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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第5章》誕生と終焉と。
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138話.マンドラゴラ

カルは、城塞都市ラプラスを自由に歩き回る地龍達を守るために立てた看板を見てある事を思いつきます。


カルは、職員に作ってもらった地龍に対する注意書きの看板を見つめていた。


その看板は、城塞都市ラプラスのいたるところに設置され、領主であるカルが飼っている地龍を捕まえない様にという注意書きが書かれている。


最初は、脅かすために適当な事を書いてもらったのだが、実際にその看板を見てある事をやってみたくなった。


今回、黒龍が城塞都市に現れ暴れた件をルルに報告するために城塞都市アグニⅡへと向かい、その帰りに中級ダンジョンへと立ち寄る。


実は、黒龍の件をルルに報告するのは手紙でよかったのだが、わざわざ報告に来た理由は別にあった。


それは、中級ダンジョンに生息するあの魔獣を捕らえる事にあった。18階層に生息するマンドラゴラを採取するために。


マンドラゴラは、地面から引き抜くと悲鳴を上げる。その悲鳴を聞くだけで絶命すると言われる恐ろしい魔獣?である。


マンドラゴラは、薬の材料として珍重されているが、安全に手に入れる方法が見つかっていないため、マンドラゴラは高額な値が付いているのだが、出物が殆どなく幻の材料となっていた。


もしマンドラゴラを安全に採取する方法があれば、その冒険者は大儲けができると昔から言われていたが、未だにその方法は見つかっていない。


そのため冒険者はマンドラゴラの採取を行わない。そしてマンドラゴラが生息している中級ダンジョンの18階層は、マンドラゴラの群生地と化していた。


カルは、メリル、ライラ、ゴーレムのカルロスⅡ世と共に中級ダンジョンの18階層にやって来ていた。


まずは、マンドラゴラの群生地の端に大きな皿を置くとそこにラピリア酒を並々と注ぐ。そして地面に根を張るマンドラゴラへラピリア酒を数滴ずつ垂らしていく。


それをいくつかのマンドラゴラに行うと、少し離れた場所で待機して状況の変化を伺った。


しばらくするとマンドラゴラが自ら地面から這い出すと皿になみなみと注いだラピリア酒を飲み始めた。


マンドラゴラは、ラピリア酒を飲むというより自らの根を皿の中のラピリア酒につけて根から吸収している様に見える。


そんなマンドラゴラが次々と皿に集まりラピリア酒に群がっていく。


マンドラゴラは、皿に注がれたラピリア酒を飲むと元いた地面に戻る事もせず、そのまま皿の上で居眠りを始めた様に動かなくなった。


カルは、そっとマンドラゴラに近づくとラピリア酒を注いだ口の広い小瓶にマンドラゴラをそっと入れると小瓶の蓋を閉じる。


マンドラゴラは、小瓶の中のラピリア酒に全身が浸かっていて身動きひとつしない。さらに皿の周りで酔い潰れているマンドラゴラを静かに拾うとラピリア酒を注いだ小瓶の中へと入れていいく。


そんな作業を何度も繰り返していく。


気が付けばマンドラゴラのラピリア酒漬けが50本ほど完成していた。


稀にラピリア酒の入った小瓶に入れられたマンドラゴラが目を覚ます事もあったが、暴れたり悲鳴を上げる事もなく静かにしていた。


実は、お酒が大好きな妖精達だがラピリア酒以外のお酒を飲んでいるところをあまり見た事がなかった。


さらに氷龍や風龍のラピリア酒を好んで飲んでいるのを見たカルはもしやと思い、マンドラゴラにも与えてみたのだ。それが見事に的中した。


カルは、試しに市場で売られている葡萄酒をマンドラゴラにかけて見たが結果は、何も起きなかったのだ。やはりラピリア酒という特殊なお酒(薬)だから出来た芸当であった。




カルは、それを腰にぶら下げた鞄に入れて城塞都市ラプラスへと持ち返った。


それからマンドラゴラのラピリア酒漬けは、とある作業場の片隅に置かれ減った分のラピリア酒を追加しながら時が過ぎるのを待った。


そしてマンドラゴラのラピリア酒漬けを作り始めてから1ヶ月が過ぎた頃、ラドリア王国でロイズ商会を営むロイドのところにそれを持ち込んだ。


「今日は、面白いものを持って来ました。なかなか市場ではお目にかかれない代物です」


「ほう、それは楽しみですね」


カルは、商談用に通された応接室でソファに腰かけ、腰にぶら下げた鞄から小瓶を取り出すと目の前のテーブルにそれを置いた。


「これは・・・、まさかマンドラゴラですか!」


「はい。マンドラゴラのラピリア酒漬けです」


小瓶の中で程よく色づいたマンドラゴラを覗き込むロイズ。


「マンドラゴラは貴重で採取が難しく殆ど市場に出回らないはずです」


カルは、鞄からさらに数本の小瓶を取り出すとテーブルに並べて見せた。マンドラゴラのラピリア酒漬けは、ひとつではなくいくつもあるという事を見せるために。


「うちの魔術師に鑑定をさせてもよろしいですかな」


「ええ、ぜひお願いします」


店主は、鑑定を得意とする店お抱えの魔術師を呼ぶと小瓶の鑑定をさせる。




”マンドラゴラのラピリア酒漬け”。


”世界に類を見ない超強力強壮剤”。


”この酒を飲みマンドラゴラを食べれば、どんな病気もたちどころに治る”。


”さらにこれを男女が飲み夫婦の営みを行えば、必ず子宝を授かるという脅威の秘薬”。


”ただし、これを飲むと絶倫状態が3日間も続いてしまい体を壊す危険があるのでご注意されたし”。




鑑定結果に驚く魔術師。それを聞いてさらに驚く店主。カルだけは、すまし顔である。


「・・・なんと表現したらよいのか言葉がありません」


「どうでしょう。これを仕入れる気はありませんか」


「これをどれくらいお持ちなのですか」


「今、ここに持って来たのは、小瓶で10本です。倉庫にあと40本ほどあります」


「50本。採取が難しいマンドラゴラをよくもそれだけ用意できましたな」


「実は、とある場所で栽培もしています。物が物だけに数は作れませんが、少量ずつなら定期的に出荷できると思います」


「とっ、とりあえず効果を試してみたいので、手持ちの10本を買わせていただいてもよろしいですか」


ロイドは、しばし考えるとこう切り出した。


「小瓶1本につき金貨500枚でどうでしょうか。子供ができない貴族や王族は大勢います。そこに売る事ができればさらに上乗せいたします」


「それでお願いします」




数か月後、ロイズ商会に立ち寄ったカルは、子供のいなかったロイドの奥方のお腹が大きくなっているのを目撃した。


「いやあお恥ずかしい話なのですが、私も跡取りができなくて悩んでおりました。まさかあそこまで強力な薬だとは思ってもみませんでした。何せ3日間あれの事だけしか考えられなくなりました」


「ははは。子供の僕にはちょっと刺激の強い話ですね」


「実は、子爵様も御子ができずに悩んでおいででしたので、この薬をお譲りしたのですが・・・」


「どうでした?」


「子爵様の奥方様も無事に身ごもったそうです。子爵様もたいそうお喜びになってます」


「それはよかかったです」


「実は、この国の王も子宝に恵まれずに悩んでおいでとの事で、子爵様を通じて王家にもこの薬をお送りしたのです」


「まさか・・・」


「王妃様のお腹もだいぶ大きくなられたそうです」


「それはおめでたい話ですね」


「この国では、新しい王子様・・・いや王女様かもしれませんが国民が皆でその誕生を待ち侘びています」


ところがロイドは、少し怪訝な表情を浮かべると、カルの耳元でそっと話を続けた。


「ところが困った事が起きたのです」


「困った事・・・」


「はい、国王様には子供ができないというので側室が6人もおりまして・・・」


「まさか・・・」


「その側室6人とも身ごもったそうです」


その話を聞いた途端、カルはその後の展開が簡単に想像できてしまった。だがそれを分かっていても話を続けるロイド。


「恐らく国王家としては、王妃様の御子が生まれれば王位継承権第1位となるのでしょう。ただ、他の庶子達を国王に押す諸侯も今後出て来るでしょう」


「次期王位継承でもめる可能性があると?」


「いえいえい、私の口からはとも言えません」


ロイドは、いたずらをした子供の様にカルの前でおどけて見せた。


「それでですね。この薬の噂が貴族達や他国の王にも広まっていまして・・・」


「まさか注文が来ているのですか」


「はい、既に100本程の注文をいただいております」


ニコニコを笑顔を振りまくロイド。恐らく次に出て来る話は、この薬がいくらで取引されるかだ。


「今、手元にあるのは30本程です。ラピリア酒に漬けてから最低でも1ヵ月は置かないといけませんからね」


「はい。出来しだいお送りいただければと思います。今後、カル様から買い上げる場合の価格ですが、小瓶1本につき金貨1000枚とさせていただきます」


「つまり、市場価格はその数倍という事ですね」


「そこはご想像にお任せいたします。相手は、貴族や王族ですので数千枚の金貨など安いのではないでしょうか」


貴族や王族相手の商売などカルには全くの素人である。やはり商人として長年の経験があるロイドでなければできない芸当である。


「僕には、この薬を市場で売る販路を持っていませんから全てロイズさんにお任せします」


ロイドとカルは、握手を交わす。


この件で城塞都市ラプラスの領主であるカルの名前は、近隣の王家並びに諸侯の間では、知らない者はいない存在となっていく。






妖精の国の城壁内の片隅でカルは、領主の仕事の合間に小さな畑を耕していた。


畑には、ダンジョンから持ち出したマンドラゴラが植えられている。


どうやってマンドラゴラをダンジョンから持ち出したのか。それは、並々とラピリア酒を注いだ小瓶にマンドラゴラを入れるとマンドラゴラはお酒に溺死してラピリア酒漬けとなる。


ところが小瓶に半分ほどラピリア酒を入れた状態でマンドラゴラを入れておくと、根からラピリア酒を絶えず吸収して泥酔したまま悲鳴も上げずに持ち運ぶ事ができた。


そしてダンジョンから持ち出す事ができたマンドラゴラを妖精の国の片隅の畑に植えてみたところ、元気に根を張り始めたのだ。


ライラの精霊治癒魔法によりマンドラゴラは、次々と株分かれを繰り返し増えていく。


たまにラピリア酒(薬)を皿に入れて畑の真ん中に置いておくと、マンドラゴラは自ら土から這い出してラピリア酒(薬)を飲みに来ては土の中へと帰っていく。


さすがに自身で土の中から這い出て来る時は、悲鳴など上げる事もなく静かに歩き回っていた。

実に不思議な魔獣である。




さて、マンドラゴラの栽培は一見順調そうに見えたが欠点もあった。それは、妖精達はマンドラゴラが大好物だという事をカルは知らなかったのだ。


畑を耕しに来たカルは、畑のいたる所にマンドラゴラが引き抜かれた跡を見つけた。それにカルが畑から離れるときより遠くで悲鳴の様な声が聞こえるのだ。


急いで畑に行ってみると畑の上で妖精がモグモグしていて、口からマンドラゴラの根が見えていた。さらに妖精の周りにはマンドラゴラの葉が散乱していた。


そんな妖精達を怒る事もできない。何せ畑は妖精の国にあるのだから。


マンドラゴラは、ダンジョン内で生息していようが地上の畑で生息していようが、地面から引き抜けば悲鳴を上げる。


その悲鳴を目の前で耳にしてしまえば、魔人が宿る大盾を持つカルですら絶命する。


ところがマンドラゴラの悲鳴を聞いても妖精達はケロッとしていた。そして採れたてのマンドラゴラを美味しそうに食べるのだ。


とても真似のできない行為である。せめてカルがマンドラゴラの畑にいる時だけでも、妖精達が地面からマンドラゴラを引き抜かない事を祈るしかない。


そんなおっかなびっくりなマンドラゴラ栽培によりマンドラゴラのラピリア酒漬けは、貴族や王族、それに一部の金持ち相手に爆発的に売れていた。


注文に供給が追い付かない状態で絶えず入荷待ちだとロイズ商会の店主であるロイドは笑っていた。


普通のお酒を使っても安全に地面から引き抜く事ができないマンドラゴラ。


それがラピリア酒を使えば出来るかもというところから始まったお話でした。




もう2019年11月です。このお話は、2018年の6月から書き始め投稿を開始したのは、2018年12月末でした。なのでもろもろ始めてから既に1年半が経つことになります。


当初の予定では、投稿を1年間続けて終わりにする予定でした。ですがお話が尽きる事がなくて終わりが見えません。


歳を取ってから始めた趣味なので、適当に好き放題書かせてもらっています。


このお話を読んでいただいている心の広い方々に感謝です。そしてもう少しの間だけお付き合いくださいませ。


今後ともよろしくお願いいたします。


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