120話.鬼人族の里帰りと新しいスキル(1)
鬼人族の3人娘達が久しぶりに登場です。
城塞都市の領主の座をカルに明け渡してから陰になり日向になり城塞都市の運営に力を発揮してきたルル、リオ、レオの鬼人族3人娘。
カルから送られた魔導砲の剣や杖は、元々が精霊界の魔法陣と魔法回路を用いたもので殆ど魔力を消費せずに魔法を放てる人外の武具である。
さらに使用者に想像力さえあれば、どんな属性の魔法でも放てるという想像を超える武具。
それは、あまりにもおかしな武具のため、それを贈られた鬼人族3人娘もどう扱ってよいのか困惑していた。
その中でリオは、魔術師という職をいかして土魔法による城壁や城を作るという方向に進み始める。
それは、城塞都市に他国が攻め込んで来た場合の対処に最も適していると考えたからだ。
それを横目で見ていたレオ。
レオは、剣士であるがゆえに魔法に疎く、想像力を発揮するのが極端に苦手であった。
だが、闇の双子相手に城壁の上で魔法剣の様に極大の炎魔法を放った。その事で子供の頃に読んだ御伽噺に出て来る魔法剣士に憧れていた事を思い出してしまう。
リオの手元には、城壁や城の構築に必要な土魔法の魔導書が多数集められていた。レオは、それらの魔導書を借りては日々読み漁り子供の頃に夢見た魔法剣士に近づく事を心に決めた。
リオは、茫漠の地で城壁を作っては壊しを繰り返す。
それを見ていたレオも、自分にも何かできないかと試行錯誤を繰り返す。だが、所詮は剣士。なかなか想像力を発揮することができずに悶々とした日々を過ごしていく。
そんな折、村の視察に行った時に見た光景がレオの心に残った。
それは、村近くの沼で泳ぐ大きな蛙をひと飲みにした”鯰”であった。
あまり大きくない沼に1mを超える大きな鯰。それが手の平を広げたよりも大きな蛙をまる飲みにするのだ。
恐らくこの沼の生態系の頂点に君臨する生物だとレオは確信した。
「私もいつかああなってみたい。今は、ルル様に付き従ってはいるが、いつか自分が・・・」
想像力の乏しいレオは、ある事を思いつく。それは、見たものをそのまま模してみるというもの。
リオの魔導書にも土魔法で魔獣を創造するというものがあった。それには、魔石が必要だが以前に入ったダンジョンでドロップした魔石なら袋に有り余るほど持っている。
早速、カルから送られら剣に魔力を注ぎ、魔石を媒介にして土で魔獣を作るレオ。
最初は、当然の様に失敗を繰り返した。だが、何度となく繰り返すうちに土魔法で魔獣が作れるようになる。
それは、あの時見た・・・”鯰”・・・であった。
だが、3日もすると鯰は土に返ってしまう。そして魔力を込めた魔石は砕け二度と使えなくなった。
レオは、手持ちの魔石で何度となく”鯰”を作った。もうレオの頭の中には、あの沼で見た鯰以外の姿しか思い浮かばない。
手持ちの魔石ももう残り僅かという時、ルル達を訪問するカルの姿があった。
カルは、遠くの国の国境に跨る精霊の森を救うべく旅に出ていた。そして元気に戻って来たのでその報告と、先延ばしになっていたルル達の里帰りの日程についての相談にやって来たのだ。
そんな時、レオはある事を思いついた。カルは魔力を殆ど持ち合わせてはいない。だが、武具を作るための魔石やミスリルを豊富に持っている。
ならば、それを少し分けてもらう事はできないかと。
城塞都市アグニⅡにある仮の領主の館の会議室に集まったルル、リオ、レオ、それにカルが久しぶりに顔を合わせる。
その席上レオがカルに対してこんなお願いを始めた。
「カル。来訪して突然のお願いで悪いのだが、魔石を持ってはいまいか。カルから送られた剣を使って魔獣を作ってみたいのだ」
「ありますよ。ゴーレムのカルロスを作るために何度もダンジョンに入ったので、大きな魔石が沢山あります」
カルは、腰にぶら下げた鞄の中から拳よりも大きな魔石をいくつも取り出して見せる。
「なっ、なんだこの魔石は!」
「こんな魔石をどこのダンジョンで手に入れたんですか」
思わず大きな声を上げるルルとリオ。
「この魔石は、僕の盾のダンジョンに新しくできたボス部屋でボスを倒した際にドロップしたものです」
「凄いな。この魔石ひとつでもかなりの価値が・・・」
「城塞都市アグニⅡの冒険者ギルで鑑定をしてもらったら、魔石1個で金貨5000枚だそうです」
「きっ、金貨5000枚!」
「はい、普通のダンジョンでドロップする魔石とは明らかに異なる組成だそうです。よかったら皆さんに差し上げますよ。僕は、ダンジョンに行けばいくらでも入手できますから」
「いい・・・のか」
「ええ。城塞都市の運営を担ってる皆さんに何もお礼ができないのですから、これくらい当然です」
「いや・・・、本当にいいのか」
思わず大きな魔石を目の前にして躊躇するルル。その横では、明らかに目つきが変わったリオの姿があった。
さらにその横では、魔石を3つほど確保すると手元に引き寄せるレオの姿。
「レオ、ちょっと待て。いきなり魔石を3個も持っていくのか。いくらなんでもそれは欲張りすぎではないか」
「えっ、でも私は魔法に疎いので魔石を壊す可能性があります。これくらいないと魔獣など作れません」
「いや、それはそうだが・・・」
レオとルルの会話の隣りでリオが魔石をごっそりと手元に引き寄せる。
「おい、リオ。それはレオよりも強欲だぞ」
「いえいえ、私が研究している土魔法による城壁と城の構築には、これくらいの魔石が必要かと」
会議室のテーブルの上には、カルが鞄から出した拳よりも大きな魔石が10個以上もあった。それが今では3個のみ。
結局、残った3個の魔石をルルが少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら持ち返る事になった。
ルル達が里帰りする日程は、改めて連絡するという事になりカルは城塞都市ラプラスへと戻った。
そして鬼人族3人娘の魔法による研究は、カルが譲った魔石により一気に加速する。
リオは、カルから送られた拳よりも大きな魔石により、土魔法で構築した城壁を地面ごと浮き上がらせる事に成功する。
それは、あくまで小さな城壁だけであった。だが仮にこれを大規模に出来れば、城塞都市に他国が攻め込んで来たとしても城毎移動して敵国の軍隊の上空から攻撃することができる。
そうなればこの城塞都市は、ほぼ無敵の城塞都市となる。そう考えたリオの顔は、何か世界征服を企てる悪党の頭の様な不気味な表情を浮かべていた。
さてレオはというと、カルから送られた魔石に魔力を込めると、あの沼で見た鯰の姿を思い出ししていた。
茫漠の地に置かれた魔石。その周囲には、土がこんもりと集まり徐々に何かの姿を形成していく。
黒くてずんぐりとして平べったい生物。そこには、実際の姿とはかなりかけ離れた姿の鯰が姿を現した。
横幅は3m、全長は5m程。つまり横幅が口の大きさ同じであり、大抵の魔獣であれば、この鯰の口で飲み込めないものはないという程の大きさだ。
だが、所詮は鯰である。魚である以上、水がなければ動けない。
バタバタと尾やひれを動かしもがく巨大な鯰。だがどうする事もできない。
それを見ていたリオが助け舟を出す。
「もうひとつの魔石に”飛ぶ”、”浮く”というイメージの魔力を贈り込んで、その魔石をあの鯰に埋め込むんです」
「分かった・・・やってみる」
リオのアドバイス通りに”飛ぶ”、”浮く”、そして追加で”泳ぐ”というイメージを魔石に贈り込む。
魔力を送り込んだ魔石が完成しそれを鯰の額?に埋め込んでみる。すると地面でじたばたともがく鯰が地面からから浮きはじめた。
さらにそこがあたかも沼の水の中であるかの様に鯰が泳ぎ始める。
「やっ、やった。ついに私の魔獣が完成した」
「やりましたね。でもなぜ鯰なんです。もっと強い魔獣はいたはずです」
「私にもよくわからない。でも視察の時に沼で見た鯰の姿に力強さを感じたのだ」
「そうですか。魔石で作った魔獣は、これで終わりではないです。ここからさらに魔力を込めて行く事で魔獣はさらに進化できます。ここからが正念場です」
レオは、リオの言葉に無言でうなづく。
数日後、副領主の仕事の休みを利用して通称”中級ダンジョン”へとやってきたリオとレオ。
そのふたりの後ろには、レオの鯰が宙を泳いでついる。
鯰は、中級ダンジョンの石作りの回廊の幅ぎりぎりまでに成長し、その回廊を器用に進む。
少し先を進んだかと思うと戻って来た鯰の口から人の足がひとつだけ出ていた。
「まっ、まさかダンジョン内にいる人を食べたのでしょうか」
思わず震える声で叫ぶリオ。
「でも、痩せ細った小さい足。しかも肌着も靴も身に着けていないからゴブリンです」
「ゴブリンを丸飲みですか」
「さすが鯰です。あの沼で見た大きな蛙を丸飲みにした姿そのままです」
思わず鯰の活躍にはしゃぐレオ。それを見て思わず引いてしまうリオ。
その後も気が付けば鯰の口から飲み込まれたゴブリンの手や頭が出ていた。
鯰は、ダンジョン内でも狩りの回数が増えるほど狩りの精度が増し、ダンジョン内を迷う事なく下層へ下層へと進んで行く。気が付けば既に20層まで来ていたリオとレオ。
鯰の体は、ダンジョンに入った時に比べても既に1.5倍程の大きさにまで成長していて、これ以上大きくなれば回廊を進めなくなると思われる迄になっていた。
ダンジョンでの狩りを諦めたふたりは、ダンジョン内で野宿をした後、次の日にはダンジョンを出ることを決めた。
ダンジョンの1層に戻り出入り口に来ると、成長した鯰がダンジョンの狭い出入り口に挟まり出られなくなってしまう。慌てたふたりは周囲の冒険者に助けを求め、何とか鯰を押してもらいかダンジョンを出る事に成功した。
結局、鯰を連れてダンジョンに入れたのはその1回だけであった。だが、20層迄の敵にたった1匹で無敵状態である事を考えるとかなりの強さを持つ鯰である。
レオの鯰は、それなりの知能も有しており、話す事はできないものの城塞都市や村の住人、それに森に住む精霊や妖精達を食べない様にと念には念を入れて話し、それを理解した。
レオが副領主の仕事をしている時は、城塞都市の先にある茫漠や砂漠へと向かいなにかを狩っていた。それが何であるかが分かったのは、鯰の口からサンドワームの尻尾がはみ出していたためであった。
この周辺に広がる砂漠に生息するサンドワームは、魔獣の中でも有数の強さを持つ。
恐らくサンドワームでも幼体に近いものを狩っていると思われるが、それを狩ってまる飲みにできるまでに成長した鯰。
レオの見立ては、見当違いではなかったようである。
数日後、レオは宙を泳ぐ鯰の頭に乗り砂漠の上を進んでいた。
すると鯰は、砂漠の砂丘の上に腹を付けると、長い2本の髭を砂の中に差し入れ何かを始める。
「鯰。あんた何を・・・」
レオがそう言いかけた瞬間。砂漠が大きな揺れに襲われる。
「じっ、地震だ。地震だよ。こっ、怖い!」
レオは、殆ど地震というものを体験した事がない。だが、地震という地面が恐ろしく揺れる現象の事は知っていた。
思わず鯰にしがみつくレオ。
その後、そこから動かずにいる鯰の頭の上でその行動を注視する。するとまた砂漠の真ん中で地震が発生する。
そのゆれのためなのか砂丘の中から数体のサンドワームが姿を現し、次の瞬間、鯰がそのサンドワームを大きな口を広げて一瞬で飲み込んでいく。
今度は、砂丘から現れた数体のサンドワームが鯰に向かって突進を始めた。
だが鯰は、口から何かの液体をサンドワームに向かって飛ばした。それを正面から受けたサンドワームは一瞬で動かなくなる。
「まっ、まさか鯰は毒を出せるのか」
その言葉に静かに頷く鯰。
「まさか・・・さっきの地震も鯰がやったのか」
その言葉にも静かに頷く鯰。
「毒持ちで地震を起こせるまでに成長したのか」
思わず身震いをするレオ。だが、この時のレオは知らなかったのだ。サンドワームの中に毒持ちがいる事を、そして地震を発生させるサンドワームがいる事を。
つまりレオの鯰は、食べた魔獣の一部のスキルを奪う事ができるのだ。
レオの鯰は、見た目で笑われる事が多い。だが、その見た目とは裏腹に能力と強さにおいてこの魔王国でも屈指の魔獣となっていく。
「巨大な鯰が目の前に現れたら、命は無いと思え」レオの鯰がそう言われる様になるまで幾ばくも時もかからなかった。
レオは、自身の魔法で造り出した魔獣”鯰”で故郷に帰省します。
最初は、皆に指を差して笑われます。ですが、その強さが知れ渡る頃には誰も笑わなくなります。
※今日は、午前中に病院に行って採血をして来ました。果たして・・・。