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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
155/218

155話.魔王国と諸々の事後処理

広げた風呂敷は、畳まないとね・・・というお話です。


魔王国での戦いは終わった。この戦いは、魔王国での内戦と位置づけられた。


この戦いで宰相に操られた魔王を助けたという事でルル、リオ、レオには、それなりの地位が約束された。


ルルは、子爵待遇から伯爵へと格上げとなり、リオとレオは、子爵待遇から正式な子爵へとなった。


ルルの領地は、城塞都市デルタ。リオの領地は、城塞都市アグニⅡ。レオの領地は、、城塞都市アグニⅠと正式に決まった。


今までカルが領主、ルル、リオ、レオが副領主という位置づけで共同運用してきた城塞都市であったが、爵位が正式に決まった事により明確に領地分けをせよとのお達しが魔王国から下った。


ただ、そうは言っても人材の確保や財源の問題もあり、各城塞都市の運営についてはルル、リオ、レオの3人で引き続き行う事となった。


さらに魔王国に新たに第5軍が創設され、ルルが将となりリオとレオが副将に選ばれた。


とはいえルルはまだ16才、リオとレオは17才の鬼人族である。とても数千の兵を率いる能力も実績も金もない。


当面の間、魔王国第5軍は南方辺境域を守る事を主任務とされた。つまり自分達の領地を守れという訳である。


まあ、魔王国に何かあったら兵を出せという都合のよい役職が割り当てられたという事である。


さて、カルはというと直前に国境の砦とその周辺地域を魔王国から譲渡されたため、報酬はなしであった。さらに地位も子爵待遇のままである。


今回の件に対してカルへの待遇がいまいちであったのには理由がある。それは、カルが人族であったからだ。


魔王国は、国の主要な職を人族以外に割り当てる習慣が続いていた。要は、人族を国の主要な職に就かせないのは、王国連合に有利なふるまいをさせないための措置であった。


それについてルルは、魔王国の大臣達に猛抗議をしたが受け入れられる事はなく、以後もそれが受け入れられる予定もない。


そして魔王国は、魔王が成人を迎えるまで妖精の国の属国となる道を選んだ。


屈辱的な決定であったが、未だに大臣の半分以上が元宰相の精神干渉魔法の影響下にあり、元宰相に加担した魔王国第2軍と第4軍の将は、責任を問われ自身の領地で謹慎を命じられた。


これにより魔王国は、国の兵力の半分を動かせない状態となった。この状態で王国連合との戦争になった場合、魔王国は滅亡へと邁進してしまう。


それを阻止するためにあえて妖精の国の属国となる道を選んだのだ。




妖精の国は、魔王国内にある小さな城塞都市である。しかも住民の殆どは、妖精でありごく少数の多種族が共に暮らす程度である。


そんな小さな妖精の国が魔王国と王国連合のひとつであるヘルタート王国を傘下に収めた。そしてヘルタート王国のほぼ9割以上の地域を占有するに至っていた。


残り1割の地域は、妖精の国と敵対する元ヘルタート王国の国王一族と元国王を支持する少数の貴族達の領地である。


妖精達は、あえてその地域を元王族達のために残した。妖精達が本気になれば、この大陸の全ての国を配下に収める事もできる。


それは、精霊界から拝借した魔術とこの世界の数千年先を行く精霊界のテクノロジーによるものだ。


ヘルタート王国の王城は、空から降って来た巨木により圧し潰され、見るも無残な瓦礫の山となった。その王城の城壁内を、妖精達の巨木が歩いている。それは、まるでこの王国の全ての民に対して力を誇示するかの様に見えた。


このヘルタート王国の新たな王となったのは、元国王に残務処理を押し付けられたフレーム子爵である。


妖精達に言わせれば、この国の新しい王は誰でもよかったらしい。つまり妖精達に従順に従う者で実務を遂行できる者であれば誰でもよく、丁度よさげな人材が目に前にいたので適当に王として祭り上げたのだそうだ。


ただ、本来であれば人族に妖精など見えないはずが、このヘルタート王国の貴族達には、妖精達が最初から見えていた。


その理由は、簡単であった。この国の貴族達は、以前からラドリア王国経由でラピリア酒を大量に購入していたのだ。


妖精達と戦場で戦った兵士達は、高価なラピリア酒など飲んだ事がないため、見えない妖精達を相手に戦う羽目になり、結果、見えない敵に惨敗してしまった。


そして残った貴族の中から残務処理を押し付けられたフレーム子爵は、言葉の通じない妖精達との意思の疎通に四苦八苦する事になり、妖精達も言葉の通じないフレーム子爵に手を焼き急遽カルを呼び寄せた。


カルも妖精達と会話が出来る訳ではないのだが、妖精達とのメモ書きによる筆談に慣れており、今までの妖精達との友好的な関係から”対ヘルタート王国・相談役”という微妙な役職を妖精達に押し付けられてしまう。


そういえば、以前も魔王国の捕虜の扱いで同じような役割を押し付けられた事を思い出しながら

あえてそれを引き受けてしまうお人好しなカルであった。




その頃、子供と化した魔王はというとリオが作った新魔王城にはおらず、なぜかルルの正式な領地となった城塞都市デルタの領主の館でルルと共に暮らしていた。


子供と化した魔王は、ルルの事をえらく気に入りリオの魔王城に密航して城塞都市デルタまでついて来ていた。


ただ、城塞都市デルタは、最近になってカルが城塞都市戦で手に入れた都市であり、未だにルル達による全権掌握が済んでいない。そのため治安の悪さは他の城塞都市と比べるまでもなく悲惨極まりない醜態を晒していた。


仕方なくルルは、レオに城塞都市デルタの治安回復を依頼した。一応レオは、リオと共にこの城塞都市デルタの副領主を任されたため、荒事に精通した部下を率い城塞都市デルタの治安維持にまい進する事になる。




その頃、城塞都市ラプラスに戻ったカルはというと・・・。


カルの体には、2体の地龍がまとわり付いて離れなくなっていた。カルもそれ程長く城塞都市ラプラスを留守にしていた訳ではなかったのだが、親と思い込んでいるカルの姿が見えなくなった事を大層不安がっていたと妖精達から教えられた。


それからは、カルが領主の仕事で移動する度に2体の地龍も絶えずついて来るようになり、仕方なく背負える大きな鞄を買いそこに2体の地龍を入れて行動を共にする様になった。


そういえば妖精達は、黒龍と同じで地龍とも会話がでるという実に都合のよい種族であった。


今日も1日の仕事が終わりベットで地龍と共に寝息を立てるカル。そしてしばらくの時が経った頃、壁に立て掛けた大盾が自身の盾の角を足の様に動かしながらカルの部屋を静かに後にする。


魔法ランタンの灯りが消され暗くなった領主の館の長い廊下。そこを音も無く歩く大盾。


2人の兵士が領主の館の巡回を行っているといきなり暗がりから大楯が姿を現す。


「あっ、大盾の魔人さん。これから会議ですね。お疲れ様です」


大盾は、ヒョコヒョコと廊下を歩きながら大きな口を開くと長い舌を出し、まるで手を振るかの様に舌を左右に振って見せた。


そんな大盾の姿を見守る2人の兵士。


「最近、よく見かけるよな」


「ああ、最初は大盾がひとりで歩くのを見て驚いたよ」


「まあ、領主様の大盾だからな。何があっても不思議じゃない」


「そうなんだよな。精霊、妖精、水龍に氷龍に風龍、それに浮遊城」


「歩く巨木に空を飛ぶ巨木・・・大盾が夜中に歩くくらいで驚いてたらこの城塞都市ラプラスで兵士なんてやってられんからな」


「本当だ。ははは・・・」


兵士達は、寝静まる領主の館の長い廊下で静かに小さな笑い声を発しながら巡回を続ける。今日も城塞都市ラプラスの領主の館は平和であった。




大盾は、領主の館の長い廊下を歩き食堂の扉を盾の角を使い器用に開けていく。


食堂には、既に先客がいた。彼らは精霊の森の精霊、妖精、剣爺、裁定の木の精霊、そして精霊神お猫サマであった。彼らは、この世界の行く末を毎日の様に議論・・・という名目でただ酒を飲みに集まっていた。


領主の館の食堂で出される酒代は、全てカルの懐から出ている。領主であり酒蔵の持ち主でもあるカルにとって、神や精霊達の酒代を賄うくらいの器量がなければと無い袖を振ってがんばっているのだ。


大盾は、彼らとは少し離れたテーブルに陣取る。すると大盾から3体の小人が現れ、食堂の厨房から思い思いに硝子製のコップとラピリア酒の入った瓶、それに酒のつまみを持ち出し、自分達の前に並べる。


そして硝子製のコップにラピリア酒を注ぐとまずはぐいっと1杯目を開けた。


「さて、我らの精霊ホワイトローズ様より作られし魔人達よ。”我ら魔人でこの世界を滅ぼす”会議を開催する」


「第4回目の会議じゃったかな」


「そうね。何も決まらないからそろそろ何か決めたいわね」


書の魔人、鎚の魔人、指輪の魔人は、テーブルに置かれた硝子製のコップにラピリア酒を注ぎ、つまみを食べながら議論を始めた。


その近くでは、神や精霊によりこの世界の行く末を考える会議が催されている。相反する会議が毎夜の様に領主の館の食堂で行われているのだ。実に不思議な世界でる。


「魔王城を破壊した時に判明したが、カルの魔力量を振り絞ったところで我らの魔人を出現させられるのは、たった10秒程であったな」


「前回、世界を滅ぼそうと我らの魔人を出現させた時は、半日は持っとったな」


「そうじゃな。あやつの魔力量は、優秀であった。じゃが、精神が病んでおったのはいかんかった」


「今は、我らの主はカルじゃからの。今更主を変えるとなるとかなり無理をせんといかんな」


「そうじゃな。ならば、カルの魔力量をどうやったら増せるかを考えるべきじゃな」


「魔力量を増やすなら、例の洞窟の泉の水を飲ませるというのはどうかしら」


「じゃがあそこの洞窟は、火龍の巣ではなかったか」


「今の我らでは火龍は、強敵じゃぞ」


「我らの魔人を出現させる事が出来れば火龍など敵ではないのじゃが」


「その私達の魔人が出せないから火龍の巣の泉が必要なんじゃないの」


「堂々巡りじゃな」


「そもそもあの泉のある地は、この星の裏側ではなかったか」


「でもカルの浮遊城なら星の裏側なんてすぐじゃないかしら」


「じゃがな、カルにこの世界を滅ぼすから泉の水を飲んで魔力を増やしてくれと言ったとて、動いてくれると思えんがの」


「まさかカルの魔力量があそこまで少ないとはな」


「殆ど無いに等しい言っても過言ではないわよね」


「子供ですら、カルの数倍の魔力量はあるからの」


「誰があの子を我らの主に選んだのかしら・・・」


「「「・・・はあ」」」


書の魔人、鎚の魔人、指輪の魔人がテーブルの上に置かれた硝子製のコップに注がれたラピリア酒をぐいっと煽る。


結論から言ってしまえば、精霊ホワイトローズがカルを選んでしまった事こそが全ての元凶であった。だが、それを魔人達が口にできないのも事実である。


「しかし、この酒は美味いな」


「このお酒。薬にもなるのよね」


魔人達は、透明な硝子製のコップに注がれた黄色いラピリア酒をじっと見つめる。


「この世界を滅ぼしたら、このお酒が飲めなく・・・なるのよね」


「そうじゃな」


「それって勿体ないわね」


「そうじゃな」


鎚の魔人、指輪の魔人が硝子製のコップに注がれたラピリア酒をぐいっと煽る。書の魔人は、ラピリア酒をちびちびと飲み干していく。


対して盾の魔人はというと、テーブルの下で大口を開け長い舌をだらしなく垂らしたまま寝息を立てていた。


「盾の魔人ってお酒が好きな割には、お酒に弱いわよね」


「元々こやつは、酒に弱かったがこのラピリア酒には、特に弱いようじゃな」


「そもそもこの世界を滅ぼす必要などあるのか」


鎚の魔人が言ってはいけない言葉を口にする。


「我らの存在意義を全否定する様な発言じゃな。じゃが確かに疑問ではある」


「でも・・・私もこの世界を滅ぼす理由がいまいち明確になっていないと思うの」


指輪の魔人も酒の魔人も内心は、鎚の魔人と同じであった。


「そうじゃな。精霊ホワイトローズ様がそうおっしゃっているからそれに従う。我らの存在意義は、まさしくそこにあるからの」


「じゃが、それを疑ってしもうたら全てが終わってしまうではないか」


「・・・・・・・・・」


結局、誰も何の答えも解決策も方針も打ち出せないまま、時間だけを浪費する最悪の会議が続いていく。


「今日のおつまみ美味しいわね」


「チーズと鶏肉の燻製じゃな」


「ねえ、向こうのテーブルで神や精霊神が話し合ってるけど、あれってこの世界の行く末を話し合ってるんだって。でも、私達と同じで何も決まらないらしいわよ」


「我らと同じ・・・か」


「とにかくカルの魔力量を増やす事を考えましょう」


「この星の裏側にある火龍の巣へ行くというのじゃな」


「適当に嘘を言ってカルを騙すしかないわね」


「あやつはバカじゃがそういった話には、以外と鼻が利きよる」


「以前の様にカルの精神を乗っ取るという手もあるけど・・・」


「その手は・・・あまり使いたくはないの。カルが精神を病んでしまったら美味い酒が不味くなるからの」


「・・・・・・・・・」


結局、その日の夜遅くまで開かれた”我ら魔人で世界を滅ぼす”会議は、いつもの様に何の答えも出ずに持ち越しとなった。


その光景を食堂のすみから見守る精霊ホワイトローズ。手元には、ラピリア酒を注いだ硝子製のコップが置かれ、それをぐいっと煽りながらどうしたものかと途方に暮れていた。


さて、そろそろ精霊界のお話に行きたいな~と思っていたりして。


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