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榊ルート

すぐには帰らず早速手伝うといって、オフィスに残った。


「君に会える日をどれだけ待っていたことか…」

挿絵(By みてみん)


「榊さんいつ私のことを知ったんですか?」

「一年前。ああ、私たちは今から同士、敬語はナンセンスだよ」


こんな近場なのに、榊なら探偵でも雇ってすぐに見つけられていそうなのに。


「…蓉菟(ようと)って呼んでもらいたいな」

「ヨウト?」


「君の存在を知られるとまずい、というわけでライ一人に丸投げしたせいかな…」

ライトシェイドがサボッていたとしか思えない。


まあ、ほぼ花屋と家と学校のみ移動の私を見つける確率は低いか。


「おや…いつの間に5時になっていたんだ。ライ、華を送って」

「はい」


「ごめん華、本当は私が送りたかったけど、今日は大事な用があって…」

私は構わなかったが、向こうの都合なら仕方ないだろう。


学校の帰りに寄ったから約30分しか話を聞けなかった。


またいつでも来てと言われたが…。


次の日、茎ノ葉君は待ち合わせ場所に現れなかった。

用事があると彼の家の執事が言っていた。


「やあ、こんにちは」

「ヨウト…」

気晴らしに滅多に来ない商店街を歩いていると、蓉菟にバッタリ出会してしまった。


「こんなところで、どうしたの?」

「待ち合わせをしていた、だけど来こなかった」


「予定ってデートだったのか…それで今日は合えないと」

「デートじゃない」

間髪入れずに否定し、わけを話す。


「先生はまるで君に気があるような態度をとるな」

予定の邪魔をされたからか、眉をつり上げている。


「今日はどうするの、まだ彼氏を待つ?」

なんだかトゲがあるというか、意地が悪い言い方だ。


「彼氏じゃない…帰る」

「ごめん、君が他の男と会う約束をしたって知ったから、少しイラついた」

なぜ親でも恋人ないのにそんなことを言うんだろう。


「ヨウト、私は貴方に協力するとは言ったけど

行動制限されるなんて聞いていない」

たしかに計画は実現させたいが、私もヨウトも他にやることがあって暇じゃない。

学生の私には休みや放課後があるが、社長のヨウトは特に忙しい。


「そういうつもりじゃなかったんだ

仕事や計画とは関係ない

ただの個人的な嫉妬だよ」

なんで顔を赤らめているんだろう。


「帰るなら送るよ」

「え…うん」

「ライ、来てくれ」

特に断る理由もないので家まで送ってもらうことにした。


ただ移動にわざわざ車を呼ぶなんて、距離もないのに。

たしかに人目につくと厄介になるくらいの有名人だが、テレビに出ている派手な衣装のバラッド榊とオフィス姿の蓉菟が同一人物など誰も気がつくまい。


でも、まあいいか。


「明日は必ず開けておく」

「うん」


今日は暇だったので榊の所に行く。

テレビからオファーが来たとかで、気のいい彼は忙しくても断らないらしく、社長業に加えて広報まできっちりしているようだ。


挿絵(By みてみん)

榊は派手な衣裳でインタビューを受けている。

化粧一つでイメージが変わるものだ。

というより、あれが私がいつも見ていたテレビの画面の向こうの人。

最近は素の榊を見ていたせいで、忘れていた。


「おつかれ」

ライトシェイドと無言のまま待っていると、やっと榊が出てきたので、取り合えず労う。


「一先ず化粧を落としてくるよ」

そういって数分部屋に入った。


「お待たせ」

挿絵(By みてみん)

イメージ通り、絵の具をぶちまけたような私服だ。


「今日は出掛けよう、二人で」

ライトシェイドは念のため遠くから見ているらしい。

にやにやとして気味が悪い。


カフェでヒソヒソとされる。


「榊さんの良い方ですか、とてもお似合いです」

渋い感じのマスターが言った。


「あははっ!やっぱそう見えるだろ?」

浮わついた話は上品に笑って流すのかと思っていたら、結構普通の人間らしい笑い方だ。


二人からは親しい間柄であるかのような気安い雰囲気がある。


「昔からの知り合い?」

普段なら言われるまで黙っているが、つい自分から聞いてみたくなった。


「下積み時代はよく世話になったんだ」

榊は昔このカフェでバイトをしていたのだろうか?


「あ、実は昔はホストクラブと服屋を掛け持ちしてたんだよ」

イメージに会いすぎていて驚かない。

自分の過去をさらっといえるのはさすがだ。


「人気ナンバーワン?」

「と言いたいところだけど、全然人気なくてさ

だから辞めたんだけど」

今の設けからして辞めて正解だっただろう。


「あの頃は地味で、接客もまともに出来なくてさ…」

「それでマスターとはいつ知り合ったの?」

「…朝の服屋がうまくいかなくて、夜も微妙で、昼間に酒ばっか飲んでたとき、たまたま目の前に喫茶店があって、それから愚痴を聞いてもらうようになったって感じかな」

ありがちな話だが、榊にとっていい思い出らしい。

というか彼は昔を振り替えるほど生きてはいなそうだが、何歳なんだろう。

聞くのが少し怖くなってきた。


「マスターのタイプはどうなの?」

「ご容赦ください」

マスターは困った様子だ。


「人をひやかしておいて、自分のことは言わないなんて、百戦錬磨のマスターらしくないな」

榊は最初に似合いだと言われたことを根に持っていたようだ。

私と噂になるのはそんなに嫌か。


榊を皮切りに他の客まで乗ってきた。

「若い頃は今よりモテモテだったんじゃろ?」

「あたしも知りたい!」


「女性は皆、等しく良いと思いますよ」

遊び人の解答である。


「さすがだな…マスター」

「ねーマスター結婚してるの?」

女性客が何気ない質問を投げ掛けて、マスターから少し動揺の色が見える。


「高校生になる息子が一人いますよ」

そんな大きな子供がいる年には見えない。

コーヒーにはアンチエイジング効果でもあるのか、とびくびくしながらクリームソーダを飲む。


「そろそろ出るか」

榊が会計を済ませて、私は帰宅するつもりだった。


「待って」

「なに?」

「つまらなくなかった?…また今日みたいに出掛けてくれる?」

榊は私が楽しめていたのか気にしていたようだ。


「うん」

基本的にフラワーショップか庭園でしか楽しめない私だけど、悪くはなかった。


「よかった」


ライトシェイドが車を用意して待っていたので、乗り込み、帰宅した。


しばらく榊は仕事が忙しいらしく、会っていなかったが久しぶりにオフィスに訪れた。


「なんで…」

なぜ、この前ダンデリオに話しかけられて逃げたのかをたずねる。


「あのときは、プライベートというか、化粧もしてなかったから。

そんな姿でテレビにうつる方の自分を見ている人に軽々しく会えない」

そういうものなのか、複雑だ。


「ヨウトはどうやって社長になったの?」

さすがに気まずいので、話を変えることにした。


「前に言った通り、私は数年前、売れない服屋とホストを掛け持ちしていて

二十歳のとき死んだ両親から継いだものだけど生活費の入らない服屋は畳もうとしていたんだ。

そんなとき、ある人は私が何気なくデザインして店内に飾った服を気に入ってくれて…

親から貰ったものじゃなく、自分で本物の服屋になりたいと思って、デザイナーになった」


「そういえばデザイナーだったんだ」

話を聞く前まで榊はてっきりオカマのメイクアーティストなんだと思っていた。

そもそも家電やら食品で社名を見て来た為に、忘れていた。


「…あ!特撮の再放送の時間だ」

蓉菟が机をパカりと開き、薄型で幅広いテレビに変えた。



「特撮?」

ヒーロー物特撮が好きだったなんて意外すぎる。

サブカルチャー関係に支援しているとは聞いていたが、そういう理由だったとは。


花屋に行こうとしていると、榊が狙ったようなタイミングで現れた。


「わざわざ調べたの?」

「その発想はなかったな…いま会えなかったらずっとここにいるつもりだった」

なら会えてよかった。

さすがに目立つというより、ライトシェイドがいないようなので心配になる。

特に狙われているとかではなく一応社長だし、万が一に備えてだ。


まあ今は明るいからいいか。


「今日もデートしてくれない?」

「わかっ…」

なんだろう今路地の方で何かが輝いていた。


「どうかした?」

「今路地で何かがキラキラとしていた」

暗殺者(スナイパー)?けど路地は日影だからキラキラするわけないよな…」


私が路地に行くと女があわてて逃げた。


「なにあれ…」

「やっぱりグラサンのハードボイルドが…」

「いないから」


「それより、私は夜景の見えるレストランを貸しきったデートをするのが夢だったんだ

女の子は夜景が好きなんだろう?」

たしかに普通は女の子の夢だが、夜景より花畑が私は好きだ。

というか、なぜそのデートプランの夢を、私で実現するんだ。


「どうして私と行くの?榊にはデートしようと思えば他に相手がいるのに」

「君がいいから、それに他の子なんて興味ない」

「は?」

榊は至極当然のように不敵に笑っている。



レストランのドレスコードがあるのでまず服屋に行く。


「服はともかくドレスのことはわからない」

丈の長い服を着る機会もないので、花でドレスは作ったことがない。


「何を着ても似合うなんてベタな事は言わないよ。君に似合うものを選ぶから」


オレンジ…朱色に近く、赤みがかった生地のをプレゼントされた。

たしかに青や緑は自分でも似合わないと思う。


髪型や顔も専門の店でとてのえて、丁度良い時間にレストランに着いた。


とりあえず肉を食べる。

テーブルマナーは両親が教えてくれたので一応わかる。

しかしそれは合っているのか定かではない。


「こういっちゃなんだけど、想像していたのと違った」

榊はつまらなそうに景色を観ている。


「夢は夢のままだから美化されるものだと思う」

夢は見ているから夢なのだ。

叶えてしまえばその膨らんだ自分に都合のいいイメージは砕ける。


「そういうもの?」

「少なくとも私はそう思っている」


「砕けるなんてことはなかったけど…」

いま、榊は何に対して言ったのだろう。


「あのさ、前にデザイナーになる切っ掛けをくれた人ってさ、君のお義父さんなんだよ」

「は?」

なぜ榊はいきなりそんなことを言い出したの?


「服を見に来てくれた日、娘が目に入れても痛くないくらいだって奥さんと嬉しそうに話していたんだ」

「はあ…」


「名刺見る?」

たしかに書いてあるのは園崎――。


ありふれた名前にしても養女を実の子のように可愛がる育ての親は珍しいので父だと思ったから私はコクりと頷く。


「それで、あのときからいつか会ってみたいとは思っていて、偶然来たこの町で君の事を知ったんだ」

「服屋を畳んだというのは聞いていたけど違う町だったの?」


「そうだよ京都で服屋…といっても老舗の呉服屋」

現代寄りのアパレルショップとか、小さな店を想像していた。


呉服屋は古い時代の着物屋のこと、くらいの認識だったが、現代にもあったのか。

呉服屋の財政事情は知らないが、ライバルとなる着物の店が沢山ありそうな場所だろうな。

しかしこの時代、着物を買う人は限られている。

だから彼も継いだ店を畳んだのだろう。

ようやくわからなかった榊のことを一つ知ることができた。


久々に会えたと思えば話だけで、いっこうに計画は進行していない。


「ヨウト、いつ作るの?」

「いつだろう?」

この反応はなんだやる気がないのか。


榊がなにを考えているのかわからない。

私がいないときにならなにか話すだろう。

そう考えた私は帰るフリをして、榊とライトシェイドの会話を聞いてみた。


「このまま隠し続けるのは無理なのではないですか?」

「そうだな」

榊はなにか私に隠している事があるようだ。

このままここにいるとまずいので早く帰ろう。



「おかえり姉さん」

「ただいま」

「嘘…姉さんがオレに“ただいま”なんて言った!?天変地異の前触れだよ!!」

失礼な。


「冗談はさておき悩みごとでもあるの?」

「…ない」

榊がなにかを隠しているのが気になるだけで、悩みではない。


ややこしくなるので榊のことは言わないでおこう。


「ネットにうちの姉さんは榊がだあい好きって書き込んじゃおっと」

「は?…書き込まないで」

パソコンは壊すか。


「榊大好きは否定しないんだ」

「べつにヨウトが好きなわけじゃ…」


いいかけたとき、インターホンが鳴った。


誰だこんな微妙な時間に。

家は一戸建て、なのでアパートやマンションのようなドアスコープがない。


モニターがあるとはいえ、リビングについている為その場で確認ができないのが不便だ。


「男、女?」

葉陽斗がモニターを見ている。


「姉さんの友達かな?女、目がイカれててヤバイ」

「なら開けない」

そもそも友達なんていない。


「人を呼ぼうか」

葉陽斗が警察を呼ぶと、一分もしないうちに家の前に誰かが来て、怪しい女を連れていった。


「いまのはいったい…」

「夢でも見たってことで」

あのヤバイ女は榊と出掛けた日に刃物を持っていた人…?


だとすると彼女はなんなんだろうホスト時代のファン…なわけないか売れていないと言っていたから。



もしかしたら尾行されていたのかもしれない。

兎に角開けなくてよかった。


彼女は榊とどんな関係なんだろう。

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