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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
128/218

128話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(9)

台風19号が足早に過ぎて行きました。


神奈川県を横断する台風というのもかなり珍しいです。


話は、屋敷街の城壁でケルベロス達が警備を始めた頃にさかのぼります。


城壁の上で警戒を続けるケルベロス達と警備隊の兵士達。


ケルベロスの頭の上には、華憐な黄色い花が咲き風が吹く度にさやさやと揺れていた。


ケルベロス達は、身動きもせずに城壁の外をずっと見ている。そこにいる何者かを見つめるかの様に。


「あのケルベロス達、身動きひとつしないな」


「ガハ様の末娘のルル様もいなくなったし大丈夫なのか」


「ひとつ気になったんだが、城塞都市のあちこちから煙が上がったと思ったら今度は、巨大な雲が出来やがった」


「こんな砂漠の近くであんな雨雲なんて見た事ないぜ」


「いったい何が起きてるんだ」


城壁の上で警備を続ける警備隊の隊員達は、頭の上に黄色い花を咲かせたケルベロスを遠巻きにしていた。だが、腰にぶら下げた剣は、いつでも抜ける様に最新の注意を払っていた。


敵とも味方とも分からないケルベロス相手に、そう心を許せるはずは無いのだ。


「おい、さっきまでいたケルベロス共がいないぞ」


「あっ、城壁の外を歩いているぞ、いったい何処に向かっているんだ」


「敵に動きがあるのかもしれん。警戒を続行する」


ひとりの警備隊の兵士が指笛を鳴らし、警戒続行である事を知らせていく。


唐突に動き出したケルベロス達。


頭に華憐な黄色い花を咲かせたケルベロス達は、いったい何処に向かったのか。





同時刻。城壁の外では・・・。


「ケルベロス達が城壁に上ったきり帰ってこないな」


「まさか倒されたのか」


「ケルベロス達が倒されるなんて余程の敵だぞ」


「だが、城壁から飛び立っていった巨大な鳥もそうだし、鯰がな・・・」


「どうやったら魚が空を飛ぶんだ」


「あの鯰な。尾ひれを動かしていたからな、ありゃ空を泳いでいるんだ」


「頭のおかしな魔術師か錬金術師がいるんじゃないのか」


「とにかくだ。動くのは、斥候が戻ってくるのを待ってからだ」


屋敷街の城壁から少し離れた荒地の草むらに潜む反乱部隊の兵士達。


その数、総勢30人。ケルベロスを操るティマーとその護衛である。


そこへ偵察とケルベロス達の攻撃状況を監視していた斥候が戻ってきた。


「状況はどうだ」


「ああ、少し問題があったが屋敷街の城壁は掌握した。ケルベロスがいれば、警備隊など問題にはならない」


そう言った斥候のひとりが華憐な黄色い花が咲いた苗を兵士の前に差し出した。


「なっ、何の真似だ。今は作戦中だぞ」


「いえ、これも作戦のひとつです」


斥候が差し出した華憐な黄色い花がそよ風になびいて揺れている。


だが、黄色い花は根を足の様にして歩き出すと、斥候の目の前にいる兵士の腕に乗り移り兵士の頭めがけて走り出した。


「なっ、なんだこの花は・・・」


必死に黄色い花を叩き落そうとするが、黄色い花はあっという間に兵士の頭と兜の隙間へと入り込んだ。


兵士は、被っていた兜の留め具を必死になって解いたが、時既に遅しであった。


「あっ、あっ、あああ、あああああああああ・・・・」


兵士の瞳が小刻みに痙攣を始めるとおかしな言葉を口から吐き続ける。


斥候は、被っていた己の兜を取ると、兵士に向かって敬礼をする。その斥候の頭には、華憐な黄色い花が咲き頭に根を下ろしていた。


「ようこそ、我らの世界へ!」


荒地の草むらに待機していた3体のケルベロスと兵士達の頭の上には、次々と華憐な黄色い花が咲来始めた。


兵士達は、武具を手放すと屋敷街を守る城壁へと隊列を組んで行進を始める。


その隊列の先頭には、頭に華憐な黄色い花を咲かせたケルベロス達の姿があった。




次の日の朝。


城塞都市ガンドロワの城壁の上では、昨晩から警備を続ける兵士達の姿があった。


城壁の中では、浸水した家屋の修繕のために多くの木材やレンガが運ばれ山住にされていた。


だが、まだ足元がぬかるんでいて思う様な作業ができない。なので実際には被害状況の把握と被災住民の避難先への移転が最優先であり、家屋の修繕はまだ先の話であった。


そんな中、朝靄の中を巨大な何かが城塞都市ガンドロワに向かって歩いていた。


城塞都市を守る城壁の上で夜通しの警備をしていた警備隊の兵士は、朝靄の中を城塞都市に向かって向かって来る何かに気付くと、目を皿の様にしてそれを凝視する。


「なんだありゃ」


城塞都市の城門へと通じる道の上を巨大で頭らしきものがいくつもある首の長い・・・。


「まさか、ありゃヒュ・・・」


城壁の上で夜通しの警備を行っていた警備隊の兵士は、思わず後ずさる。だが、ここから逃げる訳にはいかない。


警備隊の兵士は、首にぶら下げた笛を吹きならした。それは、緊急時のみに鳴らす笛である。


警備隊の宿舎で寝ていた兵士達がたたき起こされると、慌てながらも武具を装備し、盾と剣を持ち城壁の上で戦いの準備を始める。


「本当にヒュドラなのか」


「俺に聞くな。ヒュドラなんて見た事なんてなんだよ。魔獣を識別する認識本にあった姿にそっくりだからそう思っただけだ」


「でも、ヒュドラってやつは非常に厄介な魔獣なんだろ」


「ああ、首を落としても直に復活するらしい。それに口から吐く毒のブレスは、浴びたら最後だそうだ」


「俺達だけで戦えるのか」


「今、副領主様を呼びにいった。それに・・・」


「それに何だ」


途中まで話しかけた兵士は、城壁の外に置かれた巨大な岩の塊の上に建つ城を指さした。


「あそこに居る連中にも伝令を送った。運が良ければ助かるさ」


「そうだ、我らが来たからには、ヒュドラなど造作もない!」


警備隊の兵士の横には、さっきまで居なかったはずのルル、リオ、レオの姿があった。


「ひっ、いつの間に」


「その言い方は失礼ではないか。我らは、呼ばれたから来たのだ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


「あれがヒュドラか。初めて見る魔獣だな」


「やはりそうですか。えっ、もしかしてヒュドラ相手に戦った事はないと?」


「当然であろう。我らは、城塞都市の運営に忙しいのだ。ダンジョンで魔獣狩りに精を出す時間などない」


その話を聞いて思わず顔が青ざめる兵士達。


「だが、安心しろ。我らの従魔は強い。きっと彼らがどうにかしてくれる」


少女の発する言葉には力がある。だが、それは従魔の力をあてにした他力本願な言い方であり、それを信じられる程、兵士達も人格者ではない。


ヒュドラの後方には、隊列を組み大盾を構えた兵士が並び、その後ろには、剣や杖を持つ兵士もいる。


「あれが反乱部隊の本体だな」


「流石に正規軍の兵士です。隊列もよく訓練されています」


「だが、我らの従魔の敵ではない」


ルルの従魔である鵂は、城壁の外に降りるとどこからか黒い玉を出すと、その中から華憐な黄色い花を咲かせた苗を大量に取り出し、向かって来るヒュドラめがけて次々と投げていく。


鵂が投げた華憐な黄色い花の苗は、地面へと着地すると自らの根を足の様に動かしてヒュドラに向かって一目散に走り出した。


地面を覆う程の華憐な花を咲かせた苗は、数百を数える。それらは真っすぐにヒュドラに向かっていく。


ヒュドラは、地面を覆いつくす黄色い花になど目もくれず城塞都市ガンドロワに向かって歩き続ける。


黄色い花は、ヒュドラの巨体とその足に踏み潰されない様に器用に避けながら、ヒュドラの足と尾からヒュドラの体によじ登っていく。


向かう先は、5つあるヒュドラの頭だ。


巨大な体から背中へ、そして5つの首に分かれれ華憐な黄色い花の苗は、ヒュドラの頭へと到達しそして自らの根をヒュドラの固い皮膚の中へとめり込ませていく。


ヒュドラの5つの頭は、華憐な黄色い花で埋め尽くされてしまう。ヒュドラの目は、意識のない者の様な白目をむいていた。


その瞬間、5つあるヒュドラの頭は、城塞都市ガンドロワではなくヒュドラの後方で隊列を組む兵士達に向けられた。


ゆっくりと体を今来た方向へと方向転換していくヒュドラ。


さらにその空を気持ち良さそうに泳ぐレオの鯰。鯰は、巨大な積乱雲の下を泳ぎ落雷を浴びた時から新たな技を身に着けた。


鯰は、隊列を組む兵士達に向かって空から雷撃を何度も放ち始める。


雷撃により身動きできない兵士が続出する。さらにそこに追い打ちをかける様にヒュドラが5つの頭から毒のブレスを吐き出した。


毒のブレスを浴びた反乱部隊の兵士達の体は、見るも無残に溶けていく。


まだ言葉を発する事のできる反乱部隊の兵士達は、罵声を発しながら徐々にこと切れていく。


それを城壁の上で見ていた警備隊の兵士達は、あまりの惨状に思わず顔をそらしてしまう。


「酷い。いくらなんでもあそこまでしなくても」


「だが、ヒュドラが城塞都市に入ったら我らがああなっていたんだ」


「いや、確かにそうだが・・・」


城壁の上で警備隊の兵士達がそんな会話を続ける中、ルル、リオ、レオは、その惨状から目を背ける事なく凝視していた。


それは、城塞都市の領主である自身ですらあの様な状況になるかもしれない。それを絶えず心に刻み込もうとする覚悟の現れであった。


城塞都市ガンドロワを襲った反乱部隊との戦いは、終わりを告げた。だが、その戦いを丘の上から見ていた者達がいた。


ルルの父親であり、魔王軍第3軍の将であるガハの一団であった。


ガハは、宰相から命じられ魔王軍第3軍の演習を魔王国の北の僻地へ行うために向かったのだ。


ところが演習地へ向かった途端、ガハの領地が反乱部隊に襲われたのだ。


何か意図を感じたガハは、部下に第3軍の指揮を任せると、信頼のできる部下と数百名の兵士を引き連れ、城塞都市ガンドロワへと戻って来たのだ。


そこで目にしたのは、ヒュドラを従えた反乱部隊であった。


ガハは、己の領地が地獄と化す事を確信した。例え魔王国第3軍といえども、ヒュドラ相手に数百名の兵士では全く歯が立たない。


城塞都市の兵士達が、ヒュドラの毒のブレスにより体の熔けた躯を回収し墓を作っていく。


その横を馬に跨ったガハとその部下が通り過ぎていく。


兵士達は、ガハの姿を見るや直立不動の体勢で敬礼を送り、馬上のガハは、片手を上げてそれに答えていく。


ガハが城塞都市ガンドロワの城門を潜ると、そこには先日迄の美しい街並みなどなく泥まみれとなった街並みが広がっていた。


馬を降りたガハは、副領主であるサラから事の経緯を説明されながら、休むことなく城塞都市の視察を始める。


そしてガハは驚きを隠せずにいた。それは、被災した城塞都市の領民のために作ったという避難家屋であった。


副領主のサラの案内でやって来た場所には、新たな城壁と真新しい城が6つも並んでいるのだ。


さらに城塞都市ガンドロワの上空には、巨大な岩の上に城壁と城を頂く浮遊城が浮いていた。


「私がいない間にいったい何が起こったというのだ」


そんな言葉を発したガハであったが、その目には怒りの感情ではなく夢を見る少年の様なキラキラとした感情が映し出されていた。


自らの領地に戻って来たルルの父親のガハですが、自らの領地が変わってしまい驚きを隠せません。


※なぜかPCの設定が変更されていて、セキュリティパッチ適用後に通知なしでOS再起動する様になってました。バッフクランめ!


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