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②ガンボ、初体験をする!?


「わ、わたしの膝の上に頭を乗せて下さい」


顔を真っ赤にさせながらミリアが言う。

しかしガンボは混乱の極致にいた。


膝の上に頭を乗せる。

それって膝枕ってことか?

どうしてそんなことを!??


ガンボの眼球が目まぐるしくグルグルと動く。

それはまるで彼の頭の中を表しているようだった。


「あの……ガンボさん?」

「ああ、いや、大丈夫だ」


何とか平静を装ってガンボは応える。

しかしミリアの方を向く首の動きは古びたブリキの玩具のようにぎこちなかった。

そんな壊れた玩具のような動きでゆっくりと首を動かし少女の足を見る。

服の裾に隠れて見えないがそこには健康的な太ももが潜んでいるのだろう。

それを想像してガンボは唾を飲みこんだ。


いけない。

これはいけない。


ガンボはそう判断する。

そうしてミリアに断りの言葉を差し出す直前のことだった。


「あああ、あの……前にお姉ちゃんが」

「?」

「前にお姉ちゃんがガジベさんを膝枕してたら……」

「リナリアがガジベを?」


それは普段なら愉快な情報ではないのだが、今のガンボの頭の中はそれどころではない。

そしてそれはミリアも同様だ。


「その……膝枕したら耳が見えやすくなるって言ってて……それで、その……」


まるで言い訳するように彼女は口を開く。

その表情を見れば自分でも恥ずかしいことをしているという自覚があるのだろう。

そんな彼女が上目遣いに訊いてくる。

その顔にドキリとする。

最近のミリアはますますガンボの思い出の中のリナリアに似てきた。

少女から少しずつ女性らしさを帯びてきた、あの頃のリナリアだ。

もちろんミリアとリナリアは違う。


「あの……ガンボさん。やっぱりわたしの膝枕なんて嫌ですか?」

「あ……いや、そんなことは」

「じゃ、じゃあしましょう、膝枕!」

「あ……ああ」


どこか後ろめたい気持ちを持ちながらもガンボは首を縦に振った。





ミリアの膝はガンボが思ったよりもずっと柔らかで心地が良かった。

薄い布越しで感じる彼女の体温。

微かに甘い薫りが鼻孔を通じて脳に達し、頭の奥を痺れさす。


「ど、どうですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「そうですか」


ミリアの声はどこか嬉しそうだったのだが、緊張するガンボは気づかない。

緊張の理由は自分の耳がリナリアの太ももに押しつけられていることと、これから己の耳に訪れるであろう一撃への不安だ。


「じゃあ、始めます」


ミリアはひと言告げるとガンボの耳にそっと触れた。

柔らかな指先が耳たぶを軽く引くとピリっとした感覚が耳孔の表面をはしった。

ここでガンボは「おや?」と思う。

いつもと感覚が違うのだ。

そんな疑問を知ってか知らずか、ミリアは静かに耳掘り棒をそっと指し込んだ。

同時にゾクリとした感覚がガンボの背筋をはい回った。

やはり普段と明らかに違う。

いつもならこの後に強烈な痛みが逆の耳にまで突き抜けてガンボは「うぎゃぁ」と悲鳴を上げる。

だがこの日はいくら耳の穴をいじられてもまるで痛くない。

それどころか耳掘り棒の先端がガンボの耳道を引っ掻いていくたびに得も言えぬ妖しい快感が耳の穴をかけまわる。


「ぁぁ……ぉぅ……」


耳の中でカリカリと子気味の良い音がなり、じんわりとした感触が広がっていく。

その強烈な快感にガンボの口から短い声が漏れた。

これは凄い。

さすがに薬師のババアの手管に及ばないものの、それに準ずる快感だ。


「ガンボさん……大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ。今日は全然痛くないよ」

「そ、そうですか!」


ガンボの何気ない一言にミリアは気色ばむ。

それは華が咲いたような笑顔であったのだが、予想外の快感にさらされたガンボの心境はそれどころではなかった。

カリカリと小さな音が耳の中で響くと背筋に甘い痺れが走り、それが奥の方へと進んでいくと眩暈がするほど恍惚感に包まれる。


「えっと……ガンボさん?」

「ああ、大丈夫だ。それよりももっと奥までやってみてくれないか?」

「奥までですか? まだちょっと自信が……」

「そ、そうか……」


少しだけ残念だったのかガンボの声が低くなる。

しかしそれが悔しかったのかミリアは慌てて言い直した。


「や、やっぱり大丈夫です」

「え?」

「お、奥まで…や、やってみます」

「ああ」

「や、やります」


ミリアの肩には先ほどよりも力が篭っているようにも見える。

ガンボはそれに少しだけ嫌な予感を感じるのだが、やってきた感覚はガンボをいい意味で裏切ってくれるものだった。

まずやって来たのはツーンとした微かな痛みだった。

痛みと言ってもいつものものではない。

気持ち良いような、こそばゆいような、名状めいじょうし難い痛みだった。

耳掘り棒がガンボの耳壁をなぞると、その微かな痛みに似た感覚が遅れて脳に伝わってくる。


カリカリ、ツー


カリカリ、ツーッ


耳掘り棒が掻きむしる。

それが一条ずつ耳の中を走るたびに身悶えするような快感がガンボの背筋を奔る。


「う……ぅぅ……ぁぁぁっ」


カリカリ、ツー


カリッ、カリカリ、ツツーッ


最初は入口付近だったものが、徐々に奥へと侵入していく。

それは頑強なガンボの身体の中で最も弱い部分のひとつだ。

そんな部分を年端もいかない少女に器具を通して触れられる。

その事実にガンボの精神が蕩かされていく。


「ガンボさ…、ど…ですか……じょうぶ……か?」

「あ……ああ」


何とか答えるものの意識は曖昧だった。

足の小指が反りかえり、頭の中が白く濁っていく。


カリリ、カリ、ツーッ


「ぅぁぁ……」


気持ちいい。

右耳の中に奔る得も知れぬ感覚。

逆に左耳を受け止めるのはミリアの柔らかい膝の感覚だ。

白く濁った思考の中でガンボは考える。


これは凄い。

これは本当に凄い。

頭が変になってしまいそうだ。


身体の中を道具を使って弄られるという感覚にガンボは陶酔する。

そして意識を完全に手放してしまう直前に耳の中にそぉ~っと柔らかい風が吹き込んできた。


「うひっ!」


突然の出来事にガンバは叫び声を上げる。

だがそれはいつもの激痛による絶叫ではない。

むしろその逆。

そよ風に耳の産毛を撫でられるような快感に身悶えしたのだ。

そしてそれがミリアの吐息だと気がつくのにさして時間はかからなかった。


「えっと、ミ…ミリア?」

「こ、これも……お姉ちゃんがやってましたから」

「そ、そうか」


なら仕方がないとガンボは納得する。

本の数刻前までなら、ガジベとリナリアがそんなことをしていると聞けば激しく落ち込んでいただろう。

だがそうならなかったのは、膝の上から見上げたミリアの顔がガンボが思っていたよりも大人っぽかったからかもしれない。


「なぁ、ミリア」

「何ですか?」

「えっと……いや、その……」


何か言おうとしたのだが、上手く言葉にすることが出来ない。

結局ガンボは続きの言葉を見つけることが出来ず「逆もやってくれ」とだけ言って、グルリと寝返りを打って左耳を差し出した。


「分かりました。じゃあ、逆の方もしますね」

「ああ……」


ミリアにぶっきらぼうに言ってしまったのは自分の中にある感情が上手く言葉に出来ないからだ。

だからガンボは黙って耳だけ彼女に向ける。

そんなガンボの表情を見てミリアは頬を緩めた。


「じゃあ、やりますね」

「ああ……」



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