126話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(7)
遅くなりました。
某メーカーさんの残業早見表には、朝の5:00迄の残業時間が掲載されていました。
なので朝の5:00迄は、今日ってことで・・・。
城塞都市ガンドロワの上空に差し掛かった浮遊城。
その浮遊城の城壁から眼下の城塞都市を見下ろす。薄い雲に覆われているとはいえ、所々で雲の切れ間から地上が良く見える。
城塞都市ガンドロワの街のあちこちで火の手があがり、ケルベロスらしき頭が3つある魔獣が警備隊と戦いを繰り広げていた。
「警備隊、劣勢の様ですね」
「複数のケルベロス相手では、正規軍ですら危ういからな。反乱部隊とはいえ元々魔王軍の正規部隊だから城塞都市の警備隊など敵ではないだろう」
「では、私達も警備隊の援護に向かいますか」
「いや、その前に街に放たれた火をなんとかできないか」
「あのままだと住民に死人が出ますね」
「例えば、この浮遊城に纏わせている雲をもっと大きくして雨を降らせるとか」
「そうですね。試した事はありませんがやってみます」
ルルの提案にリオも賛同するとリオは、浮遊城の下層にある魔石へ向かった。
「では、街の火はリオに任せて我々は警備隊の援護に向かう」
「はい」
ルルは、自身のホムンクルスである鵂の背に乗り、レオは、鯰の頭に乗ると地上に向かって空を飛び泳ぎ始めた。
城塞都市ガンドロワの城壁内では、侵入した反乱部隊とティムされた複数のケルベロスが警備隊と激しい戦いを繰り広げていた。
だが城塞都市の警備隊では、ケルベロスに全く歯が立たず専ら大盾を並べ防御魔法で防壁を張るのがせいぜいであった。
それを何度も突破される度に重症を負う警備隊の兵士達。
「隊長。我々では手が付けられません。撤退命令を!」
「バカやろう。俺達が逃げたら誰が住民を守るんだ。なんとしてもここを死守する」
「ですが・・・」
「分かっている。今、副領主様に掛け合っている。最後は、副領主様にも戦ってもらう」
「「「「おおっ」」」」
思わず警備隊の兵士達からどよめきが沸き起こる。
この城塞都市ガンドロワは、リオの母親であるサラが副領主を務めており、日頃不在である領主のガハに代り全権を託されていた。
兵士達は、物理攻撃にも魔法攻撃にも耐性のあるケルベロス相手に必死の攻防を繰り広げる。
だが、怪我人が増えるばかりで後退する以外に方法がない状態である。
そんな時、空から何やら黒い塊が地上に落ちるとポンポンと跳ねながら炎の塊を口から吐き出すケルベロスに向かっていく。
ケルベロスは、その黒い塊に身の危険を感じたのか、とっさに後ずさりを始めると徐々に距離を取る。
黒い塊は、ゆっくりと跳ねながら複数のケルベロスの前をフラフラと飛び跳ねる。
次の瞬間、黒い塊は目にも止まらぬ速さで移動すると次々とケルベロスを飲み込んでいく。
その光景を見ていた警備隊の兵士達が思わず呆気に取られてしまう。目の前で今まで苦戦を強いられたケルベロスが一瞬で姿を消したのだ。
思わす剣と盾を構えながらもその光景から目を離せないでいる兵士達。
やがて黒い塊は、さっき迄とは違い地上で動かなくなる。
警備隊の兵士がその黒い塊に向かって歩き出そうとした時、今度は、巨大な鳥に跨り鎧と槍を装備した少女が現れた。
「てっ、敵か!」
「「「警戒!」」」
盾と剣を構えて隊列を組み直す警備隊の兵士達。
少女は、巨大な鳥から降りると警備の隊列へ向かって歩き出した。
「えっ、ルル様ですか?」
ひとりの警備隊の兵士が思わずルルという名前を口走る。
「お前の知り合いか」
「あっ、本当にルル様だ」
別の兵士もルルの名前を口走る。
「ルル様って誰だよ」
「あっ、そうか。お前は新入りだから知らないのか。ルル様は、この城塞都市の領主であるガハ様の末娘だよ」
「えっ、でもあの巨大な鳥は・・・」
「ルル様は、鬼人族の習わしで成人になると城塞都市のひとつを手に入れるというやつがあってな、それのために南の城塞都市へと向かったんだ」
警備隊の兵士が新入りに向かって鬼人族の習わしについて話始めた。
「遅くなってすまん。援軍にやって来たぞ」
「「「「「おーーーーー!」」」」」
思わず警備隊の兵士達から歓喜の声が上がる。
「ルル様凄いです。ケルベロスを瞬殺ですよ」
「遅くなったな。ちょうど帰省中だったのでな」
思わず兵士達にもみくちゃにされるルル。
さらにそこに空を泳ぐ鯰に乗ったレオが到着しレオが鯰の頭から降りて来る。
「レオ様だ。レオ様もいるぞ」
ルルとレオが兵士達にもみくちゃにされながら警備隊の隊長の前へと向かう。
「遅くなった。ケルベロスは倒した。残るは、城塞都市に紛れた敵兵を探したい。やつらは街に火を放っている」
「助かります。ならば、我らと共に・・・」
警備隊の隊長がそう言いかけた時、今度は空から大粒の雨が降り出した。
この城塞都市ガンドロワは、城塞都市ラプラスやアグニⅡと同様に砂漠に隣接する地域のため、殆ど雨が降らない地域である。
見た事もない大粒の雨が降りしきる中、兵士達は再び隊列を組むと敵を探していくつかの部隊へと別れていく。
雨足はさらに強さを増すと、隣りで話す者の声さえ聞き取れない程の雨音を響かせた。
「目の前すらよく見えない。これでは、敵を撃ちに行くどころではないぞ」
思わず警備隊の隊長があまりの雨音に悲鳴に近い声を上げる。
さらに雨脚は強まり、いつしか足元は水溜まりではなく川の様になっていた。
ルルは、一旦退避しようと鵂の元へと向かった。だがさっきまで目の前にいたはずの鵂は既に飛び立っていた。
「あいつどこに行く気だ」
「ルル様。ここは危険です。どこかの建物に避難しましょう」
「そうだな」
雨音に負けない様にとレオが大きな声を上げる。
ルルとレオは、二手に分かれた警備隊の兵士達と近くの建物へと非難した。だが外はもう川と化していて歩ける状態ではなかった。
「鵂のやつ。どこかに飛んで行ってしまった」
「恐らく雨が嫌いなのではないですか。逆に私の鯰は、喜んでいるようです」
ルル達が避難した建物の前では、巨大な鯰が川となった道の真ん中で楽しそうに泳ぎ回っていた。
「しかし、リオのやつこの雨はやり過ぎではないか」
「確かにそうです。ですがこの雨なら放たれた火も消えます」
「まあ、そうなんだが・・・」
川の様になった道の真ん中で泳ぎまわる鯰。
次の瞬間。レオの鯰に空から飛来した雷が直撃した。辺りが白く光り何も見えない状態となり、轟音と共に何が起きたのかさえ誰も把握できない。
閃光で見えなくなっていた目がようやくと見える様になった時、目の前には帯電したレオの鯰が空へと泳ぎ出す瞬間であった。
「雷が落ちたというのに、あいつ何ともないのか」
「凄いな。帯電しながら空へと飛んで行くぞ」
雷撃魔法を放つかの様に空を泳ぐ鯰。ときたま地上に向かって雷を放ちながら空を自由に泳ぎ回る。
雨足はさらに強くなり、今度は人の頭程もある大きな雹迄も降り始める。空には見た事もない黒い巨大な積乱雲が発生していた。
もう雨で街に放たれた火を消すという話ではなく、大雨による別の災害が城塞都市ガンドロワを襲っていた。
その頃、浮遊城の仮想では、リオが魔石に魔力を注ぎ続けていた。
「雨を降らせる雲です。大きな雲、とてつもなく大きな雲です。そして大雨を降らせるのです」
カルがリオに贈った魔法杖。それは、想像力が魔法の強さを決定する精霊界の魔法陣を用いた杖である。
想像力が強ければ強い程、魔法も強くなる。”想像力”と”思い込み”と”妄想”により強くなる魔法。
今迄に大きな雲を造り出した事などないリオは、想像しうる最大級の雲を頭に思い浮かべそれを杖に送ったのだ。
結果、魔法杖は、それを魔石へと送り魔石はそれを具現化するために最大の魔力で雲を作ってしまった。
本来、リオの魔法杖で雲を作ればよい話であったのだが、浮遊城と魔石は切っても切れない関係にあったため、思わず魔石に雲を作る魔力と”妄想”を送ってしまったのだ。
それにより巨大な積乱雲が発生し、積乱雲は、今迄に見た事もない大粒の雨を降らせるに止まらず巨大な雹を降らせ、さらに雷をも発生させていた。
巨大な積乱雲の中を飛ぶ浮遊城。
だが、浮遊城も積乱雲の中で大雨と雷の嵐に見舞われていた。
強風に煽られ大きく揺れる浮遊城。さらに大雨が浮遊城の中に溜まるとみるみる水かさが増しリオがいる浮遊城の下層へと流れ込んでいく。
そこにルルのホムンクルスである鵂が現れた。
実は、羽が濡れる事を嫌った鵂が、ルルの元を早々に離れると浮遊城へと逃げ込んだのだ。
ところが逃げ込んだ浮遊城は、今まさに大雨と雷の巣の真っ只中にいた。
恐怖にかられた鵂は、思わず浮遊城の下層にいたリオを頼って逃げ込んで来たのだ。
大揺れにゆれる浮遊城。さらに大量の雨が流れ込みリオの肩の高さまで水が溢れだした。
雷は、浮遊城のいたる所に落ち、城の外壁を次々を焦がし破壊していく。
魔石に魔力を流し込みすぎたと理解したリオであったが時すでに遅しである。
浮遊城の魔石は、全魔力を巨大積乱雲の維持に回す事になり、飛ぶための魔力が枯渇すると浮遊城は、地上へ向かって急降下を始める。
さらに巨大積乱雲の中で吹き荒れる強風により大揺れに揺れるため、浮遊城の下層では、恐怖のあまり抱き合っていた鵂とリオが、湖と化した城の下層で溺れかけていた。
やがて浮遊城は、巨大な積乱雲から抜けると斜めになりながら城塞都市ガンドロワに向かって降下していく。
もう鵂もリオも気を失い誰も制御できない浮遊城。そして城塞都市ガンドロワの城壁をかすめると地上へ落下する。
浮遊城は、斜めになったまま湖と化した地上へ巨大な水しぶきを上げて落ちた。
地上に落ちた浮遊城は、斜めになりその城壁からは、滝の様に雨水が大量に流れ出ていた。
リオの母親であるサラは、城塞都市ガンドロワの副領主である。
領主は、ルルの父親であるガハだが、魔王国第3軍の将であるため殆ど城塞都市には不在である。そのため専らリオの母親であるサラが領主として城塞都市の運営にあたっていた。
サラは、領主の館の1階にある執務室の机の上に椅子を乗せ、そこに腰掛け足組をしてルル、リオ、レオを見下した格好で睨みつけていた。
「貴方達が何をやったのかは、全て知っています。良い事も悪い事もです。ですが、それを貴方達の口から聴きたいのです」
サラの口調からは怒りは感じない。だが、領主として責務を全うする者の誇りを感じさせる強さがある。
対するルル、リオ、レオは、腰まで雨水に浸かり頭を下げたまま身動き出ずにいた。
そう、なぜリオの母親が机の上に椅子を乗せてそこに座っているのかというと、リオの魔法で城塞都市全体が腰の高さまで水没しているためである。
「私は、怒っているのではありません。何があったのかをありのままに話しなさいと言っているのです」
サラは、そう言ってはいるが、明らかに感情の高ぶりがその声で分かってしまう。
自身の母親の言葉に対してリオは、弁明をしようと顔を上げて口を開きかけた。
だが、それを遮り話を始めたのはルルであった。
「私がリオに命じた。このチームのリーダーは私だ。私の命に従うのは当然だ」
「ほう、ならばあなたがこの災害の全責任を取るというのですか」
「そうせよと言うのであれば、そうしよう」
「言いますね。城塞都市の領主になったからといい気になっていませんか」
サラの言葉が徐々に冷たくなっていく。明らかにサラの態度が硬化していた。
「私が城塞都市の領主になって日が浅いのは認める。だがそれでも私は、3つの城塞都市の領主を兼務している。民を思う気持ちは本物だ」
「その傲慢さがこの結果を招いたと思いませんか」
ルル、リオ、レオの腰の高さにまで溜まった雨水。その劣悪な環境下でもルルは、己の信念を曲げずに話を続けた。
「思わない。反乱部隊が城塞都市のあちこちに火を放っていたのは事実だ。それに対策を打てずに放置したのは、そちらの問題だ」
「言いますね」
「私の城塞都市も以前、同じ様に焼かれた事があった。その時は、力及ばず都市のかなりの建物が燃えてしまい住民が住む場所を失った。もうそんな事は二度と経験したくはない」
「ほう・・・経験済みという訳ですか」
「我らの城塞都市を焼いたのは、とある大商家に雇われた傭兵団であった。相手がプロとはいえそれらを取り押さえる事すらできなかった。それは今でも悔しくてならない」
腰まで溜まった雨水の中にあるルルの拳が強く握られているのは、目には見えなくてもその光景はここにいる全ての者の目にも映っていた。
「分かりました。今回の災害は、全て反乱部隊の魔術師が行った事であると判明した」
「「「えっ」」」
「いいですね。全て反乱部隊の仕業です」
「「「はい」」」
ルル、リオ、レオは、お互いの顔を見合って喜びの笑顔を浮かべた。
「ただし、だからと言ってあなた方を開放する気は毛頭ありません。この大惨事から城塞都市を復旧させるためにその体を提供しなさい」
「なんとサラ殿は、我らに娼館で・・・兵士達の・・・その・・・相手をせよと」
サラは、机の上に乗せた椅子から立ち上がると、ルルの頭にげんこつが飛ぶ。
「いっ・・・痛い!」
「何をバカな事を口走っているのです。まずは、あなた方の魔法でこの溜まった雨水をなんとかしないさいと言っているのです。あれ程の浮遊城を飛ばせるのです。それだけの魔力があれば、この様な雨水くらい何とかできますね」
ルル、リオ、レオは、湖の様になった城塞都市ガンドロワの災害復旧に尽力する事になった。
建物のあちこに落雷の影響で黒く焼け焦げた後が残り、低い土地では足では立てない程の雨水が溜まっている。
「これを我らで復旧させるのか・・・」
「仕方ありません。ですが以前の私達とは違います。水没した建物なら私の土魔法でどうにでもなります」
「おおっ、そうだった。それは心強いな」
ルルには、リオが誇らしく見えた。だがリオは土魔法で城壁と城しか作った事がない。
既にこの先が見えている様に思えるのだが、それはまたのお話で。
今日は、PCが壊れたと思いお話の投稿も無理かと諦めかけました。
こんな事がありました。
今日の午前中、歯科に行く前にデスクトップPCがブラックアウトしていたので電源を入れ直しました。
ついさっきまで起動していたんです。で、全く起動しないのでPCが壊れたと思いました。
歯科のあとで試しにデスクトップPCを起動してみたら「パッチ適用が失敗したので戻しています」と表示されました。
メッセージも無くいきなりパッチ適用とOSを再起動するMcrosoftの仕業でした。
最近パッチ適用前に適用しますとメッセージすら表示せずに突然OSの再起動を行う暴挙を繰り返すMicrosoft。
Microsoftの資格をいくつか持っているので文句を言いたくないのですが、もう少しOSを使う側の立場に立って欲しいものです。