146話.鉱山都市デルタ(3)
鉱山ギルドの館へとやって来たカル達。
鉱山ギルドの受付嬢に詰め寄るカル達。
そのカル達を取り囲むように集まるギルドの鉱山魔術師達と鉱山ギルドに雇われた冒険者達。
「やめい。城塞都市ラプラスの魔人使い。いや領主殿と言った方がよいか」
その言葉を聞いたカルは、声がする方向をチラ見する。
「さすがに魔人使い相手に5人では歯が立たなかったという訳だな」
「それは、最初から僕を殺そうとしていたってこと」
「そうだ。お前の所有するミスリル鉱山で採掘され精錬されたミスリルが特品であり純度99.999%だという話は知っている」
カルの前に現れた男は、身なりの良い高級そうな服を身に着けていた。
「お前が鉱山ギルドのギルド長か」
「そうだ。お前の名前とミスリルの特品の事は、ここにいる皆が知っている。もしそんな奴がこの鉱山に来たら俺達鉱山ギルドは、商売あがったりだからな」
顔をしかめながら鉱山ギルドのギルド長の顔を睨みつけるカル。
「おいおい、そんな怖い顔をするな。この鉱山に来たらお前を殺せと命じたのは、この城塞都市デルタの領主様なんだから」
「なん・・・だって」
カルの表情さらに険しくなっていく。
「お前の存在を好ましく思わない者は、この魔王国の中に大勢いるって事だよ。例えば宰相閣下とかな」
「メリル。聞きたい事は、このギルド長がペラペラと話してくれたから、後は好きにしていいよ」
カルの声は、いつもとは違う少し図太い声に変わっていた。それくらいカルの怒りが頂点に達していたのだ。
その時、カルの後ろにいたゴールドスノーの面々が目隠しをされて鉱山ギルドの裏口へと連れて行かれてしまう。
「お前の後ろにいる仲間には、おかしな術を使う者が多いというからな。やつらには、俺達の身の安全を守る盾に・・・」
その瞬間、メリルの髪の毛は無数の蛇へと変化し目が赤く光ったと思った瞬間。カル達を囲っていた魔術師や鉱山ギルドに雇われた冒険者達が一斉に石造へと変っていく。
「おかしな術で悪かったな。私は魔人メデューサだから石化の術が得意なだけなんだよ」
カル達は、石像となり誰も動けなくなった鉱山ギルドの館の中をゴールドスノーの面々が連れて行かれた鉱山ギルドの裏口へと向かう。
鉱山ギルドの裏口の扉を開けるとそこには、男達に向かってこん棒を振りかざし魔法をぶっ放すゴールドスノーの面々がいた。
「大丈夫。私達だって鉱山で働いてるんだ。こんな男共になんか負けない!」
「そうだよ。それにカルさんはこの街の領主を倒しに行くんだろ。さっきの話の流れはそう雰囲気だったよな。なら私達も協力するよ」
「私達だって人を平気で殺そうとする鉱山ギルドのやり方は間違っていると思う」
「そうだよ。前からこの鉱山に来た連中が突然死する事件が多くておかしいと思ってたんだよ」
「あんた達ならこの街とこの鉱山を変えてくれる気がするんだ」
ゴールドスノーの面々の言葉に頷きながら、カル達は裏口から古い建物が乱立する路地裏を走り出す。
ゴールドスノーの面々は、鉱山ギルドの館に押し寄せるギルドの魔術師達と一戦交えると言って領主の館に立てこもった。
カル達は、路地裏を抜けると砂漠が広がる崖へと出る。
「メリルさん、ライラさん。これからカルロスの肩に乗って砂漠を越えます。そのまま城塞都市デルタの城壁を超えて領主の館に向かいます」
カルは、大盾の内側にある盾のダンジョンの安全地帯に繋がる小さな扉を開けるとメリルとライラをその中へと誘導する。
「カル様ご武運を!」
「領主の館に着いたらすぐに呼んでくださいね」
メリルとライラが大盾の内側の扉から顔を出してひと時の別れの言葉を発する。
「うん、向こうに付いたら応援をお願いします」
大盾の内側の扉が閉じられるとカルは、カルロスⅡ世の肩に乗り崖から砂漠へと飛び降りた。
カルロスⅡ世は、カルを肩に乗せ砂漠の上をまるで氷上を滑るかの様に進む。
時より砂丘の上にサンドワームが顔を出すが、砂漠の上を風の様に進んでいくカルロスⅡ世。あまりの速さにサンドワームと戦う事すらないまま、城塞都市デルタへと近づいていく。
やがて砂漠が終わり茫漠の地を進む。そして城塞都市デルタの城壁が見えたと思った瞬間。カルロス二世は、一気に障壁を飛び越えてる。
雲ひとつない青空を滑空するゴーレムのカルロスⅡ世とその肩に乗るカル。
久しく忘れていたこの感覚。以前、城塞都市アグニⅡ攻略の時にカルロスの肩に乗って城壁を飛び越えた時以来である。
城塞都市デルタの建物の屋根や屋上を兎が飛び跳ねるかの様に進み、領主の館を見つけるやいなやそこに全速力で突入する。
2階の窓ガラスを突き破りカルロスⅡ世の肩から降りると領主の執務室に勢いよく突入するカル。だが、領主の館の中には警備兵すらいない。
「逃げられたかな・・・」
そんなカルの言葉を知っていたのか領主の館の壁に大きな張り紙が残されていた。
”城塞都市ラプラスの魔人使いよ。城塞都市の大広場で待っている。城塞都市デルタ領主”。
「これは、僕を待ち伏せしているって事だね。分かったその誘いの乗ってあげる」
カルは、再びカルロスⅡ世の肩に乗ると領主の館の窓ガラスを突き破り再び建物の屋根や屋上を点々を飛び跳ねながら城塞都市デルタの領主が待つという大広場へと向かった。
城塞都市デルタの中心部にひときわ大きな広場がありその中央には、何かの巨大な銅像が立つ。
そこに降り立ったカルは、ゴーレムのカルロスの肩から降りると背負っていた大盾を構え内側の扉を開ける。
「メリルさん、ライラさん領主の館に行ったんだけど既にも抜けの空でした。その領主の館の壁には、大広場で待つと領主のメッセージがありました」
大盾の内側の扉から出て来るメリルとライラ。
「ここがその大広場ですか。広いけど大きな銅像があるだけの何もない広場ですね」
メリルとライラは、目の前に立つ巨大な銅像を見上げながら周囲の警戒を行う。
すると大広場に面する大小複数の建物の扉が開け放たれると、そこから兵士やら冒険者やらが大量に現れ銅像のすぐ脇に立つカル達を遠巻きに囲い込んでいく。
ぱっと見ただけでもカル達を囲う兵士や冒険者の数は、ざっと数千人程。よくもこれだけの数を集めたものだと変に関心するカル達。
「バカめ。こんな場所にのこのこやって来るとは、城塞都市ラプラスの領主とはかなり頭が足りないと見える」
兵士のひとりがそんな言葉をカルに発した。
「城塞都市ラプラスの領主はバカだがそいつが持つ大盾には、魔人が宿るという。そついは、自身の力ではなくその大盾の魔人の力で城塞都市を3つも手に入れた卑怯者だ」
兵士は、カルに向かって言いたい放題である。
「だから我々も一斉にやつに飛びかかる。奴の生死は問わん。とにかくこの5000人で奴を捕まえてしまえ!」
兵士は、5000人という数にものを言わせてカル達を捕獲する作戦に出た。
カルは、大盾の表面をコンコンと叩くと盾の魔人を呼び出した。さらに書の魔人。鎚の魔人を呼び出すと、向かってくる5000人の兵士と冒険者に対して容赦のない攻撃を始める。
メリルも髪の毛が無数の蛇と化し目は赤く光り魔人メデューサとなって向かって来る兵士と冒険者をかたっぱしから石化していく。
カルの大盾から伸びた金の糸が向って来る兵士の武具に絡みつくと武具を形作る金属を一気に吸い取っていく。
大盾の魔人は、長い舌を使って次々と大盾の大きな口の中へ兵士や冒険者達を飲み込んでいく。
書の魔人は、次々と魔法を放ち大広場のあちこちで爆炎やら雷撃の嵐を発生させた。
鎚の魔人は、小さな体で叩かれると状態異常を起こす巨大なハリセンを持ち、大広場を縦横無尽に走りながら次々と向って来る兵士と冒険者を倒していく。
だが、さすがに5000人の敵を相手にするのは訳が違った。
倒しても倒してもきりがないのだ。しかも倒された兵士や冒険者達は、大広場のあちこちで待機する治癒士や回復士の治療を受けると次々と戦いに復帰して来る。
「これじゃキリがない。メリルさん一旦下がって僕達を囲う様に丈夫で高い壁を築いてください」
カルは、周囲の状況を見渡しながら石化の術で兵士や冒険者達を石化するメリルに声をかける。
「分かりました」
メリルが築いた壁の内側に集まったカル達は、円陣を組んで座り込むと現在の状況を確認していく。
「あの兵士が言っていた様にさすがに5000人相手では厳しいです」
「こちらの体力が持ちません」
「でも向こうは、あちこちに回復と治癒を行う部隊を配置して倒れた兵士達を次々に復帰させてるようです」
「石化の術も相手の目を見ないと効かない事がばれているようで、敵は、石化した人の陰から攻撃を続けています」
メリルが作った高く丈夫な壁に敵の魔術師が放った魔法が次々と命中しさく裂する。壁のあちこちからカラカラと小さな土くれが落ちて来る。
「この壁もあまり持ちそうにないね」
「石の壁なら持ちますが、それを作るには時間が足りません」
体力を消耗したメリルが肩で息をする。それを精霊治癒魔法で回復させるライラ。
書の魔人は、相変わらず魔法を放ち壁の向こう側への攻撃を続けていた。
カルは、腰に村下げた鞄から葡萄酒が入っていた瓶を何本も取り出しながらこう切り出した。
「実は、以前から試してみたい事があったんだけど、これをやると別の意味で惨状が広がるんで躊躇していたんだ。それにどうやってこれを使えばいいか考えがまとまらなくて・・・」
「その葡萄酒の瓶に何か入っているんですか」
ライラの問いかけに答えるカル。
「この瓶の中身は、極楽芋の白い液体を水で希釈したものなんだ」
この話を聞いた途端後ずさるメリルとライラ。
「それってほんの一滴でも口に入ったら凄まじくお腹を下すんですよね」
「うん。ダンジョンで試したんだけど、魔獣達がのたうち回って動かなくなるんだ。ただ死ぬことはないみたい」
「うわー、何か凄い物を作ってますね」
思わずメリルとライラが引いてしまう。
「ただ、これをどうやって敵にばら撒くかを思いつかなくて・・・」
葡萄酒の瓶に詰められた極楽芋の汁を見て腕組をしながら悩むカル。
するとゴーレムのカルロスが手を上げると身振り手振りでカルに対して何かを訴えていた。
「まさかカルロスがやってくれるの」
頷くカルロスⅡ世。さらにカルロスⅡ世は、瓶を持つとそれを口に含みメリルの造った壁に向かって勢いよく放って見せる。
「おおっ、その手があるのか。じゃあ頼めるかな」
カルロスⅡ世は、頷くと葡萄酒の瓶を大きな袋に詰めそれを背中に背負うとメリルの作った壁の外へと飛び出して行った。
カルロスⅡ世は、大広場の中を縦横無尽に走りながら口から白い液体を敵の顔にめがけて吹き出していく。それを顔に受けた兵士や冒険者達は、次々と腹を抱えて地面へと倒れていく。
敵の振るう剣がカルロスⅡ世の体を切り裂き魔法がさく裂する。だがカルロスⅡ世の体は、大盾のダンジョンのボス部屋にいた液体金属製スライムから採取した液体金属である。
剣が体を貫通しようが切り裂かれようがすぐに元の姿に戻っていく。さらに魔法がさく裂しても液体金属がダメージを分散するため殆どダメージを受けていない。
カルロスⅡ世は、時計周りに大広場を周回しながら治癒士と回復士が集まる救護所にやって来た。そして口から極楽芋の液体をばら撒いていく。
すると途端に腹を抱えて地面に倒れ込んでいく回復士と治癒士達。
徐々に戦線が崩壊していき腹を抱えて地面に倒れていく者達が増えていく。
カルロスⅡ世がほぼ大広場を一周し頃には、大広場で立っている者など殆どいない。しかも皆、地面に腹を抱えて倒れてズボンを茶色に染めて凄まじい匂いを放っている。
大広場は、悲鳴とうめき声を上げる者達で埋め尽くされ阿鼻叫喚の世界が広がっていた。
そんな中でも僅かに戦いを続ける者達に極楽芋の液体をかけ続けるカルロスⅡ世だったが、そのカルロスⅡ世を狙う魔術師がいた。
魔術師は、カルロスの胸の中央に露出している魔石に向かってアイスランスを放つ。しかもこのアイスランスは、放った後でも自由に進路を変更できる誘導型であった。
生き残った兵士や冒険者達に向かって極楽芋の液体を放つカルロスⅡ世。
その胸の中央に露出した魔石に向かってアイスランスが一直線につき進む。
カルは、静かになった大広場の様子を伺っていた。そして殆ど悲鳴とうめき声しかしない状況に、カルロスⅡ世の行動が成功したと思った。
「メリルさん成功したみたいだからこの壁を取り払ってください」
「はい」
メリルがゆっくりと壁を取り払っていく。
すると、カル達の目の前には、ゴーレムのカルロスⅡ世がばら撒いた極楽芋の白い液体を浴びて身動きできなくなった兵士や冒険者達が自らのズボンを茶色く汚した状態で倒れていた。
あまりの惨状と匂いに思わず布鼻と口元を隠すカル達。
そんな悲惨な状態の大広場を見渡すと、ゴーレムのカルロスⅡ世が元気に走り周っていた・・・が、その胸にアイスランスが命中する。
さらに複数のアイスランスがカルロスⅡ世の体に向かって四方八方から飛来し、カルロスⅡ世の体を貫いていく。
「カッ、カルロス!」
思わず目の前の惨劇に叫ぶカル。カルロスⅡ世は、多数のアイスランスを受けたまま、地面に倒れ込み動かなくなってしまった。
その光景に途方に暮れるカル。さらにカル達の頭上で何かの魔法がさく裂する。思わず魔法防御の物理防御の魔法を張ろうとするメリルとライラ。
だが既に体の自由が全くきかない。いや、体は動くのだが異様に周囲が遅く見える。
「城塞都市ラプラスの領主よ。お前が持つその大盾に魔人が宿っている事くらい知っている。弱小とはいえ城塞都市を3つも従える者がどんな力を持っているかくらい調べんでどうする」
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男が魔術師と剣士を従え、何処からともなくカル達の前へと姿を現した。
「お前達がいつここに攻めて来てもいいように準備万端で待っておったのに・・・いつ迄待っても来やせん」
剣士は、カルに近づくとカルが構える大盾を足で蹴とばして地面に転がす。
「その大盾がお前以外の者では持てない事も知っているぞ。だからこうするのだ」
魔術師は、大広場の中央に立つ銅像に向かって複数のアイスランスを放つ。それにより銅像の足元が崩壊して地面に転がる大盾の上へと倒れ込んで来る。
爆音と土煙を上げながら大盾の上へと倒れ込む銅像。大盾は、巨大な銅像の下敷きとなりその形が全く見えなくなってしまう。
「これでお前は、ただのガキだ」
身動きの取れないカル、メリル、ライラ。いや、身動きは辛うじて出来るが永遠に感じる時の中で微かに動く体を必死に動かそうとする。
「その魔法は、時間遅延魔法だ。状態異常の魔法とは違ってどんなアイテムでも防御する事はできない」
魔法を放った魔術は、既に勝った気でいるのか軽くなった口で魔法の種明かしを始めた。
「しかし、この城塞都市を守るためとはいえ5000人の兵士と冒険者でお前を待ち構えておったというのに殆ど倒してしまったのか。さすが城塞都市ラプラスの魔人使いと言ったところか」
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男は、鼻と口元を布で隠しながら大広場の惨状を見回す。
大広場には、カルのゴーレムがばら撒いた極楽芋の汁を希釈した液体を浴びて腹を下し、トイレに行きつけなかった者達が倒れズボンを茶色に汚し凄まじい匂いをまき散らしていた。
「それにしてもとてつもなく臭いな。この匂いなんとかならんのか」
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男の問いかけに対して、首を横に振る剣士と魔術師。いくら時間遅延魔法を操る魔術師とはいえ、広範囲に広がる汚物の処理ができる魔法など知らなかった。
剣士も魔術師も鼻と口元を覆い隠す様に顔に布を撒いている。そうでもしないとこの大広場は、5000人の兵士や冒険者がまき散らした汚物で臭くて息すらできない状態であった。
「お前のゴーレムも倒した。あの大盾もお前の命令以外は聞かないというではないか。使えない魔法具はこの鉱山の奥深くに封印でもして埋めるとしよう」
”ドテ”。
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男がそう言った瞬間、従えていた剣士の男が腹を抱えて地面に倒れ込む。
「にっ・・・逃げてください。ゴッ・・・ゴーレムです」
腹を抱え苦しみの表情を浮かべながら地面に倒れ込んだ剣士は、城塞都市デルタの領主である鬼人族の男にそう言った・・・瞬間、剣士のズボンが茶色に染まる。
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男は、慌てて後ろを振り向くとそこには倒したはずのゴーレムらしき姿があった。
だがゴーレムは、上半身だけの姿で下半身はスライムの様に溶けた液体の様になっている。
「なっ、なぜゴーレムが動いている。ゴーレムの核である魔石を破壊したのだぞ」
城塞都市デルタの領主である鬼人族の男を守る様に立ち塞がる魔術師。
彼は、確かにカルロスⅡ世の核と思しき魔石を貫いた。本来ゴーレムは核の所在を知られぬ様にと核の有りかを隠すのだが、カルロスの胸にはなぜかその核が露出していたのだ。
魔術師は、その核を魔法で的確に射貫いて見せてカルロスⅡ世の核は粉々に砕け散った・・・はずであった。
「まさか核を複数持っているのか。そんなゴーレムを作れるはずが・・・」
魔術師がそう言った瞬間、カルロスⅡ世の体の表面には無数の小さな核が浮き出していた。
そうカルロスⅡ世の核は、盾のダンジョンでドロップした大きな魔石を用いた核から地龍の魔石へと変更されていた。
地龍の魔石は、小指の先よりも小さな大きさでありそれを数十個も体に埋め込んでいるため、実際にどの魔石がカルロスⅡ世の核なのかはカルロスⅡ世でさえも分からないのだ。
核は、全て冗長構成となっていてどれかが破壊されても他の核がすぐに代替えを行う仕組みである。
つまりカルロスⅡ世を破壊するには、カルロスⅡ世の体の中に存在する数十個もの魔石の核を同時に破壊する必要があったのだ。
カルロスⅡ世は、復元していく体から液体を魔術師の顔にめがけて吹きかける。布で鼻と口元を覆っていた魔術は、カルロスⅡ世が放った液体をかぶるまいと体を必死に動かそうとする。
だがその魔術師の足元には、カルロスⅡ世の溶けた体の一部が付着して身動きができない様に固定されていた。
顔一面にカルロスⅡ世が放った液体を浴びる魔術師。
布で鼻と口元を覆っていたとはいえ、布にしみ込んだ液体は、徐々に魔術師の体の中へと浸透して行く。
「はっ、腹が・・・」
腹に急激な痛みを覚えた魔術師は、魔法の詠唱もままならないまま地面へと倒れていく。
カルロスⅡ世の溶けた体の一部は、城塞都市デルタの領主である鬼人族の男の足元にも達していて、固定された足では逃げる事すらできない。
「ひっ、待ってくれ。わしが悪かった。何でも言う事を聞く。だから・・・命だけは助けてくれ」
「そう。なら僕は、城塞都市戦をここに宣言をする。城塞都市戦は、当事者の一方が宣言さえすれば成立するからね」
時間遅延魔法の効果が切れた事によりようやく動けるようになったカルは、開口一番に身動きの取れない領主の後ろからそう宣言をする。
「そっ、それだけは勘弁してくれ。この城塞都市デルタとデルタ鉱山は、魔王国を運営する資金の3割を拠出しているのだ。ここをお前達に取られたら私が魔王様に殺されてしまう」
「そう。なら僕が殺さなくても魔王様が殺してくれるね」
そう言うとカルは、城塞都市デルタの領主である鬼人族の男から少しづつ距離を取り始める。
「まっ、まて。なぜ私から離れるのだ」
「だって、お前の近くにいたらカルロスが放つ極楽芋の液体が僕にもかかるじゃないか」
その言葉を聞いたメリルとライラは、カルの元へと走り出しカルの陰に身を隠していく。
「わしが悪かった。この城塞都市の富の半分をお前にやる。だから・・・」
カルロスⅡ世は、城塞都市デルタの領主である鬼人族の男の話が終わるまでもなく口から極楽芋の液体を放つ。
そして苦しそうな表情を浮かべながら地面に倒れ込みズボンを者色に染める城塞都市デルタの領主。
「魔王様。お許しを!」
最後にそう言い放った城塞都市デルタの領主は、腹痛に耐え切れずに意識を手放してしまう。
城塞都市デルタの大広場には、5000人の兵士と冒険者が倒れていた。
あちらこちから悲鳴とうめき声が響き渡り、地面に倒れている者の全てがズボンを茶色に染め、鼻をつまんいても我慢できない程の匂いを城塞都市デルタの全域に放っていた。
「カル様。もうこんな不毛な戦いはやめましょうよ」
「そうですよ。これじゃ。戦いの後のかたずけの方が大変ですよ」
布で鼻と口元を覆い隠すメリルとライラ。そしてカルも腰にぶら下げた鞄から布を出して鼻と口元を覆い隠す。
「カルロス。ありがとう」
そう言ってカルロスⅡ世に対して右手を差し出すカル。それに答える様にカルロスⅡ世も右手を出して固い握手を交わす。
だがカルロスⅡ世の右手というか全身は、極楽芋を希釈した液体でうっすらと濡れていた。
「あっ、これってまさか・・・」
そう言ったカルに満面の笑みで微笑むカルロスⅡ世。その途端、カルも腹の腹痛を覚えて地面に倒れ込む。
”アー、ヒドメニアッタナー”。
その後ろでは、巨大な銅像に押しつぶされたはずの大盾が、自らの力で銅像の下から這い出しカルの元へと歩いてやって来ていた。
結局、銅像で大盾を潰す事もできなかった城塞都市デルタの領主は、カルに領主の座を奪われてしまう。その身は、カル預かりとなり領主の館の地下に軟禁される羽目となった。
城塞都市デルタとデルタ鉱山の領主の座がカルへと移った事は、瞬く間に魔王国全域に広まる。
それは、城塞都市ラプラスが魔王国と魔王を敵に回す瞬間をただ早めただけであった。
うーん、足も腰も膝も痛い。ロキソニン飲んでも痛みが引かない。