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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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149話.カルの新しい領地(2)

国境の砦を取り返したカル達。さて、次はというと・・・。


妖精達は、敵の城の裏山で再編途中だった部隊を5体の歩く巨木で蹴散らしてしまった。


敵の城も一部の城壁以外はただの瓦礫の山と化してしまい、そこに城があったとは思えない程の破壊の限りを尽くされていた。


5体もの歩く巨木がいれば城壁だろうが城だろうが無意味なものに豹変褪せてしまう存在。


「リオさん。敵が砦の魔王国側に作ろうとしていた城壁なんですが、これを先に作ってもらえますか。気が付いたら魔王国軍に後ろから刺されたなんて事が無いようにしたいです」


「そうですね。せっかく妖精達のゴーレムが奪ってくれた砦ですから」


カルとリオは、数人の護衛の兵士を連れて砦の外へと向かう。そこには、敵国の部隊が構築途中だった城壁の土台が作られていた。


「まずは、この土台を有効利用させてもらいます」


リオは、土魔法により周囲の土や石を成形するとあっという間に高さ10m程の城壁を築いていく。


さらに山の斜面にも城壁を伸ばして見張り塔をいくつか構築していく。


「まずはこんな感じでしょうか。後は、実際に配置につく警備隊の方々の意見や要望を取り入れて行くという感じでしょうか」


「ありがとうございます。やはりリオさんの土魔法というか城壁を作る魔法はすごいですね」


「私も土魔法の魔導書だけでなく、城や城壁の構築に関する書を読んだりして勉強しています」


カルとリオがそんな話をしているとリオが遠くの山に目線を向けた。リオの目線は、そのまま数分間動く事はなく何かとのにらみ合いが続いていた。


「魔王国の偵察部隊ですか」


「そのようですね。6人程がこちらを観察していましたが撤収していきました」


城塞都市ラプラスから連れて来た200人の兵士は、浮遊城から水や食料を砦へと運び込む作業に追われている。


妖精達のゴーレムは、10体程がこの砦に残り周囲の警戒にあたっている。


リオが構築した城壁の上にも兵士を配置したが少ない兵士でのやりくりが大変である。今や魔王国に敵対する国だけを相手にしていればよいという訳ではい。この砦もいつ魔王国側から攻め込まれるか分からないし、ある程度準備が整った段階で兵士の増員も行わなければならない。


こうなるとリオに作ってもらった浮遊城が重宝する。この国境の砦から城塞都市ラプラスまでは、浮遊城で移動すればほんの数時間である。


ただ、この砦への兵士の移動や物資の補給を今後も浮遊城で行うという訳にはいいかない。今後、そのための街道整備も行う必要がある。


山間部の街道は、道も険しく馬車で通れない様なところも多々あるため、実際に馬車を使っての移動ができるのはかなり先の話になりそうである。




山間部は、日が陰るのが早くまだ夕刻前だというのに山陰に入るとかなり薄暗く感じる。


「リオさん。以前来た時は、砦の守りだけを考えればよかったんですが、この地が領地になった以上、どうしていくかも考えないとですね」


「そうですが本当に山しかない場所ですね。これでは村を作ったとしても畑すら耕せません」


「水の確保も大変そうです。砦の向こう側には国境になっている川がありますが、あの川の水をこっちに引くのは無理そうです」


「まずは、この周辺の調査からですね。ただ、それをやるのは魔王国との問題が解消された後です」


「はい。まずはこの砦を守る事だけを考えます」


砦の城壁の上から瓦礫の山と化した敵の城跡を望むカルとリオ。


焚火や魔法ランタンの灯りを照らす者さえいなくなった敵の城跡は、静かで不気味なほど静まり返っていた。




その頃、神獣なめくじ精霊の元へあるものが持ち込まれていた。


それを持ち込んだのは妖精達である。妖精達は、黒龍の家となった茫漠の地に打ち捨てられた浮遊城に度々訪れては黒龍に教育を施していた。


妖精達は、精霊界からもたらされたどこにでも行く事のできる扉を、この浮遊城と妖精の国に設置して自由に往来できるようにしていた。


今までは、リオの浮遊城の一室を間借りしていた妖精達だが、やはり見ていれば欲しくなるのが常である。


妖精達で自由にできる浮遊城を作りたい。その思いがふつふつと湧き上がった頃、目の前に打ち捨てられた浮遊城を見てある妖精が思いついた。


”この浮遊城は、使えないのか?”。


それから妖精達は、茫漠の地に打ち捨てられた浮遊城を修理する事を思いついた。幸い魔石は、カルの地龍の面倒を見る事でいくらでもに入った。


浮遊城を動かすためのリオの魔法陣も魔法回路もなんとか使える状態である。問題は、浮遊城の土台となっている石柱が中央から真っ二つに割れていたのだ。


だが妖精達は、それを不利とは考えず利点であると考えた。つまり何かの時にふたつに分割できる浮遊城という訳である。


ただしそれをするには、両側に制御卓を用意する必要がある。そうしなければ、浮遊城が分離した途端に魔石が無い側の浮遊城はただの岩の塊となり地上に落下してしまうからだ。


とにかく浮遊城の土台となっている石柱が落下しない様に固定化の魔法を施した妖精達は、とある者に意見を求めた。


それが神獣なめくじ精霊であった。


精霊界への扉を守護する神獣なめくじ精霊の目の前に運び込まれた浮遊城。


それを前に妖精達は、神獣なめくじ精霊に自身の思いを伝える。だが神獣なめくじ精霊は、浮遊城にあまり興味を示さなかった。


神獣なめくじ精霊からすれば、浮遊城など使わなくても移動手段としての乗り物であれば、いくらでもどんなものでも作れてしまう。それは、この惑星はおろか他の惑星や恒星系にすら行けるのだ。


妖精達は、神獣なめくじ精霊に対して淡々を自分達の思いを語り、語り、語って語って語りつくした。


それに折れたというか面倒くさくなった神獣なめくじ精霊は、妖精達に少しだけ協力すると約束した。そして黒龍の家でもある浮遊城は、魔改造を施される事となる。


ふたつに割れてしまった石柱の他方にも魔法陣と魔法回路を施し、石柱の上に建つ城部分も刷新した。


それは、城というよりも石柱をそのまま上に伸ばした様な姿となった。ただ、妖精達の要望により城壁は残さる事になった。城壁の上で空の風や雲を感じるのが大好きだという理由からであった。


魔改造は、数日もしないうちに終わった。


今までの様に浮遊城の土台となる石柱の外壁に沿って作られた階段は、飾りとして残され代りに石柱の下部に空間転移式の大型扉が設置された。これにより城の内部への物資の搬入が楽にできるよになった。


さらに物理防御と魔法防御の魔法を幾重にも展開できる様になり防御も万全である。


ただし、神獣なめくじ精霊は、浮遊城に武器は装備しなかった。いや、装備させなかった。それだけは、妖精達に何を言われても首?を縦に振らなかったのだ。


浮遊城に武器を搭載してしまえば戦争の道具になる事など、神獣なめくじ精霊もいろんな世界で何度も見て体験して来たのだ。


だが、妖精達はそれを知らないのだ。仕方なく妖精達は、精霊界へと赴き遥か昔に使われなくなり捨てられた精霊達の舟から武器を取り外し、炉心を取り外し、それを浮遊城へと持ち込んだ。


それを見て見ぬふりをする神獣なめくじ精霊。また、この世界でも同じ過ちを繰り返すのかという思いを抱いていた。そんな神獣なめくじ精霊の思いとは裏腹に妖精達は、浮遊城に自らの力で武器を設置した。


それをどう使うかは、全て妖精達の考えひとつである。




カル達が国境の砦に入った次の日の朝。


敗走した敵部隊を追って姿を消してしまった妖精達を心配するカル達。


砦に残った妖精達にその事を伝えると、妖精達はカル達を浮遊城の制御室へと案内する。


そこに設置された大型の硝子の板には、妖精達と歩く巨木がどこにいるのかが分かる絵が映し出されていた。


「妖精さん達は、今ここにいるんだ。でもそこってどこなの?」


カルは、この世界というかこの大陸の地図を持ってはいた。だが、それは曖昧すぎて距離も方角も面積もさっぱりなものである。


以前、国境の森へ馬車で移動した時に使った地図もかなり曖昧な地図であったが、それを腰にぶら下げた鞄の中から取り出すと、硝子の板に映し出された絵と見比べていく。


地図を必死に読み解くカル。そしてある事が分かり驚愕する。


妖精達が今まさに進んでいたのは、以前カル達が馬車で移動する途中に美味しい芋のパイと極楽芋の種芋を買ったヘルタート王国だったのだ。


「もしかして目の前にあるあの瓦礫の山と化した城跡ってヘルタート王国の城だったの?」


「いっ、今更です。まさかカル様は、敵が誰なのか。魔王国が何と戦っているのかご存知なかったのですか」


「・・・うん」


リオは、カルの発言に呆れて何も言い返せない。それ程、カルの発言は衝撃的であった。カルは、魔王国がどこの国と戦っているかさえ知らなかったのだ。


しばらく言葉を発しなかったリオ。だが、いつ迄もそうもしていられないためカルに魔王国が置かれた状況をくどくどと説明して聞かせる。


「へえ、王国連合っていうのが魔王国の敵なんだ。で、魔王様を倒すのが目的で、もう何百年も戦っているけど決着がつかないんだね」


リオの説明を復唱するカル。


「あの硝子の板の絵が本当なら妖精達は、既にヘルタート王国の中央部を走破しています。恐らく途中にあった3つの城も目の前の城と同じく瓦礫の山と化しているでしょう」


硝子の板に映し出された絵には、妖精達が進軍した軌跡とこれから進軍するであろう進路が描かれていた。


その絵を見たカルは、ある事に気が付く。妖精達が進軍する予定となっている先には、ヘルタート王国の王都があるのだ。


「まさか妖精さんは、ヘルタート王国の王都に向かっているんですか」


「この絵を見る限りそう見えます」


「これだと明日にもヘルタート王国の王都まで行けそうだね」


「ほっ、本当ですね。でも、この進軍の速さは異常です。いくらあの歩く巨木の足が速いといえ・・・」


「そうか、妖精さん始めからこれを狙ってたのか」


「どういう事ですか」


「だって、僕に砦を譲渡するからその後の事は見て見ぬふりをして欲しいって言ってからね」


「なるほど」


「そう言えば、カル様が行った国境の森というのは、この辺ですか」


リオは、硝子に映る絵を見ながら各国の配置を確認していく。


「カル様は、以前にヴァートル王国とヴィシュディン王国を属国化したと伺いました」


「あれからヴァートル王国とヴィシュディン王国の代表が城塞都市ラプラスに来た事は・・・無かった様な。今ってどうなってるんだろう」


カルが腕組をしながら何やら考え事を始める。その姿を見てリオの半ば呆れ顔である。


「カル様。カル様は、属国となったヴァートル王国とヴィシュディン王国の国王でもあるんですよ。そんな曖昧な事では、国が迷い民が疲弊します」


リオの物言いにはっとなるカル。


「そっ、そうだね。裁定の木の精霊さんからふたつの国を任せるって言われたけど、よく分からないからそのままほったらかしだった」


「その件については、後でルル様も交えてご相談しましょう。カル様おひとりで抱え込む様な話ではないです」


確かにカルには荷が重い話である。城塞都市の領主ですら主な仕事はルル達に任せているというのに、カルはまだ14歳の子供である。そんな子供にふたつの属国の面倒まで見きれるはずがない。


「そう言えばヴァートル王国とヴィシュディン王国から税が徴収されるはずなんだけど、まだ一度も支払われた事がなかった様な」


「カル様。国の税は、年に1度の徴収です。それに国内が混乱していては、税の徴収などできません」


「えー、まさか・・・」


「カル様のところにヴァートル王国とヴィシュディン王国の税が入るのは、かなり先の話です」


「一瞬だけ期待したけど損しちゃった」


カルは、4つの城塞都市の領主である。さらに裁定の木の精霊に押し付けられたとはいえ、ヴァートル王国とヴィシュディン王国を属国としている。


つまりカルは、ふたつの王国の実質的な王である。王ではるが本人にその自覚は全くない。


カルとリオが浮遊城の制御室でそんな会話を続けていると妖精が慌てた様子で制御室へと入って来ると、カルにメモ書きを見せる。だが、あまりも汚い字であったため何が書いてあるか全く読めない。


「妖精さん。悪いけど字が汚すぎて僕には読めないよ。少し冷静になって」


カルの言葉に首を縦に振りながら再度メモ書きを始める妖精。その妖精がカルに見せたメモにはこうかかれていた。


”妖精の国が襲われた。相手は恐らく魔王”。


そのメモ書きを見せられたカルとリオは、お互いの顔を見合いながらついにその時が来たと浮遊城の制御室の窓から見える空を見据えた。


だが、その方角は妖精の国とは全く正反対の方向であった。


魔王様のお出ましです。それと妖精達が浮遊城を手に入れました。


恐らく妖精達の浮遊城がいろんな意味でこの世界で最悪の浮遊城に・・・。


※痛い。足も腰も膝も痛い。ラピリア酒(薬)が欲しい。



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