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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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118話.帰ってきた精霊神お猫サマと芋のパイ

精霊神お猫サマが精霊神界から戻ってきました。


城塞都市ラプラスの警備隊の顧問に就任した”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


新しい武具に身を包んだ彼らが領主の館の廊下を闊歩する。


その光景を見て思わず廊下の中央を開ける職員達。


城塞都市ラプラスの警備隊の兵士達とは、明らかに漂う雰囲気やオーラが異なっていた。


「すっ、すげえな。あの新しい武具を着こなしている」


「伊達にAランク冒険者じゃないな」


「あいつらが警備隊の顧問に就任するとなると、城塞都市ラプラス・・・いや、アグニⅠやアグニⅡの兵士達も強くなるな」


「ああ、でも警備隊の兵士をそんなに強くしてどうしよって言うんだ」


「さあな。うちの領主様は他国を侵略する気はさらさらないようだしな」


「例のお酒の売れ行きが好調だしな。お隣りのラドリア王国とはえらい仲がいいらしい」


すると廊下で立ち話をする職員のひとりが改まると、もうひとりの職員の耳元にある事を小声でささやき始める。


「実はな、ここだけの話なんだが・・・ヴァートル王国とヴィシュディン王国の使節団がやって来るらしい。それの前準備として両国の担当者が領主の館に来てるんだってよ」


「ヴァートル王国とヴィシュディン王国の使節団って、両国ともこの大陸の中では超大国じゃないか。しかも軍事大国だよな」


「そうなんだが実は、領主様がこの前不在になったよな。あの時に、両国の国境紛争地帯に用があったらしくて・・・」


「うちの領主様がそんなところに何しに行ったんだ。で、それからどうなったんだよ」


「両国の国王と貴族の半分を殺ったらしい」


「・・・まじか、うちの領主様がか?」


「詳細は分からん。だが、とある筋からの情報だ。それに最近、城塞都市に氷龍が頻繁に酒を買いに来るだろ」


「ああ、氷龍と戦争になるんじゃないかって内心冷や冷やしたよ」


「あの氷龍なんだが、両国の国境に跨る森に住んでるらしい。で、その氷龍を手なずけたんだとよ」


「誰が・・・まさかうちの領主様がか。まさかそれで氷龍が酒を買いにくるのか」


「さあな。それは分からんがヴァートル王国とヴィシュディン王国は、城塞都市ラプラス領になっちまったって話だ」


「うっ、嘘だろ!あの両大国がか?」


「氷龍は、ヴァートル王国とヴィシュディン王国の両国に睨みをきかせているから戦う事もできずに国内の統治に専念しているそうだ。それに近隣の王国も氷龍が怖くて両国に手が出せないという話だ」


「まてまて、そういえば別の龍も酒を買いに来たって話があったな」


「ああ、風龍だそうだ。さらにセスタール湖には水龍の幼体もいる。今は、その水龍を冒険者達が狩らない様にと監視塔の建設をあちこちで行ってるよ」


「うちの領主様は、何をしに行ったんだ。まるで龍のコレクションじゃないか」


「しっ、めったな事は言うなよ。でもうちの領主様は、龍と仲良くなれるスキルでも持っているんじゃねえのか」


「ははは。そうだよな」


領主の館の廊下で職員達がひそひそ話をしている廊下を領主であるカル達が歩いていく。


それに気が付いた職員達は、ひそひそ話をやめると軽く会釈をしてその場を後にする。




今日は、久しぶりにお猫サマが精霊神界から戻って来たので、領主の館の食堂で近況報告という事になった。


本来であれば城塞都市ラプラスの気の利いた食堂で皆で食事でもすればよいのだが、精霊神お猫サマも肩ひじを張った場所での食事は嫌いだということで、よく知った領主の館の食堂が選ばれた。


食堂の窓際に予約席が準備され、そこに大皿料理が置かれれいる。好きな食べ物を好きな様に取ってたべる形式の料理。


椅子に座った途端、挨拶もそこそこに大皿から料理を小皿により分けるとがっつく精霊神お猫サマ。


カルと行動を共にするメリルとライラがお猫サマの食べっぷりに呆気に取られながら、その威勢の良い食べっぷりに思わず見とれる。


カルが横に置いてあるジョッキにラピリア酒(薬)を注ぐと、それを一気に飲み干すお猫サマ。


「それでどうでした久しぶりの精霊界は?」


「・・・針のむしろにゃ」


「針のむしろって・・・精霊神界で何かあったんですか」


「例の扉が出来たからそこを通って精霊界、さらに精霊神界へと行ったにゃ。久しぶりで懐かしかったにゃ」


一息ついたお猫サマは、窓の外に視線を向けながらカル達に精霊神界であった事を淡々を話始める。


「精霊神達が集まる会議に初めて呼ばれたから何かと思ったら、お猫サマに対してねちねちと嫌味を言う会議だったにゃ」


「・・・なんだかとても嫌な会議ですね」


「そうにゃ。お猫サマは、元々下級神にゃ。それもかなり下位の神にゃ。だから今までそんな会議に出た事なんて一度もないにゃ」


「それで会議は、どんな・・・」


そこまで話したカルは、ある事に気が付いた。自身もお飾りであっても領主である。会議の内容について人に話せない事が殆どであり会議の内容についてほぼ全てに守秘義務があるのだ。


「すみません。会議の内容については話さなくてもいいです。当たり障りの無い内容だけで・・・」


「そんなに気を使わなくてもいいにゃ。この世界と繋がった事の報告と扉の守護にお猫サマと神獣なめくじ精霊が就任した事が報告されたにゃ」


「なめくじさんもいきなりこの世界に召喚されたから驚いたでしょうね」


「そうでもないにゃ。神獣なめくじ・・・通称”なめちゃん”にゃ。なめちゃんは、上級神扱いだからお猫サマよりも遥かに偉いにゃ」


「えっ、あのなめくじさんってそんなに凄い方なんですか」


「そうにゃ。精霊界に文明を持ち込んだのは、あの”なめちゃん”にゃ」


「そんな方がこの世界にいらしてるんですね」


「そにゃ。そういえば、この世界の妖精達と何やら陰でコソコソやってるにゃ」


お猫サマの話を聞いてカルもある事を思い出していた。


冒険者バランとの決闘の時にバランの頭にぶつかって来た空飛ぶ大鍋。はれはいったい何だったのかと。


「あー、そういえば、妖精さんが空を飛ぶ大鍋に乗ってましたね。僕には、あれが何だかさっぱり分かりませんけど」


「・・・既にやってるにゃ。精霊界の神樹の亜種もいつの間にかこの世界に持ち込んでるにゃ」


「もしかしてあの裁定の木さんの様に歩く巨木の事ですか」


「カルも知ってるにゃ」


「実は、妖精さん達に連れて行かれてライラさんの精霊治癒魔法をかけたり、巨木に僕の鞄からラピリア酒(薬)を取られて飲まれたりと・・・」


その話を聞いた瞬間。お猫サマは、テーブルにがっくりと項垂れてしまう。


「それが問題になってるにゃ。精霊界は、滅びかけてるにゃ。皆が必死になって崩壊を食い止めようとしてるにゃ。でも”なめちゃん”が他の世界に移ったという事は、精霊界を捨てたと思われてるにゃ」


「精霊界が・・・崩壊ですか」


「”なめちゃん”が移り住んだ世界と繋がってる扉の守護になったお猫サマは、精霊界を捨てる急先鋒の神と思われてるにゃ」


「あー、だから・・・」


「そうにゃ。会議で事ある毎にお猫サマに突っかかって来る中級神ばかりで身の置き場がなかったにゃ」


「それは、大変でしたね。そういえば扉の守護って扉にずっと張り付いている必要があるんですか」


「それはないにゃ。扉の向こう側にも護衛の兵士がいるにゃ。それに”なめちゃん”がいるから問題ないにゃ」


お猫サマは、そんな話をしながら先ほどからずっと芋のパイを食べている。余程気に入ったのか、そればかりに手を伸ばしていた。


「このパイ美味いにゃ」


「それなんですが、例の極楽芋をパイにしたんです。それと赤いラピリアの実を煮たものをスライスして上にのせて焼いたので芋とはまた違う甘さもあっていい感じになりました」


「カル・・・相談があるにゃ」


お猫サマが改まると神妙な面持ちでカル向かって話始める。


「お猫サマのところに子供達がいるにゃ。それに教会も出来たにゃ」


「あっ、教会には何度も行きました。小さいけど良い教会でしたよ」


「でも、ほんの少しの獣人以外は、誰も来ないにゃ」


「・・・そうか、どんな神を信仰しているかも分からないから誰も来ませんよね」


「それで客引きに来た人にお茶とお菓子を出したいにゃ。それにこの芋のパイがいいにゃ」


「あっ、そうか。それいいですね。この極楽芋なんですがセスタール湖の湖畔に畑があるんです。でも収穫できる芋の数が多すぎて手に負えないんですよ。だったら芋のパイを露店で売るっていうのもいいですね」


「そうにゃ。なら明日にでも子供達を連れてくるにゃ。芋のパイの作り方を子供達に教えて欲しいにゃ」


「はい。いいですよ」


次の日、食堂でお猫サマが連れて来た子供達に芋のパイ作りを教えるカルの姿があった。


本来であれば、領主命令で食堂の職員達が動くのだが、お猫サマもカルが雇った個人スタッフという扱いである。なので領主の館の職員を個人的に使いたくないという思いがカルにはあった。


ただ、領主の館の食堂に多数の子供達が来て芋のパイ作りする姿を黙って見ている職員などいるはずもなく、結果的に職員と子供達が仲良く芋のパイ作りをする微笑ましい姿が垣間見れた。


そんな日々が何日か過ぎると、子供達は教会で芋のパイ作りを始め、教会に来た人々にそれを振舞うようになる。


最初こそ味にばらつきがあった芋のパイだが元々の芋が美味しいということもあり、芋のパイの話はすぐに城塞都市中で噂になり、それを目当てに教会に来る人が増えるようになった。


教会の正面には、お猫サマを10倍は美化したであろう木彫りの像が壁に掛けられており、木彫りのお猫サマ像が発する神々しいばかりの雰囲気に思わず膝を付き祈りを捧げる者が続出する。


さらに、身寄りのない子供達の面倒を教会が見たり、その子供達に馬車で荷物運搬の仕事を世話している事が知れ渡るに至り、城塞都市での協会の評判は日々良いものなっていく。


領主であるカルも暇を見つけては、この教会に足を向けるため領主公認の教会だと皆が言い始めた事で城塞都市の住民達の集まる場所となっていった。


だが、そんな事になれば問題も増えていく。そう、芋のパイ作りもパイを焼く時間も足りないのだ。


今では、芋のパイを焼く窯が4つにもなりさらに隣りの空き家も借りて、そこにパイ焼き用の窯を作る計画まで出ていた。


当然の様に子供達だけでは手は足りず、パイ作りを手伝うために近くに住む住民や信徒も増えていく。


教会の周囲には、いつも美味しいそうな焼いた芋のパイの匂いが立ち込めており、近くを通りかかる人達が思わず足を向けてしまう教会になっていった。


「芋のパイ。ホールで3個できたよ。"冒険者の砦亭"さんにすぐに届けて」


「こっちもホール4個できた。"ラプラス旅館"さんにも届けてよ」


子供達のそんな声が芋のパイ作りをする厨房に響き渡る。


やはり教会とはいえども現金収入が必要である。それを馬車での荷物の運搬と芋のパイの販売で補っていた。


今では、食堂や宿屋からの注文も多くなりそれなりの収入を得ており、わざわざ教会で働きたいという者まで現れる程の存在になったお猫サマの教会。


そんな教会である事件が起きた。




日課である精霊界への扉の確認作業を終えて教会へと戻ってきたお猫サマ。


いつも神獣なめくじ精霊に扉の守護をまかせっきりにしているので、芋のパイをホールでお土産げにと持って行くお猫サマ。


”なめちゃん”こと神獣なめくじ精霊もお猫サマのお土産の芋のパイが大好物で、いつも妖精達とパイの取り合いを行う程であった。


教会の前まで来るといつもよりもかなり多くの人達が人垣を作り教会の中を覗き込んでいた。


何かと思いながらプヨプヨと空を浮きながら人垣の上を移動して教会の中へと入るとそこには・・・。


「この芋のパイ美味しい」


「だろう。俺が見つけたんだぜ。おい、これっぽっちじゃ腹が膨らまねえ。そのホール毎よこしな」


冒険者バランは、子供が手に持ってきた出来たばかりの焼き立ての芋のパイのホールを強引に横取りするとバクバクと食べ始める。


「それは、他の信徒さん用です。それにあなた達はもう十分食べたでしょう」


この教会を取り仕切る獣人のシスターが冒険者バランの横暴に怒りを向けていた。


「おいてめえ。この場で死にてえのか。そんなに死にてえなら俺の前にその首を差し出せ!」


いつにもなく荒れている冒険者バラン。


実は、顧問となった警備隊の訓練所で集まった警備隊の隊長達と早速やりあったのだ。


冒険者バランは、剣の腕前はいいが人格者ではない。むしろ人格が破綻しかけた人である。


そんな者から剣の教えを受ける訳にはいかないと警備隊の隊長達につめよられ、挙句の果てに隊長達と一戦交えてしまったのだ。


その帰りに教会の前を通りかかり、美味そうな匂いにつられて入った結果がこのざまである。


「またお前にゃ。ひと様の迷惑になる様なことはしてはダメにゃ」


「んっ、誰だ。俺に説教をかますバカ野郎は!」


芋のパイを口に頬張りながら声がする方向を振り向く冒険者バラン。そこには、水龍を狩った時に突然現れたお猫サマの姿があった。


「げっ、お前はあの時の獣人!」


冒険者バランは、腰の鞘から剣を抜くとお猫サマの目の前に剣を晒す。


「おっ、いきなり剣を抜くにゃ。それは、お猫サマと戦うという意味にゃ」


「おうよ。だがあのなめくじはなしだ!」


「あー、”なめちゃん”は仕事中にゃ。お前ならお猫サマひとりで十分にゃ」


「そうか、あのなめくじはいないんだな。なら俺が勝つに決まってる」


「そうにゃ。ここは狭いにゃ。外の通りでやるにゃ」


冒険者バランと行動を共にしている魔術師ハーパーは、バランが教会の中でいきなり剣を抜いたため動揺を隠しきれずにいた。


「バラン。やめなよ。みんなが見てるよ。ちょっとやり過ぎだよ」


「俺が獣人如きに負けるとでも言うのか」


「そうは思わないけどさ。でも、でもさ・・・」


ハーパーは、自分達を見る住人の目が怖かったのだ。


今までは、冒険者として街や村を行きかい定住するという事が殆どなかった。だが、今は城塞都市ラプラスの住民になりかけている。


人垣を作る者の中には、見知った住人の姿もちらほら見え隠れする。


この城塞都市での生活を始めてからというもの、根無し草の様な生活よりもこういった街での生活もいいと思い始めた矢先の騒動である。


「バラン。帰ろうよ。私達が悪いよ・・・」


だが、冒険者バランはハーパーの声を聞こうとはしない。


教会前の道で人々が作る人垣が移動を始める。


その人垣の中央には、剣を抜く冒険者バランの姿。その正面には宙を浮く獣人の姿。


「お前の獲物はなんだ」


冒険者バランは、カルから借りた真新しい剣を振りぬいて見せるとお猫サマに向かって剣を構える。


「お猫サマは、剣を使わないにゃ。お猫サマの獲物はこの爪だけにゃ」


お猫サマの指から真っすぐと伸びる爪。それは、誰の目からも見てもただの爪だ。爪で剣に勝てるはずがないのは誰もが知っている。


だが、お猫サマはこの城塞都市ラプラスでは、既に有名人と化していた。


馬車を襲った何人もの盗賊を捕まえたり、街に現れた泥棒や素行不良の冒険者を何度も捕まえている。


その事を知っている街の住民達は、逆に冒険者バランの方が可哀そうだと陰口を言い合う始末である。


「お前が死んでも責任は取らんぞ」


「いいにゃ。でもお猫サマが勝ったら教会で1年間の奉仕活動にゃ」


「けっ、奉仕活動だろうが何だろうがやってやらあ」


冒険者バランは、既に周りが見えていない。それは、カルの持つ盾のダンジョンで負けてからといものどうも負け癖が付いてしまったのか、或いは何か悪いものにでも取り付かれたかの様に見えた。


それを払しょくしようと冒険者バランの心は荒れていた。それは、剣筋にも如実に現れていた。


バランの剣筋は、依然とは全く異なり変な癖の様なものが見え隠れする。それを察したお猫サマは、あえて冒険者バランの前に爪を構える事もなく自然体のまま立ちはだかる。


バランの前に立つお猫サマの姿にカルの持つ盾のダンジョンで戦った巨大な金属の様なスライム、或いは巨大な地龍の姿が重なる。


たかが獣人。されど獣人。なぜ目の前の獣人にこれ程までに威圧されるのか。


冒険者バランは、お猫サマの威圧感に押しつぶされそうになりながら渾身の太刀筋で剣を振るう。


"カラン"。


軽い音が周囲に響く。その音の正体は、冒険者バランが振るった剣である。


冒険者バランが降った剣は、剣実を3つに引き裂かれ地面へと転げ落ちた。


さらにお猫サマは、目にも止まらぬ速さで冒険者バランへと近づくと、自身の爪でバランが装備している鎧を無残にもみじん切りにしてしまう。


気が付けば、冒険者バランの体には、武具はおろかシャツもパンツすら穿いておらず、髪の毛や股間の陰毛すら1本たりとも残ってはいなかった。


「バラン。何て姿を晒してるんだよ」


思わず仲間のハーパーが手で顔を隠しながらバランにそんな声をかける。


ところが冒険者バランの体には、かすり傷がひとつとして存在しない。まさしく神業である。


バランもハーパーの声で自身がどんな醜態を晒しているのかをようやくと知る事になった。


「てっ、てめえ何をしやがった。この武具には、魔法防御と物理防御が施してあったんだぞ。なんでその爪ひとつでそれが破れるんだ!」


冒険者バランは、股間の息子も隠さずにお猫サマにそんな言葉を投げかけた。


「その鎧は、ある一点を貫くと魔法防御も物理防御も解除されるにゃ。カルに教えてもらったにゃ」


「なんだと!」


「でも安心するにゃ。それが出来るのは、カルとお猫サマだけにゃ。他の人達には真似のできない芸当にゃ」


「くっ、くそ・・・」


冒険者バランは、その場に膝を付くと大粒の涙を流し始める。冒険者バランが冒険者を始めてからというもの、ここまで連敗した事などなかったのだ。


目から大粒の涙を流すバランにどこからか持ち出したマントをかけ、手を引いてその場を後にする魔術師ハーパー。


戦いが終わったその場所には、お猫サマと人垣を作る者達が残った。そして戦いを見ていた者達は、その場に片膝を付くと両手の平を組むとお猫サマに祈りを捧げはじめる。


「我らの神よ。どうか我らを助けたまえ。我らを悪しき者から救いたまえ」


その場にいる数百人の者から捧げられる祈り。その祈りから来るものなのか得も言われぬ高揚感がお猫サマを襲う。


だが、上級神から言われた言葉を思い出す。


「神は、むやみに人の前で神の力を見えせてはいけない」


それを思い出したお猫サマは、その場を後にすべく空高く飛びその姿を空へと同化させていく。


その行為は、返ってお猫サマを神と知らしめる事となってしまう。


その日以来、教会には芋のパイ目当ての人達よりもお猫サマの神業を目の当たりにし、神の存在を知ってしまった者達の祈りの場となっていた。


やらかす神様、お猫サマ健在です。


結局、お猫サマは神業を披露して信徒を増やしてしまいました。


そして子供達は、そんなお猫サマの事など我関せずと朝から忙しく芋のパイを焼くのでありました。


※冷えたどくだみ茶が美味い。気が付けば7500文字・・・。


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