出会いはひどいもんだ
放課後の教室。茜色が空に反射して教室を照らしている。他の生徒は誰も教室にはおらず、部活動で残っている生徒が教室の窓際から見えるだけだった。一ヵ月ほど前から読み始めたこの小説はかなりの当たりだった。ちゃんと作者の後書きまで読んで少しの幸福感に浸り本を閉じる。皆吉和樹先生の『牡丹』。視聴率40%越えを記録した伝説的ドラマのタイアップとして起用された歌手がその歌だけの一発屋と馬鹿にされながらも厳しい音楽業界を生き抜いていくという物語だった。その歌手の傷ついていくメンタルや自尊心。またヒットを狙おうと躍起になる描写がリアルでどんどんページをめくっていってしまった。次はどんな本を読もうか、そんなことを考えていると前の引戸がガラガラと開いて一人の女子生徒が入ってきた。亜麻色の髪でブレザーの前を開け、中のシャツも胸の谷間が見えるくらい開けた頭悪そうな女だ。見たことがある。
「日輪・・・朔乃」
日輪朔野。クラスの女ボス的存在でいつも授業中スマホをいじっていて注意されてもその素行を治すそぶりも見せず毎日を惰性的に過ごしている馬鹿女だ。教室に入るなりブレザーのポケットから手鏡を取り出し前髪のチェックをし始める。何だコイツ。すると彼女が教室左後ろにいる俺に気付いて慌てて手鏡をポケットに仕舞う。何だコイツ(二回目)。するとまあまあ整った顔をしかめながら俺の方へつかつかと歩み寄ってくる。
「アンタ・・・いっつもここで本読んでるわよね?」
怖、何で知ってるんだよコイツ。とりあえず頷いておく。するとふーと大きく息を吐いてクルッと振り返り、つかつかと自分の席に戻り鞄をごそごそと漁り始めた。すると複数のクリアファイルに入った大量の原稿用紙を取り出し、それを持ってまたこちらに向かって来てズイっと俺の方へと差し出してきた。ざっと200枚は超えていそうだ。俺が受け取らずその原稿用紙を睨みつけているともう一度ズイっと紙束を出してきた。受け取れという事なのだろうか、一応それを受け取ると彼女は満足そうに笑った。まあまあ可愛いなコイツ。受け取った一番上の紙を見てみると右端に『小説』と書いてあった。もしやと思いその後の紙を見てみるとこの原稿用紙はコイツが書いた小説だった。
「で、何?」
「えっと・・・」
俺がそう聞くと彼女は毛先を指でクルクル遊ばせてモジモジさせるだけだった。するとチャイムが鳴った。5時半だ。スーパーのタイムセールが6時からでこっからスーパーまで20分。そろそろ行かないと。鞄にさっきまで読んでいた本を入れ席を立つと、行く手を阻むが如く彼女が目の前に立って来た。そして信じられないくらい大きな声でこう言った。
「・・・これ読んで!!!」




