表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
106/218

106話.ひとつの嵐が去り、次の嵐が来るまでの静かな出来事

精霊界は、瀕死の精霊界を救うべくこの世界に精霊を送り込みました。


カル達はというと、助けた水龍を湖に放すべくセスタール湖を目指します。


妖精からもらった蔦の種にほんの僅かしかない魔力を全て奪われてしまい意識を失ったカル。


魔力切れを起こして領主の館へと運ばれ、ラピリア酒(薬)を飲んでなんとか回復したもののまだふらつくため、ライラに精霊治癒魔法をかけてもらいなんとか元の体調へと復活できた。


だが馬車の荷台には、水龍の親子を水を張った大樽の中に入れたままにしてあった。


旅の帰路でも何度となく大樽の水を入れ替えて魚を与えながらラプラスまで戻ってきた。


そう、水龍も生きているため大樽の中で排泄をする。その都度大樽の水が汚れるのだ。


大樽の水もそう何度も変える事はできないので、一刻も早く湖に放さなければならない。


カル達は、城塞都市ラプラスに戻ったその日にセスタール湖へ向かう事にした。


領主の館の職員には、セスタール湖に水龍を放す事。湖を水龍の保護地域にする事を伝え、湖の周辺の村々に説明に行ってもらう様にお願いをした。


さらに城塞都市アグニⅡにある冒険者ギルドへ出向いてもらい、セスタール湖の水龍を狩りの対象外にしてもらう様に要請を行ってもらう。


この件について冒険者ギルドが聞く耳を持ってくれればよいがそうでない場合は、領主命令という強権を振るう事までカルは考えていた。




いつもおかしな事に巻き込んで申し訳ないという顔をしているカルに、領主の館の職員達は、嫌な顔も見せずに笑って対応してくれた。


それどころか馬車の大樽から顔を出す小さな水龍を見て大騒ぎする職員達。


普通の人達は、水龍など見た事はない。まして、氷龍など見たら卒倒すること請け合いだ。


領主の館の職員達は、諸々の準備があるため実際に動くのは明日以降になる。また、セスタール湖に放した水龍が冒険者達に狩られない様に警備隊にも出向いてもらう必要もある。


それにラピリア・トレントや妖精達にも助けてもらう・・・そう考えた時、カルの頭に守護妖精の言葉が思い浮かんだ。


”妖精の頭にしてやる”。


確かに守護妖精はそう言っていた。それは、単なる言葉の綾なのかそれとも妖精達の面倒を見るという事なのか。


はたまたカルが城塞都市ラプラスの領主である様に、それは妖精達の領主になるという事なのか。


あまり物事を深く考えないカルにとって難しすぎる問題であった。


とりあえずその件については、保留にしたまま馬車でセスタール湖を目指すカル達。




馬車は、街道をゆっくりとセスタール湖へと進む。


砂漠から吹く熱い風の中に時たま森や湖から吹いて来る心地よい風が混じる。


心地よい風に誘われたのかカルは、馬車の荷台でうとうとし始めた。馬車の揺れも眠りに一役買っていた。


そんなカルを見ていたメリルもいつの間にかカルと肩を並べて夢の世界へと足を踏み入れていた。


ゆっくりと街道を進む馬車。その街道を6人の男女が歩いていた。こんな場所を馬車にも乗らずに徒歩で移動というのはかなり珍しい光景である。


馬車の御者席に座るライラは、街道を歩いている6人に向かって笑顔で手を振る。


すると相手も笑顔を返しながら手を振り返す。


この光景は、よくある光景であった。だが、その微笑ましい光景に釘を刺す者がいた。


お猫サマは、馬車の幌の上に小さな天幕を張り、そこで昼寝を楽しんでいた。そんなお猫サマの昼寝を邪魔する鋭い感覚に襲われた。


その感覚は、とてつもない違和感である。この世界とは何かが違う違和感。殺気を故意に隠す様な違和感。自然に振舞おうとしているが自然に振舞いきれていない違和感。


お猫サマもなるべく自然に振舞いながらその違和感を観察していく。


馬車は、6人とすれ違うと徐々に遠ざかっていく。そして馬車からその6人が見えなくなった頃、猫サマは幌の上から皆のいる幌の中へ逆さまの状態になりながら話始める。


「さっきすれ違った連中にゃ。恐らく精霊の集団にゃ」


「えっ、精霊ですか。精霊の森の精霊とかのですか」


「違うにゃ。真ん中の3人は大した事ないにゃ。でも前の2人と最後の1人は、危にゃいにゃ」


「危ないって言いますと?」


「戦闘用精霊にゃ」


「戦闘用って戦いに特化したという感じでしょうか。城塞都市ラプラスを蔦で覆った守護妖精みたいな?」


「そうにゃ。お猫サマでも勝てるか分からないにゃ」


「そっ、そんなに強いんですか」


「戦うためにやって来た様な殺気は、感じなかったにゃ」


「またラプラスでもめ事が起こらなければよいのですが」


「そうにゃ。どこかに行く度に問題が起こるのはこりごりにゃ」


幌の上にいるお猫サマと馬車の御者席で馬の手綱を握るメリルの会話をよそに、カルとメリルは相変わらず馬車の荷台で夢の世界にいた。


カル達は、精霊の森の精霊達が精霊界への扉を開いた事をまだ知らない。


良くも悪くも精霊界との繋がりを持ってしまったこの世界は、お互いに依存度を深めていく事になる。


誰かがそう仕組んだのか或いは自然にそうなったのかは、今はまだ誰にも知る由もなかった。




馬車は、セスタール湖の湖畔へと到着した。


馬車の荷台に積んだ大樽から2体の水龍を抱き上げて湖へと放す。


最初は、新しい湖の水が慣れないのか恐る恐るといった感じで泳いでいた水龍だが、やはり親子でいるというのが良かったのか、徐々に水になれていっているようだ。


カル達が湖畔で水龍達を見ていると、目の前で2体の水龍が水面から飛び跳ねたりしている光景が実に微笑ましい。


しばらく水龍の楽しそうな光景を見ていると1体の水龍がカルの前へとやって来ると、以前にカルの前に現れた時と同じ人族の女性の姿へと変身していく。


「私達親子を助けていただきありがとうございます。今は、何も恩返しはできませんがいつか必ず」


人族の女性の姿になった水龍の母親は、そう言い残すと水龍の姿へと戻り広いセスタール湖へと姿を消した。


カルは、少しばかりの寂しさを覚えつついつまでも湖を眺めていた。




セスタール湖の湖畔もだいぶ暗くなり山の稜線に日が隠れる頃、メリルがカルに声をかける。


「そろそろ暗くなります。ラプラスまで馬車で移動するの危ないので、近くの精霊の森の作業場へ泊りましょう」


「そうですね。ラプラスに戻るのは明日にしましょう」


カルが立ち上がるとお猫サマが駄々をこねる。


「待つにゃ、もう少しだけ待つにゃ。魚が入れ食いにゃ」


カルが水龍を湖に放して感傷に浸っている隣りでお猫サマは、魚釣りに精を出していた。


お猫サマの横に置いてある桶の中を見ると魚が20匹ほど入っている。


「夜のご飯は焼き魚にゃ。お猫サマは10匹もあればいいにゃ。残りはカル達が食べるにゃ」


「お猫サマ。相変わらず魚釣りが上手いですね」


「そうにゃ。お猫サマの魚釣りは、精霊神界一にゃ」


その後、お猫サマの桶の中には、さらに魚が増えて25匹程にもなった。


馬車に荷台に積んであった大樽の水を入れ替えると、釣った魚を大樽に入れ替え精霊の森の作業場へと馬車でゆっくりと移動する。


既に周囲は暗くなり魔法ランタンの灯りで照らされた夜道を馬車がゆっくりと進む。


精霊の森の中にひっそりと立つ作業場の前に馬車を止め、馬小屋に馬を入れて水や飼葉を与える。


お猫サマは、魚を裁いて焼く準備を始める。


メリルとライラは、作業場の屋根裏部屋にあるベットの準備を始めた。


作業場の前で焚火で魚を焼く良い匂いが漂い始める。


テーブルには、買い置きのパンや味付き肉で作ったスープを並べ、いつもの様にラピリア酒の小樽を置く。


焼けた魚を食べながらお猫サマがラピリア酒を豪快に飲んでいく。


いつのまにか森の妖精達が集まりカル達の魚を勝手に焼きはじめたが、今日はお猫サマの釣りの成果が上場なので妖精達に食べられても問題はない。


カルが何気なく妖精達と戯れていると、妖精がどこからか持ち出したメモ紙に文字を書いてカルの目の前へと差し出した。


「えっ、妖精さん文字が書けるんだ凄い」


カルの驚きと誉め言葉に思わず胸を張る妖精。


「えーと。精霊様が精霊界への扉を召喚したので・・・精霊界から精霊が来ています」


「ふーん・・・。精霊界?それに扉って?」


妖精達は、メモ紙に今までの経緯を書いていく。


カルが国境の精霊の森へ行っている間にもいくつかの出来事があり、精霊の森の精霊が集まり精霊界への扉を召喚したという話らしい。


「へえ、その精霊界への扉というのがこの作業場の先にあるんだ」


カルは、椅子から立ち上がり魔法ランタンを手に馬車が置いてある作業場の奥を照らしてみる。すると確かに以前には無かった精霊の森の奥へと続く道が伸びていた。


「本当だ。知らない道が出来てる」


カルが戻り椅子に腰掛けるとお猫サマが馬車で移動中に見たという精霊の一団について話始めた。


「カルとメリルが馬車の荷台でうたた寝をしている時に精霊の一団がラプラスに向かって歩いていったにゃ」


「起こしてくれればよかったのに」


「もめ事にならない様に起さなかったにゃ」


「えー。今回の守護妖精さんの件だって僕が起こしたんじゃないのに」


「それでもにゃ。居るだけでもめ事になることもあるにゃ。精霊の護衛がお猫サマ以上に強いのが3霊もいたにゃ」


「・・・凄い」


「精霊界には、精霊神のお猫サマより強い精霊がいっぱいいるにゃ」


そんな会話を続けるカルとお猫サマの前に妖精がメモ書きをいくつか置いていく。


それを順に読んでいくカル。


「へえ。精霊界への扉が召喚されたので・・・扉の守護が決まった・・・らしいですよ」


「にゃ。今日、カルに敗れた守護妖精にゃ」


カルは、別なメモ書きを手に取り続けて声に出して読んでいく。


「えーと。精霊界への扉の守護は・・・お猫サマ・・・とあります」


「ふーん。お猫サマにゃ・・・どこの誰にゃ」


「いえいえ。お猫サマは、僕の目の前で妖精と焼き魚を奪い合いながら食べているあなたです」


「そうにゃお猫サマがお猫・・・にゃ、にゃ、にゃ」


さらに妖精が書きなぐったメモを読んでいく。


「精霊界への扉の守護に任命されたお猫サマは、下級精霊神から中級精霊神へ昇格だそうです。おめでとうございます」


「にゃ、にゃ、にゃんでにゃ。お猫サマは、下級精霊神にゃ。間違っても中級精霊神じゃないにゃ」


「でもそう書いてあります。詳細は、精霊界の扉が召喚されたので、精霊神界に戻った時にでも聞いて欲しいそうです」


「・・・困ったにゃ。実に困ったにゃ。下級神の方が気楽にゃ。力が無いから神として大した仕事はなかったにゃ」


「でも精霊界への扉の守護って大変な仕事なの・・・」


カルの前に妖精が書いたメモ書きが置かれた。


「えーと、暇な仕事って書いてありますね」


「違ううにゃ。仕事は暇にゃ。でも、文明の異なるふたつの世界が結ばれたにゃ。もめ事が起こらない方がおかしいにゃ」


お猫サマの顔が何故か血の気が引いているのか青白くなっていく。


「へえ、精霊界ってそんなに文明が進んでいるんですか」


「カルは、穀物の運搬にサラブ村とリガの街を結ぶゲート空間移送システムを使ってるにゃ」


「はい。そういえば以前に僕の大盾の奥に住んでいる精霊ホワイトローズさんに案内されて魔獣を作る大きな作業場を見せてもらった事がありました」


「精霊界は、カル達が生活しているこの世界とは全く違う世界にあるにゃ。そこと別の世界を結ぶというのは、並大抵の技術ではできないにゃ」


「そうなんですか」


いまいちピンと来ないカル。それに対してお猫サマは、誰にでも分かり易く説明を続ける。


「この世界と精霊界の文明の違いを年数で表すとざっくり1000年以上の開きがあるにゃ」


「せっ、1000年ですか」


「カルがバレルに作らせた短剣型の魔導砲もそうにゃ。あれを個々の兵士が持っていると考えたらどうにゃ」


「たっ、確かに」


「しかも精霊界では、魔導砲は古い技術にゃ。誰でも護身用に持てる武器にゃ」


カルは、バレルに警備隊に装備させる短剣型の魔導砲をいくつか作ってもらい、一部の警備隊に試験運用をお願いしていた。


恐らくこの世界では、バレルが作った短剣型の魔導砲が最大の攻撃武器である。だが精霊界では、それが護身用の武器だと聞かされたカル。


つまり精霊界が本気になれば、カルが住むこの世界などあっという間に蹂躙できるのだ。


「精霊界の武器ならこの大陸、いやこの星をも一撃で破壊できる武器もあるにゃ」


お猫サマの説明に何も言えなくなってしまったカル。


「だから精霊界への扉の守護は、双方の文明を守るために最大限の努力をする必要があるにゃ」


お猫サマの説明にカルの顔色までも青くなる。


「あまり難しく考えると胃が痛くなるだけにゃ。明日になったらその扉をみんなで見にいくにゃ」


「はい。精霊界とこの世界が仲良くできる様に僕も領主として頑張ります」


「その意気にゃ」


カルとお猫サマ。それに妖精達が筆談で加わわった雑談?は、夜遅くまで続く事になった。


精霊界は、必死になって精霊界を救う何かを探しています。


ですがカルもお猫サマも緊張感半分、気楽さ半分で事を進めるつもりでいるようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ