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kogeの一人飯:渋谷、ラーメン王

作者: koge

会社からの帰路、おもむろに途中下車したのは渋谷。


東京を代表する繁華街、スクランブル交差点では今日も外国人観光客が自撮り棒を片手に、または一眼レフを構えて人々の雑踏を流されながら撮影している。そんな様子を横目に足を向けるのは道玄坂、ただし、足は上まで登りきらない。

ロッテリアの角で左へ曲がり一ブロック、区画の角に陣取る黄色の看板、上にはお子様お断りのBARがあるビルの一階に赤い文字で「ラーメン王」と書かれている。


店外にある券売機の上に雑な紹介の定食が三種類「定食」「ラーメン定食」「餃子付定食」

よく言えば寡黙、悪く言えば無愛想な店員に「中の券売機を使ってくれ」と言われ入店、カウンターの他は

テーブルが二つ。

券売機で「定食」と「ラーメン」を買いカウンターへ置く。定食内容は「麻婆豆腐」だ。

他にも数種類定食の一品料理を選べるが今回は昔懐かしい麻婆が食いたかったのでこれで良い。


カウンター越しの厨房ではせわしなく動く2人の厨師シェフ、客層はサラリーマン、若しくは近所のパチンコ屋で腹を減らしたであろう若者たち。5分も歩けばHikarieなどのおしゃれスポットがある地域とは思えないほどのレトロ感。


店内に流れる野球中継に耳を傾けていると「お待ち」の短い一言とともに麻婆豆腐と香の物が添えられた飯、鶏がらスープが置かれた。一日の労働をこなした自分にお疲れ様と両手を合わせてから、早速テーブルにある蓮華で麻婆を一口、昨今四川風を謳うことで主流になっている花山椒たっぷりの麻婆も心を揺さぶられるがこの懐かしさがあふれる醤油とラー油味の麻婆も日本人には必要と痛感する。


飯と麻婆の配分を多少の気を払いながら食べ進めるとお次はラーメンの登場だ。

チャーシュー、メンマ、刻み葱、およそテンプレートな、しかし久しくお目にかかっていない醤油ラーメンが目の前に鎮座している。

麻婆の手を休めて今度は箸を割る。一口すすればそこにはノスタルジックな味覚がよみがえる。定食の方でお目にかかったスープに浸されている卵麺、生麺の触感が食べるものに気負わせすぎないやさしい味がするラーメンも郷愁を呼び起こすには十分だ。


麺をすすり、飯を食み、麻婆の醤油味をスープの鶏がらで洗い洗われる。ここにあるのは平成も終わろうとしている中で昭和で時が止まったタイムマシーンなのだ。

人は前を向いて歩いていく生き物でこれからもそうして生きていくが、時にはこうした「顧みる」味も不可欠である。


そうこうしているうちに目の前の器はすべて空になってしまった。セルフサービスの水を飲みほして「ごちそうさま」と器をカウンターへ置き店を後にする。

店を出て息を吐く、後は家路につくだけだが看板をもう一度見上げると、黄色い看板はいつまでもそこにある、そんな気にさせてくれるのだ。

絶え間なく流行が入れ替わる渋谷の街で、変わらぬ味を出してくれるこの店に改めて言おう、


「ごちそうさまでした」

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