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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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114話.冒険者バラン(4)

”闇を打ち滅ぼす者”達がカルの依頼を受ける事になります。


それは・・・。


盾の魔人のダンジョンに飲み込まれた”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


盾のダンジョンから出て来た時には、武具はおろかシャツもパンツすらもはぎ取られ粘液まみれてとなっていた。


気を失っている裸族となった面目を放置する訳にもいかず、カルは彼らを馬車に乗せて城塞都市ラプラスへと運んだ。


途中、馬車の荷台で気が付いた”闇を打ち滅ぼす者”の面々は、状況が把握できずに混乱を極めていた。


最初は、盾のダンジョン内ではぎ取られた武具を返せとカルに詰め寄ったが、ダンジョンで負ければ命が無いとカルに言われたためか返す言葉が無かったらしく黙ってしまった。


Aランクの冒険者といえど武道に長けた者でもないかぎり短剣すら装備していない状態では、カルに向かって来る者もなく、支給されたシャツとパンツ、それにサンダルを履いて大人しくしていた。


城塞都市ラプラスの領主の館に戻ったカルは、空いている2人部屋を手配して当面の衣食住を手当てし、彼らの保証人となった。


彼らは、盾の魔人のダンジョンで全てを失ってしまった。武具、服、財布、冒険者証まで。


紛失した冒険者証は、冒険者ギルドに行けば再発行してもらえる。だが、再発行にはそれなりの金がかかる。また、彼らも冒険者ギルドにも幾ばくかの蓄えを預けていたようだが、彼らが装備していた武具を全て買い揃えるにはあまりにも少なすぎた。


そうAランク冒険者ともなれば、ひとり当たりが装備する武具の金額が金貨換算で万の数に達する。


”闇を打ち滅ぼす者”は、7人のグループであり武具を揃えるとなると最低でも金貨7万枚以上となる。


金貨7万枚を魔獣狩りや冒険者ギルドのクエストの受注で取り戻そうとすれば、数年の歳月は楽にかかる。


しかもその領域に達する迄に別の武具も必要であり、実際に全ての武具を買いそろえるのはほぼ不可能に近い。”闇を打ち滅ぼす者”の面々は途方に暮れていた。


幸いにして領主の館の中にいる限りは、カルが身元保証人でありカル個人が雇ったスタッフ扱いである。さらに朝昼晩の食事は、食堂のチケットを配給されるので困る事もない。


だが、そんな生活をいつまでも続ける事などできない。そう彼らは腐ってもAランク冒険者なのだ。


城塞都市の警備隊の標準装備の武具を借り受けると、彼らは馬車の護衛や街の警備、或いは兵士達の訓練教官などの職に就き、当面の生活費を稼ぐ事となった。


こんなド田舎まで水龍を追って来た挙句、全ての武具をはぎ取られて一文無しになってしまった”闇を打ち滅ぼす者”の面々。踏んだり蹴ったりである。


そんな彼らもいつか武具を買いそろえてカルを倒すと心の奥底で誓い、その日を迎える事を心待ちにしていた。


だが、食堂でふるまわれる無料のラピリア酒(薬)を飲んだ途端、カルを倒すという誓いがどんどん揺らいでいく。


「領主の館の食堂でお酒が無料なんて凄い」


「この酒、本当に美味いな」


「でも2杯目からは有料だってさ」


「2杯目からは、毎日の稼ぎから出せってことか・・・」


剣士ローガン、重戦士チェスター、それに魔術師のハーパーが領主の館の食堂で仲間と話をしながら共に食事をしている。


すると少し離れた場所で食事をしていたバランが、食事を半分ほど残して厨房前のカウンターに並び2杯目の酒をジョッキに注ぐと、置いてあるザルの中に金を入れて戻ってきた。


「バラン。酒を飲むと武具を買う金が減ってしまいますよ」


「いいんだよ。酒が無かったら明日の仕事ができんだろ」


「本当にいいんですか、そんな事をしていたらいつまでもここを抜け出せませんよ」


「相部屋だが領主の館の空き部屋なんぞを用意して飯は3食タダ。着る物も警備隊のものを使わせてくれる。あの領主のガキは、バカなんじゃねえの。俺たちは、水龍を狩るって追いかけて来た敵だぞ!」


「まあ、そうですね。そこまでしてくれる人はいないですね」


「だろ。普通なら牢屋入りで臭い飯を食わせて鉱山で強制労働が関の山だぞ」


「あの小僧に感謝しますか?」


「バカ言え。俺が感謝なんぞする訳がねえ。だが恩は感じてる。恩は返さねえとな」


「なんだかおかしな理論ですが私も恩は感じています。ここの生活なら普通の冒険者以上の生活を約束されますからね」


「ふん。だが今に見てろ。金を貯めて武具を揃えたらあいつを倒してやる」


バランは、この城塞都市であるカルに対して敵意をむき出しにしていた。だが、それがはある事件により徐々に失われていくことになる。





数日後、領主の館のとある部屋に武具が飾られていた。装備の前には小さな柵が設けられ、武具に手をふれる事はできない。だが、装備の材質や目安となる性能が記された紙が貼り出されていた。


今後、一部の警備隊の装備になるという武具の数々。


大盾、小盾、大剣、片手剣、短剣、魔法杖、槍、重鎧、軽鎧、兜。


どの装備にも見た事もない魔法陣と魔法回路が刻印されている。


「すげえ。これを装備できるのか」


「全員じゃないらしい。各都市の一部の部隊だけって話らしいぞ」


「まあ、そうだろうな。でもこの武具って魔法陣と魔法回路にミスリルを使ってんだろ」


「ああ、しかもミスリルの特品だとよ」


武具がミスリルと聞いた途端、余計に武具を食い入る様に見る警備隊の兵士達。


「そうか、うちの領主様ってミスリル採掘のスキル持ちだっていう話を聞いた事がある」


「あー、だからうちの警備隊の装備にもミスリルを使ってるのか」


「でもこの武具って鬼人族の領主様達の装備の劣化版だってよ」


「本当かよ」


「なんでも鬼人族とかじゃないと、武具に精神を乗っ取られるらしいぞ」


「なんだそりゃ。まさか呪われた魔法剣ってやつか」


「同期が試作武具の試験やっててな、あやうく精神を乗っ取られかけたんだとよ」


「この武具は大丈夫なのか」


「大丈夫だろ」


「だいたいにして、うちの領主様の大盾も魔人装備だからな」


「「「「「あー、そうでした!」」」」」


今では、カル達と共に戦った事のある警備隊の兵士も多く、カルの持つ大盾に魔人が住むというのは、公然の秘密であり兵士であれば誰もが知っている事実であった。


数十人の警備隊の兵士は、目の前に並べられた武具を目を輝かせながらいつまでも眺めていた。




仕事が早く終わった”闇を打ち滅ぼす者”のバラン、チェスター、ハーパーは、そんな光景を武具が展示された部屋の隅で眺めながら会話を始めた。


「見たかあの武具」


「はい。いい武具です」


「俺達が装備していた武具よりもいいぜ」


「武具の使われている材料が凄いよ。あの紙に書いてある材料を使ってるならね」


「恐らく俺達が以前使っていた武具よりも数段は高いぜ」


「本当だね。それを城塞都市の警備隊の装備にするって頭がいかれてるのかね」


そんな会話をする”闇を打ち滅ぼす者”の面々の前にカルが不意に現れると、こんな事を言い出した。


「ちょうどよいところにいました。あそこに展示してある武具のデモンストレーションを明日行うんですが、やってもらえませんか。当然ですが依頼料をお支払いします」


「俺達がか」


「はい」


バランは、一瞬考え込む。だが、チェスターもハーパーもその仕事の依頼料を聞くまでもなく受けたくて仕方がない。


だが、チームリーダーはバランだ。チェスターもハーパーもチームリーダーのバランの答えを聞きたくて目を輝かせながら待つ。


「依頼料はいくらだ」


「剣士ひとり、重戦士ひとり、魔術師ひとりで、各金貨5枚でどうですか」


「きっ、金貨5枚。武具のデモンストレーション如きに金貨5枚って・・・」


「安過ぎましたか。そうですよねAランク冒険者に出てもらうんですもんね」


「いや、受ける。だが、俺達が武具を奪って逃げるって思わねえのか」


「まさかAランク冒険者である”闇を打ち滅ぼす者”達の皆さんがこんな安い武具を持ち逃げるなんてある訳ないですよ。そこは信頼してます」


「・・・・・・」


そんなカルの言葉に何も言い返せず、思わず眼がしらが熱くなってしまうバランであった。




次の日、城塞都市ラプラスの城壁外にある警備隊の訓練所にやって来た”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


簡単な武具のデモンストレーションの順番や殺陣の方法を担当者と打ち合わせを行う。


警備隊の訓練所には、警備隊の兵士数百人が居並び新しい装備のお披露目を待っていた。


そして登場したのは、重戦士であるチェスターである。重鎧を装備し大盾と槍を構える。


そこに警備隊の武具を装備した兵士5人が現れる。


5人は、隊列を組むとチェスターが構える大盾へと突進し剣を振るう。だがチェスターが構える大盾はびくともしない。さらに剣を受け止めかわしいなして兵士達を軽々と弾き飛ばす。


さらに後方に待機していた敵役の魔術師の兵士がチェスターに向かって魔法を放つ。その瞬間、5人の兵士達がチェスターの前から一斉に身を引く。


そしてチェスターが構える大盾に魔法が直撃する。だが、大盾もチェスターも大盾に守られており、かすり傷ひとつ負っていない。


それを見ていた数百人の警備隊の兵士達からは、怒涛の歓声が沸き起こる。


「やっぱりAランクの重戦士はすげえな」


「おう。あの身のこなし、技の出し方。どれをとっても俺達じゃ相手にならねえな」


重戦士チェスターは、見学する数百人の警備隊の兵士に向かって一礼をするとその場を後にした。




次に魔術師ハーパーが姿を現す。ハーパーは、右手に魔法杖。左手に小盾、それに軽鎧を装備する。


ハーパーの前には、2人の兵士と、後方に3人の魔術師。通常であれば護衛のいない魔術師など敵ではないのだが・・・。


ハーパーは、敵役の魔術の兵士が放った魔法を小盾と己が出現させた魔法のシールドで簡単にはじき返す。さらに襲い掛かる剣士を相手に小盾でいなしかわして行く。


足取りは軽くまるで地面が氷で出来ているかの様に滑りながら移動を行っていく。


そして最後に魔法杖から繰り出された魔法の数々により模擬標的が悉く破壊されていく。


その光景を見ていた数百人の警備隊の兵士は、思わず歓声すら上げられずにいた。


まさか、さっき渡された武具を装備してここまで使いこなせるものなのかと。


武具のデモンストレーションが終わると、魔術師のハーパーが一礼をする。


そこで居並ぶ警備隊の兵士がやっと歓声を上げハーパーに拍手を贈る。


「すげえ、やっぱAランクの魔術師だな。俺達じゃ全く相手になんねえ」


「魔術師が剣士相手にあそこまで盾技を繰り出せるのかよ。あれじゃ魔術師に護衛なんて必要ないじゃないか」


デモンストレーションを見ていた警備隊の兵士の中にも魔術師は大勢いる。だが、魔術師であそこまで技を繰り出せる者は皆無である。


目の前でAランク魔術師の技を見せられて奮起しない魔術師はいなかった。警備隊の魔術師達の心に何か大きな炎の様なものが灯った瞬間であった。




最後にバランが大剣と軽鎧を装備し、数百人の警備隊の兵士の前に現れる。


敵役の兵士がざっと10人。さらにその奥には、敵役の魔術師が3人。


敵役の兵士達は、隊列を組むとハーパーに向かって一斉に剣を振り下ろす。だが、ハーパーは剣でかわし小盾でかわし、次々と敵役の兵士達をなぎ倒していく。


その姿は、まさに芸術的なセンスを持ち合わせていると言っても過言ではなかった。


バランは、あっという間に10人の敵役の兵士をなぎ倒すと、模擬標的の木や鉄で出来た棒を軽々と両断していく。


さらにバランが持つ大剣から魔法が放たれると模擬標的の建物や城壁が粉々に吹き飛ばされていく。


デモンストレーションが終わり大剣を振り払いながら決めポーズをとるバラン。


それを見た数百人の警備隊の兵士達。思わず今までで最大の歓声と拍手が沸き起こる。


新しい装備のデモンストレーションは、大成功であった。




警備隊の建物に入り、割り当てられた部屋でお茶を飲み食事を取るバラン、チェスター、ハーパー。


だが3人の顔色は冴えない。なぜならば・・・。


「おい、使った武具の具合はどうだった」


「・・・最高だったよ。今まで使ってた武具なんて比較にならないよ」


「ああ、あの大盾は最高だ。あれがあればどんな魔獣相手でも引けは取らない」


「私なんて魔術師だっていうのに剣士相手に楽々と戦えたよ。それに魔法の威力もすごいし・・・」


ハーパーは、そこで何故か言葉が一瞬だけ詰まってしまう。


「それに消費した魔力が殆ど皆無だったんだよ。あんな魔法杖なんて初めてだよ」


「そうか・・・」


重戦士チェスターと魔術師ハーパーの声に言葉を返さなバラン。


「バランはどうでしたか」


「いやな。あんな大剣は初めてだ。重さを感じねえ大剣なんざこの世の中に存在しねえ」


「あっ、私が使った大盾も殆ど重さがありませんでした」


「それに、あの大剣の切れ味はなんだ。鉄がまるで紙の様に切れたぞ。それに大剣で魔法が放てるなんざどれだけバカげた武器なんだ」


思わず言葉を無くすバラン、チェスター、ハーパーの3人。


「俺達が今まで使ってきた武具は、あれに比べたらゴミも同然だ。この城塞都市は、どこかいかれていやがるぜ」


思わずそんな言葉を吐き捨てるバラン。


「だが、これで武具をこの城塞都市で作るっていう目標が出来た。金を稼いで俺達の武具を作るぞ!」


バランの言葉に、チェスター、ハーパーも同意する。


”闇を打ち滅ぼす者”の面々がSランク冒険者へと飛躍する出来事は、この城塞都市ラプラスの警備隊でのデモンストレーションから始まった。


ドワーフのバレルが作る武具がさらに洗練されていきます。


ですが、カルは、バレルが作る武具を一切装備していません。カルには魔力が無いので使えないのです。それは、少し残念な話です。


※体調ですが相変わらずふらふらします。当面はこのままの様なので、体と相談しながらお話を書いていくことにします。ご了承ください。



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