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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第4章》ふたつの世界。繋がる世界。
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105話.精霊界(2)

精霊界から精霊達が扉を通ってカル達の住む世界にやって来ます。


精霊女王の命により扉をくぐり精霊界から複数の精霊がカル達の住む世界へとやってきた。


閉じられていた白い扉が静かに開くとその中からまず精霊が3霊現れる。


静かにゆっくりと周囲を警戒しながら辺りの気配に気を配っていく。


扉の上枠には、数体の妖精達が座りラピリアの実を食べながら扉から出て来た精霊達に手を振っている。


精霊達も妖精達に手を振りながら周囲の警戒を続ける。


扉の両脇には、ラピリアの木とその枝には妖精達がたむろしていた。


「問題ないようです。現地の魔獣の姿もな・・・いや魔獣の反応があります」


「扉の両脇の木から魔獣の反応です。警戒を!」


3霊は、腰から短剣の様なものを抜くと扉の両脇に立つ木に向かってその短剣を構える。


短剣には、ドワーフのバレルが造った短剣型の魔導砲に刻まれた魔法陣と魔法回路によく似たものが刻印されていた。


「いや、妖精達が魔獣ではないと言っているぞ」


扉から出て来た精霊達に対して妖精達は、身振り手振りでこの木は魔獣ではないと必死にアピールを繰り返している。


「確かに。魔獣の反応はあるが一向に襲ってこないな」


すると、扉の両側に茂る木の枝が上がり挨拶をするかの様な仕草を始める。


「へえ。この世界には、おもしろい魔獣がいるのね」


「とりあえず衛星軌道上の探査機からの情報を取得するぞ。しかし、1000年以上も前の探査機なんて古くて使えなんじゃないか」


「恐らく寿命で動いてないでしょうね」


精霊達は、目の前に現れた硝子の様なプレートを操作しながら探査機へのアクセスを試みる。


「データリンク完了。うへえ、恐ろしく古い探査システムだな。だが動いているぞ」


硝子の様なプレートに表示された情報を覗き込む精霊達。


「あっ、本当だ。でも13機中4機が稼働中とは驚いた。だが9機が故障か行方不明だがよくがんばったな」


探査機のシステムにアクセスしながら最近になって記録されたデータから検索していく。そこには、この惑星での精霊の森の位置や精霊の居場所。さらに精霊の森の規模の履歴や害を及ぼす魔獣の位置まで網羅されている。


「ありました。この木は、ラピリア・トレントと言って無害な魔獣で・・・うそ・・・」


「どうした」


「あっ、いえ、この魔獣を作ったのは・・・精霊です。その精霊の名前が分かりました」


「誰だ。我々が知っている名前なのか」


「精霊ホワイトローズ様です」


「・・・うそだろ。先代の精霊女王候補になったお方がなんでこんな文明の遅れた世界にいるんだ」


「さあ、ただホワイトローズ様は、探査機の情報によると世界のどの地上にもおりません・・・稀に現れる様ですが、情報にプロテクトがかかっているようでそれ以上は不明です」


「そうか。縁があれば会えるかもな。いずれ所在を探してご挨拶に上がらないとな」


「「はい」」




精霊達は、扉を開けるとその向こう側から新たな精霊を迎え入れた。


その扉の隙間から見えるのは、武装した数百もの精霊の姿だ。


最悪の状況を想定した精霊界では、扉からこちらの世界の魔獣や原住民が雪崩れ込んで来ない様にと、扉の向こう側では厳戒態勢を敷いていた。


「こちらの状況は問題ないです。魔獣もいないようです」


「本当に大丈夫なんでしょうね。いきなり魔獣や原住民に襲われたりしないですよね」


「大丈夫ですよ。文明レベルは我々よりもかなり遅れていますが・・・」


護衛の精霊は、扉から入ってきた精霊の耳元に向かって小さな声でささやく。


「この世界に先代の精霊女王候補になったホワイトローズ様がいらっしゃいます」


「うそ。あのお方は、行方不明になったと聞かされてます」


「ですが衛星軌道上の探査機のシステムに僅かですが記録が残っていますので間違いないです」


「この世界の調査。しっかりやった方がいいかもね」


「とりあえず精霊の森の精霊の居場所は把握済みです。今回は、そこに転移せずに地上を移動しながらこの世界の状況を把握していきます」


精霊達は、精霊界への扉の枠の上で相変わらずラピリアの実を食べている妖精達に手を振りながら、道なりに森の中を進み始めた。


森の中を行く道を進むと広い街道へ出る事ができた。視界には、巨大な湖がひろがり、周囲には原住民の村や畑らしきものも散見された。


「へえ、何か住み易そうな世界ね」


「この精霊の森は凄いですよ。4つの精霊の森が連なっていて精霊のレベルも100を越えています」


「まさか4つの森の精霊全てが?」


「はい。通常の精霊の森の精霊ならレベル20前後です。レベル50にもなれば精霊の森でも最上位ですから」


「いったいどうやったらそんなレベルになるんだ」


「やはり例のあれですかね」


「そうとしか考えられません」


あれとは、カルが植えたラピリアの木の実から作ったラピリア酒(薬)のことだ。精霊の森の精霊が精霊界にほんの僅かだが持ち込み、それを研究所が総力をあげて分析を行っている最中である。


硝子の様なプレートには、目的地である精霊の森とその森の精霊の位置が記されている。


「この街道を行けば精霊が住む森へ行けるようです」


「山を登ったり、谷間を行ったり魔獣と戦ったりとか想像してたけど、意外と安全な世界みたいね」


「はい。なんだか拍子抜けしました」


「まだ、この世界がどんなものか分からん。気をゆるめるなよ」


精霊界からこの世界にやって来た精霊達。その精霊達の構成は、審議官1人、研究員2人、護衛が3人である。


今回、この地を訪れた目的は、精霊の森の精霊に精霊女王の命を伝える事。


それと、精霊界への扉を召喚した精霊が持ち込んだラピリア酒(薬)の材料になった果実を採取して精霊界へと持ち帰ることである。


だが、そのラピリアの実は、扉の上にいた妖精達が食べていたものであり、扉の両側にいたラピリア・トレントの枝にもいくつも成っていたのだが、それを知らずに精霊達は、精霊の森を目指す事になった。


実は、精霊達が探査機から集めたデータの中には、なぜかラピリアの実のデータがひとつも記録されていなかった。


それは、単に探査機の故障によるものなのか、収集されたデータを誰かが改ざんしたのか・・・。





精霊達一向は、街道をゆっくりと精霊の森の精霊がいる場所へ向かって歩いてゆく。


荷物を積んだ馬車が街道を行きかい、その度に馬車の御者が手を振って挨拶をして来る。


最初、それが何の事か理解できなかった精霊達であったが、原住民の挨拶ではないかと察した精霊が手を振り返すと向こうも笑顔を返す様を見て思わずうれしくなり、馬車が通る度に精霊達から進んで手を振るようになっていた。


いくつかの馬車が通り過ぎた頃、そこにある馬車がやって来た。


馬車の幌の上に小さな天幕を張り原住民と思しき獣人が昼寝をしているのだ。その馬車も御者の少女が手を振って来たので精霊達が皆で手を振り返す。


馬車は先ほど見えた湖の方向へと進んで行く。


「今の馬車。気が付きましたか」


「ああ、幌の上にいたのは精霊神様だな」


「はい。それにあの馬車の中から僅かですがホワイトローズ様の反応がありました」


「本当か!」


「実は、この辺りにホワイトローズ様がいらっしゃるのではないですか」


「そうだな。あの精霊界への扉の守護も精霊神様が就任されると聞いている。もしかしたらさっきの精霊神様がそうなのかもな」




さらに精霊達一向が街道をゆっくりと歩いてゆくと、精霊のひとりが何かを感じたのかしきりに硝子の様なパネルを見ながら周囲の状況を確認していく。


「どうした」


「はい。精霊が持ち込んだ薬の成分と同様のものが空気中を漂っています。それもかなり濃いです」


街道から外れて小さな丘の上へとやって来た精霊。


そこには、大きな木造の建物が立っていて、その中から薬と同じ成分が発っせられていた。


「あそこで薬を作っているようです。しかも量が凄いです。これだけの量があったら・・・」


「あったら・・・なんだ」


「精霊界を救える可能性があります」


「ほっ、本当なのか!」


「はい」


そんな話の中、精霊が硝子の様なパネルに表示されたある反応をしきりに確認を繰り返しながら驚きを隠しきれずにいた。


「おいおいおい。まずい。まずい生物がいる」


思わず大声を出した精霊が体制を低くして身構える。それを見た他の精霊達も同じ様に体制を低くすると丘の下へと身を隠す。


「なんだ。何がいるというのだ」


「あれです。あの建物の陰に隠れているのが見えますか・・・ほら、尻尾と羽が見えるあれです」


精霊達は、その建物の陰から見え隠れする羽と尻尾をみて味わった事のない恐怖を覚えてしまう。


「おいおいおい。あれってまさか・・・」


「なんで・・・なんで龍がこんな所にいるんだ」


精霊達は、丘から少しずつ移動しながら龍の全身の姿が見える場所へと移動をしていく。


するととんでもない光景が精霊達の前に広がっていた。


「なんだありゃ」


「龍があの薬を飲んでいるぞ」


「対面に原住民もいます。それに・・・龍の体のあちこちに妖精達が群がって一緒に薬を飲んでいます」


「そういえば、精霊が言っていた。あれは薬でもありお酒でもあると」


「つまりあれか。この世界の原住民は、龍と対面で酒を飲む習慣があるのか」


「「「・・・この世界の原住民は・・・頭がおかしいのか!」」」


精霊達の声は、思わず変に裏返ってしまう。


精霊界にも龍は存在するが、龍は神に準ずる生命体として敬われている。なのにこの世界では、その龍と酒を飲む習慣があると・・・そう信じてしまった精霊達。


皆さんは、お気づきだと思うが酒好きの氷龍が酒を仕入れがてらドワーフのバレルの家に来ていたのだ。そして氷龍は、酒好きのドワーフのバレルと酒盛りを始めてしまったという”あきれた光景”を見ただけなのだ。


「我らは、とんでもない世界に来てしまったのかもしれない」


「あの凶暴な龍が原住民と酒を酌み交わすなど・・・」


「この話を精霊界でしても誰も信じないぞ」


「ああ。映像は撮ってある。撮ってあるが・・・お蔵入りになるな」


「国家機密扱い・・・だな」


精霊達は、青い顔をしながら丘を降りると街道を足早に精霊の森へと向かっていく。


この世界は、精霊達が移住したどの世界とも違う。どんな世界にも龍や龍に近い生命体は存在する。だが、その生命体と共存共栄する生物は稀なのだ。


精霊達は、街道に戻ると精霊の森へ向かって再び歩き出した。


だが、精霊達のチームの中にいるふたりの研究員のうちのひとりの足取りがだんだんと重くなっていく。


そして突然、研究員としてこのチームに参加しているニアという女性の精霊がとんでもない事を言い始めた。


「私・・・この世界に残る」


ニアという研究員が突然口走った事に思わず動揺する精霊達。


「おいおい。何を口走っている。この世界に来てまだ何も見ていないのと変わらないんだぞ」


「そうだ。どんな危険があるかも分からないんだ」


「貴方達もあの龍を見たでしょ。絶対にこの世界はおかしい。だから研究してみたいのよ」


「分かった。だが、今は俺達の任務が先だ。精霊界に戻ったら所長に俺からも進言する。だから少し待ってくれ」


「ごめん。いきなりわがままを言ったりして。でもね、周りを見て。お酒で酔っぱらった妖精達があちこちで寝てるのよ。この光景のどこに危険があるって言うの」


「おっ、俺もそう思う。ちょっと混乱してるんだが、目の前を赤い顔をして飛んでいく妖精達も酔っているんだよな」


「そうね。明らかに酔っているわ」


チームにいるもうひとりの研究員が彼女をなだめたおかげで、なんとかチームが分裂する事を避けられた。


だが、この世界に来てまだほんの少しだ。それでこの状況である。


精霊達の周囲には、数十体もの酔い潰れた妖精達が街道の脇で酔い潰れていた。


時より馬車が来ると道の真ん中で酔って寝ている妖精達が、なぜか器用に街道脇へと移動していく。


精霊界ですら見た事のない景色が広がる不思議な世界。先が思いやられるとこのチームのリーダーである審査官は、その光景を見ては頭を痛めていた。




しばらく街道を行くと空を1体の龍が先ほど龍がいた場所に向かって飛んで行くのが精霊達の目にとまった。


「この世界は、生息している龍の数が多いのかしら」


「いえ、そんなはずはないです。探査機のデータでは、むしろ他の世界よりも少ないくらいですね。ですが、我々がこの世界に来て間もないのに既に2体の龍を目撃していますので、もしかしたら、この地域特有なのかもしれません」


「実は、あのお酒が飲みたくて集まって来ているとかないよな」


「そんなはず・・・いや、あるかも。実は、あの薬を研究所で一滴だけ舐めてみたの」


「おいおい。大丈夫なのか」


「美味しかった。すごく美味しかったの」


「本当なのか」


「あんなお酒。精霊界にはないの。でもこの世界の精霊の森の精霊は、毎日の様に飲んでるって記録にあった」


”ゴクリ”。


精霊達の喉からそんな音が聞こえてくる。


「とっ、とにかく先を急ごう。既に日が傾きだしている。遅くなると精霊の森に入るのが夜になるぞ」


日が陰り出した頃、城塞都市の城壁が見え始めその脇を通る街道を歩く精霊達。


城壁の反対側には精霊の森の木々が生い茂る。


街道から精霊の森へと入る脇道を進むとほどなくして精霊の森の精霊の木の前へとやって来た精霊達。


だが、精霊の木の前にある池の周囲には、数百もの妖精や森に住む魔獣達が待ち構えていた。


その中央に精霊の森の精霊が立ち、皆を待ち侘びている様であった。


「よく来たの。妖精達がお客さんが来たって教えてくれたの」


「精霊女王様が大切なお話があるといので再度起こし下さいのとこです」


「分かったの。でもこんな僻地によく来たの」


「実は、精霊がお持ちになったあの薬を分析したところ、500年前に最後の実を付けた精霊樹の実の成分にとても近いものだという事が分かったんです」


「そっ、そうなの!」


「はい。ですのであの薬の実を持ち帰って詳しく調べたいんです。もしかすると瀕死の精霊界を救える可能性を秘めた実かもしれません」


「分かったの。ドリアード達。精霊達をラピリアの木の所に案内してあげて」


精霊の言葉にドリアード達が精霊界から来た精霊達をやさしく案内していく。


ドリアード達が案内をした先には、ラピリアの木がいくつも生い茂り黄色いラピリアの実が何百と成っていた。


さらにそこには、百を超える妖精達が思い思いにその実を食べていて、妖精達がその実を取るそばから実を成らせていく。


「すごい数。それに取ったそばから実が成っていく」


「こんな生命力に溢れた木々を見た事がない」


精霊達をこの場所に案内したドリアード達は、ラピリアの木々からラピリアの実を取ってくると精霊達にその実を手渡していく。




ラピリアの実の採取を終えた精霊達が精霊の木の前へと戻ると、精霊の木の精霊が歌を披露しそれに合わせて妖精達や森に住む魔獣達が踊りを披露する。


その光景は、精霊界でも久しく見られなかった光景であった。


「私、この世界が大好き。やっぱりこの世界の研究をしたい」


「俺もそう思った。こんな楽しそうな世界があるなんて信じられない」


「なんだか、俺達の住む精霊界では忘れられたものがこの世界には存在するのかもな」


精霊界から来た精霊達は、夜遅くまで精霊の森の宴に参加し美酒に酔いしれながら沢山のラピリアの実を手に精霊界へと帰っていった。


精霊界から来た精霊達を魅了した世界で作られたラピリアの実は、精霊界へ渡りました。


果たしてその実は、精霊界を救う救世主となるのでしょうか。


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