魔石を止めなければとカルは、腰の高さまで降り積もった雪をかき分けながら、あの白い光を放つ魔石へと向かって進み始めた。


吹雪の中を魔石が発する白い光を頼りに進むカル。


「寒い。寒い。寒い」


吹雪で体温をごっそりと持っていかれ、あっという間に凍えそうになるカル。


するとゴーレムのカルロスⅡ世がカルの先を進みながら雪をかき分けて道を作っていく。


カルロスの後を進みながらどんどん深くなる雪の中を進み、どうにか魔石のところまでやって来た。


するとやはりである。白い大きな魔石の周囲にだけは、雪は降り積もってはいなかった。


カルは、机の上に置かれた白い大きな魔石に手をかざすと魔力を送り込みながら念じる。


「お願いお願い。雪を止んでください。お願いします。お願いだから~」


すると吹雪は、徐々に弱まり始めた。だが、まだ雪が止む気配はない。


「雪を止んでください。お願い。お願い。お願い」


この時、カルが飲んだ液体の効力は殆ど消えかかっていた。その最後に残った魔力を魔石に送り込む。


それからしばらくしてようやくと雪雲がなくなり綺麗な星が輝く夜空が広がり始めた。


「やっと止まった。本当に凍え死ぬかと思った」


カルは、証拠隠滅と称して急いで魔石と折り畳みの机を鞄の中へしまい込む。


「カル様。大丈夫でしたか」


「まさかあの魔石の力がこれ程のものとは思ってもみませんでした」


雪が止んだのを見計らってメリルとライラがカルの元へ雪をかき分けながらやって来た。


「でもこの魔石が砂漠に置かれていた時には、ここまでの猛吹雪にはならなかったですよね」


メリルとライラの後にやって来た精霊エレノアの言葉である。


そう。カルが飲んだ液体は、急激に魔力を増強する事が出来るのだ。それにより一時だけ魔石を設置した精霊?よりも遥かに莫大な量の魔力を魔石に送り込む事が出来た。


そして飲んだ液体の効力はというと数分で消えてしまう。


今では、以前と同じ魔力の無いカルへと戻っていた。


「それにしてもほんの数分で腰よりも高く雪が降り積もるなんて」


「まる1日あの魔石を動かしたら家の屋根を超える雪が積もりそうです」


メリルとライラがそんな言葉を発する。


「それってどんな攻撃魔法よりも強力ではないですか。こんなに寒かったら凍えて戦いなんて出来ませんよね」


そしてメリルが言った言葉で皆が顔を見合う。


そう、この白い大きな魔石で雪雲を発生させ、猛吹雪を起こすだけで戦いを有利に進める事が出来てしまう。


「この事は、内緒でお願いします」


カルの言葉に皆が首を縦に降る。


もし、城塞都市ラプラスや魔王国が他国に攻められた時など、わざわざ戦う必要などないのだ。


敵陣の後方に浮遊城で移動し、この魔石で雪雲を発生させるだけで敵陣の数千、或いは数万の兵士の頭上に猛吹雪が発生して兵士達は行動不能に陥る。


「もし、それをやったら・・・」


「数千、或いは数万の兵士が凍死する可能性があります」


カルの言葉にメリルが答える。


「この魔石は、考えて使う必要があるね」


カル達は、降り積もった雪の中を詰め所へと戻る。


そして雪で動けなくなった馬車を詰め所に預かってもらいゴーレムのカルロスの肩に乗り素知らぬ顔で領主の館へと戻った。


だが、そこにお待ち構えていたのは、秘書官のアリッサであった。


セスタール湖の湖畔にほんの数分で腰の高さまで降った雪は、城塞都市ラプラスにも降っていた。


これにより回復したばかりの都市機能がまたもや麻痺し、住民達は再度の避難を考えていた。


「私も安易にあの魔石を使ってみてはと言ってしまった事に責任を感じています」


少ししょんぼりした秘書官のアリッサだが、カルが貸し出した武具と魔法杖は、領主の館にある彼女の机の片隅にそっと置かれ、いつでも使える状態になっていた。


次の日もカルは、領主の館の執務室で書類と格闘していた。


今は、鞄の中でそっと眠っている白い大きな魔石。


いつかあの魔石を使う日がやって来るのであろうか。


恐らくどんな強力な魔力を持つ人であっても発動できない魔石を手に入れたカル。


カルが持つラピリア酒と洞窟の泉の水を混ぜて作ったあの液体を飲んだ時だけ発動する白い魔石。


カルは、この魔石をどうするのでしょうか。


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