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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
172/218

172話.寒い雪の大地(3)

村の村長からある事を聞きつけるカル。


「そうだ。スノーワームのお裾分け」


カルは、正面に構える大盾を"コンコン"と叩く。すると大盾に大きな口とその口から長く赤い舌が現れる。


「スノーワームのお肉が美味しかったんだ。だからホワイトローズさんにお裾分けしたいんだ」


”スノーワム?ソレウマイノカ”。


「うん。美味しいよ」


カルは、腰にぶら下げた鞄の中から焼いたスノーワームの肉を取り出すと、盾の魔人の口に放り込む。


ちなみに、カルがスノーワームの焼いた肉を都合よく持っているのかという突っ込みは無しでお願いします。


”ンー。ウマイ”。


カルは、金の糸を絡めて身動きの取れなくなった生きたスノーワームを盾の魔人の口の中へ次々と放り込んでいく。


その光景を口を開けてただ唖然と見守る冒険者達。


「それじゃ、ホワイトローズさんに送っておいてね」


”ワカッター”。


大盾から大きな口と長く赤い舌が消えていく。


「あっ、あの、その大盾は・・・」


「この大盾?僕の大盾の事は気にしないで。冒険者の武具については持ち主の秘中の秘だよね」


「はあ・・・」


何か釈然としない冒険者ではあったが、そう言われてしまうと反論はできない。


目の前で繰り広げられる不思議な光景をただ見守るしかない冒険者達。





その夜、村の3件の空き家に明りが灯が灯った。


ひとつは、カル達が借りた家。


もうひとつは、商人達が借りた家。


最後は、商人の護衛としてこの村にやって来た冒険者達が借りた家。


冒険者達は、商人から解雇され、もう商人達の護衛ではない。そして今では村をスノーワームから守る仕事へと変わった。


彼らは、Bランクの冒険者である。数体のスノーワームであれば狩る事など造作もない。


だが、もしスノーワームが10体、20対と群れで襲ってきたとしたらどうだろうか。


彼ら冒険者達は、この村に来る時にそんな状態に遭遇していた。しかも重い荷物を背負い足の遅い2人の商人を守りながの戦いであった。




カル達は、借りた家でのんびりとくつろいでいる時、村長がカル達を訪ねていた。


「実はそのお願いがあってやって来た次第です」


「村の病人に飲ませる薬ですか」


「はい。私達には、小瓶ひとつで金貨50枚もする薬を買う事はできません。ですが村には何人も病気の者がいます。彼らの病を何とかして治してやりたいのです」


カルは、黙ったまま村長の話の続きを待った。だが、その後の話が一向に出て来ない。


「それで、僕にどうしろと。まさか薬をただで譲ってくれと言うのですか」


「いえ、決してその様なことなど。それに先ほども村の者にスノーワームの肉をいただきました」


なかなか村長から代案が出て来ない。業を煮やしたカルは、交換条件を提示する事にした。


「では、交換条件といきましょう。この村に何か特産品とかはないですか」


「特産品ですか」


「そうです。あの商人がスノーラビットの毛皮について言っていましたが、僕はスノーラビットの毛皮を見た事がありません」


「そうですか、ならば少々お待ちください」


村長は、屋敷へと戻るとスノーラビットの毛皮を持ち、カルの元へと戻って来た。


「これがスノーラビットの毛皮です」


村長が見せた毛皮は、純白で光沢があり光が当たるとキラキラと輝いている。


「まあ綺麗」


カルに差し出されたスノーラビットの毛皮を横からひょいっとさらって行った者がいた。ライラである。


「この毛皮欲しいです。なんて美しいんでしょう」


ライラの目がキラキラと輝いている。やはりこの手の物は女性が好むのだろう。


「スノーラビットの毛皮は、貴族や金持ちの間で珍重されているそうですが、冬の間しか純白の毛にならないんです」


「へえ・・・」


「この村で狩れる数は、ひと冬でざっと100体といったところです」


「そい言えば、カル殿が狩ったスノーワームの毛皮ですが、さすがにスノーラビットの毛皮には敵いませんがあれも十分に高級な毛皮として使えそうです」


「本当?」


「はい。スノーラビットは、数を揃える事ができませんが、スノーワームなら十分な数を狩れるのではないでしょうか」


「そういえば、スノーワームって群れで行動している様に見えた」


「ただ、村の者ではスノーワーム数体を狩る事はできても、群れを狩る事はできません。逆に我々がスノーワームに狩られてしまいます」


「スノーワームの毛皮かあ」


村長は、カルが興味を示す様な話題を必死に探っていた。


村には多数の病人がいて、その病人に飲ませれば治る薬を目の前の子供が持っている。ならば、なんとして目の前の子供と良い関係を築きたいと必死になっていた。


そんな時、村長の家で見かけた少女がカル達が借りた家を訪ねて来た。


その少女は、白い色の果実をのせた器をカルの前に静かに置いた。


「この果実は、この村から少し離れたところにある森で採れたものです」


カルの目の前に出された白い実は、カルのよく知る形をしていた。違いは実の色くらいである。


「あれ、これってラピリアの実?」


「ラピリア?カル殿の住んでいる地域ではラピリアという呼び方なのですか。この地域では、ラムという名前です」


カルの目が一瞬で輝き出し、そのラムという実に釘付けとなった。それを村長は見逃さなかった。


「カル殿は、精霊をご存知ですか」


「精霊ですか」


「はい。このラムの実は、その精霊の宿る森で採れるのです」


「精霊の宿る森かあ」


「精霊を見た者は、あまり多くはないのです。我らの村の者は、その森を守る事を条件にこの実を少しだけ分けていただけるのです」


「その精霊って森に行けば会えるかな」


「さあどうでしょうか。村長である私も今までに数回しかお会い出来ていません」


カルは、少し考えると村長にこう提案した。


「もしよかったら、明日にでもその場所に案内していただけますか。案内していただけるなら精霊に会える会えないは別にして村で病気の方全員分の薬を用意します」


「ほっ、本当ですか!」


「はい。それとひとつお願いがあります。スノーラビットで作った服を1着用意できないでしょうか。できれば女性用のものがいいです」


「女性用ですか」


「わがままな人をひとり連れて行きたいんです。服の代金は払います」


頭を傾げる村長。そして苦笑いを浮かべるカル。


カルは、いったい誰を連れて行こうとしているのか。




次の日。カルは、村長と数人の村人と共に精霊の宿る森へと向かった。


村のある場所から徐々に山間へと入るとさらに積もった雪が深さを増していく。


「カル様。こんな綺麗な毛皮を用意していただいて申し訳ないのですが、私寒いところは苦手なんです」


「ごめんなさい。でもどうしても行きたい場所があるんです。そこで精霊さんの力が必要になりそうなんです」


「そうなんですか、仕方ないですね。カル様がそう言うなら」


「でも、そろそろ私の名前を考えてください。いつまでも”精霊”という呼び方は嫌です」


「名前ですか?」


「名前です」


「精霊に名前は無いのですか」


「あります。ですが失礼ですが人族の方に発音できる様な言葉ではないです」


「ああ、そういう事ですか」


精霊の言葉に歩きながら考え込むカル。その光景を見ていた村長と村人は、頭を傾げていた。


「あのカル殿に肩車をされている女性はいったい・・・」


村長は、カルの後方を歩くライラにそう尋ねる。


「ああ、お気になさらずに。あの女性は、わがままなんです。それと寒いところが大嫌いなんですよ」


「でも、こんな雪深いところで女性を肩車をしたまま歩けるカル殿も凄い体力の持ち主ですね」


ライラは、苦笑いをするしかなかった。カルが肩車をしている精霊は、体重があって無いようなものなのだ。体重を増やす事も無しにする事もできる。


カル達が向かう精霊の宿る森へは、村から歩いて約半日の距離という事だったが、レリアとクレアが雪深い雪原をどんどん先へと進み、あっという間に道が出来ていく。


そしてときたま姿を現すスノーワームをささっと狩ると、カルの元へと引きずって戻って来るのだ。


「「カル、カル。スノーワームだよ。まだまだいっぱいいる」」


「レリアとクレアは偉い。あとで焼いて食べようね」


「「うん。また行って来る」」


雪の中でも元気なレリアとクレアが雪煙を上げながら雪深い雪原を走っていく。


「あのふたりも凄いですね」


目の前で起きている不思議な光景を茫然と見つめる村長と村人。


「ははは。まあ、あのふたりの事もあまりお気になさらないでください」


そう言ったライラではあったが、思わず小さなため息を付いてしまう。


カルの周囲には、不思議な種族や精霊や妖精や神が大勢いる。それを説明して理解できる者などこの世界にどれ程いるだろうか。


だから一切の説明はしないのだ。それが一番楽な方法であるとそう考えるライラであった。


以前のカルならば、同行する者達を大盾の安全地帯に待たせ、ゴーレムのカルロスの肩に乗り移動していた。


だが、一度カルロスを失ってからというもの。カルロスの肩に乗って移動する事をしなくなっていた。


それは、ゴーレムのカルロスに頼りすぎない様にしたい。自身で出来る事はなるべく自身ですると決めたからだ。


カルロスの肩に乗れば楽だし時間もかからない。だが、それで成長できるのかと不安を覚えたのだ。


ゴーレムであるカルロスに以前の記憶はない。闇の双子にゴーレムの核を破壊され、新しく作られたゴーレムのカルロスは、以前カルを肩に乗せて砂漠を横断した記憶も無い。


だが、なぜかカルといると自身の肩が開いている事に少しばかりの寂しさを覚えていた。


以前、ここに誰かが乗っていた様な。無いはずの記憶がなぜか微かにではあるが思い浮かぶ。


ゴーレムであるカルロスにもそんな記憶や感情の様なものが微かではあるがあるのかもしれない。




村を出発してからかなりの時間が経ち、陽が落ちかけた頃に目の前に大きな森が広がる場所へとやって来た。その森の手前には、雪を被った石組の作業小屋が立っていた。


「村の者は、あの小屋に寝泊りをして森の手入れをします」


カル達が、村長の説明を聞いていると村人が小屋の雪かきを始める。


雪は、すぐに退かされると村人が小屋の中で薪に火を付けていく。実に手慣れている。


石組みされた作業小屋は、以外と広く薪もかなりの量が確保されていた。


「今日は、もう日が暮れますから精霊の宿る森へは、明日の朝にまいりましょう」


村長の言葉に頷くカル。




その夜、石組みの小屋の中で皆で暖を取り、簡単な食事をとりながら異国の話に花を咲かせる。そんな中、雪が降る作業小屋の外で森を見つめる精霊とカル。


「君の名前は、エレノア。エレノアと呼んでいい?」


「エレノアですか。まあ、及第点です」


「エレノア。森の精霊の気配って分かる」


「はい。私は、精霊樹の精霊です。精霊の森の精霊よりも上位種の存在です。私が言えば精霊の森の精霊は、どんな事でも受け入れます」


「そうなんだ。でも僕がエレノアさんにお願いする迄、後ろででんと控えていてください」


「エレノアです。”さん”は無しです」


「エレノア」


「カル様がそう言うなら」


「エレノアには、最後の最後にお願いします。強い者が最初から出て来たら面白いところが面白くなくなっちゃうから」


「そういう事ですか。分かりました」


カルの言葉に直に従う精霊樹の精霊エレノアであった。


白いラムの実を求めて雪深い精霊の宿る森へとやって来たカル達。


精霊樹の精霊エレノアと精霊の森の精霊、果たしてうまく事は進むのでしょうか。


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