122話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(3)
さて、次はルルの番です。ルルはいったい何を作るのやら。
レオがリオの助けを得て従魔というものを作った。見せてもらったが姿は、そのまんま”鯰”だ。いくらなんでも”鯰”はないだろうと最初はそう思った。
だが、砂漠でサンドワームを鯰が自らが狩って食べているらしい。鯰がサンドワームをねえ。
サンドワームといえば、かなりの強敵でカルが砂漠を横断した時にサンドワームの群れと戦った事があると言っていたが、あれと戦うやつの気が知れない。
リオは、浮遊城を作ったと言って見せてくれた。
50mの巨大な柱状の岩の上に城壁と城が建っていて、それが宙を浮いていた。
これは凄い。やはり魔術師は違うと思った。
そしてレオの従魔を見ていると・・・やはり自分も欲しくなる。だが、どうやって作るのか。
するとリオが作り方が書いてあるという魔導書を貸してくれた。レオですら作れるのだから私でもできると言っていた。
そうか、レオに作れるなら私でも出来そうだ。
リオの話では、どんな従魔を作りたいのか想像力が大切らしい。
たしかに”鯰”以外を考えてみる。できれば、空を飛んでみたい。
見た目に可愛いが強いやつがいい。そんな空を飛ぶ魔獣が果たしているのだろうか。
とある夜。仮の領主の館の窓から外を眺めていると、木の枝に梟がとまっていた。
こちらをずっと見つめていたが、いつしか音もなく飛び去っていった。
羽音ひとつもさせずに暗い闇夜を飛んで行く鳥・・・。
リオが言っていた。第一印象が大切だと。ならば私の従魔は、梟にするか。
だが、それだと少し平凡すぎるか。少しひねって”鵂”はどうだろう。
梟とみみずくの違いはよく分からないが、耳のところにある飾り羽の有無くらいか。
闇夜に無音で狩りをする姿に憧れる。闇属性の魔法が使える従魔なんてのもいいな。
ならば”鵂”だ。
早速、リオに魔導書を借りて読んでみた。
レオも同じ魔導書を読んで鯰を作っということだが、かなり難しい内容が書かれている本だった。よくレオがこの本を読んで従魔を作れたものだと思わず関心してしまう。
副領主の仕事が終わり夜の自室でリオから借りた魔導書を読みふける。だがルルは魔術師ではないため魔導書の内容を理解するだけでもかなりの時間を要した。
あまりの内容にどうやってこの魔導書の内容を理解したのかレオに聞いてみた。すると・・・。
「魔導書の内容なんて理解してません。私に理解できる事などなにひとつない本でした」
「では、どうやってあの鯰を作ったのだ」
「思い込みです。リオ曰くカルさんから贈られら魔法剣は、思いや想像力がものを言うというので、大きくて強い鯰の従魔が欲しいとずっと念じたらあれができました」
城壁に立つルルとレオ。そのレオが指を指す先には、砂漠が広がりレオの鯰がサンドワームを狩って食べている最中であった。
「そっ、そうなのか思い、想像力か・・・」
「そうです。思い込みです。自分の従魔は、どれほど強くてかっこいいかとか、とにかく自分勝手な思い込みをひたすら重ねるんです。そすればあんな従魔が作れます」
ルルは、リオに質問した事を後悔した。だが、この”思い込み”というのが後でとても大切であると思い知らされる事になる。
結局、ルルもリオから借りた魔導書を読むのを諦め、自身の思いを魔法槍へと送り込んでみた。
レオが言っていた”想像”ではなく”思い込み”が大切というレオの言葉を信じて。
借りの領主の館の広い庭の中央に魔石を置く。これもカルから譲ってもらった魔石である。
そして手持ちの魔法槍に魔力を溜めると魔石へと魔力を送り込む。
思いは、とにかく強い強い強い従魔だ。誰よりも強くどんな魔獣よりも強大な力を有する従魔。
ルルは、それだけを念じて魔法槍に魔力を注ぎ続ける。
すると、地面に置いた魔石の周囲に土が集まりはじめ何かの形になっていく。
徐々に形になっていく何か。それは、確かに梟である。だが、その梟は、なぜか可愛い姿をしていた。
つまりルルが思い描いた梟の姿は、ぬいぐるみの梟であった。
「いや、違う。違うんだ。私は、もっと強い梟・・・いや鵂を従魔にしたいんだ。大きなぬいぐるみでは困るんだ」
ルルは、動物図鑑の鵂の挿絵を見ながら必死に強く強く強い鵂を思い描いた。もう思い込みで強力な闇魔法が放てる鵂だと、勝手な妄想を何度も何度も混ぜ込んだ。
すると大きな梟のぬいぐるみは、やがて精悍な姿の鵂へと変化していく。
鵂は、地上からの大きさは既に2mを超えていた。いやまだまだ大きくなっていく。
「まだだ、もっと・・・もっと強い鵂だ。私が魔王国で1番強くなれる程の力を持てる鵂だ」
その”思い込み”が天に届いたのか。ルルの目の前には、3mを超える精悍な鵂が姿を現した。
「凄い。レオの鯰など目ではない。いけるぞ、これなら魔王国で1番の従魔だ」
ルルの”思い込み”、いや”妄想”は大成功だった。
大成功だったがそこには、代償も伴っていた。
ルルは、自身の目の前に立つ鵂に話しかける。
「鵂。お前の主人のルルだ。今後ともよろしく頼む」
ルルがそう言いながら鵂に右手を出した。
すると鵂は、片足を上げるとルルの顔を鷲掴みにした。
「おっ、おい。これは何の真似だ」
”ホ~、ホ~、ホ~”。
ルルの目の前に立つ鵂の鳴き声は、なぜか実に誇らしげであった。
「ほう、ご主人様であり創造主である私を足蹴にし、さらに誇らしげに鳴いてみせるか。上等だ」
ルルは、手に持つ魔法槍を鵂に向かって構える。
鵂もルルの顔を鷲掴みにしていた足を放すと、すっと後ずさりをしてルルと距離を取る。
「その行動は、私とやり合うという事でいいな」
”ホ~”。
鵂は、ルルの言葉を理解しているのか、ひと鳴きだけ発すると、羽を広げて何かの動作を始める。
鵂の前には、何やら黒くて丸い固まりの様な物ができると徐々に大きく成長していく。
その時、仮の領主の館の庭で起きている騒動に気が付いたリオが自室から出るとルルの後ろへと向かう。
「まさか、あれがルル様の従魔。それにしても大きな梟」
リオの声が後ろから聞こえたのかルルがにやりと笑う。
「リオ。私も今日から従魔持ちだ。だが、あの従魔は私の命令を聞く気はないらしい」
鵂は、羽を広げると黒い玉の様な物を直径1m程に成長させ、それをルルに向かって解き放った。
黒い玉は、勢い・・・勢いは・・・余りない。まるで玉遊びをする子供が投げた玉の様に地面をポンポンと跳ねながらゆっくりとルルへと向かっていく。
「あの黒い玉はなんだ。今迄に見た事のにものだが魔法か何かか」
ルルは、向かって来たその黒い玉をひょいと避けると、そそくさと位置を変えて鵂と対峙する。
黒い玉は、ルルがさっきまで立っていた場所の近くに置いてあった岩の手前で止まると、岩を黒い玉の中へと音もなく吸い込んでいく。
それを後ろで見ていたリオは、以前に読んだ魔導書の記述を思い出す。
「ダークホール。黒魔法のさらに上級魔法である暗黒魔法。それは、全てを飲み込む。そして飲み込まれれば二度と出る事ができない。障壁やバリアすら飲み込む防御無視の・・・暗黒魔法」
リオの目の前で起きた現象は、まさに魔導書の禁断魔法の章にあった内容そっくりであった。
ただ、魔導書にあったダークホールは、城塞都市をひとつ丸ごと飲み込む程の大きさであった。
ところが目の前のそれは、子供の玩具程度の大きさである。つまりダークホールを放ったあの梟は、魔力が足りないということか。
鵂は、今度は広げた羽をルルを指差する様に向ける。すると岩を丸ごと飲み込んだ黒い玉は、まるで意志があるかの様にルルに向かって転がり出した。
「おいおい。なんだその玉は魔法なのか。魔法で制御できるのか」
するとその光景を見ていたリオがルルに向かってこう叫んだ。
「ルル様。その黒い玉には絶対に触れないでください。その黒い玉は、暗黒魔法のダークホールです。もし、その黒い玉に吸い込まれたら最後、絶対に生きて出られません」
「なっ、本当か!」
「なぜ、その梟が暗黒魔法を使えるのか不明ですが、とにかくその黒い玉から逃げてください」
状況がいまいち飲み込めないルル。だが、リオが叫んでいる以上はかなり悪い状況のようだという事は理解できた。
仮の領主の館の館の庭の中をポンポンと跳ねながらルルの後を追って来る黒い玉。その玉は、庭に植えてある木々や岩を次々と飲み込んでいく。
この状況からして鵂は、ルルを生かしておく気が全くないようである。
「ならば、逃げずに戦う迄」
ルルは、自らそう声を上げると手に持っていた魔法槍を握り締めそれを見つめる。
「もし、この魔法槍が私の思いを具現化する力があるならば、未知の魔法にも対応できるはず。しかしそれが敵わなければ、私はそこまでの者でしかない」
ルルは、仮の領主の館の庭を逃げ回ることを止めると、手に持つ魔法槍を両手で握り締め向かって来る黒い玉めがけておもいっきり魔法槍を振りかぶった。
そして魔法槍に黒い玉を打ち消す”思い込み”いや”妄想”を流し込み、いっきに魔法槍を黒い玉に向かって叩きつけた。
ルルの持つ魔法槍は、黒い玉の中に・・・吸収されずに玉を蹴とばす足の様に玉をはじき返した。
しかもその瞬間。黒い玉は、ルルの得意な炎魔法の様に赤い玉へと色を変え、鵂の元へと飛び跳ねて行く。
それを見た鵂は、思わず顔を引きつらせた。だが、黒い玉から赤い玉へと姿を変えたそれは、鵂の目で飛び跳ねると鵂を襲い始める。
あわてた鵂は、大きな巨体を後ろへのけ反らせてそれを交わそうとする。
だが赤い玉が鵂の羽に触れた瞬間。鵂の体中の羽が一気に火を噴いた。
炎に包まれて燃え盛る鵂。
「まっ、まずい。私の従魔が燃えてしまう!」
思わずそう叫んだルルは、手に持つ魔法槍を構えると勢いのよい”水”を想像した。
次の瞬間。ルルの魔法槍からは、大量の水しぶきが沸き上がる。
火だるまになった鵂の体にかけられる大量の水により3mの巨体から徐々に炎が消えていく。
残ったのは、1本の羽も残っていない火傷だらけの鶏の様な姿。
自慢であるはずの鵂のシンボルである頭の飾り羽もなく、飛ぶ事もできなくなった鵂。
”ほ~~~~~~~~~”。
自業自得とはいえ自らの創造主であるルルを攻撃した事の天罰であったのか、地面に座り込み身動きでずにただ鳴いていた。
「ふう。いくら創造主である私に牙をむいたとはいえ、創造主である私が見捨てたら誰がこの鵂を助けるというのか」
そう言うとルルは、以前にカルから貰ったラピリア酒(薬)を鵂の焼けただれた皮膚にかけていく。
すると火傷を負った鵂の皮膚は、みるみる回復しさらに羽も生え揃っていく。
以前の様な綺麗な模様の羽が全身に生えそろい、頭の飾り羽も以前に増して凛々しい。
ルルによる回復治療を自ら体験した鵂は、大きな体でルルにすがって喜びはしゃぎだした。
「まあ、こいつも有り余る力の吐き出し先が無くてあの様な行為に及んだのだろう。少しこいつの様子を見てやるか」
”ホー、ホー、ホー”。
鵂は、空に向かって何度も喜びの鳴き声を響かせた。
仮の領主の館の庭で走り周る巨大な鵂を見ながらルルとリオが居並び、改めてルルが作った従魔の鵂をリオに紹介する。
だが、ルルはある疑問を感じていた。リオから借りた魔導書には、どこにも”ゴーレム”の作り方とは書いていなかった。ではルル自身が作ったこの鵂はいったいなんであるのかと。
「リオ。私の鵂もそうなのだが、レオの鯰もやけに本物そっくりに見える」
「確かにそうですね。動きからしてカルさんのゴーレム以上の動きです。まるで本物の鵂のよう・・・」
「この鵂やレオの鯰は、カルのゴーレムのカルロスと同じなのか?」
「どう見ても違いますね」
「もしこれがゴーレムなら、ここまで本物そっくりにはならない・・・はずだな」
リオは、レオやルルに貸し出した魔導書にある魔獣の作り方という章をもう一度読んでみた。
すると・・・。
「えーとですね。ゴーレムとは書いてないですね。章の最後にこう書かれています。以上でホムンクルスの作り方を終えると」
「えーと、ホムンクルスとは何だ?」
「ホムンクルスとは、簡単に言うと人造生命体です。ですが、かなり難しいとされていて並みの魔術師では作れないもののはずです。どちらかというと魔術師というより錬金術師の領分ですね」
「では、この魔導書の題名は正しいのだな」
そこには、”上級魔術師と上級錬金術師のための魔導書”と書かれてあった。
「あれ?」
「私が作った”鵂”とレオの造った”鯰”は、ホムンクルス。つまり人造生命体ということになるのか」
「そんなはずは・・・」
「ちなみにリオは、ホムンクルスを作った事はあるか?」
「ルル様。例え上級魔術師であってもホムンクルスなど作れません。まして魔術師になってまだ経験の浅い私などにホムンクルスなど作れるはずがありません」
「では、私の目の前で毛づくろいをしている巨大な”鵂”はなんなのだ」
「・・・さあ?巨大な鵂では?」
あまりにも当たり前の答えを発するリオに思わず怪訝な表情を浮かべるルル。
「そういえば、この鵂は、魔獣を狩って食べたりするのか」
「さあ、ゴーレムは食事を取りません。強いて言えば、術者の魔力がご飯の代りになります。ですがレオの”鯰”は、砂漠でサンドワームを狩って食べていますね」
「つまりこの”鵂”は、ゴーレムではなくホムンクルスであり、リオはそれを知らずに私にホムンクルスを作らせたと言う事でいいな」
「・・・・・・そうなりますね」
「この人造生命体というやつはどれくらい生きるのだ」
「この魔導書によると・・・短いもので1日。長くなると100年と書いてあります」
「つまり・・・」
「分からないという事だけは分かりました」
「カルの剣とカルの魔石があれば人造生命体。つまりホムンクルスも作れるという訳か」
「・・・そうなります」
ルルは、少し考えるとリオにこう宣言した。
「ホムンクルスを作るのは、これっきりにする。そもそもホムンクルスがどんなものなのか全く想像すらできんなからな。レオにもそう伝えてくれ」
「分かりました」
その頃になってやっと庭での騒ぎに気が付いたレオが従魔の”鯰”を連れてやって来た。
鵂は、庭に現れた鯰を見て衝撃を受けてしまう。それは、あまりの不細工な姿に対して。そして思わずしたり顔を浮かべる。
ルル達の目の前では、鵂が鯰にちょっかいを出しはじめる。そこに割って入ったレオが鵂の足で蹴とばされていた。
それに腹を立てたレオは、鯰を守るために大剣を鵂に向かって振り下ろした。ところがレオの大剣は、鵂の足で受け止められるとレオを大剣ごとまた蹴とばされてしまう。
剣士のレオがルルの鵂にまるで歯が立たない。
ルルの鵂は、レオの巨大な鯰に向かってじりじりを歩み寄る。レオの鯰は、じりじりと後ずさりを始める。
ルルとリオは、鵂と鯰の戦いを止めるべく一目散に走り出した。
剣士であるレオよりも強い巨大な鵂。見た事のない暗黒魔法を使う巨大な鵂。
これから起こるであろう面倒事に不安を覚えるルル、リオ、レオであった。
”ほう、わしの依代にちょうどよいものが現れたの。これは先が楽しみだ”。
おや、この言葉を発したのいったい誰でしょう。
これでレオは”鯰”。ルルは”鵂”を従魔にし、リオは”浮遊城”を築城しました。
鬼人族3人娘は、レオの浮遊城で里帰りを果たします。そしてホムンクルスの”鯰”と”鵂”を従えた鬼人族の3人娘は、いったいどうなるのやら・・・。