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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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177話.秘書官アリッサの初めてのダンジョン(1)

城塞都市ラプラスに戻って来たカル。


仕事を押し付けていた秘書官アリッサが必死に頑張っていました。


カルは、浮遊城でようやく城塞都市ラプラスへと帰還した。


とはいえ、それほど長く留守にしていた訳でもなく、城塞都市ラプラスは何事もなく機能していた。


ただ、ひとりだけ苦労を背負って大変な思いをしていた者がいた。


領主の館の執務室へと入ると、秘書官のアリッサが目の下にクマを作って死にそうな顔で書類と格闘していた。


「あっ、遅いですよ。何処に行っていたんですか」


「随分と疲れているみたいだね」


「もう疲れました。休ませてもらいます」


頬を膨らませて怒り心頭といった様子の秘書官のアリッサ。


「分かった。でも引継ぎしてね」


「・・・はい」


秘書官のアリッサから仕事の引継ぎをしている最中、あまりに細かい事まで引き継ごうとするので、苦言を呈したカル。


「ねえ、こんな細かい事は各部署の担当官にやってもらえばいいのに」


「えっ、でも領主代行としては・・・」


「僕なんか知らない事の方が多いからみんなを頼ってるよ」


「・・・そうなんですか」


「でもアリッサさんも頑張ってくれました。お礼にこれを差し上げます」


カルは、腰にぶら下げた鞄の中からあるものを取り出して机の上に置いた。


「これは、魔石の塊。元々は、スノーワーム・・・の頭の部分かな。歯がいっぱい並んでるでしょう」


「ひいっ」


秘書官のアリッサが魔獣の頭の形そのままの魔石の塊を見てたじろいでしまう。


例え魔石の塊とはいえ元々は、スノーワームの頭である。数百もの歯が円形に並び人を食い殺す事が出来る姿がそのまま魔石になっているのだ。


見ていてとても気持ちの良いものではない。


「あれ、いらない。でもこの魔石ひとつで金貨1000枚くらいにはなると思うけど」


「えっ、そうなんですか」


”ゴクリ”。


思わずアリッサの喉が鳴る。


「重いから気をつけて持って帰ってね」


机の上に置かれたスノーワームの頭部の形をした魔石。それを持ち上げようと必死に頑張るアリッサ。


「重いです。持ち上がりません」


さすがに女性ひとりで持ち上げる事など出来るはずもなく、仕方なく職員を呼んで台車に乗せアリッサの家へ運ぶ事になった。


「ちょと待ってください。でもこれを換金する時ってまた家から持ち出さないといけないんですよね」


「あっ、そうだった」


「私ひとりでは重くて無理です。それならこれから冒険者ギルドの換金所に行ってきます」


「だったら護衛の兵士さんを何人か連れて行って。それといくらで課金できたかあとで教えて」


「そういえば、これスノーワームの頭ですよね。ということは」


「胴体もあるよ。胴体の方が長いよ。それに魔石じゃなくてミスリルの塊のやつもあるよ」


カルは、机の上にミスリルの塊となったスノーワーム頭部を出してみせた。


「ひっ」


「魔石よりミスリルの塊の方がスノーワームって感じに見えるよね」


書記官のアリッサは、逃げる様に職員と護衛の兵士と共に街の冒険者ギルドの換金所へと向かった。




しばらくすると秘書官のアリッサが慌てた様子でカルの執務室へ戻って来た。


「大変です領主様!」


「換金、ダメだった?」


「逆です。あの魔石の塊、金貨3000枚で売れました。でも3000枚の金貨を用意できないからって、冒険者ギルドに口座を作って預金してきました。それと冒険者証も作ってきました」


出来立ての冒険証を天高く掲げて見せびらかす秘書官アリッサ。


「冒険者証を作ったんだ。なら今度ダンジョンに行って魔獣狩りしようか」


「まっ、魔獣狩り・・・ですか?」


「そうだ、それがいい。領主の秘書官なんだから。魔獣のひとつも狩れなかったら領民の生命と財産を守れないよね。武具は、特別警備隊用のミスリル武具でいいかな」


「えっ、えっ」


「冒険者証には、ジョブが魔術師って書いてあるね。ロッドか杖がいいよね。僕が持ってる武具の在庫に丁度いいのがあるからそれを使ってよ」


「まっ、待ってください。特別警備隊の装備は、高額なので数がないはずです」


「へへへ。実は、試作品がかなりあるんだな。多少難ありなんで兵士さん用に出していないけど、ドワーフのバレルさんが作ったやつだから保証するよ」


「では、今週末に中級ダンジョンに行こうね」


「えーーーーーーーーー」





週末になり城塞都市アグニⅡの通称中級ダンジョンにやってきた面々。


「あのー。なんでスカートの丈がこんなに短いんですか。その下着が丸見えです」


秘書官アリッサが精霊エレノアから手渡された武具を身に纏っている。だが、何か裏がありそうである。


「バカねー。カル様から金貨3000枚も貰っておいてお礼のひとつもしないつもり。せめて可愛い下着のひとつもチラつかせてカル様の玉の輿を狙いなさいよ」


「えっ、でっ、でも」


「カル様は、城塞都市の領主で他国とお酒や薬の取引を行ってるのよ。それに鞄の中にミスリルと魔石を大量に持っている男の子よ。一生遊んで暮らしても使い切れない程の大金持ちの男が目の前にいて、その男を手玉に取れなくてどうするの」


”ゴクリ”。


アリッサの喉が思わず鳴ってしまう。


「それに城塞都市ラプラスの運営費の殆どはカル様の懐から出てるんでしょ。なら、懐柔しておいて損はないわよね」


すると秘書官アリッサは、丈の短いスカートを手で隠す仕草をやめ、なぜか率先してカルの前を歩く様になる。


すると精霊エレノアの横にライラが並び話しかける。


「エレノアさん。あんなに煽って大丈夫なんですか」


「だって面白そうじゃない。私達みたいな能力持ちでもなさそうだし、どうやってカル様に付け入ろうとするのか楽しみだわ」


しばらくしてライラの横に並んで歩くカル。目の前を歩くアリッサが見せるあれを頬を赤くしながらもついつい見入ってしまうカル。


「ライラさん。アリッサさんの・・・そのスカートの丈が短くて」


「下着が見えてますよね」


「いいの?」


「まあ、精霊エレノアさんの差し金です」


「はあ」


「カルさんも男の子ですから、女性の下着がチラチラ見えるくらいの方がいいですよね」


精霊エレノアやライラがいたずら半分にカルの反応を見て楽しんでいる事など知る由もない。




今回、中級ダンジョンに来たのは、カル、メリル、ライラ、精霊エレノア。それとゴーレムのカルロスⅡ世。


龍人族のレリアとクレアは、浮遊城で待機している。


ちなみにお猫サマはというと、神獣なめくじ精霊と共に精霊界への扉へと向かい、精霊界からやって来た精霊達と話し合いを行っている。


今回は、秘書官アリッサのダンジョンデビューを行うためなので、低層階をいくつか巡りダンジョン内で1泊して帰る予定である。


秘書官アリッサは、ジョブが魔術師という事なのでカルが持つ試作品の魔法杖を貸し出した。


その魔法杖は、例の如くミスリルの特品で作れており、地龍の魔石が埋め込まれたものだ。


しかも城塞都市ラプラスの特別警備隊用のミスリル武具の試作品をも装備している。


とても初心者冒険者が装備できる代物ではないのだが、まあ、武具を発注したのはカル自身である。これくらいの装備をしても文句を言う者は誰もいない。


秘書官のアリッサは、ダンジョン内の魔獣に出くわすと次々に魔法を放っていく。


それをメリルとライラがサポートする。


最初は、魔法の発動に手間取ったものの武具の性能が段違いなため、いきなり強くなった様に感じてしまうアリッサ。


「あの武具って特別警備隊の武具だよな」


「精鋭部隊の訓練じゃないのか」


「きっと武具の性能を確認してるんだよ」


中級ダンジョンの中ですれ違う冒険者達がひそひそと噂をしている。


「警備隊の兵士でもない私がこんな高価な武具を身に着けているなんて、なんだか恥ずかしいです」


「何かあったら呼ばれるかもね」


「呼ばれる?」


「その武具に施されている紋章は、城塞都市ラプラスのものだから、強い魔獣が現れたら警備隊だと勘違いして助けて欲しいって呼ばれるかも」


「そっ、そんな・・・」


カルがアリッサをからかっていると、やはりというかそれは起きてしまった。


数人の冒険者達がダンジョンの奥から走って来て、おもむろにアリッサにすがりついた。


「たっ、頼む。仲間が魔獣に襲われているんだ。助けてくれ!」


「落ち着いて。どんな魔獣なの」


「ケッ、ケルベロスだ!」


カル達は、冒険者が指差す方向へと走り出す。


しばらくすると、ダンジョンの袋小路に追い詰められた冒険者達が、必死に物理防護を張りケルベロスの攻撃を防いでいた。


しかも冒険者達は、ケガをしていてあちこちから出血していた。


「アリッサさん、ここに来るまでに倒した魔獣とは強さが桁違いだけど、その武具なら絶対に倒せるから」


「はい。やってみます」


アリッサは、カルの言葉を信じて魔法を放つ。だが、ケルベロスを一撃で倒せる様な魔法を知るはずも無く。さらにケルベロスは、アリッサの魔法を簡単に避けてしまう。


「まっ、魔法が全く効きません」


「落ち着いて。その魔法杖は、想像した通りの魔法が放てる特別な魔法杖なんだ」


「想像したものがですか」


「だからあの冒険者達を守りつつ、ケルベロスを倒せる様な魔法を思い浮かべてみて」


「はい!」


ケルベロスは、目標を袋小路に追い詰めた冒険者からアリッサへと返る。そして牙を見せる口元から炎が漏れていた。


ゆっくりと口から炎をまき散らしながらアリッサに向かって歩むケルベロス。


アリッサが一瞬瞼を閉じる。そしてなにかを呟いた瞬間。ケルベロスに向かって光の壁の様なものがダンジョンの通路いっぱいに広がりながら飛んで行く。


そしてケルベロスの周囲にその光の壁が到達すると、まるでケルベロスを包み込む様に光が壁を作り出した。


「へえ、防護壁を飛ばせるんだ」


メリルがそうつぶやく。


ケルベロスを囲った光の壁は、徐々に小さくなっていく。


光の壁に向かって口から炎を吐き出しながらアリッサへさらに近づくケルベロスだが、光の壁がさらに小さくなりケルベロスの体を徐々に圧し潰しはじめた。


己の口から噴き出す炎で己自身を焼きながらなおも炎を噴き出す事をやめないケルベロス。


光の壁は、さらに小さくなり・・・。


”ミシ、ミシ、バキ、バキ、バキ”。


嫌な音をたてながらケルベロスを圧し潰していき、やがて小さな光となって消えていった。


耳に残る嫌な音に皆が眉をしかめるも、ケルベロスを倒したアリッサに思わず拍手が沸き起こる。


「凄い。あんな事ができるんだ」


思わずカルの口からそんな言葉が漏れる。


「まさかあんな魔法が使えるななんて驚きました」


メリルもライラもアリッサの魔法にただ驚くばかり。


そして袋小路に追い詰められていた冒険者達が、アリッサの元へと駆け寄って来る。


「あっ、ありがとうございます。僕達、まだ冒険者になったばかりなのにケルベロスと遭遇したんで死ぬかと思いました」


恐怖のあまり涙や鼻水を垂らした冒険者達が、魔法を放ったアリッサの手を握る。


その光景を見て思わずたじろぐ面々。


冒険者達は、カル達にお礼を言った後、一旦ダンジョンから出るという。低層にケルベロスが出ては怖くて居られないというのだ。


「あの魔術師の人の装備って、城塞都市ラプラスの特別警備隊の装備だよね」


「それに、あの少年。恐らくだけど城塞都市ラプラスの領主様だよ」


「それって、この辺りで最強のパーティなんじゃない」


「俺達、運が良かったよ」


ダンジョンから去ろうとしている若い冒険者達は、そんな会話をしながら去って行った。


「僕達って、そんな強かった?」


カルは、去って行った若い冒険者達の会話を聞いて思わず照れ臭そうにしている。


「カル様。私達って意外と強いんですよ。もう少し自覚をお持ちになってください」


メリルの言葉にさらに照れ臭そうにするカル。


「でも、なんでこんな低層にケルベロスが出るんでしょうね」


「そうだ。ちょっと聞いてみる」


カルは、ダンジョンの中を少し歩くと壁を”トントン”と叩いてみた。


すると、壁から硝子の板の様なものが現れ、その硝子に何者かの姿が映し出された。


カルは、その硝子に映し出された者となにやら話をしている。


「あの、領主様は何をされているんですか」


アリッサあがメリルとライラに疑問を投げかける。


「あら、ご存知無かったんですか。カル様は、このダンジョンのオーナーなんですよ」


「ダンジョンのオーナーですか。オーナーって、まさかこのダンジョンの持ち主ですか!」


「そうよ。ダンジョンの運営は、精霊がやってるんだけどいろいろあって便宜上のオーナーはカル様になってるのよ」


メリルの言葉に思わず唖然とするアリッサ。


「低層に強い魔獣が出る問題が発生しているみたい。今、調整中なんだって」


アリッサは、今までカルをちょっと変わった領主だと思っていた。だが、ダンジョンのオーナーであると聞かされた時、心の中で何かがはじけ飛んだ気がした。


さて秘書官アリッサがダンジョンデビューを果たしました。


そしてカルを見る目が変わったようです。


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