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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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157話.精霊界へ(2)

精霊界のどこかの荒地に放り出されたカル。


強風吹き荒れる荒地に放り出されたカル。さっきまであったはずのトイレの扉も消え、この先どうすればいいのか分からず途方に暮れいた。


「あっ、トイレトイレ・・・」


周囲を見渡してもトイレなどない。仕方なく荒地のど真ん中で用を足すカル。


「あのっ、誰かいませんか・・・、用を足したので戻りたいんですけど」


そう何度か叫んでみたものの、返事など返ってくるはずもなく。


最初、精霊はこんな荒地で用を足すのかと考えたカルであったが、これが精霊による仕打ちである事をトイレの扉が閉まる時に微かに聞こえた声を思い出しようやくと理解した。


「こんな寒い強風の中にいたら凍え死んじゃうよ。とにかく風を凌げる場所を見つけないと」


何か建物か森でもないかと荒地を見渡してみると、遥か彼方に山とその麓に枯れた木々の茂る森の様なものが見える。


「とにかく、あそこに行こう」


カルは、腰にぶら下げた鞄から黒いローブを取り出しそれを羽織る。


”ピィ、ピィ”。


不意にカルの頬を誰かに舐められている感覚を覚えた。それは、背中に背負った鞄の中にいる地龍の幼体であった。カルは、地龍を入れた鞄を背負ったままトイレに入っていたのだ。


「ごめんね。こんな寒い所に連れて来ちゃって」


背負っていた大盾を地面に置き、ローブに袖を通しフードを深々と被り鞄を背負い直すと、山と森に向かって歩き始める。保存食と水、それにラピリア酒(薬)は、腰にぶら下げた鞄の中にあるので問題ない。


着換えや毛布も鞄の中。それに地龍達に食べさせるミスリルや魔石も持っている。


問題は、ここが精霊界のどの辺りなのか皆目見当もつかないということ。


今までの精霊達の言葉を思い出してみれば、こんな事を冗談でやっているとも思えない。


そして問題がもうひとつ。精霊から渡された首飾りの魔石を確認すると、既に魔石の殆どが赤色ではなく灰色に変色している。


「あれ、この首飾りって48時間持つからふたつで96時間は大丈夫なはず。今は12時間ほど立ったから・・・」


そこでカルは気付いた。この首飾りも精霊が言った様に本当に48時間持つとは限らないという事を。


つまりカル達に渡した首飾りは、最初からそんなに持たない粗悪品を渡したのではないか。最初から全てに悪意が満ちていたのだ。


とにかくこの強風の中にいては、体力が奪われて動けなくなる。ならばと風を凌げる場所へと急ぐカル。


強風により視界が悪く時より雨も混じる。さらに足元は荒地で石がごろごろしていて歩きにくい。


時より巨大な岩が並び行く手を遮る。さらに背負う大盾が強風にあおられて足がふらつく。


「こんな時、魔法が使えればって思うけど、出来ない事を言っても始まらないよね」


ときたま独り言を言いながら荒地を山に向かって歩くカル。


やがて日も陰りだし辺りが暗くなっていく。強風は、相変わらずだが雨が強くなり体温が徐々に奪われていく。


やがて山の麓に広がる森へとやって来たカル。


だが、森といっても木々は立ち枯れていてとても雨風を凌げる場所ではなかった。


完全に日が落ち周囲は、暗くなり足元が殆ど見えない。仕方なく腰にぶら下げた鞄の中から魔法ランタンを取り出し灯りを灯す。


魔法ランタンは、魔石に蓄えられた魔力を消費して淡く光る照明である。だが、灯りを灯せる時間もせいぜい12間程だ。それ以降は、再び魔石に魔力を蓄える必要がある。


立ち枯れた木々の中を歩いていくと、木々は徐々に葉を生やした巨木へと変わっていた。


それにより風は徐々に弱くなっていたが雨は、依然として降り続いている。


魔法ランタンを持つ手は、冷たく左右の手で交互に持ってはみるものの、強風の中を歩き続けたため既に体力の限界に達しようとしていた時、巨木の根本に雨を凌げそうなくぼ地を見つけた。


そこに入るとずぶ濡れのローブを脱ぎ、鞄の中から毛布を取り出してそれを被る。寒くて凍えそうな寒さではあるが暖を取る薪などなく、周囲には火もつかない濡れた枝が落ちているだけ。


仕方なく鞄の中で休んでいる地龍に魔石とミスリルを与え、カル自身も保存食を少しづつ口にする。


そんな時、何か急に眠気が襲って来た。歩き続けたせいで眠くなったのだと思ったカルであったが、首にぶら下げたあの首飾りに目を向けてみた。


すると首飾りの赤い魔石は、全て灰色に変色していた。慌てて予備の首飾りを首にかけてみるも、その首飾りの赤い魔石も半分が既に灰色に変色している。


「もしかすると残された時間は、そんなに多くないのかな・・・」


そんな言葉がふと口から出てしまう。


巨木の根本で毛布を被り体力の回復を待つカル。だが強風と雨の中を歩いたせいで体力は落ち眠気が何度も襲ってくる。


鞄から取り出した黄色いラピリア酒(薬)を少しだけ口に含み体力を回復させるが、ラピリア酒を飲んだところで首飾りの魔石があと何時間持つのかすら分からない。


カルは、大盾を見つめる。


「もしこの大盾の中の安全地帯かダンジョンに入れば生きて行ける。だけどそれって精霊界のこの場所から一生動く事が出来なくなくなるって事だよね」


カルの大盾は、カルの後をついて来る事はできる。カルが寝ている時に領主の館の食堂に行く事はできる。だが、大盾自身が自由に歩き回る事はできない。


もしカルが大盾の中に入ったら最後、死ぬまでその中で生きて行かなければならない。


途方に暮れながらも地龍達の入ったカバンをかかえ毛布にくるまるカル。


そして徐々に睡魔に襲われ、やがて静かに寝息を立て始めた。首飾りの魔石は、あと何時間持つのか。


足元に置いた魔法ランタンが淡い光を放ち、そんなカルを優しく見守っているかのようであった。




ふと目覚めるとカルは、ベットの上で寝ていた。


ベットから起き上がり周囲を見回すと、どこかの家の中であった。しかも精霊に案内されたあの宿泊施設とは違い、カルが住む世界の家の造りと大して変わらないものであった。


「起きたのね」


カルが寝ていたベットの前に置かれた椅子に老婆が座っていた。


「あっ、あの。僕を助けてくれたんですか」


「そうね。助けたというか、これから助けてもらうのというのが正解ね」


カルは、椅子に座る老婆を見る。するとカルが背負っていた鞄の中にいるはずの地龍達が、老婆の膝の上で気持ち良さそうに寝ていた。


「あれ、地龍達が気持ち様さそうに寝てる。僕と妖精さん以外になつかないのに」


「この地龍。あなたの?」


「はい、ダンジョンで生まれた卵が孵ったんです。それから僕と生活を共にしています」


「そう。凄く珍しい種族だから大切にしてあげてね」


「はい。でも、その地龍の種族とかってご存知なんですか」


「ええ、龍族に知り合いがいるの」


カルと老婆は、そんな話を続けた。そしてカルがどうしてこの精霊界へとやって来たのかも老婆に全て話した。


「大変な目に合ったようね。それでひとつお願いがあるの」


「助けてもらったんです。何でも言ってください」


「そお。ならあの山の中腹に洞窟があるの。そこに小さな泉があるからそこの泉の水を汲んできて欲しいの。私、歳で足が悪くて行けなくなってしまったの」


家の小さな窓からは、日が差し山が見えている。さらにその中腹には、洞窟の入り口らしきものが見えていた。


「そんな事でいいんですか。なら今から行ってきます」


「ちょっと待しなさい。この首飾りを持っていきなさい」


老婆が差し出した首飾りには、青く輝く魔石がぶら下がっていた。


「そういえば、僕の首飾り・・・」


カルの首にぶら下げられていた首飾りの魔石は、既に赤い色を失い全て灰色に変色していた。


「そっ、そんな」


「大丈夫よ。この青い魔石の首飾りがあなたを守ってくれるから」


老婆の言葉を信じカルは、老婆の住む家を後にする。


カルが着ていた黒いローブも乾いていた。きっと老婆が乾かしてくれたのだと心の中で老婆に感謝の気持ちを伝える。背中には、地龍の住処となっている鞄を背負いその鞄から頭を出す地龍達。


そしてカルは、目の前に佇む山の中腹を目指す。


既に雨も止み風も穏やかになっている。時より吹く風で少し肌寒く感じるがそれ程寒くは感じない。


カルが歩いて来た荒地は、石が転がり痩せた土壌が広がっていた。ところが今歩いている地には、草が生え葉を茂らせた木々もちらほらと茂っている。


カルは、なだらかな山の斜面を中腹へと進んで行く。


やがて老婆が住む家の窓から見えた洞窟の入り口へとやって来た。洞窟の入り口は、カルの身長の何倍もある広さを持ち、まるで龍の住処の様な佇まいであった。


カルは、腰にぶら下げた鞄から魔法ランタンを取り出すと、灯りを灯しその洞窟の中へと入っていく。




その頃、異変に気付いたメリルとライラは、精霊に案内された宿泊施設でカルの姿を必死になって探していた。


だが、カルの姿は部屋の中にはなく、部屋の前で待機しているゴーレムのカルロスⅡ世もカルの行方を知らずにいた。


そんな時、カルを探すメリルとライラに話しかけて来た精霊がいた。


「あの赤い液体は、どこで手に入る」


「赤い液体?」


メリルとライラは、赤い液体とは、赤いラピリア酒(薬)の事だと直に分かった。そして精霊は、カルが持っている赤いラピリア酒(薬)が喉から手が出るほど欲しがっていると。


「あれですか、さっきカル様が精霊樹にかけていた赤い液体の事ですね。あれは、カル様しか作れません。あれが欲しかったらカル様の居場所を教えてください」


メリルは、ここで嘘を言って精霊達の出方を探ってみた。


「なっ、なんだと。あれは手に入るものではないのか」


「そうです。カル様しか作り方を知りません」


精霊の顔色が明らかに変わった。メリルもライラもそれを見てカルに何かがあったと悟った。


「とっ、とにかくだ。あいつは用事があると言って先に帰った」


「帰った?どこにです」


「そっ、それはお前達原住民が住んでいる異世界だ」


メリルもライラも精霊が嘘を言っていると直に分かった。なぜなら、カルがいるはずの部屋の前には、ゴーレムのカルロスⅡ世が立っているからだ。


カルが移動するときは、ゴーレムのカルロスⅡ世も必ず同行する。カルがカルロスⅡ世を置いて帰るなど有り得ないのだ。


「わかりました。ですがもしカル様が帰ってなかったら、精霊神様にこの事をお伝えします」


「なっ、何だと!」


「私達は、精霊神様とは、それなりに縁があります。貴方達よりもとても信頼できるお方です」


「いっ、言わせておけば・・・」


精霊が手で握値拳を作り足が一歩前に出る。誰が見ても精霊が何をしようとしているか一目両全であった。


「それでは、我々は失礼します」


「ふん、まあいい。どうで我らがいなければ帰る事もできんくせに」


精霊のしたり顔がメリルとライラの顔を見てあざ笑っている。


「いえ、私達は帰り方を知っています」


「はいメリルさん。私達は、自分達の世界に帰りましょう」


精霊の思いとは裏腹にメリルとライラは、すたすたと歩き出すと、この精霊界へとやって来た時に使った扉へと向かう廊下とは正反対の方向へと歩きだす。


「カルロス。カル様は帰られたそうです。私達も領主の館に戻りますよ」


その言葉を聞いたゴーレムのカルロスⅡ世は、メリルとライラの後に続く。


「ははは。所詮原住民だな。記憶力も無いと見える。そっちに扉などないぞ」


「いいえ。ここで良いのです。ねえ妖精さん」


その時、精霊に背中を向けたメリルとライラの肩には、複数の妖精達の姿があった。


「まっ、まさか妖精!」


「ここへ来る道順は、妖精さんが覚えています。それにこの精霊界と私達の世界への直通の扉も妖精さんが用意してくれています」


メリルとライラ。それにゴーレムのカルロスⅡ世は、本来ないはずの廊下の壁に突然現れた扉を開けるとその中へと入って行く。


メリルとライラの肩に乗る妖精達は、精霊に舌を出し笑いながら扉の中へと姿を消していく。


「まっ、待て。あの小僧はとっくに死ん・・・」


精霊の言葉は、既に扉をくぐったメリルやライラには届くはずもなかった。




カルは、魔法ランタンの灯りを頼りに洞窟の中へと入ると間もなくり小さな泉を見つけた。


どこらともなく湧き出る泉の水を腰にぶら下げた鞄から空き瓶り出し、口のコルク栓を取ると泉の中に静かに沈めていく。


「そう言えば、どれくらい持って帰ればいいのかお婆さんに聞いてなかったな」


結局、いつも黄色いラピリア酒を入れている瓶に10本ほど泉の水を入れ、それを鞄の中にしまい込んでいく。


するとふいにカルの目の前を何かが横切っっていく。


「あれ、妖精・・・さん」


カルは、顔を上げて洞窟の中を魔法ランタンで照らしてみた。だが妖精の姿はなく、それ以外の生き物の気配もない。


「あれ、僕の勘違いかな」


カルは、泉の水でいっぱいにした10本の瓶を鞄にしまい込むと魔法ランタンを持ち、洞窟の入り口へと向かった。




「お前、そこで何をしている」


洞窟の入り口へと戻って来たカルに誰かが声をかけて来る。その声の主は、真っ赤な炎を纏ったかの様な巨大な赤い龍であった。


カルの知っている龍といえば、お酒が大好きな氷龍と風龍。それにセスタール湖に放した水龍の親子と背中の鞄の中にいる地龍である。


カルの目の前に現れた真っ赤な炎を纏ったかの様な巨大な龍は、カルの知っているどの龍よりも大きな体をしていた。そしてカルが理解できる言葉で話していた。


その巨大な赤い龍を見ても全く動じないカル。


しかも龍が人族の言葉を話す事に対して全く驚かない。それは、今まで出会った龍族の殆どが人族の言葉を話したからだ。例外と言えば、カルが背負っている鞄の中にいる地龍くらいである。


そしてこの泉に来た理由を目の前の巨大な龍に淡々と話すカル。


「この山の麓に住むおばあさんに頼まれて泉の水を汲みに来ました」


「ほお、あいつの知り合いか。それにしてもお前は、精霊ではないな」


カルの首には青い魔石の首飾りがぶら下がっている。巨大な赤い龍は、カルがしているその首飾りを見てそう判断した。


「んっ、お前、その青い魔石の首飾りとは別な首飾りをしているな」


「これですか」


カルは、以前に氷龍から酒代だと言って渡された氷龍の鱗を首飾りにしていた。さらに風龍からも同じ様に酒代だと言って渡された鱗も同じ首飾りにしていた。


カルは、そのふたつの龍の鱗で出来た首飾りをいつも身に着けており、それを巨大な赤い龍に見せた。


「なっ、なんという事だ。我らの同族の鱗を首飾りなどにしおって。お前は、我らの同族を殺してその鱗を首飾りにしおったな」


カルは、巨大で赤い龍の言っている事が理解できない。


「えーと、何を勘違いしているか知りませんがこの鱗は、氷龍さんと風龍さんから酒代として貰った・・・」


「ええい。そんな見え透いた嘘など信じると思うのか。そもそも酒代に鱗を差し出す龍族などいるはずがない」


「でっ、でも・・・本当に氷龍さんと風龍さんから酒代だと言って貰ったんです」


「わしは、お前に殺された同族の仇を取る。わしと戦え!」


カルの言う事に全く聞く耳を持たない巨大な赤い龍。


老婆に言われて泉の水を汲みに来たはずが、巨大な赤い龍と戦う羽目になったカル。果たしてひとりで龍と戦って勝てるのだろうか。


いや、カルには頼りになる?魔人達がいる。きっと助けてくれる・・・はずだ。


いきなり龍と戦う羽目になったカル。赤い龍と言えば火龍ですね。


※仕事が忙しく投降時間が遅くなりそうです。ご了承ください。


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