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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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160話.街へ

とりあえずこの場所が何処なのかを知るために街を探す事にしたカル。


岬の突端にある火龍の住処となっている洞窟を出たカル。


当然の様に何処かに繋がる道などなく、生い茂る草木を避けながら進む。


「何処かの街に出てここがどこなのか聞かないとね」


カルの言葉にレリアとクレアが同時に話し出す。


「「カルは、街に行きたいの?」」


「うん。いろいろ調べたい事があるんだ」


「「なら、こっち」」


「えっ、街がある方向がわかるの」


「「うん」」


レリアとクレアは、木に登ったり岩山に上ったりと人の姿になっても地龍の時の様な身のこなしで素早い動き話見せ、遥か遠くの景色を見て街を探している。


カルも大盾を持っていても他の人とは比較にならない程足が速いのだが、レリアとクレアには全く追いつけない。


「うーん。こっちが近道だけどカルの足だと行けないかな」


「そうね。谷があるから無理ね。遠回りしましょう」


レリアとクレアは、カルの少し先を歩いている。するとなぜかカルの身長程もある草が綺麗に刈られていく。


レリアとクレアの手元を見ると手の爪が長く伸び、それで草を刈っているようだ。


その光景を不思議そうに見るカル。そしてそのカルの視線を感じてにんまりとするレリアとクレア。


「「爪がめずらしい?」」


「長くてよく切れそうだなって思って」


するとレリアとクレアは、手の爪を自由に伸ばしたり縮めたりしながら枝や石を切ってみせる。


「「切れ味も凄いの。地龍の爪は何でも切れるの」」


同じ顔がふたつ並び、それが同時ににんまりと笑顔を見せる。何とも不思議な光景である。


太陽が空の真上に差し掛かった頃、草原を抜けて森へと入った。


木々により木陰が多くなり足元は、背の低い草に変わりかなり歩きやすい。


「「もう少し行くと道に出るよ」」


「えっ、そんな事まで分かるの」


「いろんな人の匂いがするの。それに魔獣もいるの」


程なくしてレリアとクレアは、少しだけ姿を消すも直に戻って来る。そして手の爪に串刺しにされた狼をカルに見せる。


「狼。さっきから私達を狙ってたの」


クレアが見せた狼を見て、今になって周囲の警戒を始めるカル。


「狼。狼って群れで行動するはずだから、まだ近くにいるのかな」


カルの問いかけに山と積まれた狼を見せるレリア。


「もういない。全部狩ったから」


その光景を見て驚くカル。


「もしかしてレリアとクレアって強いの」


「「地龍だもん。弱かったら龍族の名折れ」」


「そっ、そうだよね」


レリアとクレアの姿は、頭に4本の角が生えているものの人族の少女の姿をしている。


手足も細く見た感じでも細い体つきをしている。あの体のどこに速く走る力があり、群れの狼を狩れる力があるのか不思議に思う。


カルは、レリアとクレアが狩った狼を腰にぶら下げた鞄にしまい込みながら、ちょろちょろと動き回るレリアとクレアを目で追っていく。


「この道を下っていけば街に出るよ」


先行したレリアがカルに向かって大きな声を張り上げる。


「ここらだとあの山の陰に隠れて街が見えない」


クレアは、大きな木へと登りその先端で周囲の景色を見て状況を教えてくれる。


3人は、ゆっくりと森の木々の間を通る道を進む。


レリアとクレアは人の匂いがすると言っていたが、この道を人が通ったのは2日程前だという。


やはり地龍の身体能力は、カルと比べる迄も無くかなり優れている。


そして途中の道端で休憩がてらお昼をとるカル達。


すると空を見上げて警戒を始めるレリアとクレア。そのふたりの姿を見て大盾を構えながら木に陰に隠れるカル。


レリアとクレアの目線を追って空を見上げてみると、空を飛ぶいくつもの龍の姿が視界に入る。


「あれは龍・・・でも何だか小さいし姿が違うような」


「「飛竜。飛竜の群れ」」


カルの言葉にレリアとクレアが答える。


「「しかも人が乗ってる」」


カルには、日差しが眩しくて飛竜に人が乗っているところまでは見えなかった。


「へえ、人が乗る飛竜かあ」


山の陰に隠れて見えなくなる飛竜の群れを目で追いながら道を下っていく3人。


しばらくして山影に隠れる様にひっそりと佇む街が見えて来る。そこで目にした光景は、城壁が壊れたみすぼらしい街であった。


カルは、自身が領主を務める城塞都市ラプラスの様な街を想像していた。だが目の前の街は、規模も建物もどう見てもそれの1割にも満たない規模の小さな街であった。


「うわー。小さくて何だか荒れている街だな」


「「この街には、さっきの飛竜の匂いがする」」


カル達は、少し警戒しながらも街へと向かう道を進み、崩れた城壁の横を通り城門を抜ける。


いつもなら兵士が城門を守り、城壁の上には武装した兵士達がいるのだが、ここにそんな兵士はいない。


そしてそこにいるのは、腰に剣をぶら下げ小盾を装備した冒険者風の集団であった。


その集団の横を緊張しながら通り抜けるカル達。冒険者風の集団は、カル達に対して一瞬だけ目線を送ったが、金目の物を持っていないと見えたのか、絡まれる事もなくカル達を通してくれた。


普段ならカルの持つ大盾が金になると見ると、難癖をつけて来る輩が多い。


カルもそれを何度も経験しているせいか、大盾にぼろきれを撒き以前に行商人から買った安物の盾や剣を大盾にくくりつけてそれらしい姿で街へと入っていく。


街へと入ると住民に冒険者ギルドの場所を聞き、冒険者ギルドでこの辺りの情報を探す事にした。




街の冒険者ギルドの館に入るカル達。


壁に貼られているクエストの張り紙の文字は、見た事のない文字であった。だが、なぜかそれが読めてしまう。


不思議に思いながらもギルド内を見て歩くカル達。


すると壁に大きな地図が張ってあり、馬車で移動できる街や村が詳細に記されている。


地図に記してある街や村の名前を見ては、自身の記憶を探るカル。しかし、似たような街や村の名前などいくらでもある。


今度は、湖や山の名前から記憶にある場所を探してみると、やはり知らない名前ばかりであった。


カルは、冒険者ギルドのカウンターへと向かうと受付嬢に話しかけてみる。


「すみません。この冒険者証なんですけど使えますか」


「いらっしゃいませ」


受付嬢の作り笑いにカルも逞しく笑顔で返す。


「ちょっと・・・お待ちください」


受付嬢は、カルの冒険者証を手に取ると、カウンターの奥へと向かいギルドの職員と何やら話始める。


そしてしばし待つと受付嬢がカルの冒険者証を持ちカウンターへと戻って来た。


「えーと、この冒険者証なんですがギルベア大陸の冒険者ギルドのものですね。ここでは、この冒険者証は使えません。もし、冒険者として仕事をお探しでしたら冒険者ギルドに新規登録する必要があります」


「ギルベア大陸?」


その言葉を聞いた事が無かったカル。カルは、城塞都市の領主をやってはいるが、以外と無頓着で知らない事の方が多いのだ。


「えーと、つまりここはギルベア大陸?ではないのですね」


「はっ、はい。ここは、ルイード大陸です。ギルベア大陸へは、大型船で1ヶ月程かかります」


「えっ、1ヶ月ですか!」


「えっ、あなたは、船でこのルイード大陸に来たのではないのですか」


カルは、少し考え込む。


「えーと、そのギルベア大陸に行くには、どうしたらいいですか」


「そうですね。ここから乗合馬車を乗り継いでリベという港町に行けば、ギルベア大陸へ行く船が出ているはずです」


「リベですか」


「はい。乗合馬車を乗り継いで1ヶ月もあれば到着します」


「えっ、また1ヶ月ですか」


「はい」


ガックリと項垂れるカル。


「あのー。冒険者証、どうされますか」


「あっ、作ってください。でも僕、ギルベア大陸のお金しか持ってないです」


「それは困りました。何か換金できるものはないですか」


「そうですね。例えば、あそこの壁の1番上に張ってあるんですが、Aランク冒険者向けのクエストで1kgのミスリルを納品できれば、ルイード大陸で使える共通金貨1万枚になります。そのお金で冒険者証を作るというのはどうでしょうか」


満面の笑みを浮かべながらそう話す受付嬢。


「あの、僕がミスリルを持っている様に見えますか」


「見えません。持っている”はずがないですよね」


カルは、この受付嬢は食えない人だと理解した。だがこの受付嬢は、カルの恐ろしさを知らなかったのだ。


腰にぶら下げた鞄をまさぐり、小さな袋を取り出すカル。そしてその袋をカウンターの上に置き、袋の口を縛る紐をほどいていく。


「はい。ミスリルです。つまり、これを納品すればAランククエストを完了した事になるんですよね」


「えっ、えっ、えっ、ちょっとお待ちください」


カルがカウンターに置いた小さな袋から見える鈍く光る金属の粒。それを見て思わず動揺する受付嬢。


「あっ、あの、これを鑑定してもよろしいですか」


「ええ、ただし、預かり証を書いてください。持って行ったきり知らないでは済まないですから」


「預かり証・・・ですか」


こういったところは、領主となった事で慎重になった証である。


受付嬢は、カルから渡された小袋を持ち冒険者ギルドの奥へと進み、鑑定スキルを持った職員に小袋を渡す。


その小袋を渡された職員は、動揺した素振りを見せながらカルの元へとやって来ると、冒険者ギルドの奥にある応接室へ入る様にと促していく。


カル達3人は、ギルドの職員に促されるまま案内された部屋へと入り応接椅子に座る。するとお茶と山盛りにされたクッキーが大皿にどっかと出される。


それを不思議そうに見つめるレリアとクレア。


そしてギルドの職員が唐突に話始める。


「あの袋のミスリルを何処で手に入れましたか」


そう話すギルドの職員の顔は、一見笑っている様に見えるが目は全く笑っていない。


「えーとですね。僕は、ギルベア大陸・・・そうギルベア大陸から来たんです。そこで仕入れたんです」


「ギルベア大陸ですか。でもミスリルの特品なんてどうやって精錬したんですか。それも99.99%のミスリルですよ」


「そっ、それは言えません。商売の秘密を明かすなんて出来ませんよ」


「そっ、そうでした。失礼しました。ですがミスリルの特品なんて初めて見たものでつい・・・」


「そうですか。あれは、ドワーフの名工に精錬してもらったんです。僕もまだ見習いの商売人なんで世界を見ながら商売の種を探して歩いているんです」


カルは、お茶と安いクッキーで潤した口が程よく嘘を連発する。本当の事を言ったところで誰も信じるはずがないのだ。


カルが城塞都市の領主だなんて言ったところで。


暫くするとカルとレリアとクレアの冒険者証と、クエスト完了の褒賞が革袋にれられて目の前のテーブルに置かれる。


「これが・・・その冒険者証です。あの・・・カル様のジョブが・・・その大神官となっております」


「えっ、大・・・神官ですか」


「はい。先ほどのお話で商人だとばかり思っていたもので」


「あっ、ああっ、僕の家は、代々教会で使う宝飾品を納品しているんです。それで僕も家の商売をしながら教会で働いているんですが、親の七光り・・・で、そのいろいろありまして」


「そっ、そうですね。教会もいろいろありますからね。ははは・・・」


なぜかカルと冒険者ギルドの職員の間で乾いた笑いが沸き上がる。


実は、どの国でも教会というのは、汚職と賄賂の巣窟なのだ。冒険者ギルドの職員ともなると、教会の裏の汚い世界をよく知っていた。なので下手に口を出すと危険に晒される事くらい知っていた。


「でっ、では、レリア様とクレア様の冒険者証を・・・えっと・・・種族が・・・その、龍族とあるのですが」


レリアとクレアは、頭に生えている4本の角をギルド職員にまじまじと見せる。


「あっ、龍族ですか。そうですね。こういった事に口出しをしてはいけませんね」


ギルド職員は、聞きたい事が聞けずにうなだれているが、それにいちいち反応する気になれないカル。


「あっ、そうでした。カル様は、Fランクですが今回Aランクのクエストを完了されました。本来ならありえない事なのですが、もし、もし仮にですが、またAランクのないしBランクのクエストを完了されますと、特例でBランクないしはAランクに昇格できます」


「そうなんですか。でもそんな事はめったにない事ですよね」


「そうです。Fランクの冒険者がAランクのクエストを完了するなんてあり得ません」


カルは、ニコリと笑いながら応接椅子から立ち上がる。するとギルド職員も立ち上がりお互い笑顔を見せながら部屋を後にした。何だかお互いをけん制し合う様な地度である。


応接室を出たカル達は、冒険者ギルドのカウンタのあった場所へと戻って来ると、ギルド職員が何やら揉めている。


「だっておかしいですよ。あんな子供がミスリルの特品を持っているはずがありません。あれは絶対盗品です!」


「突然何を言い出すのです。子供がミスリルを持っているから盗品だなんて」


ギルド職員同士で揉めている。その片割れは、さっきまカウンターでカルに対応していたあの受付嬢であった。


「あっ、ミスリルの盗品を持って来た泥棒!」


いきなりそんな言葉を放たれたカル。そしてその言葉を放ったのは、カウンターで対応したあの受付嬢である。


その言葉に思わずきょとんとなるカル。


「冒険者達。あの泥棒を捕まえて!」


ギルド職員の言葉に剣を抜き魔法杖を構え詠唱を始める冒険者達。その数ざっと50人。


そして頭を抱える他のギルド職員。どうもこの受付嬢は、猪突猛進型の人の様である。


お約束です。冒険者ギルドに来たらもめ事は必須です。


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