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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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112話.冒険者バラン(2)

城塞都市ラプラスにAランク冒険者バラン率いる”闇を打ち滅ぼす者”がやっと到着しました。


ラドリア王国のリガの街で警備隊に追われる羽目になったバラン率いる”闇を打ち滅ぼす者”。


リガの街まで乗って来た馬車も既に警備隊に確保されていたため徒歩で街を出るはめになり、暗い夜の街道を2つのグループに分かれて移動していた。


水と食料を確保しながら先行するアイリス(神官)、バート(魔術師)、ローガン(剣士)が村や街で状況を確認しながら進む。


それにより分かった事だが街の冒険者ギルドに寄っても手配書が張り出されている訳でもなく、街や村にも手配書が配られた形跡はなかった。


「俺たち、担がれたんじゃないでしょうか」


「そうですよ。誰かを殺したりケガをさせた訳でもないんですから」


「街中で魔法を放ったからっていきなり逮捕するっていうのも変だしな」


「湖で水龍を奪ったという子供ですが、あのリガの街を治める貴族とかなり懇意にしているそうなので、私達の足止めを狙ったんだと思います」


「だとすると子供と侮ると痛い目を見る可能性があるな」


「どこかの街で馬車を借りませんか。手配もされていないようですしのんびりと旅を楽しむのもいいですよ」


「そうだな。せっかくこんなド田舎まで来たんだ」


「後から来るバラン達を回収して城塞都市ラプラスとかいうド田舎の街を目指しましょう」


「城塞都市ラプラスってどんな街ですかね」


「きっとド田舎にあるくらいだから何もないじゃないか」


なぜかチーム”闇を打ち滅ぼす者”は、この南の辺境地域の事を口に出す時は必ず”ド田舎”を付ける様だ。


確かにド田舎である事は否定しないが、あまりド田舎を連発されるのも釈然としないのも事実である。





ラドリア王国のポラリスの街を経由して馬車で城塞都市ラプラスを目指す”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


通りすがりに見た畑は、作物も植えられずに荒れ放題となり人が住まなくなった廃村もいくも目にした。


そしてポラリスの街の宿屋に泊まった面々が目にしたものは、活気のない寂れた街の風景であった。


誰も住まなくなった家と閉められた商店が街道の両脇に並び、人の手が入らなくなった家々は、ことごとく壊れていく。


だが、街並みからすると以前はかなり栄えた街である事がうかがえた。なぜここまで寂れてしまったのか、それを口にする住民は誰もいない。


街のあちこに佇み周囲の様子を伺う男達がちらほらと見える。あきらかに物取りや強盗の類だと誰にでも分かる。


あまりの街の衰退ぶりと危険である事に思わず身震いをする”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


城塞都市ラプラスの情報収集にと宿屋から街に繰り出した面々であったが、あまりにも危険すぎるため、腰にぶら下げた剣をいつでも抜ける状態で街の中を移動する。


「おいおい、こんな危険な街はなかなかないぞ」


「これはまずいですよ。周囲で様子を伺っている者達は全員が物取りか強盗です」


「こんな街、早く出ようよ」


「本当にド田舎って怖いです」


Aランク冒険者である”闇を打ち滅ぼす者”ですら身の危険を感じる街に変貌したポラリスの街。宿屋に泊まった”闇を打ち滅ぼす者”であったが、周囲から発せられる殺気や憎悪を察した面々は、馬車を盗まれるか強盗が宿を襲う事を恐れ夜は交代で見張りをする羽目になってしまった。


次の日は、朝早くに宿を出ると早々に峠に向かい城塞都市ラプラスへと向かった。


峠を越えるとそこに見えてきたのは、平原と森と中央には巨大な砂漠の広がる大地であった。


本来、砂漠が広がる地域には森など存在しない。だが、この地域には砂漠とそれに続く茫漠の地に隣接する様に森が広がっていた。


「ほう。何だか変わった土地ですね。砂漠と森が隣接するなんて初めて見ましたよ」


「確かにそうだな。植林でもしてるのか」


「いや、砂漠に隣接する茫漠の地に植林なんて無理ですよ。それこそ魔法で土壌改良でもしなければ」


「でもそんな魔法なんてあるのか。これだけの土地の土壌改良なんていったい何十年、いや何百年かかるやら」


「まさか、賢者とか大魔法使いがいたりして」


今まで馬車の中で寝ていたはずのバランが突然起き出すと仲間の会話に割り込んで来た。


「おいおい、冗談じゃねえぞ。これからあのガキと戦うんだぞ。そんなおかしな奴がもしあのガキの仲間だったらどうすんだよ」


仲間の話に割って入ったバランが不安を煽る仲間の会話を遮る。


「あのガキの仲間には、おかしななめくじを召喚するやつまでいやがる。俺達には、あのなめくじの粘液を防ぐ手立てがないんだぞ。それに他の仲間のスキルは不明だが警戒するに越した事はねえんだよ」


「あれ、バランが妙に弱気ですね」


「本当だ。バランが慎重になってますよ」


「うるせえ。俺もいろいろ考えてんだよ。あのガキが水龍に飲ませた薬だったか、あれで水龍が全回復したと思ったら体が急に小さくなりやがった」


「確かにそうでした」


「俺は、あんな薬を知らねえ。いったい何処であんな薬を売っていやがる」


「・・・まさか賢者とか大魔法使いが作った薬ですか」


「水龍狩りを邪魔された挙句に水龍を横取りされてついカッとなってこんなド田舎まで来たが、相手が俺達以上におかしな連中だったらどうする」


「バラン脅かすなよ」


「そうですよ。Aランクチームである”闇を打ち滅ぼす者”よりも強い奴らなんてSランク以外にありえないよ」


「それにあのガキ。自分からFランクの神官だって言ってたじゃないかい」


「俺達は、そのFランクのガキに水龍を奪われたんだ。慎重にもなるさ」


「・・・・・・」


バランのいつもとは違う物言いに思わず言葉を無くす面々。


馬車は、”闇を打ち滅ぼす者”を乗せてセスタールの手前にある検問所へとさしかかる。




検問所には、警備隊用の大きな詰め所と事務棟があり、その手前には馬車が通れるほどの大きな門と格子状の柵。その柵の後ろには小さな森が門の両側に配置されていた。


森は、どうみても検問所を作った後に植林した様に木々が整然と並んでいて、検問所の建物は真新しくつい最近になって建てられたものだと見てすぐに分かるものであった。


検問所の前には、いくつかの馬車が停まり荷台は全て空の状態であった。だが、腰に帯刀をして防具を装備した冒険者風情の男女が馬車の周囲で警戒を続けている。


「へえ、できたばかりの検問所ねえ。でも検問所の先に食堂と土産物屋みたいなのが並んでるわね」


「食堂は、宿屋を兼ねてるようだし将来的には、ここに街を作る予定なんじゃないか」


「でもこの柵って人の身長よりも少し高いくらいだから簡単に越えられるわよ」


「いやいや、森の先を見てみろよ。あの先で柵が無くなってるよ」


「本当だ。じゃあ、この柵って意味ないじゃん」


「恐らくこの柵自体に意味は無いんだよ。柵は、心理的に検問所に人を集める用途でしかないんだ。この検問所を通らなくても実際は構わないっていう発想なんじゃないかな」


「じゃあ、なんでこんな検問所を作ったんだい」


「きっと何か別の意味があるんじゃないかな」


チーム”闇を打ち滅ぼす者”が検問所の事務棟に入ると、そこには多くの椅子が並べられており既に半分くらいの椅子が埋まっていた。


「それでは、これから城塞都市ラプラス、アグニⅠ、アグニⅡへ入られる皆さまへ簡単な説明を行います。私は、警備隊広報課のポーカーと言います」


警備隊のポーカーと名乗った者は、椅子に座っている者達に紙を配ると話を続けた。


「では、城塞都市ラプラスへと向かう皆さまにいくつか注意事項をお伝えします。この中で城塞都市ラプラス、アグニⅠ、アグニⅡへ行った事がある方は言ってください。この説明会を免除いたします」


ポーカーの言葉に誰も椅子からは立ち上がらない。それを見たポーカーは話を続ける。


「では、お配りした紙に目を通してください。一応、字が読めなくても分かる様に絵を使って説明もしていますので理解し易いと思います」


事務棟には、他にも警備隊の兵士が数名おり、その兵士が黄色い液体の入った小さな小瓶を椅子に座っている者達に配り始める。


「はい、この城塞都市の街、村、街道は、他の都市や村とは少し違った者達がおります。それを認識していただくためにお配りしたポーション瓶に入った薬を飲んでいただきます」


ポーション瓶が全員に行き渡った事を確認したポーカーは話を続ける。


「ちなみにこの薬はお酒です。けっこう美味しいと評判のお酒ですがちょっと値段が高いのが欠点ですね。このお酒は、城塞都市の名産品でよく売れております」


椅子に座った者達は、配られたポーション瓶に入った黄色い液体を口に含むと一気に喉に流し込んでいく。


「あっ、これ美味しい」


「へえ、こんな美味い酒があるのか」


思わず酒の美味さを口にしてしまう”闇を打ち滅ぼす者”。


「さて、このポーション瓶に入ったお酒を飲まれた方は、私の肩や頭の上に何かいるのが分かると思います」


そんな事を言い出すポーカーを椅子に座った者達がまじまじと見つめる・・・するとそこには、小さな羽の生えた妖精達が手を振っているのがだんだん見えるようになる。


「ちょっ、ちょっと妖精だよ。妖精が見えるよ」


「本当だ。でも妖精って特別な人にしか見えない・・・そうか、この酒を飲むと見えるのか!」


「ご名答です。このお酒は薬でもあります。ポーションと同等、或いはそれ以上の治癒効果を持っています。なのでこのお酒を飲むと次の日には体の悪い部分が治り疲れが取れてしまいます」


ポーカーの説明に思わず聞き入る面々。


「さて、この城塞都市の街、村、街道のいたるところに私の肩や頭の上にいる妖精達が暮らしています。彼らは、この城塞都市の住人でもあります。なので彼らには絶対に危害を加えないでください」


ポーカーは、話を途中でとめると椅子に座る面々の顔を見回し全ての人の顔を覚えたかの様な仕草をした後に話を続けた。


「もし、彼らに危害を加えた場合ですが命の保証はありません。例えば服のボタンが全て取られたり、パンツを盗まれたり、防具に落書きをされたり、寝ている時に顔に落書きをされたりと・・・私の部下にも寝ている時に顔に落書きをされた者がおります」


ポーカーの話を聞いていた面々から思わず失笑がこぼれる。


「はい。それとこの城塞都市の街、村、街道、それに森にはトレントがおります。冒険者の皆さんは特に注意して欲しいのですが、彼らはラピリア・トレントと言いまして決して魔獣ではありませんし攻撃もしてきません」


椅子に座る冒険者風の者達から驚きの声がこぼれて来る。


「嘘だろ、トレントが攻撃しないなんてあり得ない」


「そうだ。俺たちはトレントを見たら剣を抜くぞ!」


だが、ポートは冷静な態度のまま話を続ける。


「彼らラピリア・トレントは、妖精達と一緒にこの地域の森を我々と共に守っております。窓の外を見てください。ラピリア・トレントが警備隊の兵士と行動を共にしております」


事務棟の中に驚きの声が響き渡る。事務棟の外では、警備隊の兵士が剣の訓練を行っているが、その兵士の隊列に何体ものラピリア・トレントが並んでいたのだ。


「トレントとラピリア・トレントを見分け方ですが、幹にこんなプレートを付けていますのでそこで確認できます」


ポーカーは、手にプレートを持ち皆に見える様に高々と掲げる。


「もし彼らラピリア・トレントに危害を加えた場合、彼らは反撃をします。彼らの強さですが・・・冒険者でいうAランクに匹敵します。個体によってはそれ以上の者もおりますので、決して彼らに危害を加えないでください」


その言葉を聞いて思わず背筋が凍る感覚に襲われた”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


「それにラピリア・トレントによっては片言ですが言葉を発する者もいます。会話は難しいですが意志の疎通程度はできると思います」


事務棟の窓の外では、ラピリア・トレントが警備隊の兵士と模擬戦を行っていた。


確かに警備隊の兵士は、全力で戦っている。だが、ラピリア・トレントは、警備隊の兵士が振るう木剣を簡単に受け流し、或いは枝でそれを受けると兵士に反撃を加える。


ラピリア・トレントの反撃により簡単に吹き飛ばされる警備隊の兵士。


それを見続ける”闇を打ち滅ぼす者”の面々。魔獣と共に都市を守るなど聞いた事も見た事もない。だが、目の前にそれが現実として起きていた。


「ここは、いったい何なんだよ!」


理解できない世界が広がる城塞都市に、口からそんな言葉を吐いてしまうバレル。


いつしかポーカーの説明が終わると、椅子から立ち事務棟を出る”闇を打ち滅ぼす者”の面々。だが、先程どとは明らかに顔色が異なり青くなっている事に皆が気が付いた。


「俺達と同等かそれ以上の強さを持つトレントがいるのかよ」


そう口走ったバランの目の前をラピリア・トレントが通り過ぎていく。しかもラピリア・トレントの枝には、多数の妖精達が跨り木の枝に成った黄色い実を美味しそうに食べている。


「あのガキがこの城塞都市の領主って本当かよ」


「信じられないが・・・これは現実なんですか」


そんな時、近くを通りかかった警備隊の兵士に話しかける旅の商人の会話が漏れ聞こえて来た。


「あのラピリア・トレントっていうやつは、どれくらいいるんですか」


「そうですね。正確に数えた事はないのですが、各都市に100体以上はいると思いますよ」


その言葉に思わず体が硬直してしまう”闇を打ち滅ぼす者”の面々。


「おいおい、Aランクの魔獣が300体以上もいるのかよ。ここはどこの魔境だ!」


思わずそんな言葉を吐いてしまうバランだが、兵士の話はさらに続く。


「それに最近だと氷龍が頻繁に城塞都市や村にやって来る様になりました。氷龍は、皆さんが飲んだ黄色いお酒が大好きでよくお酒を買いに来るんですよ」


驚愕の話が漏れ聞こえて来た。氷龍といえば、Sランクの冒険者が束になって勝てるかどうかという魔獣だ。それが酒を買いに来るだと・・・それを普通に受け入れているだと・・・ここの城塞都市の住民は頭がおかしいのか。


おもわず心の中でそう叫んでしまう”闇を打ち滅ぼす者の面々。もう、あの警備隊の兵士が何を言っているのか全く理解できずにた。


「バラン。あの話が本当なら・・・ここはかなりまずい場所ですよ」


「でも、住民は暮らしているんだろ。本当に危険なのかい」


「わっ、分からん。奴らが何を言っているのか俺にはさっぱり理解できん」


「この城塞都市にあのガキがいるんだろ・・・しかも領主として」


「とにかく先に進むぞ。いつまでもここにいる訳にはいかんだろ」


そう言って馬車に乗り込む”闇を打ち滅ぼす者”の面々。その馬車の前を隊列を組んで歩く10体のラピリア・トレント。


馬車の手綱を握る剣士ローガンの手が思わず汗ばんでしまう。


今までいくつもの王国で魔獣狩りを行ってきた”闇を打ち滅ぼす者”。だが、そんな者達ですらこの地の異常さに体の震えを感じずにはいられなかった。


城塞都市に住んでいない人達の目線で見ると、いかに城塞都市ラプラスが異常でおかしな場所なのかがよくわかります。


※相変わらず体調が悪いです。病院通いも面倒ですが仕方ないです。


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