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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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107話.精霊界(3)

すみません。少々辛い事がありました。


精霊界から送り込んだ精霊達がラピリア酒(薬)の原料の果実を精霊界へと持ち帰った。


早速、研究所でその果実の成分分析が行われた。


「主任。例の果実の分析結果がでました」


「何か出たか」


研究員は、硝子の様な透明なプレートに分析結果を表示させた。


「殆どは、この精霊界に存在する物質と同じでした」


「殆ど?」


「はい。ただふたつほど精霊界には存在しない物質が微量に存在します。研究員達が持ち帰った探査機のデータも調べましたが、あちらの世界にも存在しない物質の様です」


主任は、分析データに現れた未知の物質の分子構造を見ながら考えこむ。


「我ら精霊に影響を与えるとすれば、この未知の物質ですが、こんな分子構造の物質などどのデータベースにも存在しません」


研究員は、考え込む主任の姿を横目に見ながら話しを続ける。


「もしあるとすれば、数百の異世界から集めた情報を記録してある精霊データベースを検索するしかありません」


「だが、あれは国家機密だ。私にもアクセス権限はない」


主任は、自身ですら手の届かない国家機密という壁に阻まれ成す術がない事に悔しさを感じつつも、それを表情に微塵も出さずに研究員との会話を続ける。


「果実から採取した種はどうだ」


「種の分析結果にもやはり未知の物質が微量に存在すると出ています」


「種を植えた結果は?」


「種を植えた後、精霊魔法をかけて成長を促進させた結果ですが全て原種と同じ緑色の果実が成りました」


「黄色と赤色のふたつの種が同じ結果か」


「はい」


「その緑色の果実からは、未知の物質は検出されませんでした」


「では、種から成木に成長する過程で何かが介在するという事か」


「恐らくですがそう考えるのが自然です」


「やはり向こうの世界でさらに詳しい調査をする必要があるな」


主任は、熟考のすえ最終手段に訴える事にした。


「女王陛下に掛け合って来るか、上に言ったところでたらい回しにされた挙句、調査の許可が降りる迄に半年から1年はかかるからな」


そう言うと研究所の主任は、資料を持ってどこかへと行ってしまった。


「女王陛下に掛け合うって・・・普通会えないですよね」


「ここだけの話ですが、主任のおばあ様って女王陛下なんですよ」


「うそ」


「もしかしたら明日から向こうの世界で調査をするかもよ」


「えっ、なら準備しないと」


「向こうの世界に行ったニアの話では、凄く面白い世界らしいよ」


立ち話をしている研究員の話を盗み聞きをしていた他の研究員達は、いきなり席を立つと作業をほったらかしてロッカー内の個人の持ち物を鞄の中へと押し込めて旅の準備を始めた。


その話は、研究所の中にあっという間に広がり誰が向こうの世界に行けるのかという噂話でもちきりとなってしまった。




出かけていた主任が戻って来ると、自身の研究チームを集めて緊急会議が招集された。


「みんな聞いてくれ。今回の件について俺が女王陛下に直接掛け合って来た。それで・・・予算が付いたから明日にでも向こうの世界に行くぞ」


研究チームには、20霊の精霊がいる。その全員が向こうの世界に行ける訳ではない。だが、この調査でよい結果を残せば研究所内での地位が約束されるのもまた事実である。


「では、最初に立ち上げ要員として5霊。その後さらに5霊。向こうの世界で研究施設の立ち上げができたらさらに10霊を派遣する。残りはこっちでバックアップと途中交代の要員だ」


研究員達がざめき出し、誰が先陣として選ばれるのかに興味が集中する。


「それに別のチームにも応援を依頼するからな。頼むから他のチームと喧嘩するなよ。さあ、明日には出発するから準備してくれ」


その時、主任がおもむろに精霊の名前を呼び始める。


「いいか、名前を呼んだ者は明日の朝に向こうの世界に行くぞ。今回は、あくまで研究施設の立ち上げが目的だからな。いきなり調査はしないぞ」


研究員達は、慌ただしく準備を始める。


この出来事が、精霊界の大勢の精霊がカル達の世界に住むきっかけとなった。




カル達は、作業場に泊まった翌朝。精霊界への扉をみんなで見に行ったのだが、そこには既に神獣なめくじ精霊が来ていた。


神獣なめくじ精霊は、召喚された後にお猫サマの背中の毛に紛れていた。恐らく昨日のうちに精霊界への扉までやって来たのだろう。


「なっ、なめくじにゃ。湖に置いて来たはずなのになんでここにいるにゃ」


お猫サマは、神獣なめくじ精霊の姿を見た途端、後ずさりを始めてしまう。だが、お猫サマの背中を押し返したのはカルであった。


「へえ、これが精霊界への扉ですか。見た感じ普通の白い扉ですね」


「そっ、そうにゃ。あえて何の変哲もない扉にしてあるにゃ。下手に豪華な扉にするとお宝があると思って入って来る輩がいるにゃ」


「例えばですが、僕でも精霊界へ行けたりしますか」


「無理にゃ。カルが精霊界に入ったら数時間で死ぬにゃ」


「えっ、そうなんですか」


「精霊界は、この世界とは構造が違うにゃ。でも特殊な装備をすれば別にゃ」


「いつか行ってみたいですね」


「そうにゃ。お猫サマと一緒に行けたらいいにゃ」


「はい!」


カルは、わくわくしながら精霊界の扉を眺めているとある違和感を覚えた。


さらに昨晩の妖精達の話を思い出していた。お猫サマがこの扉を守護すると言っていた。だが、扉しかないこの環境では日差しをもろに受けてしまうのでかなり暑い。また、雨が降ってもそれをしのぐ場所すらない。


さらに扉の警備をお猫サマと紙獣なめくじ精霊だけにまかせっきりというのも領主としていかがなものかと考えるにいたった。


「お猫サマ。ここで扉の守護をするっていっても日差しで熱いし、屋根も無いから雨が降ったらどうします。それになめくじさんもここで一緒に警備をするんですよね」


「近くには作業場があるからそこに逃げ込むにゃ」


「それだと足の遅いなめくじさんが可愛そうです。それに雨宿りをしている時に誰かが来ても分からないですよね」


カルは、せっかく精霊界と繋がったのだからせめてお猫サマが楽に居られる様に設備を作る事を提案した。


「なら、扉の上に屋根を作りましょう。それに宿泊できる程度の建物と作業場の奥に検問所と警備隊の宿舎を作ります。城塞都市ラプラスとしても警備隊くらい配置しておかないとね。これから他国とのおつき合いが始まるなら尚更です」


「それはいいにゃ」


「これから領主の館に戻って関係各所に話をして明日には、担当の者を連れて戻ります」




カル達が城塞都市ラプラスに戻ると、そこでは物々しい警備体制が取られていた。


城塞都市の警備隊の隊長が駆け寄るとカルに向かって今までの経緯を話し始めた。



「りょっ、領主様。よくぞご無事でした」


「何かあったんですか」


「それが昨日、酒蔵のある村に龍が降り立ったんです」


「龍は、暴れる事もなくドワーフのバレルという者とひと晩居た後に飛び立って行ったんですが、また来るかもしれないというので警備体制を強化しておりました」


カルは、その話を聞いて身に覚えがあった。恐らく国境の精霊の森にいる氷龍である。


恐らくお酒を飲んでしまったのでドワーフのバレルの元に買いに来たのだ。


「あっ、その龍は、僕の知り合いの氷龍です」


「領主様は、氷龍とお知り合いなのですか。昨日は、セスタール湖に水龍を放したと伺っております」


「ははは。セスタール湖には、2体の水龍を放しました。氷龍は、お酒好きでバレルさんの所にお酒を買いに来たんだと思います」


「お酒を買いにですか・・・氷龍が?」


「誰かケガとかしてないですよね」


「はい。目撃した兵士の話では、龍は暴れる事もなく両手に何かを持って空を飛んで行ったそうです」


「なら、今後は氷龍さんの事は、お酒を買いに来た大口のお客さんと考えてください」


「はあ・・・」


「警備本部には、僕から話をしておきますから通常の警備体制に戻しても問題ないです」


「わっ、分かりました」


警備隊の隊長は、何かしゃくぜんとしない表情ではあったが、龍と戦わずに済んだので安堵した表情へと変わっていた。


城壁の上で待機していた警備隊もすぐにその任を解かれていった。


城門から城塞都市に入ると緊急警備の任から解かれた兵士達が宿舎に戻るがてら道で話をしているがカルの耳にも入って来る。


元々カルの馬車は、普通の荷馬車なので警備隊の兵士も注意して見ない限り領主が乗っている馬車とは気が付かない。


「うちの領主って変だよな」


「そうだよな。この街って妖精が大勢暮らしているしな」


「トレントも普通に歩いてるよな」


「昨日、領主がセスタール湖に水龍を放したそうだ」


「その水龍の件でセスタール湖に向かうはずだった部隊が空を飛ぶ龍を発見したんで急遽、龍討伐部隊になりかけたって話だろ」


「もし龍と戦う羽目になったらこの城塞都市の全ての兵士を投入して勝てないよな」


「恐らく全滅するな」


「とりあえず龍と戦う事にならなくて本当によかったよ」


馬車の荷台で兵士達の話を聞いていたカルは、思わず苦笑いを浮かべていた。


考えてみれば、この城塞都市はどこか他の都市とは違うと思っていた。だが、兵士達の話を聞いてようやくそれが理解できた。


国境の精霊の森へと向った時、他の街の中にも妖精はいたがラプラス程ではなかった。ましてどの街でもトレントが街中にいるなど皆無だ。


この城塞都市は、他の都市とは全く異なる世界感を醸し出していたのだ。でも住民達はそれを普通に受け入れていた。


それを今になって理解できたカルだが、この後さらに大勢の精霊がやって来ることなどまだ知る由もなかった。

長年飼っているわんこのアンディくん(パピヨン)が2019年7月30日15:30に永眠しました。20年も生きてくれました。


今日、火葬にして遺骨を持って帰ってきました。とても小さな小さな骨でした。もろくて砕けそうな頭蓋骨を手で拾って骨壺に入れて来ました。


向こうの世界で元気に走り回っているかな。



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