162話.捜索隊
カルを探すメリルとライラ。
メリルとライラは、カルの行方を捜すべく精霊の森の精霊や精霊神お猫サマに掛け合って、精霊界でカルの探索を行う様に何度も要請を行った。
精霊の森の精霊も精霊神お猫サマも精力的に動いてくれたが精霊界からは、あまり良い返事はなく既にカルが行方不明になってから数日が立っていた。
最後の望みを託して精霊界へと乗り込むつもりでいたメリルとライラであったが、ライラがふとこんな事を言い出した。
「私達を精霊界から連れ出してくれたのは、妖精達ですよね。でもカルさんがいなくなったというのに、なぜか妖精達は冷静です。それが腑に落ちません」
ライラの言葉に考え込むメリル。
「言われれば確かに変だ。私達にすら扉を使ってこの世界に戻って来れる様にと準備している妖精達が何もせずにカル様を放置するはずがない」
メリルとライラは、城塞都市ラプラスの隣りに広がる精霊の森へと向かい精霊の森にいる妖精達に話を聞いてみた。だが、どの妖精も何も知らないという。
「全ての妖精が事情を知っている訳ではないようです。何か知っている妖精となると・・・」
「「妖精の国の妖精達!」」
メリルとライラは、精霊の森から城塞都市ラプラスより少し離れた場所に置いてある浮遊城へと向かい、浮遊城に乗って妖精の国へと向かった。
「妖精達は、何かを知っています。知らないはずがありません」
「私もそこに気が付かなかった。あの妖精達がカル様を放置するはずがない」
程なくして精霊の国へとやって来たメリルとライラ。
妖精の国の城の脇に置いてある精霊達の浮遊城の隣りにカルの浮遊城を着陸させると、メリルとライラは、妖精達が世界中に設置していると自慢している大小さまざまな扉が置いてある大広間へと向かう。
そこで忙しく動き回る妖精のうちの1体をわしづかみにしたメリルは、髪の毛を無数の蛇へと変化させ目を赤く光らせた。
メリルは、感情の高ぶるままに魔人メデューサへと変化していた。
「妖精。カル様がどこにいるか教えろ。教えなかったら石化する!」
メリルは、妖精達のお願いとか依頼とかそんな悠長な事をする気などさらさら無かった。
その光景を見ていた多数の妖精達は、何故か騒ぐ事もなく相変わらず忙しそうに動き回っている。
魔人メデューサと化したメリルに握られた妖精も、特に騒ぐわけでもなく何処からか出したメモ帳に小さなペンで何かを書くと、それをメリルに見せる。
”来るのが遅い。もっと早くに気が付くべきだよ”。
妖精の書いたメモ書きを見たメリルとライラは、妖精が何かを知っていると悟った。
「貴方達は、カル様が何処にいるか知っているのですね」
魔人メデューサと化したメリルに捕まれた妖精は、メモ書きを続けるとそれをふたりに見せる。
”知りたい?”。
何故か勿体ぶる妖精。
「いいから早く教えろ!」
妖精の態度に思わずいら立ちを覚えるメリル。
”カルの浮遊城に行こう。そこで教えてあげる”。
妖精の書いたメモ書きを見てライラと魔人メデューサと化したメリルは、妖精を手に握ったまま浮遊城へと戻った。
ふたりは、浮遊城を浮かせるための魔石が設置されている制御室へと入る。
そこには、妖精達が設置した大きな硝子の板が無数にあり、メリルやライラでは読むことの出来ない妖精語が映し出され、地図らしき絵がいくつも映し出されている。
魔人メデューサから人族の女性の姿に戻ったメリル。そしてメリルに掴まれた妖精が制御室に設置された硝子板のひとつを指差した。
妖精が指差す方向を見ると硝子板に何処かの地図らしき絵がいくつも映し出され、そこに何か赤く光る点が点滅している。
「あれが何だというのだ」
「そういえば、この浮遊城の制御室には、いろいろな絵が映し出されていますが私達は、それが何を意味するものかさっぱり分からないのです」
メリルとライラの言葉に思わず大きなため息をつく妖精。
するとメモ帳にペンを走らせそれを見せる妖精。
”カル用の浮遊城が出来てからずっとあそこに映し出されているものが何か知らなかったの”。
妖精が差し出したメモ書きには、妖精の勿体ぶった様にそう書かれている。
「ええい。いいから答えを言え!」
メリルに握られたままの妖精は、肩で大きく息をするとメモ書きを始める。
そのメモ書きを見たメリルとライラは愕然とした。
メリルに握られた妖精は、先程指差しした絵が映されている3つの硝子板に向かって何かの指示を出す。
するとふたつの硝子板には、浮遊城の制御室が映し出され、もうひとつには何処かの屋敷内の部屋とふたりの少女の姿が映し出された。
「これが何だというのか」
メリルは、素っ気ない言葉を吐いたがライラは、ある事に気が付く。
「もしかして、この絵って私達が見ているものが映されているのですか」
”正解!”。
ライラに捕まれた妖精は、。どや顔でメリルとライラに胸を張る。
「待ってください。つまりふたつの絵は、私とメリルさんが見ている風景だとしたら、もうひとつの風景、何処かの屋敷の部屋みたいな場所は・・・」
”カルが見ている風景だよ”。
妖精が書いたメモ書きを見て思わず妖精を握る手に力が入るメリル。
「なっ、何だと。ではカル様はご無事なのだな」
力を込めて握られた妖精は、思わず悲鳴を上げてしまう。
「すっ、すまん。悪かった。つまり以前から私達が何処で何をしているのか、何を見ているのかがあの硝子板に映し出されていたのか」
”正解!”。
妖精の書いたメモ書きを見て思わず項垂れるメリルとライラ。そして妖精を握る手の力を緩めるメリル。
「すまなかった。だがカル様は、いったい何処にいるのだ。教えて欲しい」
メリルの言葉に妖精は、制御室に設置されている一番大きな硝子板にカルが見ている風景を映し出すと、そこが何処なのかを示す地図も併せて写し出した。
硝子板に映し出された地図は、徐々に小さくなっていく。そしてその地図は、何処かの大陸の様な絵に変わっていく。
「あれは、何処なのだ。私には分からない」
そう話すメリルとは裏腹に何か心当たりがあるライラ。
「私、知っています。あれはルイード大陸です。大型の船でも1ヶ月もかかる遥か彼方にあります」
「なっ、何だと。なぜそんな場所にカル様がいるというのだ」
”詳細は、カルに聞くといいよ。ひとつだけ言っておくけど、カルのいる場所に扉を使って行けるのは、僕達の様に体の小さな妖精だけだからね”。
要請が書いたメモ書きを見て唖然とするメリルとライラ。
「つまり今すぐカル様に会える訳ではないのだな」
”そういうこと”。
「なら、カルさんに会いに行きましょう。私達には、この浮遊城があります。これなら大型の船で1ヶ月もかかる場所でも数日もあれば到着できます」
”本当に行くんだね。なら僕達も一緒に行く。あの大陸にも扉を設置したいってい思っていたんだ”。
メリルとライラは、浮遊城で城塞都市ラプラスへ戻ると慌てて水と食料を買い漁り浮遊城へと運び込んだ。
今までメリルとライラのふたりだけで行動した事はなく、絶えずカルと行動を共にしてきた。
何かあればカルが何とかしてくれる。カルの魔人達もいる。そう考えていたところも無きにしも非ずである。
メリルとライラは、今までカルと共に歩んで来た鬼人族のルル、リオ、レオには、もう頼れない気がした。
そうでなくても城塞都市の運営を任され正式な貴族となった者達にカルを探すという理由で何日も、いや何週間かもしれない旅に出ようと言える訳がない。
そう考えたメリルとライラは、水と食料を積み込んだ浮遊城を夕刻の城塞都市ラプラスからひっそりと飛び立たせた。
浮遊城の制御室でたったふたりだけの旅立ち・・・。
そんな寂しげな干渉に浸っていたのも束の間。
いつ間にか何処からか集まって来た妖精達は、制御室の硝子板に映し出される絵を見ながら黄色いラピリア酒(薬)を飲み楽し気に歌い踊り大騒ぎを始める。
その光景を見たメリルとライラは、大笑いをする。
「今回ばかりは、カル様を探してライラとたったふたりだけの旅だと思ったが、まさかこれ程の大所帯になるとは思わなかった」
「妖精達は、私達がカルさんを探しに行くのをずっと待っていたんですね」
妖精達が歌い踊りそれを楽しそうに眺めるメリルとライラ。
その時、制御室の扉が勢いよく解き放たれると扉の向こうからある者が現れた。
「面白そうにゃ。お猫サマもまぜるにゃ。”混ぜるな厳禁”なんて水臭いにゃ。国境の森に一緒に行った仲間にゃ」
「えっ、でも精霊界への扉の守護のお仕事は?」
「扉には鍵をかけて来たにゃ。恩知らずの精霊界なんてどうでもいいにゃ。お猫サマは、カルの方が大切にゃ」
お猫サマの言葉に思わず涙を流すメリルとライラ。
夜風があたる浮遊城の城壁には、精霊界の扉を守っているはずの神獣なめくじ精霊の姿もあった。
日が落ち夜空には星々が煌めく。
夜空を進む浮遊城は、あちこちに配置された魔法ランタンのゆらめく灯りが実に綺麗であった。
カルを探すメリルとライラに妖精達と精霊神お猫サマも”なめちゃん”も加わりました。
カルがいるルイード大陸は、城塞都市ラプラスがあるギルベア大陸とは惑星の反対側に位置します。
さて、予定になかったお話を書いておりますが、腰が痛くて痛くて・・・どうしたものか。