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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
129/218

129話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(10)

久しぶりに顔を合わせた父と娘ですが・・・。


ルルの父親であるガハが城塞都市ガンドロワに帰還しました。


魔王軍第3軍の部下と兵士達は、城塞都市の警備につき城門の上には、魔王軍第3軍の軍旗が掲げられた。


城門に軍旗が掲げられた時は、第3軍の将であるガハがこの地に駐留している証である。


城門の上に居並ぶガハの兵士達は、赤と黒の鎧を纏いその禍々しさは、異様な雰囲気を醸し出していた。




時は、夕日が山の稜線に沈みかけるかという時刻である。


ガハは、部下に城塞都市の警備を任せると娘のルルと共に屋敷に戻り、ふたりだけの質素な宴を開いた。


魔王国の宰相が演習と称して遥か北方にガハの部隊を送ったのだが、それに同調するかのように城塞都市ガンドロワを襲った反乱部隊。


何かの策略を察したガハは、半ば命令を無視する形で自身の領地である城塞都市へと戻って来た。


だが、そこに運良く?末娘のルルが里帰りしていた事で、城塞都市は守られた?ようだ。


「まあ、あれだ。細かい事は置いておくとしてよく戻ってきた。それに領地を守ってくれて本当に感謝するぞルルよ」


「いえ、本当に申し訳ないです。城塞都市をその水没させてしまって」


父親のガハとの会話では、いつもより少しだけおしとやかな口調になるルル。


「だから言ったであろう。細かい事は気にするな。しかし城塞都市を水没させるだけの水をどうやって出したのだ」


「あれは、リオの魔法です。城塞都市に火を放った者が大勢いたので、勢い余ってやってしまったのです」


「そうか、リオがそこまで成長したとは驚きだがお前の従魔だったか。ヒュドラを従えたのは驚いたぞ」


屋敷の庭の木陰には、ルルの従魔である体長3mもの鵂が屋敷の中のルルとガハをじっと見つめている。


「私もまだ作ったばかりで、鵂の能力をよく知らないのです」


「今、なんと言った。”作った”と聞こえたが」


「あれは、リオが言うには”ホムンクルス”という人造生物らしいです」


「お前は、いつから錬金術師になったのだ」


「いえ、私もホムンクルスを作るつもりはなかったのです。ですが、その・・・出来てしまったのです」


「わしは、錬金術には疎いがそう簡単にホムンクルスとやらは作れない事くらい知っているぞ」


「ははは・・・、そうなのです。作った私もなぜあれが出来たのか未だに分からないのです」


ルルは、料理が並ぶテーブルの上に鞘に収まった小さな短剣を置いた。


「この短剣は、父上に差し上げるために持参したものです。私が城塞都市の領主になった証として納めてください」


飾り気のない質素な短剣である。だが、その短剣を手に取り鞘から剣を抜いた瞬間、ガハは思わず目を見開いた。


短剣に埋め込まれた魔石と剣実に刻まれた微細な魔法陣の数々。さらにそれらの魔法陣を繋ぐ魔法回路の実に見事なことか。


「・・・・・・」


ガハは、言葉が出なかった。これだけの魔法陣を刻印した短剣など魔王国、いや魔王城内ですら見た事がなかったからだ。


「その短剣は、我らと共に城塞都市群を治める人族の少年がもたらしたのです。実際にその短剣を作ったのは、ドワーフ族の職人ですが、その短剣の材料、魔石、魔法陣、その全てに人族の少年が関与しています」


ガハは、短剣を鞘に戻すとグラスに注がれた酒を一飲み干した。


「ルルよ。この短剣は魔剣などという類の物ではないな。もっと別の何かだ」


「はい。その短剣に刻まれた魔法陣は、精霊界のものだと聞き及んでおります。短剣の素材は、ミスリルの特品です。さらに短剣に埋め込まれた魔石は、とあるダンジョン内で精製された特殊な魔石だそうです」


「この短剣をわしが貰ってもよいのか」


「はい。我らが治める城塞都市では、一部ではありますが警備隊にその短剣を装備させています」


「まさかにこれを兵に装備させているのか!」


「はい。ただ、誰にでも装備できる代物ではありません。訓練をした者以外が装備すると精神を侵食されるのです。ですので父上もご注意されますように」


「ああ、分かった」


ガハは、静かに短剣を鞘に戻しテーブルの上に置いてはみたものの、ルルが贈った短剣が気になって仕方がなかった。


「どうですか、試しに使ってみませんか」


ルルは、笑顔で父親であるガハにそう言った。だが、その笑顔は、笑ってなどなかった。その意味ありげな笑みが何を意図したものかを、ガハは気付いてはいなかった。




屋敷の広い庭に出たルルとガハ。


「この短剣は、誰でも魔法を放つ事が出来る魔法剣です。想像力を魔法に変え具現化します」


ルルは、己の槍を手に持つと試しにと10m四方の氷の塊を出して見せた。


「おおっ、槍士であるお前が簡単に魔法を使えるのか。父は驚きを隠せないぞ」


ガハは、他人が見れば大笑いされそうな可笑しな笑みを浮かべていた。


「父上、これでもかなり魔力を抑制して小さな氷塊を出したのです。この槍の能力なら屋敷程の氷を出す事ができます」


「なんと。ではやってみるか」


ガハは、短剣を鞘から抜くと魔力を短剣へと流し込んでゆく。そしてルルが言った様に氷塊を想像しそれを一気に短剣へと送り込んだ。


ガハの目の前には、霧が出現し辺りの様子がはっきりと見えなくなった。まだ夕日が山の稜線に隠れる前だというのに霧のせいで薄暗くしかも肌寒さまで感じる程だ。


徐々に霧が晴れてきた時、ガハとルルの目の前にそれは現れた。


全長100m以上もあろうかという氷柱であった。しかも氷柱の上部は、3階建ての屋敷の屋根よりも高く、夕暮れの日を浴びて燃える様な赤い色に輝いていた。


「なっ、なんとこれほどの氷柱を一瞬で作れるのか!」


「父上、言ったではないですか。想像力を具現化すると。これはやりすぎです」


「すっ、すまん」


夕刻の庭に突然現れた巨大な氷柱に気付いた使用人や屋敷の警備の者達が何事が起きたのかと騒ぎ出し庭に集まり始める。


「ガハ様、何事です」


「なんと巨大な氷柱ではないですか」


「まさかガハ様がお作りになったのですか」


使用人達の驚きよりも自身がこの巨大な氷柱を作ってしまった事に驚くガハ。


「ははは。すまん。ちょっとした余興だ。まあ、これは氷だからすぐに融けて消える。騒がせてすまんな」


ガハは、ルルの手を取ると屋敷の中へそそくさと戻っていく。


「父上。この短剣を使う時は、ああなる事お肝に銘じてください」


「わっ、分かった。だがこれではわしが魔術師と名乗っても皆が信じるであろうな」


「ええ、ひとつ間違えば大惨事を引き起こします。しかも父上はお気づきですか」


「何をだ」


「父上は、魔力切れを体験した事はありますか」


「若い時に・・・そう言えば、あの様な巨大な氷柱を作ったのになぜ魔力切れにならんのだ」


「あの短剣は、魔力を殆ど必要としません」


「何だと」


「もし、この短剣が盗まれ他人の手に渡れば大変な事になります。ですので父上が一度使ったら最後、家族であれこの短剣を使う事ができない様に呪いをかけてあります。それをお忘れなき様に」


「分かった」


ガハは、ルルから贈られた短剣をそっと懐にしまい込んだ。


ふたりはしばらく食事を楽しんだ後、ルルが給仕に合図を送り。その合図を待っていたかの様に給仕がガハのグラスに黄色い酒を注ぐ。


「父上。そのお酒は、私達が治める城塞都市で造られたものです。父上の御口にあえばよいのですが」


「ほう、酒も造っているのか」


ガハは、給仕に注がれた酒の匂いを嗅ぎ口の中に注ぎ込むと味を堪能し、喉ごしを味わう。


「ほう、若い酒だが美味いな」


「近隣の国へも出荷しております。かなり人気があり品薄になっています」


「つまり税収もなかなかという事か」


「いえ、まだ数を作れないのでそこまでは行っておりません」


ガハは、給仕に同じ酒を注ぐ様にと催促し、給仕がグラスに注いだ酒を次々を開けていく。


「ほう、まさか酒造りまでやっておるとはな」


「この酒造りも私達と共に領主となった人族の少年の手によるものです」


ここでガハは、ある事に気が付いた。先ほどから話の端々に出て来る人族の少年という言葉。その者とは、いったい何者なのかと。


「時にルルよ。先ほどから話の端々に出て来る人族の少年とは、どんな関係なのだ」


ガハのその言葉に食事をとるルルの手が止まる。


「かっ、関係と言いますと・・・」


「まさか、将来を誓いあったとか・・・そいういう関係ではあるまいな」


「なっ、何を言い出すのです父上。わっ、私はその様な淫らな・・・」


ルルが握るナイフとフォークが皿の上でカチカチと小刻みに震える。さらにルルは、顔を下に向けたままガハの顔を見ようともしない。


明らかにルルの態度がおかしくなっていた。


「ほう。その人族の少年が好きなのだな。だが、わしが気に入った者でなければ、お前の婿には迎え入れる事はできんぞ」


「いえ、そのカルとはそんな仲では・・・」


「ほうその者は”カル”という名前なのか。・・・まさかもうやってしまったのか」


「やる?やるとは・・・」


「まさかその者と子作りなどしておるまいな」


「なっ、父上はなんと淫らな・・・」


真っ赤になった顔を上げたルルは、ガハのいたずらっ子がする様な表情を見て、思わずしてやられたと思った。


「ははは。お前は分かり易くてよいな。まああれだ、時が来たらここへ連れて来い。話はそれからだ」


「はっ、はい」


ルルは、真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくなり、また顔を下に向けたままになってしまった。


まんまと父親にしてやられたとルルであった。




食事も終わり、全ての皿がテーブルから片付けられた。だがガハは、相変わらずルルが持ち帰った酒を飲み上機嫌であった。


「父上。少し飲みすぎです」


「ははは、すまん。だが、この酒は美味い。ことのほか美味い。だが、わしも少し酔ったようだ。ルルの頭の上に羽の生えた小人が見える」


「いえ、それは小人ではなく妖精です」


「ほう妖精とは、妖精族の事か」


「はい。実は、この世界のどこにでも妖精は存在します。ですが私達にそれを認識する手段が無いのです。ですがこのお酒を飲むと妖精が見える様になります」


「それは、この酒を飲んでいる時だけの話か」


「いえ、一度でもこのお酒を飲んだら妖精から逃れる事はできません」


「・・・図ったな」


「はい。父上に私達が治める城塞都市の一端を体験して欲しかったのです。私達が治める城塞都市では、妖精と共に生きております。もしかしたらここもそうなるかもしれません」


「お前達は、私の知らない世界を知っているのだな」


「はい」


ガハ、少し間を置くと先程から言い出せずにいたあの城の事を口にした。


「時にあの空に浮く城だが、あれはリオが作ったのだな」


「はい。特殊な魔石が必要なので浮遊城は、あれひとつだけです」


「作ってくれと言ったら父にも作ってもらえるか」


「えっ、父上は、浮遊城が欲しいのですか。魔石を工面しないといけないので難しいかと」


その瞬間、ルルの父親であるガハは、ソファーから飛び降り床に座り込むとルルに対して頭を床に擦り付けた。


「頼む、あれの浮遊城が欲しいのだ。わしは、小さい頃に亡き母が読んでくれた御伽噺に出て来る浮遊城の話に胸を踊らせた。それが城塞都市に戻って来てみれば目の前にあるではないか、わしの心はあれに踊りっぱなしなのだ!」


突然のガハの行動にどうしてよいのか途方に暮れるルル。


”パキ、パキパキ、パキパキパキ”。


突然、何かが割れる様な音が庭から響き渡る。


その音を響かせる何かを確認するためにルルとガハは、窓から庭を覗き込んだ。


そこにはガハ先ほどルルから贈られた短剣で作った氷柱があった。その氷柱は、ちょうど真ん中辺りから折れ、上半分が屋敷の屋根に落ちる瞬間であった。


折れた氷柱を魔法でなんとか・・・と考える間もなく、氷柱は屋敷の屋根にのめり込んでいく。


さらに下半分の氷柱も屋敷の壁に向かって倒れ込んでいく。


「「あっ!」」


ルルとガハが放った言葉は、たったその一言であった。


”ドーン、メキメキメキ”。


屋敷の屋根に落ちた氷柱と、屋敷の壁に倒れかかった氷柱は、綺麗に3階建ての屋敷を半壊させるには十分な破壊力を持っていた。


辺りは、氷柱により砕けた柱とレンガの破片が飛び散り惨憺たる状態が広がっていた。


幸い、使用人に怪我人はいなかったが、崩壊した氷柱により屋敷の真ん中が綺麗に切断された様に崩壊していた。


「父上。私から何も言う事はありません」


「すっ、すまん。つまりこの短剣を使うという事は、こうなる覚悟を持てという事か」


自らが作り出した氷柱で破壊された屋敷を見て途方に暮れるガハと、いらない仕事を増やしてくれたガハを見つめる多数の使用人の姿がそこにあった。

カルの贈り物は、表裏一体です。


※当面、残業で遅くなるので更新時間も遅くなります。ご了承ください。



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