147話.鉱山都市デルタ(4)
城塞都市デルタと鉱山を掌握していくカル達。
城塞都市デルタの領主に城塞都市戦を宣言したと同時に城塞都市デルタの領主を倒してしまったカル。
実際のところカルが手を下した訳ではなく、ゴーレムのカルロスⅡ世が放った極楽芋の汁を希釈した水を顔に浴びた領主が、腹の激痛に耐えかねて気絶した事でカルの勝利で幕を閉じた。
ただ、ゴーレムのカルロスⅡ世を称えるために握手をした事でカルも腹痛となり、その後はお察しの通りの展開を迎え数日寝込んでしまう。
汚い話だが城塞都市デルタの大広場は、兵隊と冒険者が残した汚物で悲惨な状態となり、この戦いに参加しなかった兵士や住民達により大広場にいくつもの穴が掘られ、そこに汚物を埋めるという作業が数日に渡り続いた。
城塞都市デルタを手に入れたカルではあったが、元々捕虜を賄う費用を捻出するために金を掘りに来ただけである。
それを城塞都市デルタの領主が城塞都市戦を挑まれると勘違いした事により、結局その通りの展開に発展してしまった。
カルは、事の経緯を手紙に書くとそれをルルの元へと送る。すると数日もしないうちにリオの浮遊城に乗ったルル達が城塞都市デルタへとやって来た。
城塞都市デルタの上空に現れた浮遊城に度肝を抜かされた兵士達は、戦意を喪失しカルに忠誠を誓いだした。
城塞都市戦で勝ったカル達ではあるが城塞都市デルタの規模は、兵士の数や住民の数だけでも城塞都市ラプラス、アグニⅡ、アグニⅠの総数を遥かに超えていた。
いくらカルが領主を倒して新しい領主の座に就いたとは言っても、兵士達や街の有力者の協力を得られる訳ではない。そういった者達の協力なくしてはこの巨大な城塞都市を動かす事など到底無理な話である。
カル達に反発する者達の出鼻をくじいたのはルル達が乗って来た浮遊城である。空を移動する浮遊城を持つ城塞都市ラプラス。
きっとあの浮遊城には、恐ろしい魔法武器が備えられているに違いない。抵抗すると城塞都市ごと燃やされるに違いないと勝手な憶測や想像が城塞都市デルタ中に広まっていく。
恐ろしさのあまり街の有力者も住民達も反発していた兵士達もカル達に不平不満を言う事なく忠誠を誓う事となった訳である。
当然ながら浮遊城にそんな魔法兵器など積んではいない。ただ怖いのは、勘違いをした時や暴走した時のリオの魔法である。これは、本人にも制御できない産物でありそれがまた恐ろしい。
リオも城塞都市ガンドロワを水没させた魔法については、かなり反省をしているが、不可抗力で起こしてしまった事なので誰もリオを攻められない。
戦いが終わった後、一番忙しかったのはメリルである。石化した兵士や冒険者達を石化から戻す地道な作業が続く。その数ざっと1000体以上。
メリルの石化の術は、放置すると完全に石像と化してしまう。そうなれば石化を解く術はなくなってしまう。さらに石化した後に何かのはずみで石像が砕けてしまうと仮に石化を解いたとしても欠損した部位を元には戻せない。
カルが持つ赤いラピリア酒(薬)であれば、石化して体の一部が欠損したとしてもその部位を復活できるのだが、薬の数が圧倒的に足りないためおいそれと使う事はできないのだ。
城塞都市デルタの大広場の中央に着陸する浮遊城。
そこに城塞都市デルタの数百人の兵士を従えルル達を出迎えるカル。
城塞都市デルタに浮遊城が到着するやいなやルルの従魔である鵂が手持ちの魔獣を浮遊城の前へと並べはじめる。それは、城塞都市デルタへの示威行為以外の何物でもない。
3つの頭を持ち口から炎を噴き出すケルベロス。さらに複数の頭を持つヒュドラ。これらの魔獣に共通しているのが頭に華憐な黄色い花を咲かせている事だ。
この華憐な黄色い花は、寄生花でルルの従魔である鵂の配下にある者の頭に生えるのだ。この花が咲いてている限りどんな生物であってもルルの従魔である鵂の制御下となる。
複数のケルベロス、それにヒュドラを従える鬼人族が浮遊城から現れると、カルの配下となった兵士達からは、カタカタと武具を震わせる音が聞こえて来る。兵士達は、背後に見た事のない魔獣を従えたルル達に恐怖を覚え震えているのだ。
そんな浮遊城の前で対面するカルとルル。
「カルよ。よく城塞都市デルタを攻略してくれた。これで城塞都市ラプラスもアグニⅡも安泰だ」
「僕は、まんまとルルさんの口車に乗せられたんですね。僕も分かっていたんですけど結果こうなってしまいました」
「なあ、積もる話もあるだろうからな。いったいどんな戦いだったのか聞かせてもらえるか」
「ははは・・・今回の戦いは、ちょっとばかり汚い話なんですよ」
「汚い話か・・・そう言えば、ここは何だか臭いな。それに兵士達は、なぜ鼻と口元を布で隠しているのだ」
そんな話をしながらカルとルルは、領主の館へと向かう。カル達がいなくなった大広場には、浮遊城とケルベロスとヒュドラが残された。
ケルベロス達は、お互いにじゃれあい大広場を走り周っている。対してヒデュラと鵂は、浮遊城の陰で昼寝を楽しんでいる。
その光景を遠くから見守る兵士と住民達。あんな恐ろしい魔獣を配下に持つ連中が領主になってしまったのかと内心ビクビクする住民達であった。
次の日。
カル達は、砂漠に突き出た島のような姿をしているデルタ鉱山へとやって来た。
建物がひしめく狭い路地をカルが先頭を行く。その後ろに鬼人族のルル、リオ、レオが続く。さらにその後ろにメリル、ライラとルルの従魔である鵂と数頭のケルベロスが列を成す。
狭い路地を威風堂々と進むカル達の姿を見た鉱山ギルドの魔術師や住民達は、慌てて道を開けるために狭い路地の両側へとよけていく。
目的地は、鉱山ギルドである。
カル達は、鉱山ギルドの館に入るやいなや2階のギルド長の執務室へと向かう。メリルとライラ、それにルルの従魔である鵂と数頭のケルベロスは、1階に残りギルドの職員や魔術師達に睨みを利かせる。
その光景をギルドの職員は、何も言わずにただ黙って見守る。これからギルド長の執務室で何が起きようとしているのか想像に難しくないからだ。
ギルド長の執務室に入ったカル達は、面白い光景に出くわす。ギルド長が窓を開けて逃げ出そうとしていたのだ。
「ギルド長。お前は何をしているのだ」
ルルの静かで澄んだ声が執務室内に響き渡る。
「あっ、いえ・・・何も」
ルルのその言葉に観念したのかギルド長は、執務室の自席に座り直しカル達と対面する。
カルとルルは、執務室のソファにどかっと腰を下ろす。リオは魔法杖をレオは魔法剣を持ち執務室の扉の両側に立つ。この部屋から誰ひとりと出さないと宣言をする様な配置だ。
ギルド長の左右には、3つの頭を持つケルベロスが睨みを聞かせ、その口から炎がこぼれ落ちる。
ケルベロスの口からこぼれる炎によりギルド長の髪の毛は少しずつ煙を発してチリチリと焦げていく。
「お前が鉱山ギルドのギルド長か」
「・・・はい」
「そうか。お前から言わせると我ら鬼人族の小娘は弱いらしいな」
「いえ、その様な事を言った覚えなど・・・」
「そうか、ならばその小娘が言っておく。滅多な事を口に出すと両脇に控えるケルベロスの炎で頭が消し炭になるからな」
ルルの言葉とケルベロスのうなり声に全身をカタカタと震わせるギルド長。
「今日は、お前の命を奪いに来た訳ではない。我らは鉱山に疎いからな。引き続きお前に鉱山ギルドの長をやってもらいたいのだ」
ルルの言葉に事態を飲み込めないでいるギルド長。思わず口をポカンと開けたまま黙り込んでいる。
「お前の首を挿げ替えたところで別の者がギルド長につくだけだ。ならば、寝返ったギルド長とそしりを受け後ろ指をさされながら職務を全うしてもらった方が我らとしても好都合なのだ」
ギルド長の震えは止まったが、相変わらず言葉が出ない。
「それとな。城塞都市デルタの領主はカルになった。実際にこの城塞都市を運営する者は、別の者になるであろうが我らに忠誠を誓えば殺したりはせん。ただ、今までの様な鉱山運営は改めてもらいたい」
ルルが言いたかったのは、鉱山で大量の金を採掘する者を亡き者とする鉱山ギルドのやり方を改めろと暗に言ったのだ。
「・・・分かりました。新しい領主様のご命令に従います」
ギルド長がルルの前でそう言葉を発した頃には、ケルベロスの口から洩れる炎によりギルド長の髪の毛はアフロと化していた。
城塞都市デルタの大広場の中央には、浮遊城の着陸台を兼ねた砦がリオの土魔法により築かれた。
何も無くただ広いだけの大広場には、カルとライラにより木々が植えられた。この大広場は、緑化を進めて住民の憩いの場とする予定である。
そして数日後、リオの浮遊城に乗った各城塞都市の財務担当者が城塞都市デルタに次々と訪れた。この城塞都市の財務状況の調査と資産の把握を行うために。
恐らくこの作業には数ヵ月を有する根気のいる作業になる。その間、この城塞都市デルタの領主としてルルが着任する事になった。
城塞都市デルタを奪ったのはカルだからカルがこの城塞都市デルタの新しい領主に就任しそうなものだが、カルには新しい城塞都市を運営するだけの力量がない。
それに魔王国ともめ事になっているとはいえ、国境の砦の守りに着くという仕事が待ち受けている。以前もカルとリオがその国境沿いの砦に出向いているため、今回もカルとリオが向かう事になった。
未だに妖精の国の周辺には、いくつもの魔王国軍の偵察部隊がやって来ていた。さらに城塞都市ラプラスやアグニⅡにも魔王国の偵察部隊が冒険者や商人として入り、城塞都市の戦力の把握に努めている。
城塞都市ラプラス側も誰が魔王国側の手の者かを把握しているため、あえて泳がせる事にした。
以前、豪商に雇われた傭兵達が城塞都市アグニⅡやアグニⅠに火を放った事があったが、国力のある魔王国軍がそんな卑劣な行為を行うとは考え難い。
魔王国軍なら正々堂々と正面から攻撃を仕掛けて来ると考えたからだ。
程なくしてリオの浮遊城により国境の砦へと向かうリオ、カル、メリル、ライラ、それとゴーレムのカルロスⅡ世。
国境の砦周辺は、平地が殆どなく山ばかりの地である。そこを開拓するとなるとライラの精霊魔法をもってしても簡単ではない。とにかく現地に行って状況の把握が最優先だ。
城塞都市デルタの大広場に構築された砦を守る兵士達は、全て城塞都市ラプラスから派遣された兵士達で固められた。さすがにこの砦を城塞都市デルタの兵士達に守らせる程カルもお人好しではない。
ただ、城塞都市ラプラスの兵士達が守る砦の周囲には、城壁は設けられず木々が植えられた。わざわざ城壁で守られた城塞都市の中にさらに城壁を作るとなると後々禍根を残すとのカルの考えであった。
城塞都市デルタの大広場にカル達が木々を植えて数日がたった頃、大広場に植えられた木々の中を何処からやって来たのか妖精達が楽しそうに飛び回っている。
妖精達は、リオの土魔法で作られた浮遊城の着陸台を兼ねた要塞の1室にいつの間にか妖精の国へと繋がる扉を持ち込み妖精達の執務室へと仕立てていた。
部屋の扉の上には”城塞都市デルタ・妖精の国大使館”と書かれた札が掲げられている。それを見つけた砦の兵士がカルとルルに報告をすると、カルもルルも思わず笑い転げてしまう。
「よいではないか。我らもあの妖精達に多大な恩恵を受けているのだ。妖精達に砦のひと部屋くらいくれてやるくらいの度量を見せようではないか」
「さすが妖精さん。何をするにもあざといです。僕には到底真似ができません」
妖精達は、どこにでも入り込み好き勝手に振舞う。それが返って心地よくさえ思えるカル達であった。
次は新しい領地である国境の砦へと向かいます。