116話.盾のダンジョンと”闇を打ち滅ぼす者”達(1)
盾のダンジョンに入る”闇を打ち滅ぼす者”の面々。
注意。このお話は、コメディです。それをお忘れなきように・・・。えっ、初めて知ったとか言わないでくださいね。
水龍狩りで対峙した”闇を打ち滅ぼす者”達が水龍を追いかけて城塞都市ラプラスにやって来たはいいが、カルが持つ盾の餌食となり武具も服までも財布もパンツまでも身ぐるみ剥がされしまった彼ら。
今では領主の館で居候同然の生活を送っている。
食事は、カルが配る無料食事券11枚つづりをもらい、無くなるとカルのとこに行って無料食事券をもらうという実に大人として恥ずかしい行為を繰り返していた。
だが、食堂で出される酒は稼いだ金で浴びる様に飲んでいた。やはり彼らも仕事の疲れを取るためには、酒を飲まずにはいられない様であった。
城塞都市ラプラスには、Aランク冒険者に見合う仕事などほぼ皆無であり、身ぐるみ剥がされた”闇を打ち滅ぼす者”達の稼ぎは少なく、馬車で他国へ移動する事もままならない。
カルが領主をしている城塞都市ラプラス、アグニⅡ、アグニⅠにおいてAランク冒険者といえば、副領主である鬼人族のルル、リオ、レオくらいであり、Bランク冒険者ですら稀な存在である。
そんな”闇を打ち滅ぼす者”達を不憫に思ったカルは、彼らを警備隊の顧問として迎え入れる算段を始めた。
城塞都市ラプラスでは、こういった武芸に強い者達が慢性的に不足しており、警備隊の能力向上を行いたくても頼める者は皆無であった。
だが、それを頼める者が目の前に現れたのだ。しかも金も無く居候の身分なら絶対に断れないと考えたカルは、ある意味計算ずくで彼らをこの城塞都市ラプラスに引き入れ・・・いやいや、カルにそんな計算ずくの行動などできる訳がない。
そう、彼らを呼び寄せてしまったのは全てたまたまである。偶然の産物である。だが、その偶然を引き入れる”おかしな能力”がカルにはあった。
当然ながら、それをカル本人が知る由もない。
さて、その日の仕事が終わった”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、領主の館の食堂でカルから配布された無料券で食事を取ると、金を払ってラピリア酒を飲み、当然の様に酒のつまみまで買っていた。
これでは、武具を新調するなど夢のまた夢である。
そんな彼らの元にやって来たカルは、”闇を打ち滅ぼす者”達にとある相談事を持ちかけた。
「皆さん。お仕事は順調ですか」
「ああっ、てめえ俺達を怒らせてえのか。こんなド田舎に金になる仕事なんてねーよ」
「ははは。そうですよね」
「俺達をからかいに来たのか」
最初からカルにつっかかる勢いのよいバランである。
「実は、あなた方にお仕事を頼みたいのです。ローガンさんとチェスターさんは、警備隊の兵士相手に剣技や盾技を教える仕事をされていますが、それを”闇を打ち滅ぼす者”である皆さんにお願いしたいのです」
その話を聞いた瞬間、”闇を打ち滅ぼす者”達の目の色が瞬間的に変わった。
「残念ながら城塞都市の警備隊は、強いとはいえない状況ですが彼らに戦闘訓練を行える者など、この城塞都市にはいません」
「ですので、それを”闇を打ち滅ぼす者”の皆さんにお願いしたいのです。仕事としては、警備隊の顧問として各部隊の隊長クラスや、武術を教える部隊に戦闘訓練を行っていただきたいのです」
「・・・おい、いくらだ。いくら出すんだ」
「ひとりあたり金貨5枚。これは週の報酬です」
「つまりひとり月に金貨20枚か」
「はい。それに戦闘訓練は毎日でなくてもいいです。元々”闇を打ち滅ぼす者”の皆さんは冒険者ですので、ダンジョンで魔獣狩りをした方が腕を磨けると思います」
「だが、こんなド田舎にダンジョンなんてあるのか」
「実は、城塞都市アグニⅡの近くに通称”中級ダンジョン”と呼ばれる迷宮があります。階層は現在35層で20層辺りまでは中級冒険者の狩場になっています。それよりも深い層では上級者向けになるのでAランク冒険者が皆無の城塞都市では、殆ど手つかずです」
その話を聞いた”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、思わず唾を飲み込み喉を鳴らしていた。恐らくライバルのいないダンジョンで狩り放題となれば、稼ぎもかなり期待ができる。
「つまりあれか、周に何日か兵士の戦闘訓練を行ってそれ以外の日はダンジョンで魔獣狩りをしてもいいという条件か」
「はい」
「えらく俺達に都合のいい条件じゃねえか」
「さらに、領主の館に飾ってある新しい武具ですが、皆さんにお貸しします」
「まじか!」
思わず食堂で叫んでしまうバラン。
「はい。でもあくまでお貸しするだけです」
「あっ、あの武具を装備してダンジョンに入ってもいいのですか」
思わず声が上ずる重戦士チェスター。
「それは許可します。ですが、あの武具は警備隊のものですので武具を装備している時は、警備隊の兵士として節度ある行動をしてください」
「わっ、分かった・・・そうか、あれを装備できるのか」
実は、これもカル本人が無意識に意図しない策略であった。冒険者であれば性能の良い武具を身に着けたい。その欲求は誰も同じである。例えFランクの冒険者であるカルであっても。
「ちなみにお前は、その”中級ダンジョン”の何層まで行った事があるんだ」
「僕ですか。えーと35層まで行きました」
「はあ、お前Fランクだろ。しかも神官・・・そうか、パーティが良かったんだな」
「まあ、そうですね」
そうバランが言った様に、”中級ダンジョン”攻略のパーティ?の面子はとても良かった。精霊ホワイトローズが用意した重装甲オーガ兵100体以上、フレアウルフ20体以上。
そうカルは、通称”中級ダンジョン”のダンジョンマスターを抹殺するために精霊ホワイトローズが差し向けた討伐軍団である。カルは、について行っただけである。
だが、その時にダンジョンマスターを死地に追いやる寸前でなんとかダンジョンマスターの命を助け、挙句の果てに”中級ダンジョン”のオーナーにまでなってしまったっカル。
その事をここで言う気もないカルは、バランの想像に任せる事にした。
「そうだ。お前の盾にもダンジョンがあったな。俺達は、その盾のダンジョンの4層でやられた。Aランク冒険者である俺達がたった4層で殺られるなんて屈辱以外の何物でもない!」
「4層ですか。僕は、5層まで行きました。5層には、ダンジョンの外に出られる扉があるんです」
「なっ、なんだと。お前が俺達より強いっていうのか。Fランクの神官の分際でふてえ野郎だ。だが、あの魔法を放つスライムの群れの仲をどうやって生きて出られたんだ」
「あのスライムさん達ですか、そんなに強い感じはしなかったですよ」
”闇を打ち滅ぼす者”の面目は、いきなり立ち上がると食堂のすみへと移動して円陣を組みながら何やら相談を始めた。
「あっ、あのガキの言っている事が信じられるか」
「でも、実際に俺達はあのガキの盾に飲み込まれましたからね」
「確かにあの盾は脅威だよ」
「なら、こんな提案をしてみてはいかかがですか。新しい武具を装備してもう一度あの盾のダンジョンに入るんです。あの子供と一緒に」
「なるほど。それであのガキの能力を知るってものも悪くなねーな」
「金を貯めて武具を買い取れる様になれば水龍も狩れる。水龍を狩ったら冒険者ギルドに水龍を売っぱらってこんなド田舎からおさらばできるな」
「だから今は、我慢の時ですよ」
「そうだな。俺の口から我慢なんて言葉が出るたあ驚きだが、このド田舎であのガキを殺れれば、もう俺達より強ええやつはこの城塞都市にはいねえ。やりたい放題できるって訳だな」
「まあ、それは後々考えるとして」
「そうだな、今はあのガキの能力を知るべきだな」
”闇を打ち滅ぼす者”の面々がテーブルに戻り椅子に座るとリーダーのバランが口を開いた。
「ひとつ条件がある。警備隊に配備する武具を装備してお前の盾のダンジョンにもう一度入りたい。その時は、お前も一緒だ」
「いいですよ。とりあえず5層まで行きましょう」
「武具は、いつ用意できる」
「そうですね。7人分なら・・・既に領主の館に運び込んだものがあるので準備を含めて2日後にしましょうか」
「分かった。2日後、仕事が終わったら食堂に集合だ」
”闇を打ち滅ぼす者”の面々が同時に頷く。カルは飄々とした面持ちで彼らの顔を見つめていた。
2日後、”闇を打ち滅ぼす者”達7人とカル、メリル、ライラの総勢10人は、カルの盾のダンジョンに入り既に4層まで来ていた。
”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、警備隊用の真新しい武具を装備して意気揚々と盾のダンジョンへと足を踏み入れたのだが、前回もこの4層で苦戦した挙句に全員が倒されたと言っていた。
カルはというと、盾のダンジョンに大盾を持ち込む事はできないので、金の糸を使って大盾のレプリカを作りそれを持ち込んでいた。
”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、数十体の魔法スライムの魔法攻撃にさらされ防戦一方である。
パーティの最後尾にいるカル、メリル、ライラは、カルの持つ大盾から伸ばした金の糸で盾のダンジョン内の魔法スライムの位置をほぼ把握し、カル達に近いものから順に倒していた。
ただ、全く攻撃を受けないというのもおかしな話であるため少数の魔法スライムを近よらせて攻撃を受けた”ふり”をしていた。
カルの持つ大盾は、魔法を受けても殆どダメージを受けない。しかもカル以外に大盾から伸びた金の糸は見えないので、カルがどんな攻撃を行っているかさえ誰も把握すらできない。
”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、カルがどんなスキルを持っているかを探るのがこの盾のダンジョンに来た目的のひとつであった。だが、今はそれどころではない。
「カル様。彼ら随分と苦戦しているようですね」
「うーん。僕が以前来た時は、あっという間に5層まで行ったんだけど、こんなに苦戦した記憶はなかったなあ」
「一応、カルさんとメリルさんにも私の精霊治癒魔法をかけてありますが、魔法スライムさんは、私達にあまり攻撃をしてこない様ですね」
「ああ、僕が大盾から金の糸を出して魔法スライムを見えないところで間引いているからね」
「でも”闇を打ち滅ぼす者”さん達はかなり苦戦してますよね」
「彼らはAランクの冒険者チームだから僕がしゃしゃり出るとね。そう思って彼らが守っている方にいる魔法スライムには、手は出してないんだ」
「カルさんの行動を見てると思うのですが、カルさんがFランクの冒険者ってやはり変です。冒険者ギルドに行ったらランクが直にでも上がるんじゃないでしょうか」
「僕もそう思う。でも僕の仕事は領主だから。他国に行くには冒険者証が必要だから持っているだけだし、それにランクが低い方がバカにされて行動し易いっていうのもあるからね」
「ははは。確かにそうですね」
呑気に3人で話をして盛り上がるカル、メリル、ライラのすぐ側では、”闇を打ち滅ぼす者”の面々が魔法スライムの猛攻にさらされており、魔術師ハーパーと魔術師バートが必死にシールドを張って魔法をなんとか凌いでいる緊迫した状況が続いていた。
「おいお前ら。なんでそんなに呑気に話なんてしてやがる」
”闇を打ち滅ぼす者”のリーダーであるバランが剣を構えながらカル達に苦情を言うためにわざわざ後方へと下がって来た。
「僕も戦った方がいいですか」
「当たり前だ。ここはダンジョンだぞ!遊びじゃねえんだよ」
カルに向かってバレルがそう言った瞬間。盾のダンジョンの4層にいた魔法スライムが全て霧散していく。
「えっ、いきなり魔法スライムが倒されたよ。いったいどうなって・・・」
「じゃあ、今度は僕が先頭を行きますね。ついて来てください」
そい言うとカルは、メリルとライラを引き連れてダンジョン内をすたすたと歩き出す。
通路の遥か彼方に魔法スライムの姿が無数に見える。だがカルは、何の攻撃の素振りも見せないまま次々と魔法スライムは霧散していく。
「おい!てめえ何をしやがった」
バレルの怒号が盾のダンジョンの4層に響き渡る。
「冒険者が自身のスキルをばらすはずがないですよね」
「くっ、くそ!」
カルの反論に何も言えないバレル。
「凄い。前も後ろも横も現れた魔法スライムが攻撃もしないうちに倒されていくよ」
「あの子供。神官だって言ってました。魔法を放った形跡もないのに魔法スライムを倒せるっていったいどんなスキル持ちなでしょうか」
”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、不思議そうにカルの行動を見つめる。
だが、その足元にはカルの持つ大盾から伸ばした無数の金の糸が張り巡らされ、その金の糸の上を移動する魔法スライムをことごとく倒していた。
金の糸の存在すら把握できない”闇を打ち滅ぼす者”の面々。果たして彼らにカルのスキルを把握できる日がやって来るのか。
「ここが盾のダンジョンの5層で・・・あれ、新しい部屋が出来てますね」
カルは、5層の外れにある出口の小さな扉へと向かうつもりでいた。だが、どうやら精霊ホワイトローズは、5層に新しい部屋を作った様である。
「どうします。以前に来た時には無かった部屋がありますけど入ってみますか」
「おっ、おう。せっかくここまで来たんだ。入ってやろうじゃねえか」
バランの威勢のいい声が盾のダンジョンの5層に響き渡る。だが、その声は僅かだが震えている事にカルですら気が付いていた。
「バラン。いくら我々が新しい武具になれていなかったとはいえ4層で手間取ったんです。この部屋は恐らくこの層のボス部屋です。無理は禁物です」
「分かってらあ。だが最悪あのガキにボスを倒させりゃいいじゃねえか。攻略方法が分かれば次に来た時に対策がうてるさ」
「まあ、このチームのリーダーは、バランですからそれに従いますが・・・」
”闇を打ち滅ぼす者”の中で唯一の常識論者である重戦士チェスターは、聞き入れられる事のない提案をバランに行い、案の定却下されてしまう。だが、それが彼の仕事だと割り切っていた。
以前には無かった5層の部屋。部屋はいくつもあるがその扉には、スライムの姿が刻まれた扉、その横の扉には羽の無い龍の姿が刻まれていた。
「こっちの部屋は、恐らくスライムのボスでしょうか。こっちは、羽がない龍に見えるので地龍でしょうか。他にも扉があるようですが何も刻まれていないので準備中のようです」
「おう、ならスライムの扉から行くぞ。みんな準備はいいか」
”闇を打ち滅ぼす者”達とカル達は、スライムの姿が刻まれた両開きの扉を開けると、その部屋へと入っていく。
盾のダンジョンで初めて誕生したボス部屋。果たしてどんな戦いが待っているのか。
皆さんお気づきでしょうか。何度も言いますがこのお話は、コメディです。真面目なファンタジーを求めたりしてませんよね。
※胃が痛いです。今日、車の運転中に胃炎に襲われました。以前から稀に胃炎になるんですが・・・。
今も胃が痛くてへろへろになりながらお話を書いております。歳を取るって嫌ですね。体中がぼろぼろです。