102話.精霊界への扉と守護妖精
城塞都市ラプラスの精霊の森へとたどり着いた国境の森の精霊。
他の森の精霊と共に精霊界への扉を召喚する事になります。
妖精達に付き添われて国境の精霊の森の精霊は、城塞都市ラプラスの精霊の森へとやって来た。
妖精達が祈りを捧げたことにより妖精の秘術が発動し、ラピリアの木が精霊の森を繋ぐゲートへ姿を変えたのだ。
自身の精霊の力とは異なる波動が満ち溢れる森。だが、それと同時にカルが飲ませてくれた薬から感じらた波動も満ち溢れる森。
この森もあのカルという人族の子供が手を貸したことで成長した森だと精霊は実感できた。
精霊は、妖精達と一緒に森の中を歩いていく。すると自身の姿にそっくりな精霊が目の前に現れた。
「あなたは精霊なの?」
「別の場所にある精霊の森からやって来た精霊の森の精霊なの」
「どうやって来たの」
「金色に光るラピリアの木の力を利用したの」
「それはすごいの」
2精霊は、お互いの精霊の森について話を続けた。
その話の中でこの精霊の森以外の精霊と会う事になり5精霊が揃う珍しい機会に恵まることになった。
5精霊の会話ははずみ、いろいろな話をしてく最中に国境の森の精霊は、古い精霊界の話を思い出していた。
それは、精霊の森の精霊が5精霊集まれば、精霊界への扉を召喚できるというもの。
この世界で精霊の森の精霊がこれほど集まることはなかった。ならば、物は試しとその精霊界への扉を召喚してみようと話は盛り上がり、儀式を行う場所選びを始める事になった。
セスタール湖と街道を挟んで砂漠側に位置する精霊の森。
この精霊の森と各城塞都市に隣接する精霊の森は、日々拡大を続けていて4つの精霊の森は、境界が分からない程に混ざりあい既にひとつの森と言える規模にまで成長していた。
精霊の森の精霊は、本来であればその森から出る事はできない。森を出ると精霊としての力と生命力が弱まり最後には精霊という形を維持できなくなる。
だが、何にも例外はある。精霊の森の中であれば、他の精霊の森の精霊が管轄する森であっても自由に行き来ができるのだ。
そのため、城塞都市ラプラスの精霊の森、セスタール湖の精霊の森、城塞都市アグニⅡ、アグニⅠの精霊の森の精霊は、この4つの精霊の森の中で自由に往来を繰り返していた。
そこに妖精達が金色に光るラピリアの木を誕生させた事で、4つの精霊の森とは別の場所に存在する国境の精霊の森も繋がったのだ。
古の精霊界の話では、精霊の森の精霊が5霊集まると精霊界への扉を召喚する事ができる。
だが、精霊の森が5つも繋がる事は滅多にないため精霊界への扉が召喚される事は非常に稀であった。
そしてその精霊の森の精霊が今まさに5精霊も揃ってしまった。
揃ってしまえばやらない手はないと精霊達は、精霊界への扉を召喚する候補地を選び扉の召喚を行う事になった。
精霊界への扉を召喚するには、それ相応の精霊の力が必要である。それは、カルが精霊に与えたラピリア酒(薬)とライラの精霊治癒魔法により最大限に蓄積され発揮されていた。
もし召喚の儀式の最中に精霊の力が枯渇するような事があっても、カルから渡されていた小瓶に入ったラピリア酒(薬)によりいくらでも補給ができる。
精霊達は、ためらわずにその力を発揮する事を選んだ。
精霊の森の精霊達は、精霊界への扉をセスタール湖近くの精霊の森の中に設置することにした。
「ここに精霊界への扉を作るの。だから場所を開けて欲しいの」
精霊の森の精霊は、木々に向かって場所を開ける様にお願いをする。すると木々は、自らの根を地面から引き抜き他の場所に根を張りはじめる。
精霊の森の中に草木の生えていない広場があっという間に誕生した。さらにその広場から街道へ抜ける馬車が通れる程の道が木々により作られていく。
城塞都市ラプラスの精霊の森、セスタール湖の精霊の森、城塞都市アグニⅡの精霊の森、城塞都市アグニⅠの精霊の森、そして国境の精霊の森の5精霊が並び精霊界への扉を召喚すべく詠唱を始める。
不思議な事に、精霊界への扉を召喚した事などないはずなのに、いざ精霊界への扉の召喚を行うと考えた瞬間、不思議な事に精霊の頭の中にその召喚の呪文が湧いてくるのだ。
「古の盟約に従い、我ら精霊界への扉を召喚する者なり。我ら5精霊は精霊界への扉を欲する者なり。精霊界とこの世界を結びひとつの世界に。我らは精霊界とこの世界をひとつの世界へと導く者なり」
しばらくすると小さな光の玉が現れ、幾度か明滅すると白い両開きの扉が現れた。扉は、宮殿にある様な高さと幅のある扉で表面には装飾はない実に質素な扉であった。
”パラパラッパラー”。
何処からともなくファンファーレが鳴る。
「おめでとうございます。精霊界への扉が開かれました」
この場所には、森の精霊以外いないはずなのに精霊界への扉が召喚された事を告げる声が響き渡った。
精霊達は、皆で手を取り合って喜び合う。意外と簡単に出来てしまった事に多少の驚きはあるが、出来でしまったのだから嬉しさが何度もこみ上げて来る。
精霊達は、白い大きな扉をそっと開けてみる。すると開け放たれた扉の先には、懐かしい精霊の世界が広がっていた。
精霊のうち3精霊は、つい最近になって妖精から精霊になったばかりだが、妖精も元は精霊界の住人である。妖精としてこの世界に来る前にいた世界をもう一度見る事ができるのだから感動で胸が溢れていた。
精霊達は、扉の向こう側へと進むとゆっくりと扉を閉める。
これから精霊達は、精霊界の女王へ扉を召喚できた事を報告に向かう。
以外とあっさりと精霊界への扉が開かれたが、その光景をじっと見ていた者がいた。それは、城塞都市ラプラスの精霊の森に生まれたばかりの守護妖精である。
精霊界への扉が開かれた際、その扉の守護が置かれる事になっている。
扉の守護は、その森の守護妖精が着任する事例が多い。稀に中級精霊神が着任する事もあるがそもそも精霊界への扉が開かれる事が少ないため、結局のところどちらが精霊界への扉の守護になるかは、上級精霊神のみが知るところだ。
この精霊の森の守護妖精として生まれたその妖精は、自身がこの森に生まれた時期から見て己が精霊界への扉の守護に任命されることを疑わなかった。
4つの精霊の森には、守護妖精はひとりしかいない。ならばそう考えるのが普通であり疑いの余地のない話であった。
次の日。
精霊の森の精霊から各森の妖精達に精霊界への扉が開かれた事が告げられ、妖精達は皆歓喜の声を上げた。
精霊も妖精もこれで自由に精霊界へ行き来が出来るのだから喜ばない者などいるはずもない。
そして、その場で精霊界への扉の守護者についての発表がなされた。
扉の守護者は、精霊界でも重要職である。選ばれた者は、それを理解して職務に励まなければならない。
守護妖精は、自身が任命されるものだと疑わず精霊の前へと一歩踏み出した。だが、その時に呼ばれた名は耳を疑うものであった。
「精霊界への扉の守護者は、中級精霊神”お猫サマ”なの」
守護精霊は、耳を疑った。あんないい加減な下級精霊神が精霊界への扉の守護者だと。
「そんなはずはない」
守護精霊は、怒りの感情がこもった言葉を吐き出した。
しかもあの精霊神は、下級神だ。精霊界への扉の守護を神が行う場合は、中級精霊神以上が任命されるもの。なのに下級精霊神が・・・つまりあれか、この件であの下級精霊神は中級精霊神に昇神したのか。
「ゆるさない」
私であれば、あんな弱い下級精霊神など簡単に倒せる。そうだ、それを皆の前で証明しようでないか。そすれば、私が代わりに精霊界の扉の守護者になれる。
それに、あのカルとかいう弱々しい領主が森の精霊に何か言ったのだ。精霊はあのカルとかいう人族の小僧にやたらと甘い。あの小僧が裏から手を回したに違いない。
守護精霊は、カル達が他の精霊の森の精霊を助けに行くと言って城塞都市から旅立つと空からずっと後を追った。あのカルとかいう領主がどういった戦い方をするのか観察するためだ。
まずは、カルに対してどう攻めるか。
「この城塞都市の領主である小僧は、大盾に住む魔人さえどうにかすればよい。いっそのこと妖精達に大盾を盗ませてもいい」
次にメリルとライラだ。
「メリルは、石化の術を使うが近づかなければ問題ない。ライラは、精霊治癒魔法使いだから戦いでは話にならん」
カルとの戦いで一番の脅威になるのは残りのふたりだ。
「下級精霊神は、あの爪さえ気を付ければ問題はないが、下級とはいえ精霊神だから何か隠し技を持っている可能性も捨てきれない。問題は、やはりあの裁定の木の精霊か。あれをどう攻略したものか」
実は、カルの後を追ってカル達の戦いぶりをつぶさに観察した守護精霊だが、あの旅でカルの全てを見ていた訳ではなかった。
さらに妖精の記憶からカルが使う武具や魔人の全てを知りえてはいなかった。守護妖精は、旅の目的である精霊の森へ到着するまでしたカル達を観察していなかったのだ。
カルには、魔法を使う書の魔人。エルフの森で授かった鎚の魔人。守護精霊が去った後に親しくなった酒好きの氷龍がいることを。さらに、お猫サマのところに召喚された”神獣なめくじ精霊”の事も知らない。
カルの所には、何気に凄まじい者達が大勢集まっていた。あまりにもおかしな者ばかりで頭が変になりそうな連中ばかりである。
そんな事も知らずにカル達の帰りを不敵な笑みを浮かべて待つ守護精霊。
そしてカル達が旅から戻って来た。カル達を乗せた馬車がゆっくりと城塞都市ラプラスへと向かう。
守護妖精は、カルに一騎打ちを仕掛けたのちに配下の妖精達にカルを捕らえさせて自由を奪うつもりでいた。
一騎打ちであれば、裁定の木の精霊も下級神も関係ない。やつがその話に乗ってさえくれれば、簡単に捕らえることができる。
守護精霊の不敵な笑みは、さらに深みを増していく。
同じ精霊の森の守護妖精でも妖精によってかなり性格が違うようです。