123話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(4)
砂漠の上を浮遊しながら進む浮遊城。故郷へと向かう鬼人族3人娘。果たして何事もなく故郷へと辿り着けるのでしょうか。
ルル、リオ、レオの鬼人族の3人娘は、リオの浮遊城に乗り込み城塞都市アグニⅡから砂漠を横断して城塞都市ガンドロワを目指した。
城塞都市ガンドロワは、ルルの父親であるガハが領主である城塞都市であり、城塞都市の周辺にはルル、リオ、レオ達の実家が点在する。
ルルの父親であるガハは、魔王国第3軍の将でもある。第3軍は、魔王国の王都を守る部隊であるため王都から遠方にある城塞都市ガンドロワには常時不在である。
ルルの母親であるマユも同様で魔王城の防衛を担う魔術師である。マユは、ほぼ魔王城に常駐しているためやはり城塞都市ガンドロワには不在である。
兄と姉も、他の城塞都市の領主をしているため城塞都市ガンドロワにはおらず、ルルの家族と呼べる者は誰もいないのだ。
それを知っているルルは、少し気が重かった。使用人しかいない広大な屋敷に戻っても話し相手をしてくれる者は、相槌を打ってくれる使用人くらいである。
今までの様に城塞都市アグニⅡで副領主として忙しく働いていた方が、リオやレオそれに領主の館の職員達と絶えず接しているため寂しさを感じる事がないのだ。
さて、砂漠の上空を進むリオの浮遊城。
ルルの鵂は、夜行性のため城の片隅で大きな体を小さくして寝ている。
レオの鯰は、浮遊城の前を露払いでもするかのように先行して空を泳いでいた。
ルル、リオ、レオは、浮遊城のテラスに陣どり、そこから見える砂漠の景色を眺めている。今まで砂漠を空から眺める事などなかった3人の目には、とても新鮮な景色に映っていた。
「まさかこうやって砂漠を空から眺められるなんて夢のようです」
「こうやって見ているとサンドワームが居る様には見えないんですね」
「まあ、やつらは普段から砂の中にいるからな」
「それにしても浮遊城とは便利です。空を移動するならルル様の鵂の方が早いんでしょうけど、城ごと移動できるという安心感がたまりません」
「そうだな。確かにこの安心感はいいな」
浮遊城は、多少の風を受けても揺れる事もなく砂漠の上を進んで行く。
地上から約100m程度の高さであろうか、実際のところは、それ程の上空という訳でもなく手を伸ばせば地上に届きそうに感じる程度である。
ときたま砂丘の上にサンドワームが移動した後が残っているが、砂丘の上を歩かなければそれらの姿を見る事はない。
砂漠の暑く乾いた風が吹き抜けるテラスにテーブルと椅子を持ち出し、そこでお茶を飲みながら優雅に過ごす3人。
ときたまリオが浮遊城の魔石に込められら魔力量を確認に行くくらいで、問題もなくゆっくりと空を浮きながら進む浮遊城。
レオの鯰も浮遊城の露払いが飽きたのか、城の日陰に入りいつの間にか眠りについていた。
この早さであれば明日の昼頃には、目指す城塞都市ガンドロワに到着する予定だ。
テーブルに置いたティーカップにお茶を注ぎ、甘めのクッキーを頬張る3人。
副領主として領主の館にいる時は、職員との打ち合わせや書類へのサイン、或いは周辺地位への視察などで多忙を極めるため、優雅のお茶を飲む時間なと殆どない。
それが、砂漠の上空を城ごと浮きながら景色を楽しみお茶を・・・。
その時であった。テーブルに置いたティーカップがカタカタと小刻みに音を発した。
”ドン”。
浮遊城がいきなり大きく揺れ始めた。
「まさか魔石に不具合でもあったんでしょうか。見て来ます」
リオが慌てた様子で城の中へと入っていく。
「砂丘につっかえたんじゃないのか」
レオがテラスから身を乗り出して城の下の方を覗き込む。
「あれ、何か大きなものが巻き付いてます。まさかサンドワーム!」
レオが慌ててテラスから飛び降りると城の城壁の上へと着地し、城壁の縁から身を乗り出す。
「ルル様。やっぱりサンドワームです。しかもとびっきり巨大なやつです。この城より大きいです」
「なっ、なんだと」
そこへリオが戻って来た。
「魔石には問題ありませんでした」
「リオ、まずい。巨大なサンドワームが浮遊城の下に巻き付いているらしい」
ルルがテラスから身を乗り出しながらリオにそう叫ぶ。
「ええっ、そんなはずは・・・。砂丘から100mも浮いて飛んでいたはずです」
「つまり、それほど巨大なサンドワームだということだ」
城壁の上へと移動したルルとリオ。
先に城壁に移動していたレオがサンドワームに向かって両手剣から魔法を放つ。だが、城が邪魔をしてサンドワームがよく見えない。そのため放った魔法はことごとく砂漠の上でさく裂する。
「だめです。ここからだと死角になってサンドワームに魔法がかすりもしません」
ルルもリオも巨大なサンドワームに魔法を放ってみるも、レオの言った通りに魔法があたらない。
浮遊城は、グラグラと大きく揺れ今にも砂漠に落ちそうな状態である。
「リオ、もっと下がよく見える場所はないか」
「あります。こっちです」
ルルの言葉に答えるリオ。3人は大きく揺れる城の階段を降りると、地上から乗り降りするために外壁に作られた階段へと向かう。
そして外壁沿いの階段への入り口へとやって来ると、既に階段は巨大なサンドワームによって破壊されていた。
階段の扉から下を覗き込むが、巨大なサンドワームの体の一部しか見えない。
「ここからではサンドワームに魔法があたりません」
「いっそのこと砂漠に降りた方が・・・」
レオがそう言いかけた時、リオがレオの言葉を遮った。
「砂漠の下には無数のサンドワームがいます。砂漠に降りたらそれこそサンドワームの餌食です」
確かに。現に扉から見える砂漠には、無数の何かがうごめいていた。あの無数の何かが全てサンドワームなのだろう。
浮遊城は、徐々に砂漠へと近づいていく。
すると黒い何かがちらっと目の前を通り過ぎていく。
「あっ、まさか鯰・・・」
レオは、一瞬でそれを理解した。さっきまで城の日陰で寝ていたはずの鯰が起き出したのだ。
「でも、鯰じゃあの巨大なサンドワームに対抗する手段がない」
思わずレオが放った言葉が全てを物語っていた。レオの従魔である鯰は、毒と地震を起こすことができる。あとは魔獣を丸飲みにするのだ。
だが、地震を起こしたところで巨大なサンドワームに効くはずもない。
毒もこの巨大なサンドワーム相手では効き目があるか分からない。
まして従魔の鯰よりも何百倍も大きなサンドワームを飲み込めるはずもない。
だが、レオの鯰は、レオの予想を超えていた。突然巨大なサンドワームが城の外壁から剥がれ落ちると砂漠にその巨体を横たえた。
レオの鯰は、巨大なサンドワームの口にめがけて何度も毒を放っていた。周囲に飛び散った毒を体に受けた別のサンドワームも次々と砂漠にその体を横たえていく。
「やった。私の鯰が巨大なサンドワームを倒し・・・」
レオが喜びの声を上げる。だが浮遊城の揺れは一向に収まらない。
「まさか。巨大なサンドワームはもう1体いたのか」
ルルの叫びは、正しかった。
1体に見えたサンドワームにもう1体のサンドワームが絡みついていたのだ。
「まさかあの巨大なサンドワームが2体も」
しかし、レオの鯰の毒攻撃により1体の巨大サンドワームが浮遊城から剥がれ落ちた事で、重量が軽くなったためか、浮遊城は徐々に空へと浮き上がっていく。
「やりました。空へ上がっていってます。ですが、あのサンドワームが浮遊城の上層階へと上って魔石を破壊したらこの城は・・・」
リオの言葉は的中する。巨大なサンドワームは、もう1体の巨大なサンドワームに巻き付かれていたために浮遊城へ上る事ができなかったのだ。
今、それが無くなったことで巨大サンドワームは、浮遊城を上へと徐々に上り始めていた。
ルル、リオ、レオは、急いで上層階への階段を駆け上がっていく。何としても巨大なサンドワームに魔石を破壊させないために。
城壁の上へと出たルル、リオ、レオは、城壁の上を走ると巨大なサンドワームのいる方向へとひた走る。
すると城壁の向こう側から巨大なサンドワームの口が見えてきた。
鋭く長い歯が何百と伸びた巨大な口。しかも体の大きさは近くで見るとさらに巨大に感じる。
「あっ、あれと戦うというのか」
「あれに魔法が効くのですか」
「いや、以前カルが砂漠をゴーレムのカルロスの肩に乗って渡った話を聞いた。その時も巨大なワームを倒したと言っていた」
「まさか、カルさんはこんなサンドワームをひとりで倒したと」
「いや、カルさんには魔人が付いている。だけど私達には魔人はいない」
「・・・・・・」
レオの鯰は、まだ砂漠に横たわる巨大な鯰のところにいた。
砂漠に横たわる鯰は、まだうねうねと動いていて死んではいない。あの状態で放置すれば、またこの浮遊城を襲う可能性がある。
すると今度は、空の遥か上を何かが飛んでいることに気が付いた。
「ルル様。空に何かがいます。魔獣でしょうか」
「くそこんな忙しい時に別の敵なのか」
そんな時、空から何やら黒い玉の様なものが降りて来ると巨大なサンドワームの体に”ポトン”と落ちた。
その瞬間、巨大なサンドワームが黒い玉の中へ飲み込まれていく。
それは、一瞬で終わった。まさかあの巨大なサンドワームを飲み込める黒い玉とはいったい。
「ルル様。まさかルル様の鵂が仮の領主の館の庭で見せたあの黒い玉では」
宙に浮く黒い玉。そこに現れたはのは、さっきまで城で寝ていたはずの鵂であった。
鵂は、宙に浮く黒い玉の前まで飛んでくるとその黒い玉をどこへともなく持ち去っていく。
「ルル様。あの巨大なサンドワームをまさか一瞬で倒しました」
リオが言った通り鵂は、あっけなく巨大なサンドワームを倒した。だが、それを目の当たりにしたルルは、鵂に恐怖さえ感じていた。
鵂は、姿を現した時にルルに従わずに戦いを挑んで来た。あの時は、たまたまルルが勝ったが、また同じことが起きたとしたら次はあの鵂に勝てるのだろうか。
自身よりも強い従魔を従えたルル。その恐ろしさは、いつ寝首を搔くか分からない従魔を従えた者にだけに理解できる恐怖である。
レオの鯰とルルの鵂は、程なく浮遊城へと戻ると何事も無かった様に城の日陰でまた眠りについていた。
リオは、魔石に魔力を送り込むと浮遊城を空高く舞い上がらせた。あまり地上に近いとまた巨大サンドワームに襲われる可能性がある。
その夜は、浮遊城を空に浮かせたまま移動せずに寝ることになり、ルル、リオ、レオで交代で見張りをする予定であった。だが夜行性の鵂が夜通しの番をしているので鵂に城の番を任せることにした。
”ホ~~~”。
星が瞬く夜空の城に鵂の鳴き声が響き渡る。頼りになる鵂であるが、恐ろしさも併せ持つ鵂を思わず見つめるルルの姿がそこにあった。
砂漠を渡る浮遊城。空を飛ぶので安全かと思いきや巨大なサンドワームに襲われてしまいました。
しかし、その巨大なサンドワームですら倒す?ルルの鵂。
ですが鵂は、本当に巨大なサンドワームを倒したのでしょうか。あの黒い玉は・・・。
※仕事が忙しくてどうにもなりません。