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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第1章》 僕は、おかざり領主になりました。
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10話.領主になった日の喜劇(3)

今回は、別な意味で痛い話です。2日連続でごめんなさい。

カルは、ケガも治り次の日には城塞都市の街中を歩いていた。


都市の南側にある商店街へとやってきたカルは、今度こそ露店で売っている美味しそうな食べ物にありつこうと、目を輝かせていた。


でも、剣爺から言われた様に絶えず警戒は怠らないようにしていた。とはいえ、昨日の今日で何かが劇的に変わる訳でもなく、剣士でもないカルに周囲の状況や殺気を読み取る力などあるはすもない。


結局、目をきょろきょろさせる挙動不審な者が歩いているといった感じにしか見えなかった。それでも、目の前の美味しそうな食べ物に目移りし、いつしか剣爺の話も忘れて串焼きを両手に持って食べ歩きをしていた。


そんな折、カルの様子をうかがう者達がいた。


「分隊長。あいつです。この手配書にあるやつです」


「確かに似顔絵と同じ顔だな。よくやった。あとでエールをおごるぞ」


「しかし、あんなガキが何をしたって言うんだ。こんな手配書が各部署に緊急で送られて来るなんて今までになかったのに」


「そうですよね。ガキのくせによほどの罪人なんでしょう」


兵士達は、お互いに目配せをしハンドサインでカルに気が付かれない様に遠巻きに周囲を包囲した。商店街の路地や露店の陰にも兵士が配置され、いつでもカルを取り押さえられるよう準備が進んでいった。


それを察知した店も露天商も一斉に店を閉め、住民も一斉に商店街の通りからいなくなった。


何も知らずに両手にたくさんの食べ物を抱えて喜んでいたカルは、突然と誰ひとりとしていなくなった商店街の通りで孤立状態となっていた。


「あっ、あれ。どうしていきなり店が閉まったんだろう。買い物をして人達もいなくなったし・・・・・・」


辺りを見回すカルの目に剣と盾を持った兵士達の姿がちらほらと目に入った。商店街の建物の2階からは、住民達が窓越しにカルを見ている様子もうかがえた。


「もっ、もしかして僕がまた狙われてるの。昨日とまた同じことが繰り返されるの?なんで?」


カルは、慌てて腰にぶら下げた小さな鞄に買った食べ物を詰め込むと、背中に担いだ大盾を構えると閉まった店を背にして防御態勢をとった。


「おい、そこのお前。既に包囲されているぞ。大人しく逮捕されれば、我々も手荒な真似はせん。速やかに剣と盾を置いて地面に腹ばいになれ。もし、抵抗すれな容赦なく切り捨てる」


数人の兵士が剣と盾を構え、通りに出てくるとカルに向かって警告を発した。


いやいや、昨日はいきなり頭を殴られて気が付いたら椅子に座らされて散々殴られたんだ。今日だって捕まった瞬間に殴られて、その後も椅子に座らされて殴られるに決まってる。


カルは、昨日の出来事がトラウマになってしまったのだ。


なんで僕を捕まえようとするのか分からないけど、絶対につかまらない。


カルも最初から戦う気でいた。あんな痛い思いをするのは二度とご免なのだ。


カルは、剣こそ構えなかったが、”コンコンコン”と大盾の内側を3度たたいた。この合図で盾の魔人さんが目覚めて盾の表面へと出て来てくれることになっていた。


カルが構える大盾に不気味な大きな”くち”が現れると、剣や盾を構えた兵士達からどよめきが起こった。


「なんだあれは」


「まさか、魔獣が取り付いた武具か」


「まずい。あんなものが街中で暴れたら住民達に被害が及ぶ」


「分隊長。弓隊と魔術師が来ました。いつでも攻撃ができます」


「よし、魔術師は、やつを捕らえられる様にスタン効果のある雷魔法を放て」


「弓兵は、魔術師が魔法を放つまでけん制しろ。捕らえるのが目的だ。決して致命傷を与えるな」


分隊長の命令が下ると、魔術師達が魔法の詠唱を始め、弓兵はカルに向かって矢を射始めた。


カルは必至に矢を大盾で防いでいた。


魔術師達も魔法の詠唱が終わると次々に雷魔法を放った。カルに向かって複数の雷撃が飛びカルの周囲の地面を黒く焦がした。


「おい、嘘だろ。雷魔法が効かないのか」


カルは相変わらず大盾を構えて立っていた。なぜだか分からないが大盾を構えている時は、魔法が全く効かない。


「どっ、どうしよう。そうだ!金の糸、金の糸、伸びろ金の糸!」


カルにしか見えない金の糸は、商店街の北と南を方位する兵士達の足元へと延びると体を伝って剣や盾や鎧や兜へと絡まっていく。


すると一瞬で剣も盾も鎧も兜をも金の糸が吸収してしまった。武具を一瞬で奪い取られた兵士達は、呆気に取られながらも騒ぎ出した。


「おい、あのガキ。おかしな術を使うぞ。武具が一瞬でなくなった。いったいどんな魔法なんだ」


「さがれ。さがるんだ。おかしな魔法を使うぞ。皆さがるんだ」


「魔法もきかん。矢もきかん。武具は、おかしな魔法で取られちまう。どうすりゃいいんだ」


「くそ。誰か本部に行って応援を呼んで来い」


兵士達は、少しずつ下がり始め防御態勢を取り出した。カルを逃がすまいと商店街の両側には大盾を構えた兵士達が立ち並ぶ。


商店街の二階の屋根の上には数人の弓兵が陣取り、絶え間なくカルに矢を放っていた。


しばらくは、膠着状態となっていたが、商店街の通りから大勢の走る足音が聞こえてきたことでカルにも増援の兵士がやって来たのだと理解できた。


「どうしたらいいんだ。こうなったらあの囲いを突破してこの街から出て行こうか。領主になったのに毎日こんな酷い目にあわされるなら、領主なんて辞めて家に帰ろうかな・・・・・・もうこんな街はまっぴらだ」


カルは、お飾りでも領主になって少しご満悦だった。前払いで領主の職に見合うだけの見た事もない枚数の金貨を手渡されていた。しかも、この街で一番偉いのだ。そう思っていたのに現実は、大勢の兵士に取り囲まれる有り様だ。


「お前達、ここで何をしている!」


大きくよく通る声が商店街に響いた。それは、ルルと行動を共にしている鬼人族のリオの声だった。


「これはリオ様。現在、手配書にありました手配犯を発見し、その者を拘束すべく全力で対応しているところです」


「ほう、その者の手配書とやらを見せてくれ」


「これです」




"Infomation" 訂正 → 手配書


本日よりカル・ヒューイが新しい領主に就任いたしました。


関係各所においては、粗相のないようにくれぐれもご注意願います。


※昨日、新領主のカル様を誤認逮捕し、暴力行為に及んだ者がおります。


くれぐれもこのような事が二度と起こらぬ様に最大限の注意をいたしたく。


別紙に新領主であるカル様の似顔絵を添付いたします。


城塞都市ラプラス行政総務部。




「・・・・・・」


リオは絶句した。そして頭を抱えてしまった。これは、カルが新領主になった事を関係各所に通達した書類だ。


だが"Infomation"と書かれた脇に訂正と追記され"手配書"と書かれている。


どこかで誰かが書類に訂正を入れたのだ。だが、文章を読めば、これが手配書ではないことくらい誰も分かるはずである。


「あの・・・・・・俺、字が読めないんです。それに部下の話では、今朝、手配犯のリストの上にこの紙が置いてあったと」


また、またやらかしたのか。どうしたらいいのだ。なんてルル様に謝罪すればよいのだ。この書類を急遽手配し関係各所に送る様に部下に指示を出したのは”私”ではないか。


それがどこで間違ったのか誰かが勝手に手配書に訂正を施したのだ。


「・・・・・・分かった。あとは私がやる。お前達は待機だ。誰も手を出すな!」


「「「「はっ!」」」」


リオは、兵士達の囲いを解くと、カルの元へと歩み出て頭を下げた。


「カル様。申し訳ありません。カル様が新領主となったことを関係各所に通達する書類を誰かが誤って手配書と誤記してしまいました。その書類を見た彼らがカル様を手配犯と勘違いしたのです。彼らは職務に忠実なだけです。誤った書類を送った部下達を責める訳にもいきません」


「どうかこの通りです。申し訳ありません」


リオはその場に、座ると頭を地面にこすりつけた。


「・・・・・・」


「頭を上げてください」


「でも、僕は・・・・・・、領主なんてもういいや。また村に戻って畑を耕します。こんな事が毎日起こるなんて、こんな狂った街の領主なんてもうこりごりです」


カルは、そういうとひとり兵士達の囲いから出て行ってしまった。リオは、去っていくカルの後ろ姿をただ見送るしかない。


リオは慌てて領主の館に戻ると、今回の騒動の顛末を副領主のルルに隠すことなく報告した。


ルルは、慌てた。もし、ここでカルがいなくなればルルが領主となる事がでる。だが、それは、目先のことしか見ていない者の考えだ。


もし、カルを手元においておけば、他の城塞都市も手に入れることも可能だろう。さらにその先を考えるならば、この城塞都市が点在する南域をも手中に収めることができると踏んでいた。


それだけの力を秘めているカルを田舎で畑を耕すだけの人生に追いやってもよいのか。


ここは、なんとしてもカルを追いかけねば。


ルルは、リオ、レオを引き連れてカルを追った。だが、既にカルは、東門から城塞都市ラプラスを出て行ってしまった後だった。


「門番、大盾を背負った人族の少年はどっちに行った」


「あっ、あっちへ行きました」


ルルが門番にカルが向かった方角を問うと、門番は東門から東に向かう街道を進んだと指をさした。


ルルは、東門を出るとカルを追いかけて走り出した。


リオは、門番に馬車で迎えをよこすようにと伝えると、リオとレオもルルの後を追って東門を出た。


ルルは、走った。だがなかなかカルの背中が見えない。14才の子供の足だ。まだそんな遠くへ行ってはいまい。


すると、かなり遠くだがひとりで歩く人の姿を見つけた。だが、それがカルなのかは判断できない。


ルルは、必死に走った。走りながら考えていた。私にこんな試練を与えたのは神なのか。なぜこうも思ったように事が運ばないのか。神のいたずらなのか。なんと憎たらしい神であろうかと。


しばらく走ると荒地の道を歩く人の背中に大盾を担いでいるのが分かった。カルだ。


ルル、リオ、レオは、走りに走りカルに追いつくとカルの前へと立ちはだかった。


「すまぬ。何度も何度も!だが、あえて言わせてくれ。都市に残ってくれ。領主を続けてくれ。お願いだ、お願いだから・・・・・・」


最初の言葉には、力が込められていた。だが、最後の言葉は、弱々しかった。言葉を発しながらそんなことを言える立場にないと自身で分かってしまったためだ。


カルは何も言わずに歩きだした。城塞都市ラプラスとは反対方向へと。


ルルは考えた。もしカルを引き留めようとして剣を抜いても敵う相手ではない。では、何かカルの弱点はないかと。カルの足を止める何か。


弱点、弱点、弱点・・・・・・。ルルは考えた。そして・・・・・・あった。カルは、城塞都市戦において1度だけ倒れたことがあった。それは・・・・・・。


ルルは、カルの前に走り出ると服を脱ぎはじめた。その光景を見ていたリオとレオも思い出した。


カルは女性に免疫がない。盾の魔人に飲み込まれ吐き出された時は裸になっていた。その時、裸でカルを取り囲んだらカルは、気を失ってしまった。ならば、同じことがまた起こるのではないかと。


カルの前で裸になったルルは、カルの前に立ちはだかった。それを見てリオもレオもルルと同じ様に服を脱ぎ棄てると、裸でカルを取り囲んだ。


そしてカルの目の前には、ルル、リオ、レオの3人の少女の胸が迫り、やがてカルの顔に押し付けられた。


「えっ、なっ、何をしてるんですか。そんなことをしても僕は、戻りま・・・戻り・・・も・・・・・・」


カルは、顔を真っ赤にしながら気を失い地面へと倒れてしまった。






気が付くとカルは、領主の館のベットの上で寝ていた。しかも何も着ずに。


「あれ、僕は都市を出て家に帰ろうと・・・・・・」


しかも、体を動かそうとしてもなぜか身動きひとつできない。それに隣りから誰かの寝息が聞こえてくる。


顔を横に向けるとルルさんが僕の横で寝ていた。しかも裸で!


「ルルさんが裸で寝てる。なんで僕と寝てるの」


今度は、反対側に顔を向けると、そこのはリオさんが寝息を立てて寝ていた。


「リオさんまで、しかもリオさんも裸だ!」


「それに・・・、僕の・・・僕のを握ってるのは・・・レオさん!」


レオは、裸でカルのちっちゃいあれを面白そうに握っていた。しかも時折、上下にこする様に動かして。


「男って面白いな。あんなにちっちゃかったのに、こすると大きくなるんだな」


「なっ、何を・・・、何をしてるんですか!やめて、お願いです。やめてください。あっ、あっっ、あっっっっっっっっ」


カルは、また意識を手放した。


その後、意識を取り戻したカルは、鬼人族3人娘に懇願されて城塞都市ラプラスに留まることになった。


カルが逃げない様にと、ルル、リオ、レオの3人で裸で添い寝をしていれば、なんとかできると読んだルル達の作戦勝ちであった。


警備隊もカルが領主の館を出る時は、護衛の兵士を”コッソリ”とつけて付かず離れず”尾行”することになった。それは警備隊の城塞都市警備隊本部長が副領主のルルへ懇願したからである。部下の失態で本当の意味で首が床を転がる事態をなんとしても避けたいという思いからだ。


ある意味、警備隊の保身のためでもあったが、護衛もなしに領主が街をふらふらと歩いている方がおかしな話であるのもまた事実である。






ルルは、カルが新しい領主であることを関係各所に通達し、似顔絵まで配布した。そうでもしないと同じことが何度も繰り返されると予想していたのだ。だが、それがさらに別の問題を引き起こすとは想像もしていなかった。


今回の事件でこの都市の根深い問題が露見した。城塞都市の領民の識字率が2割を切っているということ。都市の行政部門で働く者や商人以外は、一部の者達を覗いてほぼ文字の読み書きができないということ。


これには、ルル達も頭を痛めた。カルは、お爺さんから文字の読み書きや計算を教えられていたので問題はなかったが、領民同士の意思の疎通が会話以外に方法がないというのは最悪である。


そこで、ある決定が下された。全ての領民全員に対して文字の読み書きと簡単な計算を行えるように子供も大人も誰もが行ける教育の場を設けることになった。そして、そこで教育を受けるのは、義務となり領主命令となった。


とはいえ、文字を教える者から集める必要があるため簡単ではない。予算も必要となる。


今回、カルに起こった不幸な出来事で領民の識字率の低さが露見し、そこに手を付ける必要があると改めて認識できた出来事であった。



痛いお話は、これで終わりです。


次回は、定番のあのお話です。カルのジョブが明らかになります。

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