154話.魔王(5)
魔王城を守るミアと戦うルル達。
ルル、リオ、レオは、魔法防壁と物理部壁を幾重にも展開していく。個々の防壁の強度も遥かに高い。それは、カルから贈られた魔法具と地龍の魔石によるものであった。
ルルの母親であるミアも防壁を張るが、その強度はルル達の防壁に遥かに及ばない。その事を直に察したミアは、額からいやな汗を流していた。
”まさか、これ程の防壁を張れるとは予想外です。しかも3人が防壁を干渉させる事なく相互に張る事ができるなんて・・・”。
だが、ミアも手をこまねいている訳にはいかない。魔法でいくつもの光の槍を作るとそれを四方八方からルル達に放っていく。
光の矢は、ルル達が作る防壁に向かって飛んで行くと呆気なく防壁に阻まれ霧散していく。
ミアは、炎魔法、氷魔法と手を変えて魔法を放っていくが、ルル達が展開する防壁を突破する事ができない。
思わず自らの唇を噛みしめるミア。
「この程度の魔法では、歯が立たないという訳ですか・・・ならば」
ミアは、長い魔法詠唱へと突入する。だが、その魔法詠唱を待つ程お人好しなルル達ではない。
レオは、魔法剣を振り上げると上空から巨大な雷撃をミアめがけて放つ。ミアは、直前にそれを察知
すると自身を取り囲む様に更なる魔法防壁と物理防壁を幾重にも張り巡らす。
だがその防壁がレオの雷撃により次々と破壊されていく。
「なっ、何ですかこの雷撃は!」
ミアは、レオが剣士である事を知っている。当然、剣士であれば剣による物理攻撃を仕掛けて来ると踏んでいた。
その目論見が外れ、いきなり特大の雷撃を放って来たのだ。これ程の雷撃を放てるのは、相当な魔力量を誇る魔術師でも出来ない芸当であった。
自らを守るために張り巡らせた障壁を次々と破壊され、さらに障壁を追加して辛うじて雷撃から身を守ったミア。
既にその時点で魔王城に施した障壁にまで手が回らくなり魔王城を守る障壁の殆どが弱体化していた。
リオは、雷撃による攻撃が効かないと分かるとすぐさま後方に下がり、ルルに攻撃の手を引き渡す。
ルルもリオが後方に下がった瞬間に魔法槍から爆炎魔法を放つ。それはミアの頭上で幾度となく炸裂していく。
レオの雷撃魔法により破壊された防壁を修復する時間もないまま次々とルルの爆炎魔法が押し寄せる。
思わず防壁では間に合わないと察したミアは、土魔法で巨大な石板を作り幾重にも重ねその下へと隠れ身を守る。
ミアの直上で猛威を振るうルルの爆炎魔法。その熱で周囲の空気は、高温となり幾重にも重なった石板は、真っ赤に燃えていく。
石板は、バキバキと音を立てながら割れ、さらに爆炎魔法に最も近かった石板は真っ赤になり融けはじめていく。
ミアは、防壁を張り直し爆炎魔法により灼熱地獄から身を守るだけで手一杯であった。
爆炎魔法による熱が徐々におさまり、攻撃が止んだと判断したミア。幾重にも重ねた石板の下から這い出し、自らが土魔法で作った石板を見て唖然とする。
土魔法により10程の石板を作りだしたはずであったが、そのうち7枚程の石板は溶け落ちていた。
その光景に唖然となり言葉を発する事もできない。目の前にいる自身の娘であるルルは、実の母親であるミアを本気で撃とうとしていると、その時になって初めて理解したミア。
石板の下から這い出したミアは、改めてルル達に向かって対面する。だが、その時には、既にルルも後方へと下がり代りにリオが前に出て何かの魔法詠唱を始めていた。
次にどんな魔法が来るかが分からないミアは、先程までとは異なり慎重に相手の出方を伺う。
するとミアの視界にチラチラと白い何かがちらつく。それを慎重に見定めていると、それが雪である事が分かった。
いつの間にか周囲の温度は下がり吐く息も白くなっていた。雪は、徐々に大降りとなり視界を遮っていく。
その時、ある事に気が付いたミア。目の前に並ぶ3つの浮遊城のうち、ひとつがつの間にか目の前から姿を消していたのだ。
思わず周囲を探るミア。
すると空に舞い上がった浮遊城から光の玉がいくつも放たれる光景が目に入る。その玉は、魔王城に向かって真っすぐに飛ぶと魔王城の周囲に張り巡らされた防壁を次々と破壊していく。
ミアは、そこで気が付いたのだ。先ほどのレオとルルの攻撃は、ミアを撃つために行ったのではなく、魔王城を守る防壁を弱体化させるためだと。
ミアは、既に相当量の魔力を消費していた。そのため魔王城を守る防壁を張り直す余裕はない。攻撃魔法を放つ魔力はおろか、自身を守る防壁魔法を作り出すだけで手一杯である。
その間も魔王城とその周囲には、大量の雪が降り積もり強風が吹き荒れる。
リオの気象魔法は、延々と雪を降らせしかもその雪はあり得ない量であった。空の上では雷が鳴り響き強風が吹き荒れ、視界は全く効かず気温は氷点下となった。
だがミア自体は、そんな魔法で倒れたりはしない。自身の周りに張り巡らせた防壁により雪に埋まる事はなく、逆に周囲の雪を魔法で溶かしていく。
「凄い広域気象魔法です。驚きに値しますがそれだけです。この雪がどれ程積もろうが私を倒す事はできませんよ」
それでもリオは、気象魔法を止める事はしなかった。とにかくひたすら雪を降らせ続けた。
「いつまで同じ魔法を使うのですか。気象魔法では私を倒すことなど出来ないと・・・」
そこでミアは気付いた。本来であれば、魔王城を守る兵士達が浮遊城を取り囲み浮遊城を押さえる手筈であった事を。
だが、目の前に振る雪は、目の前だけでも既に3mを超えている。魔王国でも並ぶ者のいない魔術師であるミアならともかく、並みの魔術師や兵士なら果たしてこの雪の中で行動できるだろうか。
兵士達は、この積雪と寒さで浮遊城に近づく事はできない。そうリオは、探査魔法により魔王国の兵士達の配置に気を配りミアに対してではなく兵士達を浮遊城に近づけないために広域気象魔法を使っていたのだ。
このままでは、浮遊城に向かった兵士達が寒さで凍えて全滅しかねない。そう考えたミアは、雪の壁で全く見えなくなったルル達への攻撃を諦め、兵士達の救出向かう決断をすると自らに施した防壁の数を減らして上空へと飛び上がった。
その時、ミアの目に飛び込んだのが巨人の足であった。それも見上げた先は、雪雲に隠れていてどこまで伸びているのかさえわからない程の巨大さである。
雪で視界が悪い中。その巨大な足は、魔王城の真上にあった。そして魔王城に向かって振り下ろされ様としている。
「そっ、そんな!」
思わず叫ぶミア。
そして巨大な足は、魔王城の直上に張り巡らせた防壁を薄氷でも割るかの様に呆気なく破壊していき、魔王城をいとも簡単に踏み潰した。
ミアの目の前で土煙をあげながら呆気なく崩壊していく魔王城。そして魔王城を踏み潰した巨大な足は、徐々にその姿を消していった。
自身が長年守って来たはずの魔王城は、娘達によって崩壊した。その事実に空中から地面へと降りたミアは、思わず両膝と両手を地面について愕然と項垂れる。
魔王城の崩壊と共にいつの間にか雪雲も消え、先程まで降っていた雪も強風も止んでいた。
降り積もった雪を溶かしながら進むルル、リオ、レオ。
だが浮遊城のすぐ側でひとりだけ倒れている者がいた。それはカルであった。カルは、4人の魔人が作り出した巨人に魔力を吸われ魔力の枯渇状態に陥っていた。
そう、カルは元々魔力が殆ど無いにも拘わらず、その状態から無理やり巨人生成のために魔力を吸い取られてしまい立っていられなくなったのだ。
メリルとライラに介抱されるカル。
今まで魔王城があった場所には、妖精達が乗る浮遊城が静かに着陸する。
結局、魔王城を守っていた他の魔術師や兵士達は、リオの放った気象魔法により何もでずに戦いを見守っていただけであった。
その後、崩壊した魔王城にやって来た魔王軍第3軍と地方領主の連合軍は、倒壊した魔王城を見て唖然としていた。
数百年間も王国連合から魔王国を守って来た魔王城がこうも簡単に崩壊したのだ。これ程の攻撃を行った者達の力量とはいったいどれ程のものなのかと。
その後、ガハの浮遊城にて話し合いがもたれた。
今回の戦いの発端となった宰相だが、その足取りはぱったりと途絶えていた。城塞都市ラプラスで魔王が負けた後、魔王城を守るミアに魔王が殺されたと告げ魔王城を守る様にと命を下したが、その後、宰相の姿を見たも者はだれひとりとしていない。
魔王を精神干渉魔法で操っていた宰相がいなくなった魔王国は、国の体勢は基本そのままと決まった。だが問題は、王国連合である。
戦いが短期間のうちに終わったとはいえその爪痕は計り知れない。もし王国連合がこの機を逃さずに攻めて来たとすれば、魔王国は簡単に崩壊してしまう。
そこで妖精達からある提案が出された。それは、ある意味魔王国にとって屈辱的な提案であった。
妖精達の提案はこうである。魔王が成人を迎えて復活するまでの間、魔王国は妖精の国の属国となるというものであった。
つまり魔王国は、妖精の国に負けたという提にするのだ。そうすれば王国連合は、魔王国と戦う前に妖精の国と事を構える必要がある。
王国連合とは、人族の7つの王国から成る魔王国を滅ぼすという目的のためだけに結成されたものである。
今、その7つの王国のうち、城塞都市ラプラスの属国となったヴァートル王国とヴィシュディン王国、それに妖精達により滅びかけているヘルタート王国。さらに城塞都市ラプラスに友好的なラドリア王国を外すと、魔王国に敵対する王国は、この地域では3つに絞られる。
その3つの国が魔王国、いや妖精の国と本気で事を構える気があるのかという事になる。果たして王国連合はどう出るか。
そう言えば、歴代の勇者達によって能力の殆どを封じられたはずの魔王は、妖精の国や城塞都市ラプラスを攻撃した時は、かなりの能力を有していた。
それが宰相の精神干渉魔法による呪いのせいなのか、能力の一部が復活していた事に皆は驚きを覚えた。
結局のところ、精神干渉魔法を施した宰相本人は行方知れずとなったため詳細は不明ではあるが、精神干渉魔法は、勇者達が魔王に放った呪いおも超える魔法であったという結論に達した。
いつかまた宰相が現れた時、精神干渉魔法の呪いを魔王や他の者に施すとも限らない。そもそも宰相がいつから魔王国の宰相であったのかという記録すらどこにも残っていないのだ。
宰相は、いつの間にか魔王国の宰相となりいつの間にか魔王に精神干渉魔法の呪いをかけていた。しかも周囲の者すらその事に気が付かなかった。
そして魔王国の殆どの大臣達も多かれ少なかれ宰相の精神干渉魔法の影響下にあった。そのため、大臣達の殆どは、宰相の精神干渉魔法が解けるまで自身の領地へと戻り隠居生活を強いられる事となった。
宰相の精神干渉魔法は、どうやったら解けるのかさえ分からない。魔王の様に精霊神お猫サマにより全員を子供に戻す訳にもいかないのだ。
そして崩壊した魔王城はというと・・・。
魔王城の再建は、リオの土魔法により簡単にできる。だが、それまで臨時の魔王城としてガハの浮遊城が選ばれた。
ガハは、自身の浮遊城が自由にならなくなると猛反発したが、浮遊城を殊の外喜んだ魔王からのお願いもあり、新しい魔王城が建つまでの間、ガハの浮遊城は臨時の魔王城となった。
ガハの浮遊城を喜んだ者は、他にもいた。それは、ガハの妻でありルルの母親であるミアであった。
ミアは、自身の娘であるルル達に負けた事など全く気にしていなかった。それどころかルルが持つ魔法槍やガハに送られた短剣に興味を抱き、カルにミア用の魔法杖を作る様にとひつこくせがむ程であった。
ミアは、ガハの浮遊城に乗り込み何度も空の旅を楽しんだ。ミアもガハ同様、子供の頃に読んだ御伽噺に憧れて浮遊城作りに一時期燃えた過去を持っていた。
母親であるミアのはしゃぐ子供の様な姿を見ておもわず苦笑いをするルルであった。
魔王のお話は、これで終わりです。
2018年6月にこの「僕の盾は魔人でダンジョンで!」というお話を考えた当初の魔王のエピソードと比べると、内容はだいぶ違った形になってしまいました。