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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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130話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(11)

今まで浮遊城は、ルル達の足であり玩具でしたが、浮遊城がまともに役に立つ時が来ました。


城塞都市ガンドロワから30km程離れた場所にある鉱山街バルフロア。


山のなだらかな斜面に作られた街とその周囲に点在する村々からなり、人口は、周囲に点在する村々も併せて約1000人程である。


この街もルルの父親であるガハの領地である。


だが、この鉱山街バルフロアで近年異変が続いていた。


山に突然地鳴りの様な音が響いたり地震が頻発た。


その結果なのか鉱山の坑道が突然崩落したり、街や村へと続く道が土砂崩れで寸断される事が度々発生した。


城塞都市の担当官、鉱山技師、地質の専門家に何度も足を運んでもらい調査を続けた結果。思いもよらない事態が明らかになった。


山の斜面が徐々にずれているというのだ。しかも山全体でだ。


鉱山街バルフロアでもそれは顕著に表れていた。街の複数の場所で亀裂が発生し、他所から土を持ち込んで亀裂を埋めても次の日に亀裂はさらに拡大してしまうのだ。


そして鉱山や地質の専門家が出した答えは・・・。


山体崩壊。


それも直ぐそこまで迫っているという結論に至った。


城塞都市ガンドロワの領主は、鉱山を閉鎖し住民を城塞都市に移住させる計画を立て、それを実行するも住民は領主の命に背き街に住み続けた。


空の馬車が何十台も投入され、住民を説得したが移住した者は、たったの300人程度であった。


領主が鉱山を閉鎖しても他の出入り口を掘り、次々と坑道に入る鉱夫達。彼らにとって鉱山は、生きる糧でありそれ以外に生きる道を知らない者の拠り所でもあったのだ。


だが、坑道の落盤は頻発し死者や怪我人が続出するも掘るのを止めない鉱夫達。


さらに街の斜面に大きな亀裂がいたる所で発生した。もう誰の目から見ても何かの災害の前触れである事は明らかであった。


ついに城塞都市ガンドロワの領主は、住民の強制移住の決断を下し多数の警備兵と馬車を派遣した。


だが、その馬車が向かった街道では、複数の土砂崩れが発生し馬車の進行を阻んでしまう。


そんな時、城塞都市ガンドロワに反乱部隊が現れ、火の手が上がり洪水が発生した。


領主は、悩んでいた。土砂崩れの街道の復旧工事を行ってはいるが、街道の数ヶ所の土砂を撤去し、法面工事を行っていては、街道が通れる迄に数ヵ月を要してしまう。


恐らく鉱山街バルフロアは、それまで持たない。


鉱山街バルフロアに残った住民や周囲の村々の住民約700人を山道を徒歩で避難させる事も検討された。だが、女性や年寄や子供にそれは無理であった。


城塞都市ガンドロワの領主であるリオの母親であるサラは途方に暮れていた。領主である以上、何か対策を講じなければならない。それが領主の仕事であり責務である。


城塞都市ガンドロワでは、水没した住宅から住民が避難先である複数の城に移り住み、水没した住宅の改修が始まっていた。


そんな中、サラが領主の館で職員と共に鉱山街バルフロアの住民移転に関する緊急対策会議に明け暮れていた時、ある職員からこんな意見が出された。


「サラ様のお嬢様であるリオ様が作られたという浮遊城でバルフロアの住民を移住させられませんか」


会議に出席していた職員全員の目が見開いた瞬間であった。


領主の館の窓からは、城塞都市の上空を浮遊する巨大な浮遊城が見えていた。




浮遊城では、リオによる幾多の改良が施されていた。


浮遊城を制御する魔石は、城の下層に設置してある。そのため、そこから浮遊城の外の様子は全く把握できないのだ。


今は、リオが何かある度に城の下層に赴き魔石に魔力と制御命令を送っていて、何か状況が変わる度に誰かがリオに状況を伝達に行っていた。


これを改良するために城の上層部に魔力と制御命令を伝える新な魔石を設置し、周囲を把握しながら浮遊城を動かそうというのだ。


この世界で初めて生み出された浮遊城である。まだまだ改良の余地は残されている。


そんな改良を浮遊城に施していたリオと、洪水により水没した城塞都市の復旧作業にまい進するルルとレオが領主の館に呼ばれた。


そこでルル達が聞かされたのは、鉱山街バルフロアの現状と頓挫した住民の避難計画であった。


「つまり、数日以内に鉱山街バルフロアの住民を移民させたいが、街道は土砂崩れで通れないというのだな」


「もう手立てが無いのだ。女性や年寄に山道を歩かせる訳にはいかない」


「それで我らの浮遊城という訳か」


「それに鉱山街バルフロアへの物資輸送も既に途絶えている。住民達は、畑で採れた野菜や家畜で食いつないでいるだろうが、もう限界に近いはずだ」


「分かった。鉱山街バルフロアの住民の移転に協力する。ただ、我らだけで行ったところで住民が警戒するだけだ。なので住民の避難誘導を行う警備隊を同行させたい」


「分かった。手配する」


「ただ、問題がある。あの浮遊城にどれ程の人が乗れるのか把握できていないのだ。恐らくそれを調べている時間もないであろうな」


浮遊城には、100人程の警備隊の兵士が同乗し、その日のうちに鉱山街バルフロアへと向かうべく城塞都市を飛び立った。


鉱山街バルフロアがある山の崩壊はすぐそこまで迫っていた。




鉱山街バルフロアに詳しい警備隊の兵士が案内をしてくれたおかげで、迷う事もなく街に到着した浮遊城。


街の住民が見守る中、広場に着地した浮遊城。巨大な岩の上に建つ空飛ぶ城。


「こっ、これはいったい何事ですかな」


この街の町長が怪訝そうな顔で警備隊の隊長から避難命令書を見せられて困惑している。


「領主であるガハ様並びにサラ様よりの避難命令書である。もしこの街からの避難しない場合は、領主への反逆行為とみなして拘束する。よいな」


警備隊の隊長は、領主からの命令書を手に持つと高く掲げ、強い口調で領主からの強制命令である事を告げる。


「そっ、そんなご無体な。この街から出ていくという事は、鉱山からも手を引けと言うのですか」


「そうだ。文句があるなら領主様に言え。俺が領主様への謁見のお膳立てをしてやる。だが、言っておくぞ。領主の命に背くのだから命の保証はせんぞ」


「ひっ」


警備隊の隊長に詰め寄ったはずの町長は、逆に警備隊の隊長に押し返されてしまう。


「さあ。早く非難を開始しろ。ぐずぐずしていると剣で切り殺すぞ!」


警備隊の隊長は、わざと鞘から剣を抜いて見せた。


それを見た住民達は、慌てて家に戻ると避難準備を始めた。だが、街の広場に着地した浮遊城を遠巻きに見ている者が多数おり、避難を始める気がない事がよく分かる。


「おい、お前達。早く非難準備をしろ。荷物は必要最低限だぞ」


「おそこのお前、早く家に戻って準備をしろ。準備が出来たら街の広場に集まれ!」


警備隊の兵士達が、街を周り家々の前で大声を張り上げ、避難準備を促していく。


徐々に街の住民達が浮遊城が着地した広場に集まりはじめる。


警備隊の兵士達は、集まった住民に目の前の浮遊城で避難すること。避難先は、城塞都市ガンドロワであること。


さらに避難先として城を用意してある事を告げると住民達の態度ががらりと変わった。


「おい、城に避難できるんだってよ」


「私、お城に入った事すらないわよ」


「僕達、お城に住めるの」


住民達は、城に住めるという言葉にかなり釣られてはしゃいでいた。


そう、今回の住民避難で使われる避難先の施設は、リオが土魔法で作ったあの城である。


以外や以外、あの城が街の住民の避難先としても活用されると聞いた時、リオの顔が嬉しさのあまり思わずほころんでいた。リオも城が有効活用される事にかなり喜んでいるのだ。




しばらくしてから住民達が浮遊城への避難を開始した。


一部の警備隊の兵士達は、浮遊城の城で避難住民に待機場所の割り振りの指示を与えるべく、城の階段の出入り口で待っていた。だがいくら待っても一向に階段を上ってくる住民の姿がない。


不思議に思ったレオが浮遊城の階段の登り口へ行ってみると住民と警備隊の兵士が揉めていた。


「おばあちゃん。そんな大きな鞄を背負っていたら階段を上れないでしょう」


「何を言うか!これは、わしの大切な生活道具じゃ。これを置いていけというのか!」


避難して来た住民達は、背中に大きな鞄をしょっていて、両手にも大きな鞄を持っていた。


中には、ひとりでは持ちきれない程の鞄をお持つ者までいる始末。


”ズン、ズズン”。


先程から何かの音が鉱山街バルフロアに響き渡っている。これでは、住民の避難が間に合わない。


そう思ったレオは、最後の手段へと出る事にした。それは、背中に背負っていた大型の両手剣を抜くと浮遊城へと避難するために列を成している住民へと向けられた。


「お前達、今すぐ手に持っている鞄を捨てろ。そしてその階段を手ぶらで登れ。言う事が聞けない者は切り捨てる」


避難民の列の整理をしていた警備隊の兵士達は、レオの行動に一瞬たじろいだ。だが、住民が荷物を手放して慌てて浮遊城の階段を上り始めるのを見ると、一斉に鞘から剣を抜き始めた。


「言う事を聞け。さもなくば住民全員が死ぬ事になる。荷物と命とどっちが大切だ!」


警備隊のひとりの兵士がそんな言葉を発した。


それにより住民は、慌てた様子で階段をそそくさと上り始める。


だが、まだ住民の半分も集まっていない。


警備隊の兵士達は、街を周り残っていたりだだを捏ねて動かない住民に剣を突き付けて避難を強制していく。


浮遊城に500人程の住民が乗ったかという頃に、また別な問題が発生した。


それは住民が飼っている家畜である。


家畜をこの街に残せば確実に死ぬ。それは飼っている者にとっても耐えがたいものなのだ。


リオは、浮遊城の空き具合を確認すると、階段を上れない家畜を魔法で城の中へと移動しはじめた。


そうでもしないと家畜の飼い主は、頑として動かない。それは例え剣を突きつけても変わらなかった。


家畜は、馬、牛、山羊、羊、鶏と多岐に渡った。ただ、街の場所が山間部だった事が幸いして家畜の数はそれ程ではない。


とはいえ100頭を超える家畜の数にさすがにリオだけではお手上げとなり、ルルも魔法で家畜の移動を助ける羽目になっていた。


浮遊城の中は、住民と家畜でごった替えしていて、城の中庭の池は、レオの従魔である鯰の場所なのだが、今日に限っては、家畜達の水飲み場と化してしまい、居場所もなく肩身の狭い思いさせられる可哀そうな鯰であった。


警備隊の兵士に剣で脅されて避難してきた住民達もようやくと浮遊城へと集まり、最後の住民を乗せていた時である。


”ゴーーーーーー”。


今までに聞こえて来た地響きとは明らかに異なる音が鉱山街バルフロアを襲った。


「まずい。本当に街が崩壊するぞ」


レオは、浮遊城へと上る階段の入り口で、街を周っていた兵士達の帰還を待ちながら、この街の最後の時を予感した。


緩やかな斜面に建つ建物が徐々に傾き、屋根や壁が崩れ、あちこちに出来た亀裂がさらにっ広がっていく。


残った住民を探して街に散った警備隊の兵士達が戻って来る。


そこには、背中に背負われた年寄りや小さな子供連れの親子の姿があった。


年寄りを背負った兵士の顔には、玉の様な汗が湧き上がっている。


その姿に思わず感極まってしまうレオ。だが、ここで涙を流す訳にもいかず必死に堪えていた。


最後に親子が浮遊城の階段に足をかけた時、浮遊城の目の前の建物の壁が突然崩れ出し、地面に大きな亀裂が無数に生まれた。


「まずい。本当に崩壊する」


レオは、浮遊城の周囲に残った警備隊の兵士達に避難する様に命じると自身は、鯰の背中へと乗り込み空へと泳ぎ出す。


地面の亀裂により浮遊城が着地した広場が徐々に地盤沈下を始めた。


それにより浮遊城が傾き出すと、城に避難した住民達から悲鳴が沸き起こる。


「リオ、もう無理だ。早く飛べ!」


ルルが城壁の上から大声で叫ぶ。


ところが浮遊城は、浮き上がらない。


リオは、必死に魔石に魔力を注ぎ込む。だが浮遊城は傾きをさらに増すばかりで浮く事はなかった。


「なっ、なんでこんな事に!」


必死に魔石に魔力を注ぎ込むリオ。


ルルもリオの元に駆け付けると魔石に魔力を注ぎ込む。


それでも浮遊城は、浮き上がらない。


浮遊城は、広場の地盤沈下によりさらに傾きを増して行く。これ以上傾くと、立っていられないという状態になった時、鯰に乗り浮遊城の下から戻って来たレオが現れた。


レオもリオとルルと同様に必死に魔石に魔力を注ぎ込む。


すると浮遊城は、徐々にではるが傾きが和らぎ少しずつ浮上を始めた。


浮遊城に乗せた住民と家畜の数が多すぎたため、リオの魔力だけでは浮上できなかった浮遊城は、何とか3人の魔力で浮き上がる事に成功した。


だが、その速度はゆっくりである。


その時、城壁の上で周囲の監視をしている兵士が叫ぶ。


「街が崩れる。バルフロアが崩壊するぞ!」


避難した住民が城壁の上や城のバルコニーの上から街を覗き込むと、街が斜面ごと建物ごと山肌を滑り落ちて行く。


さらに山の上から滑り落ちて来た大きな山が浮き上がる途中の浮遊城に迫る。


滑り落ちて来る山が浮遊城にぶつかれば、浮遊城など簡単に地面に落下してしまう。


だが、ルル、リオ、レオは、個々の持つ魔法杖、両手剣、槍により魔石に魔力を注ぐだけで精一杯である。


「誰か、誰かあの山を止めてくれ」


そう叫ぶルルの声が聞こえたのか、ルルの従魔である鵂が飛び立ち、城壁の上に着地すると例の黒い玉を取り出してその中へ右の羽を差し入れる。


鵂が黒い玉の中から何かを掴み、それを滑り落ちて来る山の前へと頬り投げた。


それは・・・。


砂漠で浮遊城を襲った巨大なサンドワームであった。


巨大サンドワームの頭?らしき場所の周辺には、華憐な黄色い花がいくつも咲き乱れている。


それが巨大サンドワームの動きに合わせて右へ左へと揺れる。


巨大サンドワームは、滑り落ちて来る山の前に立ちはだかると、巨大な体を使って滑り落ちて来る山を食い止めるべく必死に体ごと山にぶつかっていく。


だが、例え巨大サンドワームであろうとも、滑り落ちるて来る山を相手にする程の力はない。


それでも僅かではあるが滑り落ちる山の速さが遅くなった。


ルル、リオ、レオは、必死に魔力を魔石に注ぎ込む。


浮遊城は、徐々に浮き上がり崩れ落ちる鉱山街バルフロアから離れていく。


鵂は、城壁から飛び立つと滑り落ちる山の前で必死に戦う巨大サンドワームを黒い玉に回収して戻って来た。


山肌では、川の様に流れていく土砂とそれに飲み込まれていく鉱山街バルフロアの家屋があった。


空へと浮上した浮遊城の城壁からは、山全域が崩壊していく姿が見えていた。


その光景を見て唖然とする鉱山街バルフロアの住民達。


山体崩壊を起こした山から湧き上がる土煙の中から浮き上がる浮遊城。3人の魔力を注いで何とか浮き上がり移動を始めた浮遊城であったが、住民達の重さで今にも地面に落ちそうになるのを必死に抑えている。


ルル、リオ、レオの前には、どこからか持ち出したラピリア酒(薬)の瓶が大量に置かれ、それによる魔力回復で何とか浮遊城の飛行を維持し続ける。


夕刻になり城塞都市ガンドロワ近くまで飛んで来た浮遊城。だが、もう3人の魔力は限界である。


魔力回復のために飲んだラピリア酒(薬)が残り僅かとなり、さらに酒の酔いが回りフラフラになった3人は、最後の力を振り絞るとゆっくりと浮遊城を地上に着地させる。


”ズン”。


鉱山街バルフロアとその周辺の村々の住民の避難は成功した。


「やりました。城塞都市ガンドロワ迄は、もう少しありますが住民達は助かりましたよ」


兵士がルル達の元に集まる。


だが、ルル、リオ、レオの顔は、夕日を浴びて赤く染まり、笑顔を浮かばせながら魔石の前で眠りにつく。


ルル達の顔が赤いのは、決して夕日のせいではなく、ポーションの代りに飲んだラピリア酒により泥酔していたためである。


ルル達は、ラピリア酒が入っていた大量の空瓶の海の中で、静かに眠りについていた。


その姿を微笑ましく見守る兵士達の姿がそこにあった。


浮遊城の話を思いついた時、この話が真っ先に思いつきました。


城塞都市ガンドロワがリオの魔法で水没する話は、その後に考えたものです。


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