131話.始まりの妖精の国(1)
ルル達は、ある決断をします。それは・・・。
鉱山街バルフロアが山体崩壊により壊滅した。
街と近隣の村の住民は、全て浮遊城で城塞都市ガンドロワへと非難させる事ができた。
だが浮遊城の魔石は、城自体を浮遊させるために最適化されていたため、多数の住民と家畜の重量まで加味して浮遊できる様にはなっていなかった。
ルル、リオ、レオは、持てる魔力を全てつぎ込みなんとか城塞都市まで戻って来た。
そして魔力回復のために飲んだラピリア酒(薬)をがぶ飲みしたために、泥酔して倒れてしまう。
決して魔力切れで倒れた訳ではないところが残念である。
さらに次の日は、3人共ラピリア酒(薬)の飲み過ぎで二日酔いとなり動けなくなり、頭痛と嘔吐に悩まされる羽目になる。
鉱山街バルフロアから避難して来た住民は、リオの土魔法で作った城で生活を始めたが、やはりというか城が小さかった事もあり手狭になり、城塞都市の役所に苦情が殺到してしまう。
仕方なく副領主であるリオの母親であるサラは、二日酔いで寝込んでいるリオを笑顔で叩き起こし新たな城の作成を依頼した。
二日酔いのリオは、頭痛と吐き気に悩まされながらも城塞都市の隣り作られら6つの城が並ぶ地に赴くと、7つ目の城、8つ目の城を作り終えた。
だがその瞬間、城壁の上で嘔吐を繰り返して動けなくなりレオの従魔である鯰の頭に乗せられて浮遊城へと戻る始末。
さらに浮遊城に戻ると、城に残された家畜達が城内で大暴れの真っ最中。仕方なく3人は、頭痛と嘔吐に悩まされながら魔法で家畜を地上に降ろす地味な作業を続けた。
空っぽの胃から胃液を吐きながら・・・。
その日の夜。
ルル、リオ、レオは、浮遊城の自室で休んでいた。実は、実家に里帰りするという目的で城塞都市ガンドロワに戻って来たはずの3人だが、実際に実家で過ごせたののは、1日もなかったのだ。
城塞都市に戻って来た次の日から、水没させてしまった城塞都市の復旧工事のために浮遊城に泊まり込み、その後は、鉱山街バルフロアの住民救出と二日酔いで寝込んでいた。
3人は、何のために里帰りをしたのか分からなくなっていた。
そして3人はある決断を下した。
「リオ、レオ。私は、明日の早朝にも帰ろうと思うのだが・・・」
ルルは、皆を集めるとそう提案をした。実家に帰って来たというのに実家で過ごしたのは僅かで自身が治める訳でもない城塞都市の面倒を見る事に嫌気が差して来たというのが本音である。
「「賛成です!」」
「・・・反対すると思ったが即答だな」
「いえ、ここにいるとこき使われるだけです。どうせ働くなら自分達が治める城塞都市で手腕を振るいたいです」
「私もその意見に賛成です。その・・・親に帰って来ないかと言われましたが、帰って来たところでこき使われるだけだと悟りました」
「・・・まさかレオも帰って来いと言われたのか。もしかしてリオもか」
「はい」
「では、明日の朝早くにここを出る。皆には内緒でな」
「「はい!」」
結局、里帰りしたルル、リオ、レオは、逃げ帰る様に故郷を出る事になった。親達には何も告げずに・・・。
そうと決まればリオは、浮遊城の移動準備のため地図を広げると、帰路について相談を始めた。
城塞都市ガンドロワに来た時の様に砂漠を横断するのは危険である。となると砂漠の淵を周って戻るしかない。となると城塞都市アグニⅠ側を通るか、城塞都市ラプラス側を通るか。
ルルとレオも地図を眺めながらあれこれ意見を言い合っていると、3人の目の前をフラフラと妖精が羽をパタパタと羽ばたかせながら通り過ぎていく。
最初、3人は妖精を見ても何も感じなかった。城塞都市アグニⅡでもアグニⅠでもラプラスでも妖精などいくらでもいる。
ましてや領主の館で食事をしている時など、皿の上のおかずをちょろまかして逃げていく妖精など日常茶飯事である。
ルルの実家の屋敷にも妖精はいた。だが、ここは浮遊城である。空に浮かぶ浮遊城の中で妖精を見た事など皆無であった。
「今、目の前を妖精が飛んで行ったな」
「はい。恐らくですがお酒を飲んでいるのでしょう。フラフラと飛んでましたね」
「お酒を飲んでフラフラ飛ぶのは、いつもの事ですね」
「いやいや、論点が違うぞ。ここは、浮遊城の城の中で城塞都市アグニⅡとは違うぞ」
「あれ、ではなぜ妖精がいるのでしょうか」
3人は、フラフラと飛ぶ妖精に目線を向けるとその後を追う事にした。
壁や扉の陰に隠れてコソコソと妖精を追う3人。
妖精は、中庭の小さな池でくつろぐ鯰の処へとやって来ると、小さな滝の様に水が流れる場所で美味しそうに水を飲む。
すると妖精と鯰は、仲が良いのかいくつか言葉らしきものを発して会話を楽しんでいる。
「レオの従魔の鯰と妖精が会話をしている様に見えたな」
「その様ですね。まさか鯰は、妖精の事を前から知っていたのでしょうか」
「妖精と鯰は、会話できるのか。何だか不思議で・・・あっ、妖精が動き出しました」
妖精は、フラフラと蛇行を繰り返しながら城の下層へと降りていき、やがてとある扉の前へとやって来た。
「あれ、あんな場所に扉なんてあったでしょうか」
「ほう、リオの知らない部屋という訳か。よし、扉が開いたら突入するぞ!」
ルルの言葉に頷くリオとレオ。
そして妖精が、何度か扉をノックして扉が開いた瞬間を見計らい3人は走り出し、扉のノブを掴むと勢いよく扉を勢いよく開けた。
すると部屋の中には、100を超える妖精達がこちらを見ていた。
「「「キャー」」」
思わず悲鳴を上げるルル達。
だが妖精達は、一斉に飛び立つとルル達に掴みかかり強引に部屋の中へと引きづり込んでいく。やがて部屋の扉が静かに閉じられた。
「つまりお前達は、新しい妖精の国を作りたいという訳だな」
妖精が走り書きをしたメモを見ながらルルがそう話す。
「それで、浮遊城に移り住んで場所を探していると・・・」
妖精は、メモに新たな文字を書くとルルに見せる。
「何々、もう場所は決めてある。・・・ここに行きたいというのだな」
妖精は、テーブルの上に置かれた硝子の板の様な物をルル達に見せる。そこには、周囲の地図と浮遊城の現在地、さらに城塞都市ラプラスやアグニⅡの場所が記されていた。
「あれ、これって硝子に文字や絵が描かれていますね。しかも文字や絵が動いています」
リオは、魔術師としてこういった物に素直に興味を示すのだが、逆にルルやレオは、あまり興味を示さない。
妖精は、現在位置と新しい妖精の国を作る場所を指し示すと、そこに浮遊城で送り届けて欲しいとメモに走り書きをして見せた。
「それは構いませんが、場所でいうと城塞都市ガンドロワとラプラスの中間地点・・・、少しガンドロワ寄りの場所でしょうか」
妖精達は、頷くとさらにメモに走り書きを続ける。
「私に城と城壁を作って欲しいのですね。それと井戸も掘って欲しいと。城を作ったり、大きな湖を作ったのを見ていたので出来る事は知っているという訳ですか」
「そうか、妖精は私達の事をずっと見ていたという訳だな。分かったが城があるだけでは生活はできな・・・」
ルルがそう言いかけた時、妖精達が勝手に移り住んで根城にした部屋を見渡してその心配が杞憂である事に気が付いた。
部屋の中には、鉢植えされたラピリアの木が数十本もあり、さらに数十個の酒樽と何かが詰め込まれた木箱が部屋の天井の高さにまで積み上げられていた。
「しかし妖精達よ。よくも私達の目を盗んでこれだけの物資を浮遊城に運び込んだものだ」
妖精は、ルル達の前でおどけて見せたが、どうやって物資を運び込んだのかにつては、明言しなかった。
実は、ルル達は知らなかったのだが、この世界が精霊界と繋がった時に精霊界の技術を盗んだ妖精達は、空間を繋げる扉を作りそれを精霊の森や城塞都市のあちこちに設置していたのだ。
この世界は、既に妖精達が到達できる場所であれば、扉を設置していつでもどこにでも行く事が可能になっていた。
次の日の朝。まだ朝日が山の稜線の向こう側にいる頃、浮遊城は静かに浮上を開始した。
城壁の上で警備を続ける兵士達が、眠そうにあくびをしている横を巨大な浮遊城がゆっくりと空へと上っていく。
浮遊城は、砂漠の空へと向かいその姿は小さくなりやがて見えなくなる。
「たっ、大変です。浮遊城が消えました」
領主から浮遊城の監視を命じられていた兵士が領主の執務室へと走り込んで来る。
「いつからだ」
「城壁の警備兵の話では、日が昇る前に砂漠の空に向かって飛んで行ったそうです」
「逃げたな・・・」
「は?」
「いや何でもない。そうか帰ったのか」
城塞都市ガンドロワの領主でありリオの母親でもあるサラは、警備隊の兵士からの報告を受け、顔に笑みを浮かべながら領主の館の窓から砂漠の空を見上げた。
あの空に自分の娘がいるのだと思いを馳せながら。
妖精達が自分の国を作るようです。当然、妖精達のやる事ですから・・・。