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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
163/218

163話.解呪

子爵の屋敷へと入るカル達。


ベント子爵の執事の案内により屋敷内の長い廊下を歩むカル達。


廊下や各部屋の扉の前には、武装した多数の兵士が並んでいる。


「僕達が来たから兵士を配置・・・した様には見えないけど」


「そうですね。ちょっとこの兵士の数は異様です」


「何に対して警戒しているんでしょうか」


小声で話すカルとレリアとクレア。


屋敷を外敵から守るのであれば、要所に兵士を配置すればよい話である。


屋敷の外に目を向けてみると確かに屋敷への出入り口の扉には、複数の兵士を配置していが、どうもその兵士の配置がおかしいのだ。


「何だか敵が何処から侵入して来るのかが分からないといった感じに見える」


「レリアもクレアも探査魔法で兵士や敵の気配を探ってみましたが何か変です。それに屋敷のあちこちにおかしな術がかけられています」


執事は、2階のとある部屋の前にくると扉を数度ノックした。


「セバスです。解呪を行う冒険者を連れてまいりました」


「入りなさい」


扉を開け部屋の中に入るセバス。その後をついて行くカル達。


部屋の中央には、大きなベットがありそこには小さな髪の長い少女が寝かされている。


ベットの横には、ドレスを着たご婦人と数人のメイド。


異様なのは、部屋の窓際や扉の横に多数の兵士が配置されているその光景だ。


「よいかお前達。ベットの横においでのご婦人は、ベント子爵様の奥方様のソフィア様だ。ベットに寝ておられるのは、ベント子爵様のご息女であるフラン様だ。くれぐれも阻喪の無いように」


ベットに寝かされている少女は、息も荒く高熱を出しているのか顔に多量の汗をにじませている。


ベットの横には、治癒士と回復士と思われる魔術が絶えず寝ている少女に向かって治癒魔法をかけ続けていた。


「では、早速だが解呪をお願いしたい」


執事のセバスがカル達に解呪の術を施す様に促す。


カルは、頭の中で黒龍の姿を思い浮かべる。だが、それは精霊界で出現させた大きな姿の黒龍ではなく、カルの知っている小さな黒龍の姿である。


”ポン”。


カルの頭の上でそんな音がしたかと思うと、カルの知っている小さな黒龍が頭の上に出現した。


その黒龍の姿を見た瞬間。部屋の中にいる兵士達が一斉に剣を抜く。


だが、剣を抜いた兵士達を見てもカル達は、動揺などせずに淡々と解呪の準備を続けていく。


レリアとクレアは、カルの頭の上に出現した小さな黒龍にカルが聞いたことの無い言葉で会話を始める。その聞きなれない言葉と身振りを交えて黒龍と会話を続けるレリアとクレア。


そして多数の兵士達が剣を抜いたまま、黒龍はベットで荒い息をする少女に近づいていくと、おもむろに少女の腹の中に小さな手を押し込んでいく。


小さな黒龍の手は、明らかに少女の腹の皮膚をえぐり内臓を弄っている。


黒龍の手が少女の腹の中で動く度に苦しそうなうめき声を発する少女。


「貴様達。フラン様に何をするか!」


数人の兵士がカル達に向かって剣を振りかざす。


その動きを察したレリアとクレアは、例の如く兵士の腹に重い拳の一撃を与える。


その拳の衝撃により悶絶する兵士達。


「おやめなさい。彼らは解呪を行っているのです」


ベットの横で娘の回復を待ち侘びるフランの母親であるソフィアが窘める。


黒龍は、フランの小さな腹の中をまさぐると、腹の中から拳ほどもある黒い魔石を取り出して見せた。


魔石は、黒い煙の様な瘴気を放ち少女の血を滴らせている。


部屋の中にいる者達は、その異様な光景に驚くばかり。


「カル。これが呪いの正体。誰かが呪いの術を魔石に閉じ込めてこの少女の腹の中に入れた様です」


黒龍が少女の腹から取り出した血が滴る魔石を見せると、皆が思わず目を背けてしまう。


「そっ、そんな事ができるの」


「それなりの術を知っていれば出来ます」


カルは、腰にぶら下げた鞄から黄色いラピリア酒(薬)が入った瓶を取り出すと、それを寝ている少女の口の中へと流し込んでいく。


徐々に少女の荒い息が落ち着いていく。


黒龍は、手に持った黒い魔石を口の中に放り込むとバリバリと音を立てながら食べてしまった。


「なっ、魔石を食べやがった」


「あの魔石は、呪いがかかっているんだろ。それを食うのかよ」


その異様な光景に部屋にいる者達が皆同様する。


「これで解呪は、終わりました。この黄色いラピリア酒(薬)が入った瓶を置いていきますから、少しづつ飲ませてあげてください。それで徐々に回復していくはずです」


黒龍は、カルの頭の上に乗ると静かに姿を消していく。


カル達は、一礼をすると部屋を出ようと扉へと向かった。


「まっ、待ってください。お願いです。数日でよいので娘の経過を見守ってはいただけませんか」


カル達の背後でフランの母親であるソフィアが立ち上がり、カル達を引き留めようと必死に懇願する。


「僕達は、解呪を引き受けましたが、その後の経過の観察については専門外です。そこにいる回復士さんと治癒士さんの方が僕達より詳しいはずです。一応ラピリア酒(薬)を置いておいたのでそれで回復できるはずです」


フランの母親であるソフィアは、部屋の扉の前へ小走りで歩むとカル達の前に立ちはだかる。


「お願いです、娘がまた呪いをかけられて苦しむかも知れないと思うとどうにもできないのです」


そう話すフランの母親であるソフィアは、そのままカルに縋りついてしまう。


その姿を見てさすがにこの場を立ち去る訳にもいかないと思ったカルは、数日だけこの屋敷に滞在する事にした。


その夜、屋敷に用意された部屋で休むカル達。


「レリア、クレア。あの呪いの魔石を少女のお腹に埋め込んだのは、いったい誰なんだろう」


「それなんですが、もうすぐ答えが分かると思います」


「えっ、それってどういう・・・」


レリアとクレアは、部屋の窓の外を見ていた。そこには屋敷の手入れの行き届いた庭が広がっている。


そして今まさにその庭に3体の飛竜が降り立つとろであった。


飛竜の背には、3人の男女が乗っており、ひとりは魔術師といった風情であり他のふたりは剣士が持つ武具を装備している。


屋敷中から兵士達のけたたましい怒鳴り声が響き渡り、兵士達が降り立った飛竜を取り囲む様に居並ぶと腰の剣を抜いていく。


「「「子爵様を守れ!奴らを逃がすな!」」」


飛竜の背から降りた3人は、飛竜を取り囲む兵士達の事など見向きもせず、兵士達の後ろにいるベント子爵へと視線を向けた。


「今日が約束の刻限だよ。あと1時間でお前の娘は、息絶えるがどうする」


兵士達の背後から現れたベント子爵は、そう話す魔術師の女性に対してこう返答した。


「私は、お前達の仲間にはならない。私の娘にかけられた呪いは、冒険者により解呪された。お前達の言う事を聞く必要などない!」


その言葉により兵士達は、一斉に魔術師と剣士に向かって剣を振り降ろした。


だが、何かの壁の様なものにより遮られ兵士達の剣は、魔術師と剣士に届く事はなかった。


「ははは。あの呪いが冒険者如きに解呪される訳がなかろう。それに私は、この場に魔法防壁と物理防壁を張っている。お前達にそれが破れるとでもいうのか」


”パリン”。


そんな音がベント子爵の庭に響き渡る。


そこには、頭に4本の角を生やしたふたりの少女がいた。少女は、拳を振り上げ魔法防壁と物理防壁をいとも簡単に破ってみせたのだ。


「なっ、何だと。生身の体で防壁を破っただと・・・」


レリアとクレアの拳の威力に絶句する魔術師。


そして魔術師の前に現れたカル。その頭の上には小さな黒龍が乗っている。


その姿を見た魔術師は、思わず声を荒らげる。


「黒・・・龍様。黒龍様。なぜ黒龍様がここに・・・。どっ、どうか命だけは!」


カルの頭の上に乗る黒龍の姿を見た途端、魔術師と剣士はおかしな言動と共に地面に倒れ込んでしまった。


兵士達は、倒れ込んだ3人を囲い体を揺さぶり起こそうとするが全く意識が戻らない。


兵士達は、気を失ったままの3人をベント子爵の屋敷内へと無造作に抱きかかえて行った。


「あの3人は、いきなり気を失ったみたいだけど・・・」


「しかも黒龍の事を”黒龍様”と呼んでました」


「まさか、この世界に他にも黒龍がいるんでしょうか」


カルとレリアとクレアは、お互いの顔を見合いながら”まさかね”という表情を浮かべながらの場を後にした。


さて、魔術師と剣士の3人が乗って来た飛竜はどうなったかというと、カルの盾の魔人が美味しくいただきましたとさ。




「すまない。ソフィアが君達を屋敷にとどめたのは、この件があったからなのだ」


「つまり、僕達が何とか出来るんじゃないかと考えたんですね」


ベント子爵の屋敷の一室にてベント子爵自らが事の経緯をカル達に話して聞かせた。


「実は、娘に呪いをかけた連中は、この国の他の諸侯のご子息やご息女にもお同じ様な呪いをかけているのだ」


「つまり、この国を乗っ取るために協力しろ。協力しなければ子供達を呪い殺すと」


「しかも・・・」


「この国の国王のご家族に同じことをしているという事ですね」


「察しがいいな」


「ええ。このやり方なら人質を取りながらも人質の面倒を見なくて済みます。しかも戦わずにこの国を奪う事ができます」


ベント子爵は、カルの顔をじっと見つめ何かを言いたそうな顔をしている。


カルは、ベント子爵が何を言いたいのか察しててはいたが、それをあえて口には出さずにいた。


「すまん。解呪を行ってもらいその術者まで捕らえてもらった上で、こんな事を言うのは何なのだが我らに協力をしていただけまいか」


「それは、呪いをかけた術者達と戦えという意味でしょうか」


「単刀直入に言う。そうだ。ぜひ我々と戦ってはくれまいか」


予想した通りの言葉を発したベント子爵。だが、カルがこの大陸で起きている事件に首を突っ込む理由が何も無い。


「僕達は、この大陸の人間ではありません。この大陸に来てまだ数日しかたっていません。それなのにこの大陸の政争というか、そのごたごたに巻き込まれたくないというのが本音です」


「そうだな。一介の冒険者に国のごたごたにつき合えと言う方が無理であったな」


「申し訳ありません」


カルは、あえてこの件に首を突っ込まない事にした。ただ、カルが首を突っ込まなくても向こうから首を突っ込んでくれば、それは別な話である。


カルは、ベント子爵からクエスト完了のサインを貰うと、次の日の早朝にベント子爵の屋敷を後にした。


だがベント子爵は、カル達をそう簡単に帰すはずがなかった。


「よいか。彼らの後をつけよ。それと伯爵様に大至急伝えるのだ。解呪が出来る者が現れたと」


子爵の命を受けた者達がベント子爵の屋敷から次々と出て行く。


ある者は、カル達のあとを人知れず追い、ある者は伯爵の屋敷へと急行した。


この国で起きていた騒動が動き出すきっかけとなった事件の始まりであった。




カル達は、クエストを受けた冒険者ギルドに戻る予定であった。だが、せっかく来た見知らぬ土地である。


道すがらに聞いた名所を周りながらのんびりと冒険者ギルドへと向かう事にした。


そしてカル達を追っていた冒険者達はというと、ベント子爵の屋敷近くでカル達が出て来るのをひと晩中待っていた。


夜を徹してカル達を追った事で疲れ果ててしまい、見張り役の者も朝までぐっすりと寝入っていた。


そのためカル達がベント子爵の屋敷から旅だった事もしらずに、屋敷近くの茂みの中でずっと見張りをする羽目になった。


「ガレイさん、やつら屋敷から出て来ませんね」


「くそっ、きっと今頃フカフカのベットで寝ていやがるに違いない」


「きっと美味いものでも食べてるんですよ」


「くそ。”街おさ”の命令だからってこんなところまで奴を追って来たが、これじゃ貧乏くじを引いたのは、俺達じゃねえのか」


カル達を追って来た冒険者達がベント子爵の屋敷にカル達がいない事を知るのは、それから3日も経ってからであった。


低ランク冒険者ばかりで編成された追手である。経験不足が招いた当然の結果であった。




名所を回って観光を楽しんだ後、冒険者ギルドに戻って来たカル達。


当然の様に街に入った時から他の冒険者達の目が血走っている。だがカル達は、多数の冒険者の殺気を感じながらも堂々を街中を歩いていく。


街角から腰にぶら下げた剣を抜こうとする冒険者や魔法を放とうとする冒険者の気配を幾度も察知するレリアとクレア。


その度にレリアとクレアが目にも止まらぬ速さで移動すると、その冒険者の腹に拳を叩き込んでいく。


彼ら冒険者に見えるのは、拳を撃ち込んだ瞬間に目の前に現れるレリアとクレアの姿だ。


例え剣を抜く素振りをレリアとクレアの真後ろで行ったとしても、次の瞬間には防具に”拳の形をしたへこみ”が出来るのだ。


鎧が変形する程の打撃を喰らった冒険者達は、立つこともできずその場で悶絶して倒れ込む。


レリアとクレアが放つ拳は、回復魔法や治癒魔法でどうこう出来る怪我では済まない。たった一発の拳で数週間も動けなくなる程の衝撃を内蔵に叩き込むレリアとクレア。


この街の冒険者達は、既に半数以上がレリアとクレアの拳で動けなくなっていた。




カル達は、街の冒険者ギルドの館へとやって来た。ギルドにやって来た理由は、クエストの完了を報告するためである。


「申し訳ありません。実は、カル様にお詫びする事があります」


冒険者ギルドの受付カウンターに依頼の完了を告げる前に受付嬢にそう言われたカル。


「実は、冒険者Bランクへの昇格は認められないと本部から通達がありました」


その話を聞いても特に反応を示さないカル。


「そうだと思ってました。ルイード大陸の冒険者ギルドでも、Fランクの冒険者がいきなりBランクに上がれる仕組みは特例を除いて無かったはずです」


「実は、その特例についてなんですが・・・」


「領主の承認が必要・・・ですね」


「はっ、はい。よくご存じですね」


「僕。これでも領主ですから」


「えっ、領主?何の話でしょうか」


「あっ、いえこちらの話です」


「この街の”街おさ”のご息女は、カル様の盾の魔人というのでしょうか。その魔人に身ぐるみはがされた事を大層恨んでおいでで・・・」


「先日、ここで受付をしていたあの若い女性ですね」


「はい。その件を父親である”街おさ”からこの街の領主であるケルハム男爵様に伝えられたとの事です」


「つまり男爵が僕を捕らえに来ると、そう言いたい訳ですね」


「はい。ですので早くこの街を出ていかれる事をお勧めします」


受付カウンターに座るギルドの女性職員は、申し訳なさそうな顔でカルにそう話した。


「ご忠告感謝します」


カルは、そう言い残すと冒険者ギルドを後にした。


カルの冒険者ランクは、BランクからDランクへと格下げになった。それでもFランクからDランクへ2ランクアップである。


だたカルからしてみれば、冒険者のランクの事を特に気にしている訳ではない。


ランクが高ければ、それだけ重要なクエストを受けられる。それにより得られる情報は、貴重なものだという事を、今までクエストを発注する領主の側の立場として知っていた。


この大陸でどんな事が起きているのかを知る上では、高ランクのクエストを受ける事こそが最も近道であると。


だがDランクに落ちてしまったカルには、そういった情報を得られる立場では無くなってしまった。


子爵のご息女に呪いをかけた者達については、かなり気になっていたカルではあったが、その件に関われる立場では無くなったし、この国のごたごたに首を突っ込まないと決めたのだ。


この大陸から城塞都市ラプラスに戻るためにリベの港に向かうべきと考えていた。


その時、まだ日が高いというのに街に影が落ち始めた。


カル達は、その陰を作る何かに向かって視線を空へと向けた。とそには見慣れた浮遊城が浮かんでいた。


街の上空に現れた浮遊城を懐かしくすら思えるカル。だが街の住民達は、初めて見る浮遊城である。それを見て慌てふためく住民達。


カル達は、その光景を横目に見ながら浮遊城が街の外へ降りて行く様子をみつつ、その場所へと向かう。


浮遊城に乗っているのは、恐らくメリルとライラ。それにゴーレムのカルロスⅡ世。


街の外に着陸した浮遊城は、以前と何ら変わらない姿をしている。


浮遊城の足元へとやって来たカルとレリアとクレア。


そこに現れたのは、やはりメリルとライラとゴーレムのカルロスⅡ世。さらに精霊神お猫サマの姿もあった。


「えっ、お猫サマまで来たんですか。精霊界への扉の守護はいいんですか」


「いいにゃ。カルに精霊樹の復活を依頼しておきながら、荒地に放り出す連中なんが糞喰らえにゃ」


お猫サマのその言葉が心に染みわたり思わず涙がこぼれるカルであった。


解呪クエストを完了したカルでしたが、Bランク冒険者からDランクに格下げになりました。


とはいえ、メリルとライラが浮遊城で迎えに来てくれました。


さて、すんなりと城塞都市ラプラスに戻る・・・はずがないですね。


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